監修 椎名 潤 椎名公認会計士事務所
不動産業界の経理業務は、賃貸・仲介・売買・開発・管理など、企業が展開する不動産事業によって仕事内容が異なります。不動産会社の経理担当者は、勤務先の事業内容に合わせて必要な経理業務の内容を理解・把握する必要があります。
本記事では、不動産業界における経理業務の内容を事業ごとに解説するほか、不動産業界で使用する勘定科目や経理業務の注意点についても解説します。
目次
不動産業界の経理業務とは?
ABCとは「Activity-Based 不動産事業は、主に賃貸・仲介・売買・開発・管理という5つの事業に大別できます。不動産事業は事業内容によって収益のあげ方が異なるため、不動産の経理業務の内容や使用する勘定科目も事業ごとに異なる点が特徴です。
事業 | 収益のあげ方 | 頻出の勘定科目 |
---|---|---|
賃貸 | 自社で所有している物件を貸し出し、対価として賃料を受け取る | 賃貸料、礼金・権利金・更新料 など |
仲介 | 顧客のもつ不動産の売買や賃貸を仲介し、仲介手数料を得る | 売上 など |
売買 | 不動産(建物)の売買 | 売上 など |
開発 | 建物の販売や、商業施設の店舗を貸し出す | 賃貸料、礼金・権利金・更新料、売上 など |
管理 | 不動産とその入居者の管理をオーナーから請け負う | 売上 など |
自社の事業に合わせて適切な経理業務を行うためには、各事業の経理業務を正確に理解することが重要です。ここでは、不動産業界における経理業務の内容を事業別に紹介します。
【賃貸事業】経理業務の特徴
不動産賃貸事業は、自社で所有している土地や建物を貸し出し、対価として賃料を受け取ることで収益を上げています。また、賃料だけでなく契約時に受け取る礼金や、契約更新時に受け取る更新料なども収益に含まれます。
賃貸事業は、家賃収入としてある程度まとまった収益を定期的に得られます。
一方で、不動産(建物)は固定資産として扱われるため、減価償却を行う必要があります。建物などの不動産の取得原価は、一旦固定資産として資産計上した後、減価償却手続きを通じて徐々に費用化されていきます。
また、不動産を居住目的で貸す場合は賃料に消費税はかかりませんが、事業目的で貸す場合には消費税が発生します。仕訳する際は消費税の取り扱いに注意しましょう。
【仲介事業】経理業務の特徴
不動産仲介事業は、顧客のもつ不動産の売買や賃貸を仲介し、仲介手数料を得ることで収益を上げます。自社では不動産を保有しないため、賃貸事業のような資産計上・減価償却といった会計処理は基本的には発生しません。
賃貸事業とは異なり、仲介手数料は売買でも賃貸でも消費税が発生するため、取引ごとに消費税区分を使い分ける必要はありません。
【売買事業】経理業務の特徴
不動産売買事業は、不動産(建物)の売買によって収益を得ます。賃貸事業と異なり、不動産の扱いが固定資産ではなく商品となるため、減価償却は発生しません。
不動産売買事業の経理業務は、不動産の仕入れと売上を計上する以外に、決算時に在庫も計上する必要があるなど、賃貸と仲介に比べて仕訳処理の量が多くなります。
また、仕入れや売上などに消費税がかかるか否かは、扱う不動産によって異なります。
たとえば、土地と建物を別々に仕入れる場合、土地の売買は非課税ですが建物の売買には消費税がかかります。一方、土地と建物をセットで仕入れる場合は、土地および建物の時価などにもとづき消費税の按分計算をするという、複雑な消費税処理が発生します。
【開発事業】経理業務の特徴
不動産開発事業とは、土地を取得して商業施設やビルなどの企画・開発・販売を手掛ける事業を指し、「デベロッパー」と呼ばれることもあります。建物の販売による売上や、商業施設の店舗を貸し出す際のテナント料を収益として得ています。
賃貸事業や売買事業との違いは、単に不動産を貸したり売ったりするだけでなく、不動産があるエリア全体を開発することまで事業に含まれている点です。ひとつのプロジェクトだけでも巨額の資金が動くほか、取引企業も多岐にわたり、竣工までの期間も長いため、状況に応じた複雑な経理業務が求められます。
