棚卸しとは、決算前に在庫確認を行い、棚卸資産が現状どれくらいあるのか集計する業務です。事業者は年に一度棚卸しを行う必要がありますが、小売業や飲食業など常に商品や原材料の在庫を抱えている業種では、月に一度の頻度で棚卸しが行われることもあります。
棚卸しは、決算のために行うだけでなく在庫の管理状況や、商品や原材料など在庫の販売機会の損失がないか確認できるため、定期的な実施がおすすめです。
本記事では、棚卸しを行う目的やタイミング、やり方などについて詳しく解説します。
目次
- 棚卸しとは
- 棚卸しを行う目的
- 在庫管理が適切にできているか確認する
- 正確な事業利益を確認する
- 販売機会の損失がないか確認する
- 在庫の品質や状態を確認する
- 棚卸しを行うタイミング
- 棚卸しの手順・やり方
- 1. 棚卸しのスケジュールを計画する
- 2. 棚卸しの方法を決める
- 3. 在庫の計測を行う
- 4. 不良在庫と正常な在庫を仕分ける
- 5. 棚卸しの結果を報告する
- 棚卸し在庫の評価方法
- 原価法の場合
- 低価法の場合
- 棚卸しにおける課題・注意点
- 数え間違いや入力ミスに注意する
- 棚卸し表は7年間の保存が必要
- 効率化のために在庫管理システムの導入も検討
- はじめての経理でも、自動化で業務時間を1/2以下にする方法
- まとめ
- よくある質問
棚卸しとは
棚卸しとは、商品など社内に滞留する在庫(棚卸資産)の数量を確認し、会計上の棚卸資産の金額を確認するための作業です。棚卸しでは、実際の在庫数量はもちろんですが、在庫商品の状態についても確認します。
会計上、決算時に会社はどんな成果を出したのかを表示する義務があり、その成果を表す代表的な指標が「利益」です。棚卸しは、会社の1年間の利益を確定させるために必要であるため、少なくとも年に一度、決算前の時期に行わなければなりません。
棚卸しによって確認対象となるのは、商品や製品のほか、原材料や消耗品などです。在庫として確認できるものはすべて会社の資産に該当するため、必ず棚卸しを行って在庫数量や状態を確認しましょう。
棚卸しを行う目的
棚卸しは、主に以下の目的で行います。
棚卸しの目的
- 在庫管理が適切にできているか確認する
- 正確な事業利益を確認する
- 販売機会の損失がないか確認する
- 在庫の品質や状態を確認する
在庫管理が適切にできているか確認する
棚卸しを行うと、実際に抱えている在庫の適切な数量を把握できます。そのため、帳簿に記載されている在庫数量と差異がないか確認でき、もし差異がある場合には帳簿を修正しなければなりません。
実際の在庫と帳簿に記載された在庫に差異がある原因には、在庫管理における入力ミスや紛失などが考えられます。定期的に棚卸しを行うことで、在庫に異常が起きた時にすばやい対応ができ、原因の早期発見・改善につながります。
また、棚卸しを実施すると在庫の数量はもちろんですが、滞留在庫や不良在庫が発見されるかもしれません。これにより商品の良し悪しの確認もできるため、事業経営に活かすことも可能です。
滞留在庫とは賞味期限が近い商品や損傷が見られる商品など、売れる見込みのない在庫のことです。また、不良在庫とは、流行が過ぎた商品など売れ残りとなっている在庫のことで、将来的に損失になり得る在庫を意味しています。
正確な事業利益を確認する
企業の事業利益を示す「売上総利益」は売上高や費用から算出しますが、在庫は資産として売上総利益に影響します。
たとえば、80円で50個商品を仕入れて100円で売った場合、すべて売り切ると売上総利益は1,000円となります。しかし、在庫が10個残っていた場合、売上総利益は800円です。
このように、棚卸しにより在庫の数量や状態を確認することで、正確な事業利益を算出することができます。
販売機会の損失がないか確認する
棚卸しで在庫管理を正しく行うと、販売機会の損失がないかどうか確認できます。
たとえば、抱えている在庫が劣化や不具合などにより販売できない状態であることがわかると、注文を受けても販売できる商品がないこととなってしまい、販売機会の損失につながります。それだけではなく、取引先からクレームを受けるなどのトラブルが発生するかもしれません。
また、棚卸しにより在庫が追いついていない商品が発覚する場合もあるため、販売機会の損失が出ないような仕入方法の改善に活用できることもあります。
在庫の品質や状態を確認する
棚卸しでは、ひとつひとつの在庫の品質や状態を確認します。万が一、仕入時よりも在庫商品が劣化していたり、損傷が起こっていたりする場合は、保管方法を見直す必要があるといえます。保管倉庫の環境や在庫商品の置き方など、棚卸しの機会を利用して改善しましょう。
棚卸しを行うタイミング
棚卸しは個人事業主や法人に関係なく、最低でも年に一度、決算前のタイミングで実施しなければなりません。決算では、棚卸資産の残高を適切に把握する必要があるためです。
