会計の基礎知識

棚卸減耗損とは?求め方や仕訳例、棚卸評価損との違いなどを解説

監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

棚卸減耗損とは?求め方や仕訳例、棚卸評価損との違いなどを解説

お店の商品を盗まれたり、なくしてしまったり、あるいは破損してしまったりした場合、帳簿上の在庫数と実際の在庫数にズレがあることで損失が発生します。これを「棚卸減耗損」といいます。

棚卸減耗損は、会社の利益に影響するため、正しく会計処理をすることが重要です。

本記事では、棚卸減耗損の定義や原因、削減するための対策を解説します。計算方法や事例に応じた仕訳例もまとめているので、ぜひ参考にしてください。

目次

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棚卸減耗損とは?在庫が帳簿よりも少ない場合に生じる損失

棚卸減耗損とは、帳簿上に記録されている在庫数量と、実際に倉庫や店舗などに存在する在庫数量との差によって生じる損失のことです。企業が実地棚卸を行った際、帳簿の数量よりも実在庫が少なかった場合に発生します。

たとえば、帳簿上では商品が100個あると記載されているにもかかわらず実際に数えてみると95個しかなかった場合、差分の5個分が棚卸減耗損として扱われます。この5個分の商品原価相当額を損失として会計処理する必要があります。

【関連記事】
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棚卸減耗損と棚卸評価損(商品評価損)の違い

棚卸減耗損と混同されやすい言葉に、棚卸評価損があります。どちらも在庫に関する損失を表しますが、その発生原因と内容は大きく異なります。


項目内容
棚卸減耗損数量の減少によって生じる損失
棚卸評価損品質の低下や市場価格の下落によって生じる損失

棚卸減耗損は数量の減少によって生じる損失です。一方、棚卸評価損は在庫の数量に変化はないものの、品質の低下や市場価格の下落によって生じる損失を指します。

具体的には、在庫として100個の商品があるものの市場での需要が低下して1個あたりの販売価格が仕入価格を下回った場合、その差額分が棚卸評価損です。

これら2つの損失は発生原因も会計処理の考え方も異なるため、適切に区別して計上する必要があります。

棚卸減耗損が発生する原因

棚卸減耗損は、帳簿上の在庫数量と実地棚卸による実際の在庫数量との間に生じる差異から発生します。この差異が生まれる主な原因には、以下のようなものが挙げられます。

棚卸減耗損が発生する原因

  • 盗難・紛失:社内外の人による盗難や商品の紛失
  • 汚損・破損:商品の取り扱いミスや経年劣化による汚損・破損
  • 記載ミス:在庫管理台帳への記入ミスやデータの入力ミス
  • 単位間違い:仕入れ時の単位(個・箱など)の勘違い
  • 長期滞留による廃棄:売れ残った商品が長期的に保管されたのち廃棄処分される

なお、これらの原因は主に「物理的な減少」と「管理上のミス」の2つに大別できます。

物理的な減少の代表例は、商品の盗難や紛失です。社内外の人間による窃盗行為だけでなく、作業中の単純な置き忘れや見落としによっても在庫は減少します。また、商品の汚損・破損や廃棄も原因のひとつです。不適切な取り扱いや保管環境の悪化により商品価値が失われ、結果として廃棄せざるを得なくなるケースも含まれます。

一方、管理上のミスも棚卸減耗損の要因となっています。入庫時や出庫時における数量カウントミスや在庫管理システムへの入力間違い、伝票への記載ミスなど、ヒューマンエラーによって起こることも少なくありません。仕入れた商品の単位を個数と箱数で勘違いして計上してしまうなども、よくある原因のひとつです。

大切なのはこれらの原因を正確に特定し、それぞれに対する対策を講じることです。まずは自社でどのような原因で棚卸減耗損が発生しているかを詳細に分析しましょう。

棚卸減耗損を削減するには?4つの具体的な対策

棚卸減耗損の削減は、企業の利益確保と適切な在庫管理の実現において重要な課題です。ここでは、具体的な4つの対策について解説します。

在庫管理の徹底

在庫管理の徹底は、棚卸減耗損を防ぐための基本的かつ重要な対策です。具体的な手法としては、入庫・出庫時に必ず複数人で数量を確認する体制を構築し、ヒューマンエラーを防ぐことが挙げられます。一人での作業では見落としや数え間違いが発生しやすいため、相互チェック機能を持たせることが効果的です。

