監修 橋爪 祐典
上代とは小売店が商品を販売する際の基準となる価格で、メーカーや卸売業者によって決定されます。小売店にとっては、上代と下代(仕入価格)の差が粗利益となります。
本記事では、仕入担当者やネットショップの運営者に向けて、上代の概要や下代との違いを解説します。
また、参考上代・定価・希望小売価格などとの使い分けや、掛け率の知識、さらには仕入れ交渉に役立つポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
はじめての経理はfreee会計で簡単・安心・確実に
経理未経験でも、freee会計で帳簿や決算書を作成できます。銀行口座と同期すると、複雑な仕訳を自動化したり、日々の記帳を行うと、1クリックで決算書を作成できたり、初心者の方でも安心して進められます。
上代とは
上代(じょうだい)とは、小売店が消費者に商品を販売する際の「販売価格」の基準となる価格のことです。
上代は小売店が自由に設定するものではなく、商品を製造する側であるメーカーや卸売業者が決定します。メーカーから「上代5,000円」と提示された場合は、小売店は基本的に5,000円でその商品を販売します。
ただし、上代には拘束力はありません。提示した価格で販売しない小売店に対して、メーカーや卸売業者がこれを理由に不利益を課したりすることは禁止されています。
出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」
上代は消費税を含まない
商談や取引における上代は、基本的には消費税を含まない「税抜価格」で表します。業者間(BtoB)では、税抜価格で取引を行うことが慣習となっているためです。
一方、店頭やECサイトでの消費者向けの価格表示では、総額表示義務により「税込価格」での表示が義務付けられています。したがって、仕入れ交渉では税抜、販売時には税込という使い分けが必要です。
上代・下代の違い
上代とともに使われる概念として、下代(げだい)があります。下代の概要と上代・下代の違いを解説します。
下代は「仕入価格」のこと
下代(げだい)とは、小売店がメーカーや卸売業者から商品を仕入れる際の価格で、「仕入価格」「卸価格」とおおよそ同じ意味です。
下代はメーカーや卸売業者と小売店の交渉によって決定されます。発注数量や取引条件によって変動するケースがあるほか、継続的な取引や長期契約を前提に下代の優遇がなされるケースもあります。
上代と下代の差額が、小売店にとっての粗利益となります。たとえば、上代10,000円の商品を6,000円(下代)で仕入れた場合、小売店が得る粗利益は差額の4,000円です。
上代・下代の違いと比較表
上代は商品の販売基準価格を、下代は仕入価格を意味します。
両者の大きな違いは、上代はメーカー・卸売業者が決定するのに対し、下代は取引時にメーカー・卸売業者と小売店の交渉によって決定する点です。下代は取引条件などによって変動し得ます。
上代と下代の違いをまとめると、以下の通りです。
| 上代 | 下代 | |
|---|---|---|
| 定義 | 小売店が消費者に 商品を販売する際に基準となる価格 | 小売店がメーカーや卸売業者から 商品を仕入れる際の価格 |
| 決定方法 | メーカーや卸売業者が決定 | メーカーや卸売業者と小売店の 交渉により決定 |
| 使用場面 | 消費者への販売価格表示 値引き時 (基準額として利用) | 仕入交渉 原価計算 |
上代・下代に関わる「掛け率」
掛け率は、上代に対して下代が占める比率をあらわす数値です。掛け率の値が小さいほど下代が安く、小売店にとっては粗利益が高くなります。
つまり掛け率は、小売店にとって事業の収益性を左右する重要な要素です。たとえば、年商1,000万円の事業で掛け率を5%改善できれば、年間50万円の粗利益増加が見込めます。
掛け率に関する計算方法や交渉での使われ方を、以下で解説します。
掛け率の計算方法
掛け率は、次の計算式で求められます。
掛け率の算出方法
- 掛け率 = 下代 ÷ 上代 × 100(%)
掛け率の計算は小売業における基本であり、正確な計算は必須です。
掛け率を用いた下代・粗利益の計算方法
掛け率を用いて、下代と小売店の粗利益は以下のように計算できます。
掛け率を用いた下代・粗利益の算出の例
上代10,000円・掛け率60%のとき
- 下代 = 10,000(上代) × 60% = 6,000(円)
- 粗利益 = 10,000(上代) - 6,000(下代) = 4,000(円)
- 粗利率 = 4,000 (粗利益)÷ 10,000(上代) × 100 = 40%
上代10,000円・掛け率40%のとき
- 下代 = 10,000(上代) × 40% = 4,000(円)
- 粗利益 = 10,000(上代) - 4,000(下代) = 6,000(円)
