公開日:2019/12/06

税務調査は法人・個人を問わず、すべての事業者が経験しうる事業上の大きなイベントです。流れや内容を理解していないと、いざ税務調査が入るとなった時にトラブルが発生してしまう可能性も多分にあります。
「小規模事業だから自分には関係がない」と思っている人も、過去に急な税務調査が入って困った経験をした人も、目的や内容、流れや対応策などを理解しておきましょう。
[執筆:熊谷恵佑(公認会計士)]
目次
税務調査とは
税務調査とは、国税庁および税務署が法人または個人の事業者が税法通りに正しく計算を行った上で収入や税額を申告しているかを確認する、一連の調査手続きのことをいいます。
もしも税務調査で税法等を遵守していない事項が見つかった場合、当局はその部分を是正し、適切に税額を計算・申告するように指導することになります。
税務調査の対象は必ずしも法人税や所得税に限りません。消費税や固定資産税、印紙税などの各種税金も含まれます。
税務調査の目的
税務調査の目的は、事業者の税務申告に関して第三者のチェックを入れることにより税法にのっとった正し申告の実施を担保し、国の税収が適切なものに保たれるようにするというところにあります。
日本は「申告納税方式」を納税の方法として採用しています。具体的には、国が税額を計算して一方的に課税を行うのではなく、事業者が自ら税法を解釈して収入とそれに基づく税額を自主的に算定し、申告を行う方法ということ。
この方法を採用した上で、税徴収による国益の確保と国民の平等が保たれるためには、事業者の申告について第三者のチェックと納税に関する指導が必要──要するに税務調査が必要になるのです。税務調査があくまでも「指導」の一環として行われるのはこうした民主主義の理念に基づいているからです。
どんな法人や個人が調査される?
事業を行っている法人・個人であれば、例外なく税務調査が入る可能性があります。しかし、税務調査を受けやすい事業者というものはあります。それはひと言で言えば「多額の追徴課税が発生する可能性が高いと考えられる事業者」です。具体的に、以下のような事業者であれば、「税務調査を受けやすい先」といえます。
- 多額の利益を計上している先
(大きな金額の追徴課税が発生しやすい) - 業界として好景気である事業を行っている先
(大きな金額の追徴課税が発生しやすい) - 前期と比較し、財務状況に大きな変動が発生している先
(財務状況の変動は不正や誤謬が発生しやすい兆候と考えられる)
税務調査が実施される時期
税務調査を実施する時期が規定されているわけではないので、1年を通していつでも税務調査が入る可能性がありますが実際に実施されることが多いとされるのは8月〜年末頃といわれています。これには2つの理由があると考えられます。
税務署の年度が7月~翌6月であるため
税務署の年度は7月から始まり翌年の6月に終わります。つまり、7月初めに行われる人事異動で新たな組織として動き始めるのです。ですから、組織が少し落ち着いた8月頃から本格的にその年度の税務調査をこなしていくことになるのです。
日本は3月決算の会社が非常に多いため
日本には3月決算の会社が非常に多くあります。3月決算の会社は5月末に確定申告を行うことになるため、7月以降に3月決算の申告にかかる税務調査が一斉に行われます。
税務調査の調査頻度
国税庁は「税務行政の現状と課題」というレポートのなかで「どれくらいの割合で税務調査が入るのかを示す統計」を毎年公表しています。そのデータによると、平成29年度は法人が3.2%、個人が1.1%(*1)──単純計算で法人は30年に1回程度、個人は100年に1回程度、税務調査が入る計算となります。税務調査の頻度はそこまで高くないと言えるでしょう。
税務調査の対象として狙われやすく、頻度が高い会社では3年から5年に1回税務調査が入ることもあります。これは税務調査の対象期間が基本的に3年で、長くて5年程度である点とも大いに関連性があります。
*1:この比率はその年度の税務調査の実施件数を対象事業者数で割った数値です。
税務調査の流れ
ここで、税務調査の事前の通知および税務調査当日の流れについて説明します。この流れを理解することで、事前に何を準備すべきか、どんな対応や回答を行うべきかなどを理解することができ、税務調査により追徴課税などのコスト発生の可能性を低減することができます。
税務署から事前連絡が入る
ある会社が税務調査の対象になった場合、基本的に税務調査を実施する前に税務署から事前連絡が会社に入ります。およそ税務調査の実施予定日の10日から20日前くらいには事前連絡がきます。
また、頻度は高くないものの、事前に通知することで目的が達成できなくなる可能性が高い場合は、事前通知なしで税務調査が入ることもあります。特に以下のケースでは、事前通知がないことも多いといえます。
