在庫が発生する業種の場合、「棚卸し」が期末において必須の手続きになるということは、経営者の皆様はよくご存知でしょう。今回は、その棚卸しの手続きについて、その意義に着目し、効果的に棚卸しを行うために意識すべき点について解説します。

目次
棚卸しとは
棚卸しとは、期末に商品等の在庫の数量を確認し、会計上の期末棚卸資産の金額を確定させる目的で行われる作業のことをいいます。
会計上、会社はどんな成果を出したのかを表示する必要があり、その成果を表す代表的な指標が「利益」です。この利益を確定させるために棚卸しが必要となります。そして、棚卸資産にかかる決算整理仕訳を期末に切ることで適切な利益が計算されるのです。
また、棚卸しによって在庫の実際の数量を把握できるようになれば、理論上の数量との比較が可能となります。事業を行ううちに消失したものや、場合によっては横領された数量をも把握することができるということです。
同時に、棚卸しには在庫の過不足を把握する役割もあります。在庫管理を強化することは資金繰りを良好にすることにも繋がります。
在庫の多寡と資金繰りの関係
在庫の多寡が資金繰りの改善にどのような意味を持つのか、簡単に解説します。
在庫数が過剰である場合、購入のための支出が、それを売り上げた際に生じる収入よりかなり先に発生するサイクルとなるため、資金繰りが悪化する要因となります。
反対に、適切な水準に保つことができれば資金繰りも良くなります。そのため、棚卸しとそれに伴う適切な在庫の管理は、良好な資金繰りにも寄与することになるのです。
棚卸しの具体的な手順
まず、棚卸しの対象ですが、製品、商品、仕掛品、材料、貯蔵品などの棚卸資産が該当します。会社が所有する資産のうち、数えることができるものは基本的に棚卸しを行うことになります。
棚卸し時点で記載が必要な情報は品目、数量です。金額に関しては棚卸し時では考慮しないことが多いです。
棚卸しの方法には大きく分けて2つの方法があります。「タグ方式」という方法と「リスト方式」という方法です。
タグ方式による棚卸し
タグ方式とは、担当者が棚卸資産の現物の品目と数量を確認後、棚札と呼ばれる伝票に記入し、現物に漏れなく貼り付けを行い、現物を数える方法です。
具体的には、最初に現物を数えてから、理論上の棚卸資産の数量と比較、照合を行います。現物から先にアプローチすることになるため、棚卸資産の計上漏れが発生しづらいというメリットがあります。しかしながら、棚札の連番管理等、ある程度手間がかかることがデメリットとなります。
リスト方式による棚卸し
もう一方のリスト方式は、在庫管理表等のリストに記載されている数量を元に、実際に存在する棚卸資産を確認し、その現物の数量を数え、リストの数量と比較する方法です。
この方法は、まず理論上の数量を確認後、現物にアプローチするため、比較的短時間で作業を終えることができるというメリットがあります。
反面、デメリットとして理論上の数値を元に現物を確認することになるため、カウント漏れが発生しやすいという点が挙げられます。現物がリスト上で網羅的に記載されているかのチェックも、追加の手続きとして行うべきといえるでしょう。
棚卸しを行う頻度
棚卸しの頻度ですが、最低年に1回行うことになります。なぜなら、期末に作成する決算書を正確なものにするために、棚卸しが必要な作業だからです。
もし在庫管理をしっかりしたいのであれば、半年に1回、四半期に1回等行うこともできます。棚卸しは手間がかかる作業なので、頻度は自社の状況を考慮し、バランスを考えて決めていくべきです。
棚卸し在庫の評価方法について
棚卸しは主に棚卸資産の品目と数量を確認する作業となります。しかし、会計上は棚卸資産を金額ベースで計上しなければならないので、棚卸資産の期末の単価を決める必要があります。これを棚卸し在庫の評価と言います。
棚卸資産の評価には大きく分けて2つの方法があります。これが「原価法」と「低価法」です。
原価法とは棚卸資産の購入時に支払った金額を元に期末の金額を評価する方法であるのに対し、低価法は期末の棚卸資産の金額として、原価法による評価か期末時価のうち、いずれか低い方法を選択する方法のことを指します。
通常、会社はどちらかの評価方法を選択し、継続的にその方針で期末在庫の評価を行っていくことになります。
以下の例題をもとにそれぞれ評価の計算をしてみましょう。
A商店はB商品を仕入れて販売する小売業である。期首のB商品の在庫は、50個、単価10で計上している。期中のB商品の売上は100個、単価は13であった。期中の仕入は90個、単価10であった。
棚卸しを期末に行ったところ、B商品の在庫は40個であった。なお、期末のB商品の時価は8であった。
原価法を採用した場合
期末在庫の評価は仕入時の評価を使うことになるので10と評価されます。期末在庫の数量は40個ですので40に10を乗じて、400が期末在庫の金額になります。
売上原価=期首在庫+仕入金額−期末在庫になりますので、50×10+90×10−(40×10)=1000となります。利益=売上−売上原価で算出されますので、100×13−1000=300となります。
低価法を採用した場合
期末在庫の評価は原価と時価のうち低いほうを使用するので、8と評価されます。期末在庫の数量は40個ですので40に8を乗じて、320が期末在庫の金額になります。
後の条件は上と同じになりますので売上原価は50×10+90×10−(40×8)=1080となり、利益は100×13−1080=220となります。
上記の例のように、原価法と低価法で評価した場合を比べると、利益の金額が変動していることがわかります。
棚卸しを行う際に注意するポイント
棚卸しを行う際に注意すべき点として真っ先に挙げられるのは、やはり在庫数量の数え間違いをしないようにすることです。数え間違えをしてしまうと、当期の利益が間違って算定されてしまうだけではなく、帳簿に計上されていない資産などが出てしまう可能性もあります。
会計の管理上、非常に深刻な問題になりうるため、棚卸しは慎重に実施する必要があります。
また、棚卸しを行うためには、会社の業務を一度ストップしなければなりませんし、多くの従業員の力が必要になります。ですから、実施のタイミングや計画などは会社の状況に照らし合せて緻密に策定し、業務の滞りを最低限になるように努める必要があります。
さらに、棚卸しの作業は在庫の数量を数えるだけではありません。その品質、状態も確認する必要があります。なぜなら、それが売ることができないと判明すれば、会計上その簿価を損失として計上する必要がありますし、販売自体が可能であっても、品質が低下していれば低価評価損の計上も検討しなければならないからです。
今回は、棚卸しの目的とその具体的な手続き、そして会計への反映の方法についてご説明させていただきました。棚卸しを実施する際のご参考になれば幸いです。
執筆:熊谷恵佑(公認会計士)
宮城県仙台市出身。東北大学経済学部卒業。公認会計士として、日本で監査、税務業務等に従事後、国際業務に関心を持ち、2015年より東南アジアに拠点を移し、活動をしている。タイ、カンボジア、ベトナムでの業務経験を持つ。現在は、日本(仙台、東京)とタイ、バンコクで会計サービスを提供している。
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