- 粗利率 = 6,000 (粗利益)÷ 10,000(上代) × 100 = 60%
商談での使われ方
商談では、掛け率を「6掛け」「7掛け」という表現で使います。6掛けは、掛け率6割(60%))のことです。
商談において条件の確認・交渉に使われるフレーズの一例は以下の通りです。
- 「こちらの商品は何掛けでしょうか?」
- 「他社様は5.5掛けでご提案いただいているのですが」
- 「100個でまとめて発注する場合、掛け率はいかがでしょうか?」
上代と定価・売価の違い
上代と類似する定価・売価との間には、以下のような違いがあります。
| 上代(じょうだい) | 定価(ていか) | 売価(ばいか) | |
|---|---|---|---|
| 概要 | 販売価格の基準となる価格。メーカー・小売店が設定 | メーカーが決定できる販売価格。書籍などに適用 | 消費者に提示される最終的な販売価格。値引きやセール価格を含む |
| 拘束力 | なし | あり | なし |
| 上代との 関係性 | − | 上代と近いが拘束力あり | 上代を基準に変動 |
「定価」は、書籍・新聞・たばこなど特定商品にのみ適用されます。「売価」は店頭やECサイトで、消費者に表示される最終販売価格を指します。
上代とほかの価格との違い
次の価格群は、表記や使われ方が「上代」に似ています。混同を防ぐため、意味と違いをチェックしましょう。
上代と類似する価格
- 参考上代
- オープン価格
- 希望小売価格
参考上代
参考上代とは、メーカーや卸売業者が小売店に対して提示する目安の販売価格です。法的拘束力はなく、小売店は参考上代とは異なる価格を設定することもできます。
上代と参考上代は、拘束力がないという点では同じですが、変更の自由度は参考上代の方が高いという違いがあります。上代は、商慣習上「基本的にはこの価格で販売する」ことを前提に設定されるため、この価格を無視して自由に変更されるケースは珍しくなっています。
オープン価格
オープン価格とは、メーカーや卸売業者が販売価格やその基準を設定せず、小売店が自由に価格を決定できる仕組みです。たとえば、次のように競争の激しい商品群ではオープン価格が採用されます。
オープン価格が採用される商品の例
- パソコン
- プリンター
- デジタルカメラ
- 洗剤
- シャンプー
- プライベートブランド商品
- 輸入品
オープン価格では小売店が自由に価格を決定するのに対し、上代はメーカーや卸売業者が基準として設定し、小売店は基本的にはこの価格に則ります。
希望小売価格
希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して提示する、希望の販売価格です。法的拘束力はないため、参考上代とほぼ同じ意味で使われます。
上代・参考上代の関係と同様、拘束力はないという点は上代と希望小売価格に共通しているものの、変更の自由度は希望小売価格の方が高くなっています。
価格の表記方法が多い理由
戦後に制定された独占禁止法では、メーカーが小売業者に対して販売価格を拘束する「再販売価格の拘束」が原則として禁止されました(例外として、書籍や新聞など一部の著作物については独占禁止法の適用が除外され、メーカーが「定価」を決定できます)。
メーカーや卸売業者は、この法律を遵守しながら販売価格の目安を示すため、「上代」や「希望小売価格」、「参考上代」といった表記を行うようになります。
また、あくまで販売価格の目安や基準である「希望小売価格」の実効性の低さから、1970年代以降は、販売価格を小売店が自由に決定する「オープン価格」が広まりました。
こうした事情を背景に、「上代」や「参考上代」「希望小売価格」、「オープン価格」など複数の価格表記が併存する形になっています。
出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」
出典:日本経済新聞「希望小売価格とは メーカー側、目安を提示」
掛け率交渉に役立つポイント
掛け率の交渉を行うにあたって押さえておきたいポイントは、以下の通りです。
掛け率交渉のポイント
- 業界ごとの掛け率相場を調査する
- 質問しながら相手の要望を探る
- 経験を積みながらパターンを覚える
業界ごとの掛け率相場を調査する
掛け率の相場は業界や商品などによって異なります。掛け率の交渉を成功させるためには、まずは条件が妥当かどうかを判断できるよう、自社の業界における相場を調査しましょう。
情報収集には、次の方法が効果的です。
業界における掛け率の相場の調査方法
- 業界団体の調査レポート確認
- 同業者との情報交換
- 取引先への直接ヒアリング
- 業界専門誌の記事分析
業界相場は時期によっても変化するため、定期的に情報収集を行うのが望ましいと言えます。
質問しながら相手の要望を探る