バーコードやRFIDタグなどを活用した在庫管理システムを導入することも有効です。商品の移動をリアルタイムで追跡できるため、帳簿と実在庫の差異を早期発見できます。また、システム導入により人為的なミスを軽減でき、正確な在庫データの維持につながります。

さらに、商品の保管場所を明確に定め、誰でもすぐに目的の在庫を見つけられるように整理整頓を徹底することも重要です。保管場所のルールを定め、商品の所在を明確にすることで、在庫の紛失リスクを軽減できます。

定期的な棚卸

定期的な棚卸は、在庫の正確な数量を把握し、棚卸減耗損の原因を早期に特定するために重要な取り組みです。多くの企業では年次棚卸のみを実施していますが、より効果的な管理のためには、月次や四半期ごとなど、より頻繁に実地棚卸を行うことがおすすめです。

頻繁な棚卸の実施により、損失が発生してから発見するまでのタイムラグを短縮できます。問題が拡大する前に原因を追究できるため、被害を最小限に抑えられるほか、適切な対策を講じることも可能です。従業員の在庫管理に対する意識も高まり、日々の業務における正確性の向上も期待できます。

従業員教育の強化

棚卸減耗損はヒューマンエラーに起因するケースも多いため、対策としての従業員教育の強化は欠かせません。在庫管理の重要性を従業員全員に周知し、入庫・出庫・棚卸といった各プロセスにおける正しい手順を教育しましょう。

たとえば、具体的なマニュアルを作成して定期的な研修を行うと、従業員のスキルアップだけでなく作業の標準化も期待できます。従業員一人ひとりが在庫管理の当事者意識を持つことで、数量の数え間違いや入力ミスといった人為的ミスを削減できます。

防犯対策の強化

商品の盗難や紛失は棚卸減耗損の直接的な原因となります。そのため、防犯対策の強化は重要な取り組みの一つです。監視カメラを設置すると、不審な行動を記録するだけでなく、従業員や外部の人間に対する抑止力としても機能します。なお、高価な商品や盗まれやすい商品については、施錠できる場所に保管する、在庫の保管場所を定期的に変更するといった対策も考慮すべきです。

また、倉庫や保管場所への入退室管理を徹底し、関係者以外の立ち入りを制限することも有効です。必要に応じてセキュリティカードや鍵の管理を厳格化することは、不正な持ち出しの防止に役立ちます。

棚卸減耗損の求め方

棚卸減耗損の計算は、以下の計算式に基づいて行います。

  • 棚卸減耗損 =(帳簿棚卸数量 − 実地棚卸数量)× 帳簿単価

帳簿棚卸数量とは会計帳簿上に記録されている在庫数量のことで、実地棚卸数量とは実際に現場で数えた在庫数量を意味します。帳簿単価は商品1個あたりの原価です。

具体的な計算例を用いて説明します。帳簿上の在庫数量が100個、実地棚卸で数えた数量が95個、商品の単価が1,000円の場合、棚卸減耗損は以下のとおりです。

  • (100個 − 95個)× 1,000円 = 5,000円

この例では、5,000円の棚卸減耗損が発生していることがわかります。

棚卸減耗損の仕訳のポイント:売上原価に含むか、特別損失として計上するか

棚卸減耗損の会計処理を適切に行うためには、以下の2つのポイントを理解しておく必要があります。これらのポイントは、棚卸減耗損をどの費用区分で処理するかを決定する際の判断基準となります。

売上原価に含めるかどうか

棚卸減耗損は、通常発生する範囲内の損失であれば、売上原価に含めるのが一般的です。なぜなら、事業を運営するうえで多少の在庫ロスは避けられないものと考えられるためです。日常的な業務において発生する軽微な破損や紛失、自然減耗などは、売上を獲得するための必要コストの一部として捉えられます。

なお、売上原価に含める場合は期末の仕訳で「棚卸減耗費」の勘定科目を使用します。

【関連記事】
損金とは?費用・経費との違いや算入・不算入の事例までわかりやすく解説

特別損失として計上するかどうか

盗難や火災といった突発的な原因で発生した多額の棚卸減耗損については、通常の事業活動では発生しない損失と見なされ「特別損失」で計上するのが適切です。これらの損失は、継続的な事業運営とは直接関係のない、例外的な事象によって生じたものと判断されます。