【管理事業】経理業務の特徴
不動産管理事業とは、不動産とその入居者の管理をオーナーから請け負う事業のことです。不動産の管理料や清掃代、修繕費などから収益を得ます。
管理事業では、清掃代や修繕費のうち管理者が収益として受け取るお金と、入居者から一時的に預かったあとオーナーへ渡すお金とで、仕訳が異なります。同じ取引でも、状況によっては会計処理が変わることを覚えておきましょう。
不動産業界の経理で使用する勘定科目
不動産業界の経理業務をスムーズかつ適切に行うために、経理担当者は業界でよく使用する勘定科目を知っておくとよいでしょう。ここでは、よく使う勘定項目を「収益項目」「費用項目」の2つに分けて解説します。
収益項目
不動産業界の経理でよく使われる収益項目の勘定科目は、大きく以下の3つがあります。
勘定科目 | 概要 |
---|---|
賃貸料 |
・入居者から得る家賃収入で、不動産賃貸事業における主な収益 ・居住用住居や事業用オフィスの家賃のほか、マンスリーマンションや貸し倉庫などの賃料 など |
礼金・権利金・更新料 |
・礼金・権利金とは入居者が入居時にオーナーへ支払うもので、敷金のように返金しないため、そのまま収益になる ・更新料とは、賃貸借契約の更新時に入居者からオーナーへ支払われるもの |
雑収入 |
・上記以外の収益は、雑収入として計上する。 ・自社物件にある自動販売機の売上や、保険会社から受け取った保険金 など |
費用項目
続いて、費用項目として使われる勘定科目を紹介します。
勘定科目 | 概要 |
---|---|
貸倒金(貸倒損失) |
・不動産の借主から回収できなかった家賃の滞納金を計上する際に使用する ・計上するためには「滞納金回収のための努力をしたか」「借主には本当に支払い能力がないのか」など客観的な理由が必要になるほど税法上の要件が厳しいため、税理士などに相談するとよい |
管理諸費 |
・不動産の管理(入居者のクレーム対応や入金管理など)を管理会社に委託している場合に支払う、管理料や委託料のこと ・上記のほか、エレベーターの保守代も含まれる |
地代家賃 |
・事業用の建物や駐車場を借りた際の賃料のこと ・上記のほか、経営するマンションなどの建物や土地を借りる際の賃料も該当する |
租税公課 |
・国や地方自治体に納める租税と、公共団体に納める公課を計上する際に使用する ・不動産業界に関係する租税公課としては、固定資産税や不動産取得税、印紙税などがある |
損害保険料 |
・保有している物件にかけた、火災保険や地震保険の保険料が該当する ・保険料を一括で支払った場合、基本的には支払い時に全額が経費計上できるが、契約期間が2年以上など一定期間を超える場合は、翌期以降の経費計上分を月割計算し、「長期前払費用」という勘定科目に振り替える処理が必要になる |
修繕費 |
・賃貸物件を維持管理するための費用のこと ・退去時の部屋のクリーニング代や設備の修理費用などが挙げられる |
減価償却費 |
・不動産(建物)や自動車などの固定資産を、耐用年数に応じて毎期費用化する際に使用 ・不動産(建物)や自動車以外にも、耐用年数が1年以上で、10万円以上の資産は減価償却の対象になる |
借入金利子 |
・金融機関からの借入金に付く利息を計上する際に使用 ・不動産所得が赤字の場合は「土地を取得するための借入金利子」を他の所得と相殺(損益通算)することはできない |
給料賃金 |
・従業員に支払う給与や賞与を計上する際に使用する ・ただし、個人事業主が生計を一にする親族を従業員にして給与を支払った場合は「専従者給与」という勘定科目を使用する |
水道光熱費 |
・保有する物件の共用部分で使用する水道代や電気代を計上する際に使用する ・物件の共用部分のほか、事務所の水道光熱費も含まれる |
広告宣伝費 | ・自社の商品やサービスを宣伝するためにかかった費用例:不動産仲介会社に支払う広告料や不動産サイトへの掲載料、チラシの印刷代などが挙げられる |