掛け率の交渉をスムーズに進めるためには、相手の事情や要望を理解したうえで、双方にメリットのある提案を行う必要があります。
特に重要なのは、相手の課題や目標を理解することです。たとえば、メーカーが新商品の打ち出しを検討しているタイミングや、目標達成に向けて売上を確保したい時期がわかれば、交渉が行いやすくなります。取引先がコスト面で課題を抱えている場合、仕入れロット数を増やすなどの提案と組みあわせた交渉も可能です。
相手の話を丁寧に聞いて要望を探りながら、相手の課題と自社が提供できる価値をマッチングさせた提案を行いましょう。
経験を積みながらパターンを覚える
交渉は、相手や状況により最適解が異なります。実際の交渉経験を通じて、業界特有の慣習や、時期やトレンドに応じた需要の変化、取引先ごとの事情・課題、効果的なフレーズなどを見極め、習得するのが有効です。
まとめ
上代とは、小売店が消費者に商品を販売する際の「販売価格」の基準となる価格で、メーカーや卸売業者が決定します。基本的には消費税を含まない税抜価格を指します。
流通業界では上代とあわせて、仕入価格を意味する「下代」、上代に対して下代が占める割合を示す「掛け率」などの数値が用いられます。
上代と掛け率・粗利益の関係や、上代と参考上代・希望小売価格などの類似用語との違いを正確に把握し、取引先との円滑なコミュニケーションを実現することが、小売業における成功のカギとなるでしょう。
はじめての経理でも、自動化で業務時間を1/2以下にする方法
経理業務は日々の入出金管理のほか、請求書や領収書の作成・保存、仕訳作成まで多岐にわたります。
シェアNo.1のクラウド会計ソフト*1「freee会計」は、面倒な入力作業や仕訳を自動化し、見積書や請求書も簡単に作成できるため、経理業務にかかる時間を半分以下*2に削減できます。
※1リードプラス「キーワードからひも解く業界分析シリーズ:クラウド会計ソフト編」(2022年8月)
※2 自社調べ。回答数1097法人。業務時間が1/2以上削減された法人数
また、一度の入力で複数の業務が完了するため、重複作業や転記作業はほぼ発生しません。
数ある会計ソフトの中でも、freee会計が選ばれる理由は大きく分けて以下の3つです。
- AI-OCR機能で自動入力・自動仕訳
- 全国ほぼすべての銀行・160以上の外部サービスと連携
- 充実のサポート体制
それぞれの特徴についてご紹介していきます。
AI-OCR機能で自動入力・自動仕訳
領収書・受取請求書などをスマホのカメラで撮影しfreee会計に取り込めば、読み取り機能(OCR機能)が取引先名や金額などをAI解析し、仕訳に必要な情報を自動で入力。そのまま支払管理・仕訳まで自動で作成できます。
全国ほぼすべての銀行・160以上の外部サービスと連携
freee会計は全国ほぼすべての銀行やクレジットカード、決済サービスなどと連携可能。同期していれば自動で利用明細を取り込むので、勘定科目の登録はもちろん、売掛金や買掛金の消し込み、入金仕訳などの記帳が、freee会計の画面だけで行えます。
さらに、地代家賃や役員報酬など定期的に入金・支払金が発生する取引は、登録さえしておけばfreee会計が自動で記帳まで完了します。
充実のサポート体制
freee会計には、経理をするうえでの不安を解消できる充実したサポートコンテンツを用意しています。
それでも解決できないお悩みはfreeeの専任スタッフにご相談いただける体制も整っているため、はじめて経理される方でも安心して始めることができます。
よくある質問
定価と上代の違いは?
定価は、メーカーが決定する商品の価格で、小売店に対してその価格で販売することを義務付ける拘束力をもちます。
一方、上代はメーカー・卸売業者が定める「“販売価格”の基準となる価格」で、定価のような拘束力はありません。
定価と上代の違いについて詳しくは、記事内「上代と定価・売価の違い<」をご覧ください。
8掛けで仕入れた商品を売った場合の粗利益は?
8掛け、つまり掛け率80%で商品を仕入れて販売した場合、粗利益は以下のように計算できます。
掛け率を用いた粗利益の算出方法
【上代10,000円・掛け率80%の場合】
- 下代 = 10,000(上代)× 80% = 8,000(円)
- 粗利益 = 10,000(上代)- 8,000(下代) = 2,000(円)
粗利益の計算について詳しくは、記事内「掛け率を用いた下代・粗利益の計算方法」をご覧ください。
「掛け率」を言い換えると?
掛け率は「仕入れ率」「コスト率」「原価率」などと言い換えられます。「掛け率」は専門用語であるため、取引先や社内の人によっては、理解されないケースもあるでしょう。相手や状況に応じて、適切な伝え方をするのが効果的です。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