特別損失として計上するメリットには、会社の財務状況をより正確に把握しやすい点が挙げられます。通常の事業活動による損益と区別することで、投資家などが適切に評価できるほか、経営陣もより適切な経営判断を行いやすくなります。

棚卸減耗損の仕訳例

棚卸減耗損の仕訳処理は、その発生原因や金額の大きさによって異なる処理方法を選択する必要があります。

ここでは、一般的な棚卸減耗損の仕訳と、特別なケースでの仕訳について具体的な数値例を用いて解説します。

売上原価に含める場合(期末の仕訳)

通常の事業活動において発生する棚卸減耗損は、売上原価として処理するのが一般的です。以下の前提条件で具体的な仕訳を説明します。

【前提条件】


  • 期首商品棚卸高:200,000円
  • 当期商品仕入高:800,000円
  • 期末実地棚卸高:150,000円
  • 期末帳簿棚卸高:170,000円

この条件では、棚卸減耗損額は20,000円(170,000円 - 150,000円)です。通常の棚卸減耗損は売上原価に含まれるため「棚卸減耗費」という勘定科目を使用して以下のように仕訳します。


借方貸方
繰越商品170,000円期末商品棚卸高170,000円
棚卸減耗費20,000円繰越商品20,000円

期末商品棚卸高は、まず帳簿上の数量に基づく170,000円を計上します。その後、実地棚卸によって判明した差額20,000円を「棚卸減耗費」として処理することで、最終的に繰越商品の残高は実在庫ベースの150,000円に修正されます。

なお、棚卸減耗費20,000円は売上原価の一部として損益計算書に反映され、売上総利益の算定に影響します。

特別損失として計上する場合

盗難や火災など通常の事業活動では発生しない原因による多額の棚卸減耗損については、特別損失として処理することが適切です。以下の前提条件で具体例を説明します。

【前提条件】


  • 帳簿棚卸高:100,000円
  • 実地棚卸高:50,000円
  • 盗難により多額の在庫がなくなったことが判明

このケースでは、盗難という通常業務とは異なる特別な原因によって多額の損失が発生したため、特別損失として計上します。

  • 棚卸減耗損の金額 = 100,000円 − 50,000円 = 50,000円

なお、仕訳は以下のとおりです。


借方貸方
特別損失50,000円繰越商品50,000円

この処理により、通常の営業活動による損益とは区別して、例外的な損失として財務諸表に示します。こうすることで、投資家や債権者などの利害関係者は、企業の通常業務による収益力と一時的な損失を分けて評価できます。

重要なのは、棚卸減耗損の内容に応じて適切な勘定科目で処理することです。適切な会計処理は企業の財政状態を正確に反映し、経営陣や利害関係者による適切な経営判断の基盤となります。

まとめ

棚卸減耗損とは、実際の在庫数量が帳簿上の在庫数量よりも少なくなることで発生する損失です。原因には物理的な減少や管理上のミスが含まれます。

紛失や汚損・破損、入庫時の記載ミスといった通常の範囲内の損失は、売上原価に含められ損金算入が可能です。ただし、盗難や火災など想定外の要因による多額の損失は、特別損失として計上します。例外的な損失だと財務諸表に示すことで、財政状況を正しく反映できます。

企業が正しい会計処理を行うには、こういった原因に応じて適切な処理を行うだけでなく、日頃から在庫管理の徹底や従業員教育などをとおして削減に努めることが重要です。また、会計処理の正確性と効率を高めるには、会計ソフトを利用することをおすすめします。

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よくある質問

棚卸減耗損とは?

棚卸減耗損とは、帳簿上に記録されている在庫数量よりも、実際に倉庫や店舗などに存在する在庫数量が少ないことで生じる損失です。実地棚卸を行った際に、帳簿の数量よりも実在庫が少なかった場合に発生します。

詳しくは、記事内「棚卸減耗損とは」をご覧ください。

棚卸減耗損の計算方法は?

棚卸減耗損の計算は「棚卸減耗損 =(帳簿棚卸数量 − 実地棚卸数量)× 帳簿単価」で求められます。

詳しくは、記事内「棚卸減耗損の求め方」で解説しています。

棚卸減耗損は損金算入できる?

棚卸減耗損は、税務上、損金算入が認められる場合がありますが、経年劣化による汚損・破損などに限られます。盗難や記載ミス、単位間違いなどが理由の場合、損金算入は認められないケースがあります。

監修 前田 昂平(まえだ こうへい)

2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。

前田 昂平

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