支払報酬 |
・税理士や司法書士、弁護士などに支払う報酬 ・少額の場合は「管理諸費」で計上することもある |
新聞図書費 | ・不動産業界の経理業務に関する書籍の購入費や新聞代などが該当する |
消耗品費 |
・業務で使用する備品や事務用品、工具などの購入費のうち、金額が10万円未満のものを計上する際に使用する ・少額であれば「雑費」で計上することもある |
車両費 |
・業務で使用する自動車に関する費用を計上する際に使用する ・例として、ガソリン代や車検費用、洗車代などが挙げられる |
旅費交通費 | ・業務で発生した交通費や出張時の宿泊費などを計上する際に使用する |
通信費 |
・業務で使用する通信手段にかかる費用を計上する際に使用する ・電話料金やインターネット使用料、切手代などが該当する |
福利厚生費 |
・給与とは別に、従業員の福利厚生のために支払った費用を計上する際に使用する ・健康診断や資格取得の補助などが当てはまる ・ただし従業員が家族の場合は、支払った費用を福利厚生費にはできないので注意が必要 |
雑費 | ・上記に当てはまらない費用や、少額で勘定科目を設ける必要がないほどの費用 |
不動産業界の経理業務の注意点
ここでは、不動産業界の経理業務を担ううえでの注意点を2つ解説します。
賃料の契約条件に気を付ける
不動産賃貸といっても、その契約内容は自動更新やフリーレント(一定期間は賃料が無料の賃貸)、変動賃料(売上によって賃料が変わる)などさまざまです。そのため、賃料に関する経理業務をする際は、賃貸借契約書をよく確認し、契約条件に応じた適切な会計処理を選択する必要があります。
また、賃料に関して処理を誤りやすいものとして、消費税の取り扱いがあります。前述の通り、不動産を居住目的で貸す場合は賃料に消費税はかかりませんが、事業目的で貸す場合には消費税が発生することを覚えておきましょう。
金利変動リスクを考慮する
不動産を仕入れる(購入する)際に、購入資金を用意するために金融機関から借入を行うケースがあります。この借入金が多額となる場合は、金利変動によるリスクを負うことも考慮しなければなりません。
金融機関からの借入を行うと、借入期間に応じた金利に基づく支払利息も発生します。金利変動による金利の上昇に伴い、連動して支払利息も増加してしまうのです。
支払利息が膨れ上がると、元本の返済にも影響を及ぼす可能性があります。支払利息が増加しても返済できるだけの収支計画を立てることや、金利が変動しない固定金利にするといった対策をとりましょう。
まとめ
不動産業界の経理業務は、賃貸・仲介・売買・開発・管理などの事業ごとに収益の上げ方などが異なります。また、不動産業界ならではの勘定科目を使用することになるため、事業ごとに経理業務とあわせて覚えておく必要があります。
業界未経験の経理担当者が不動産業界に入った場合、業界特有の経理業務に戸惑うことがあるかもしれません。本記事の内容を参考に、不動産事業の内容に沿った経理に関する知識を身に付けていきましょう。
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よくある質問
不動産業界の経理が他の業界と異なる点は?
不動産業界の経理業務におけるほかの業界と異なる点は、「契約条件に関連して会計処理が変わってくる」という点です。不動産契約書に記載された契約条件を十分に確認するようにしましょう。
詳しくは記事内「不動産業界の経理業務の注意点」をご覧ください。
不動産業界の経理で使う勘定科目は?
不動産業界では、収益項目・費用項目それぞれで業界ならではの勘定科目を使用します。
詳しくは記事内の「不動産業界の経理で使用する勘定科目」をご覧ください。
監修 椎名 潤
公認会計士試験合格後、大手監査法人へ入所し、一般事業会社向けの会計監査及び内部統制監査業務に従事。その後、国内コンサルティングファームにて、内部統制導入支援や経理決算常駐支援などのアドバイザリー業務に従事。2023年より公認会計士として独立。