- 脱税をしている可能性があると考えられる対象
- レストラン業や小売業など現金取引が主な対象
事前通知がきた場合、税務調査当日までのあいだ、しっかりと準備を行う必要があります。なぜなら、税務調査当日のやりとりは税務調査の結果に大きく影響を及ぼし、当然、追徴税額の金額にも影響するためです。
まずは顧問税理士に相談し、自社の会計処理のなかで問題点があるかどうかを洗い直したり、税務署から指摘されそうなポイントや指摘された際の対処法などを綿密に話し合っておく必要があります。また、会計帳簿の整理も行っておくべきといえるでしょう。
税務調査当日
税務調査当日、朝、税務調査官が会社にやってきます。まずは、会社の概況を掴むためのヒアリングを行うのが一般的です。世間話から入り、場を和ませるためのコミュニケーションを行います。
雑談のような話もありますが、税務調査官はこの時間の会話からも会社や従業員の状況を知り、どこを重点的に調査を行えば良いかを判断していますので、余計な話をしてしまうことがないように気をつけるべきでしょう。
会社の概要等のヒアリングがひと通り終了した後、税務調査官はこちらが用意した会計資料等を元に調査をはじめます。最初のヒアリングでは、顧問税理士だけで対応するのは難しいので経営者が立ち会うべきですが、調査段階までくれば、経営者は同席している必要も特にないでしょう。
調査の方法として、まずは決算書や元帳を通査し、場合によっては領収書や請求書等の証票までチェックするのが一般的な流れです。元帳をベースに調査を行うこととが考えられますので、やはり会計・税務によく精通している税理士を同席させると安心です。
税務調査時に慌てないために気をつけるべき日常業務
税務調査は過去3年間以上の帳簿状況を一気に確認する作業です。そのため、日頃から帳簿状況や会社の書類保管状況を整えておけば、税務調査の段階で慌てることなく対応できます。
税務調査官は、会社が計上する「所得」をどう大きくするかという視点でチェックを行います。なぜなら、会社が計上する「所得」の金額が大きくなれば、納付すべき税額が大きくなるためです。「所得」は「益金(収益)−損金(費用)」で算定されるので、会社がまだ計上していない収益がないか、そして費用として計上された項目のなかに不適切なものが入っていないかが重点的にチェックされます。
売上の期ズレ
この論点は税務調査で頻繁に議論される論点のひとつです。たとえば、決算日が3月31日の会社が4月に入ってから計上した売上は適正かという点。売上の計上日により年度の「所得」の金額および税収の金額が変わるからです。
そのため、税務署は「本来は決算日前に計上すべきものを決算日後に計上しているのではないか」という観点で調査を実施します。
会社は、まずはその業種にあった適切な売上計上基準を設定する必要があります。その基準に沿って、見積書・発注書・納品書・請求書などの日付やその他の記載の整合性を保ちつつ、資料を適切に保管していくような仕組みを日頃から構築しておくことが重要です。
これにより売上の期ズレ計上を内部的に防止することができます。
売上の計上漏れ
こちらも前述した売上の期ズレと近い話ですが、期ズレは売上計上自体はされており、を問題の焦点が計上のタイミングであるのに対し、売上の計上漏れはその計上自体の有無が問題視されるという点が異なります。
売上のを過小計上には2つのパターンがあります。ひとつは故意による過小計上です。売上の計上漏れは取引先への反面調査やその他の方法で見つかる可能性も高いので、余計なリスクやコストを発生させないようにしましょう。
もうひとつは集計漏れです。このケースでは内部の仕組みに問題があるので、原価率や利益率分析などを行って適切に売上が計上されていることを確かめましょう。同時に、もし間違いが発生する箇所を把握したのであれば、ミスを発生させない仕組みを構築し直し、再発を防ぐことが大事です。
売上と仕入の対応
会計上、仕入れたものが無制限に税務上の損金として計上できるわけではありません。仕入のうち損金計上できるものは、会計期間に売上が発生したものに対応する仕入分のみとなります。
そのため税務署は「仕入のなかに売上と対応しないものが含まれているのではないか」という視点で調査を実施します。
会社として、事前に売上と仕入を対応させる作業をしておき、売上と対応しない仕入を費用そして損金として計上することがないように整理しておきましょう。
棚卸資産の計上漏れ
棚卸資産の計上も重要な論点です。棚卸資産への計上は、費用、損金として計上されないことを意味します。なぜなら、仕入に計上されたもののうち、「棚卸資産の払い出しが行われておらず費用としては認められないもの」が最終的に棚卸資産として計上されるからです。