しかし、棚卸しを行うタイミングや回数には、上限やルールなどはありません。棚卸しは事業に必要な商品在庫の数量や品質の確認に役立つため、決算前のみに限らず、定期的に実施することがおすすめです。
特に、飲食業や小売業などの商品の在庫を切らしては事業が成り立たない業種では、月に一度棚卸しを実施して在庫管理しているケースが多いです。
棚卸しの手順・やり方
棚卸しは、以下の手順に沿って進めていきます。
棚卸しの手順
- 棚卸しのスケジュールを計画する
- 棚卸しの方法を決める
- 在庫の計測を行う
- 不良在庫と正常な在庫を仕分ける
- 棚卸しの結果を報告する
棚卸しには、実際に在庫を管理している現場で行う「実地棚卸」と、帳簿や在庫管理システムに入力されたデータを確認する「帳簿棚卸」の2種類があります。以下では、より正確な在庫が把握できる実地棚卸について紹介します。
1. 棚卸しのスケジュールを計画する
棚卸しの実施が決まったら、まずはスケジュール計画を立てます。棚卸しのスケジュール計画では、実施する日にちのほか、一斉棚卸をするのか循環棚卸をするのか決めます。
一斉棚卸は、業務を停止して一斉に棚卸しを行います。短い期間で棚卸しを完了させられるメリットがありますが、業務を停止している期間には売上が生まれないことがデメリットです。
一方の循環棚卸は、棚卸しをする箇所を区分けしながら行います。業務を継続しながら作業を行うため負担が増えたり完了までに時間がかかったりするデメリットがありますが、売上を出さない期間が発生しないというメリットがあります。
また、事前に棚卸しの担当者を決め当日のマニュアルを用意しておくことで、スムーズな棚卸しの実施が可能です。
2. 棚卸しの方法を決める
棚卸しの方法は、リスト方式とタグ方式の2種類です。それぞれ特徴が異なるため、自社の状況などに合わせて決めましょう。
リスト方式
リスト方式の棚卸しとは、在庫リスト(帳簿棚卸高)と現在庫(実地棚卸高)を照らし合わせて行う棚卸し方法です。在庫管理システムを導入していて在庫リストを出力できることが前提であるため、未導入の場合はリスト方式での棚卸しはできません。
リスト方式では、リストの在庫と現在庫を比較しながら棚卸しできるため、差異があった場合にすぐ気づくことができ効率的です。しかし、リストに入力した在庫にそもそも誤りがあった場合は原因の解明などに時間が取られてしまいます。
タグ方式
タグ方式とは、商品内容や数量を記入するタグ(棚札)を用いて行う棚卸し方法です。タグ方式には特にシステムを活用する必要はなく、実際に商品を見ながらタグに記入するだけで棚卸しできるため、業種にかかわらず採用できる方式です。
ただし、すべての商品の在庫を確認しタグを記入する作業が終わったら、その後にタグを回収する作業が必要になります。そのため、棚卸しにかかる時間が多く取られてしまうことがデメリットです。
なお、コンビニエンスストアなど、専用の機械を用いてバーコードを読み取ることで棚卸しを行う「バーコード方式」を導入しているケースも増えています。システムの導入状況や棚卸し担当者の状況に合わせた方式で、棚卸しを行いましょう。
3. 在庫の計測を行う
棚卸し当日は、事前に選定した方法で在庫の計測を行います。棚卸しを行う従業員の数が多い、在庫が多く作業が煩雑になるなどの場合は、当日までに棚卸し担当者に向けた事前説明会などを実施しておくと、より当日の作業を効率良く進められます。
担当者を複数配置できる場合には、2名以上でチェックし合うようにしておくと、ミスの防止につながります。
4. 不良在庫と正常な在庫を仕分ける
棚卸しで在庫をチェックしていると、劣化などにより商品としての機能を失っている不良在庫が見つかる可能性もあります。
不良在庫は棚卸資産には該当しないため、正常な在庫と区別がつくように仕分けしておきましょう。仕分けする際は、商品の現物にシールを貼るなどするとわかりやすいです。
5. 棚卸しの結果を報告する
棚卸しの実施が完了したら、棚卸表を回収して棚卸集計表などに集計結果をまとめます。その後、帳簿や在庫管理システムの数値と再度照らし合わせを行い、最終的な棚卸資産の状況を管理部門へ報告しましょう。
棚卸し在庫の評価方法
棚卸しが完了し正確な在庫数量と品質が確認できたら、次に棚卸資産を評価します。原価法と低価法のいずれかの方法で在庫の評価を行った上で、最終的な棚卸資産の価値を決定します。
原価法の場合
原価法とは、計測した在庫の取得価額を棚卸資産としてそのまま評価する方法です。原価法には以下6つの方法があるため、商品の種類の数や評価にかけられる時間などによって選択しましょう。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 売価還元法
- 最終仕入原価法
なお、選択した評価方法は、事前に税務署に届出をし承認を得る必要があります。届出をしなかった場合は、自動的に「最終仕入原価法」が法定の評価方法として選ばれることとなります。
個別法
個別法とは、それぞれの棚卸資産にかかった仕入時の価格で評価する方法です。商品の種類や仕入の数量が多い場合には向いていませんが、宝石店など専門的な商品を取り扱っており、かつ仕入数量が少ない場合に向いています。
先入先出法
先入先出法とは、先に入ってきた商品を先に払い出すことを前提として、先の商品の価格をもとに評価する方法です。期中の仕入れで仕入れ単価が変わることがあるため、それぞれ分けて評価すると時間がかかりすぎてしまう場合に、先入先出法が採用されます。
総平均法
総平均法とは、商品の仕入れ単価の平均値を算出して評価する方法です。平均値を決める際は、年または月のどちらかを決めて行いましょう。在庫の数量が多い場合は計算にかかる負担が大きくなってしまうため、月を選ぶ方が効率的です。しかし、より正確な数値で在庫評価したい場合は、年間の仕入れ単価から算出しましょう。
移動平均法
移動平均法とは、現在の残高に加え、仕入れするたびに平均価額を評価していく方法です。棚卸しの時期に関係なく作業が必要になりますが、棚卸し時期の評価にかかる時間が短縮できます。
売価還元法
売価還元法とは、期末時点での販売総額に原価率をかけ、棚卸資産の価額を評価する方法です。売価還元法は、取り扱う在庫の種類と数量が多い小売業などにおいて用いられることが多い評価方法です。
最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、最後に仕入れた商品の原価をもとに評価する方法です。それぞれの商品の最後に仕入れた価額で計算するため、比較的負担のかかりにくい評価方法といえます。
低価法の場合
低価法は、棚卸資産の資産価値が仕入時よりも低下している場合に用いる評価方法です。在庫の価値が下がっているのにもかかわらず原価法で評価してしまうと、会社の正しい資産を計測できません。
低価法では、原価法によって算出した価額と期末時点の時価の低い方で評価を行います。なお、低価法で棚卸の評価を行った場合、翌期の期首に振り戻しを行う必要があります。振り戻しとは、今期の決算で前払費用として資産計上したものを翌期の費用に振り替えることで、「再振替」ともいいます。
出典:国税庁「棚卸資産の評価に関する会計基準と法人税法の調整の方向性」
棚卸しにおける課題・注意点
棚卸しを実施する際は、以下の点に注意が必要です。
棚卸しにおける注意点
- 数え間違いや入力ミスに注意する
- 棚卸し表は7年間の保存が必要
- 効率化のために在庫管理システムの導入も検討
数え間違いや入力ミスに注意する
棚卸し作業は、実地でシステムへの入力やシートへの記入を行っていきます。そのため、数え間違いや入力ミスがあると、正確な在庫を確かめる棚卸しの意味がなくなってしまいます。
そのため、棚卸し担当者を複数にしてダブルチェックを行ったり、日頃から商品を整理整頓して計測しやすくしたりするなどの工夫が必要です。
棚卸し表は7年間の保存が必要
棚卸し表は、実施日から最低7年間の保存が義務付けられています。そのため、紛失や破棄しないよう適切に保存しておかなければなりません。
なお、年度に欠損金(赤字)が生じた場合は、10年間の保存が必要です。
出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
効率化のために在庫管理システムの導入も検討
棚卸しを効率化するためには、在庫管理システムの導入がおすすめです。在庫管理システムは、日々の受発注や入出庫の状況をシステム上でデータ化できるほか、在庫状況がわかるリスト出力などができます。
在庫管理システム以外にも、商品のバーコードをスキャンするだけで在庫状況を把握できるシステムや、自動で数量の把握ができるIoTシステムなどもあります。
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まとめ
棚卸しとは、決算前に事業主が必ず行わなければならない、棚卸資産の決定に必要な作業です。棚卸しではすべての在庫の数量・品質を確認し、事前に定めた方法で評価していきます。
棚卸しは決算に必要な作業ではあるものの、行うタイミングに決まりなどはなく、定期的に実施することで在庫管理の状況確認などに役立ちます。特に小売業や飲食業などを営んでいる場合は、定期的に棚卸しを実施して抱える在庫を事業に活用しましょう。
よくある質問
棚卸しのやり方は?
棚卸しは、まずスケジュールと実施方法を決めて進めていきます。実施日になったら、在庫の計測をし不良在庫と正常な在庫を整理しましょう。最後に棚卸しの結果を報告したら完了です。詳しくは記事内「棚卸しの手順・やり方」をご覧ください。
棚卸しを行う目的は?
棚卸しは、在庫管理が適切にできており販売機会の損失がないかどうかをチェックする目的で行われます。また、棚卸しを行うことで正確な事業利益が確認できます。詳しくは記事内「棚卸しを行う目的」をご覧ください。