ですから、税務署は「棚卸資産」として計上すべきにもかかわらず、「棚卸資産として計上しているものが経費のなかに含まれているのではないか」を調査します。
棚卸実施の際に適切に集計する方法や仕組みを構築しておくことは大事です。たとえば、「モノが現場に存在しなくとも仕入自体は発生していて、ほかの場所に保管されているだけ」というケースでは棚卸資産として計上しなくてはなりません。これは間違いが発生しやすいので、注意しましょう。
役員給与の損金算入要件
税法上、役員給与は基本的に損金に算入されません。しかし、以下の場合は損金算入が認められます。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与(同族会社以外)
要するに、役員への給与は事前に計画を立てて、その計画にのっとって支払いを行わなければ損金には算入されないということになります。
これに対し、税務署は「『役員報酬』や『役員賞与』のなかに損金として計上すべきではない項目が含まれているのではないか」を調査します。
役員に対する給与は予定を適切に立て、その予定通りに支払いを実施することが重要であり、いくら業績が変動したからといって即座に役員給与に反映することはできないということを意識しましょう。
また、役員給与を損金算入するためには必ず事前の届出が必要で、場合によっては開示しなくてはならないので、届出・開示を期限までに行うことを怠らないようにしましょう。
人件費・外注費の区分誤り
人件費・外注費も費用の一種でありますが、どちらを選択するかにより関わる税金または社会保険の有無が異なります。一般的には人件費として処理するよりも外注費として処理したほうが会社にとって有利に働きます。
ですから、税務署は「外注費のなかに人件費として計上すべきものはないか」という視点で調査を実施します。
人件費は労働契約、外注費は業務委託契約や請負契約を結ぶのが通常ですが、結んだ契約書の種類により、人件費・外注費のいずれかに設定されるというわけではありません。
実態に沿って人件費か外注費かを判断するのが正しい方法です。会社はその費用の実態がどのようなものかを適切に判断し、それに見合った契約書を用意し締結する必要があります。
そして、定められた人件費・外注費の区分にしたがって、適切な税金や社会保険料の徴収や納付を行わなければなりません。
架空人件費の計上
架空の人件費を支払ったことにして費用・損金を計上し、脱税を図る方法があります。帳簿操作のみで人件費を計上でき、計上できる金額も大きいため、よく行われる脱税行為のひとつです。
こうした脱税行為が多く発生してきたたため、税務署は税務調査の際に「人件費のなかに架空の人物への支払の費用または勤務実績がないにも関わらず計上されている費用が含まれていないか」を調べます。
勤務実態のない身内への支払いを人件費として計上したりするのは処理としては誤りですので、正しい処理をするようにしましょう。また、架空人件費による脱税はよくある手口であることから税務署担当者はそのリスクと対応策によく精通しています。このような処理を行えば、税務調査の際に指摘事項になり、さらなる税務コストの発生が予測されます。
当然のことながら、税務署に指摘されるか否かに関わらず、会社は正しい会計処理を行うようにつとめる必要があるということは言うまでもありません。
私的経費
会社経費として認められるのは事業に関係がある費用のみであり、これらは税務上も損金として計上することができます。しかし、事業と関係のない私的経費は本来であれば会計上費用として計上してはならず、税務上も当然損金として計上できません。
そのため、「事業経費のなかに私的経費が含まれているのではないか」という視点で税務署は調査を実施します。
オーナー会社によくあるケースですが、事業経費と私的経費を混同して一緒に計上してしまっているケースがあります。私的経費の方は税務調査で発見されれば、費用が否認され、追徴課税を受けてしまうリスクがあるので、事業経費と私的経費を混同せずに区分して把握するようにしましょう。
まとめ
年単位で考えれば税務調査が入る可能性自体は高くはありませんが、事業者であれば誰でも経験する可能性があります。急な税務調査を受けて焦ることがないよう、日頃から正しい会計処理を心がけましょう。
執筆:熊谷恵佑(公認会計士)
宮城県仙台市出身。東北大学経済学部卒業。公認会計士として、日本で監査、税務業務等に従事後、国際業務に関心を持ち、2015年より東南アジアに拠点を移し、活動をしている。タイ、カンボジア、ベトナムでの業務経験を持つ。現在は、日本(仙台、東京)とタイ、バンコクで会計サービスを提供している。
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