監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)税理士
内部留保とは、企業が得た利益のうち社内に蓄積された部分のことで、会計上では勘定科目「利益剰余金」に該当します。
「内部留保が多い=現預金が余っている」「内部留保が多い企業は、利益をため込んで従業員や社会へ還元していない」などの誤解から、批判的に捉えられることも少なくありません。
しかし、内部留保とその適切な活用は、安定的な経営や企業の成長のために重要な意味を持ちます。
本記事では、内部留保の定義・使い道から内部留保を増やすことのメリット・デメリット、適切な内部留保の目安と増やし方まで、わかりやすく解説します。
目次
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内部留保とは利益剰余金のこと
内部留保とは、企業が得た最終的な利益(当期純利益)のうち、配当金などとして外部に出すことなく社内に蓄積された資金です。
内部留保の算出方法
内部留保 = 当期純利益 - 株主への配当金など
会計上は勘定科目「利益剰余金」に該当し、貸借対照表においては「純資産の部」に分類されます。利益剰余金は、企業が蓄積してきた利益の累計額です。
【関連記事】
当期純利益とは?求め方・計算方法や経営分析の方法をわかりやすく紹介
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「内部留保のメリットとデメリットについて教えてください。」
内部留保の使い道
内部留保は、企業の成長のための投資などに使われるほか、災害や経済不況などの危機に対する備えともなります。
たとえば2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って日本の景気は急激かつ大幅に後退しました。こうした経済状況の悪化をはじめとする非常事態において、適切に積み上げられた内部留保は、企業の存続を支える「防波堤」として機能し得ます。
【貸借対照表】「内部留保=現預金」ではない
「内部留保が多い企業は現預金が豊富である」と誤解されるケースは少なくありませんが、内部留保と現預金は根本的に異なるものです。
「内部留保=現預金」でないことは、貸借対照表の仕組みから説明できます。
貸借対照表の構造は「資産 = 負債 + 純資産」です。純資産の部に記載される内部留保が増えれば、それに対応して資産の部も増加します。ただし、資産の部には次のような項目も含まれるため、現預金のみが増えるとは限りません。
資産の部に含まれる項目
- 売掛金
- 在庫
- 設備
- 土地・建物 など
したがって、「内部留保の増加=現預金の増加」は事実と異なります。内部留保は現預金を含むさまざまな資産の形で、企業内に留まっているのです。
内部留保を蓄積するメリット
内部留保の蓄積には、主に次のようなメリットがあります。
内部留保を蓄積するメリット
- 財務基盤を強化できる
- 金融機関から信用を得られる
- 新規事業や設備へ投資できる
- 借入を抑制できる
以下で、それぞれ解説します。
財務基盤を強化できる
内部留保の蓄積によって、自己資本、つまり返済不要の資金を増やし、企業の財務基盤を強化できます。経済状況の急変や災害、予期しない支出などに対する耐性が向上し、事業の継続性・安定性が確保されるでしょう。
金融機関から信用を得られる
内部留保を蓄積すると、金融機関からの信用が向上します。
内部留保が増えることで、総資本に占める自己資本(返済不要の資金)の割合である「自己資本比率」が高まります。金融機関は、企業の財務の安定性や返済能力を判断するにあたって自己資本比率を評価するため、内部留保の蓄積は信用力の向上につながります。
【関連記事】
自己資本とは?他人資本との違いや自己資本比率の計算方法を解説
新規事業や設備へ投資できる
蓄積した内部留保を活用して、新規事業や設備、研究開発などへの投資を実行できます。これらの将来に向けた投資は、事業の成長や競争力の向上につながり得ます。
投資のための資金調達を借入によって行う場合は、金融機関の審査や取締役会での決議(「多額の借財」に該当する場合)などが必要で時間とコストがかかるほか、期日までに返済しなければなりません。
一方、内部留保を原資とした投資であればスピーディーに実行でき、また返済義務も発生しません。
借入を抑制できる
内部留保の蓄積によって借入を抑制できる点もメリットのひとつです。
これにより、金利負担を軽減し、支払いによるキャッシュフローの圧迫を防ぐことができるほか、金利上昇などの経済状況の変化に対する耐性も高まります。財務リスクを低減し、経営の自由度を高めることが期待できるでしょう。
【関連記事】
借入金とは?種類や調達先からメリット・デメリットまで詳しく解説
内部留保を増やすデメリット
内部留保の蓄積にはさまざまなメリットがある一方、次のようなデメリットも発生し得ます。
内部留保を蓄積するデメリット
- 労働分配率の低下につながる
- 株主や従業員の不満が高まる
- 機会損失のリスクがある
- 留保金課税の対象になる
労働分配率の低下につながる
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち、どれだけの割合が従業員に還元されたかを示す指標です。内部留保を過度に蓄積することは、労働分配率の低下につながります。
労働分配率の低下は、組織のモチベーション低下や人材流出、長期的な競争力の低下を招くリスクがあるため注意が必要です。
株主や従業員の不満が高まる
過度な内部留保の蓄積は、配当増加を期待する株主や、賃上げを望む従業員からの批判を招く可能性があります。企業の社会的評価の低下やステークホルダーとの関係悪化を引き起こすことがないよう、内部留保を適切な水準に保つことが重要です。
機会損失のリスクがある
内部留保を投資に回さないと、成長機会を逃すリスクがあります。
企業の成長には、継続的な投資が不可欠です。技術開発・設備更新・人材育成・マーケティングなどへの適切な投資を怠ると、市場での競争力が低下します。
また内部留保の一部が現預金や流動資産で蓄積される場合、インフレ環境下では実質的な購買力が目減りします。一方で、不動産や設備などの実物資産に変えていれば、現預金を保有する場合と比べて、インフレの影響を受けにくい傾向があります。
利益をため込みすぎず、適度に企業の成長に向けた投資へ振り向けるのが理想と言えます。
留保金課税の対象になる
過度に内部留保を蓄積すると、「留保金課税」が適用されて税負担が重くなるケースがあります。
留保金課税とは、内部留保を過度にため込んで、配当にかかる所得税を回避しようとする行為を防ぐために設けられた制度です。
留保金課税の対象となるのは、「特定同族会社」に該当する企業です。各事業年度における特定同族会社の内部留保が限度額を超える場合は、通常の法人税に加えて追加で税金が課されます。
出典:国税庁「14 特定同族会社の特別税率」
適切な内部留保の目安は?
「得た利益のうち、どれだけを内部留保として蓄積すべきか」という目安は、業界や企業規模などにより異なるため、画一的に水準を設けることはできません。
ただし、内部留保の量を考えるにあたり、以下のような指標を参考にできます(以下の指標の目安となる数値についても、業種や業態により適切な基準は異なり、一概に判断することはできない点に注意が必要です)。
内部留保の目安を考える際に参考になる指標
- 自己資本比率:総資本に占める自己資本の割合
【自己資本比率 = 自己資本 / 総資本(他人資本 + 自己資本) × 100】
→50%以上が望ましく、20%を下回ると財務改善が必要とされる - 利益剰余金比率:総資本に占める利益剰余金(過去の利益の積み立て)の割合
【利益剰余金比率 = 利益剰余金 ÷ 総資本 × 100】
また、緊急時への備えの観点から、現預金を固定費の3〜6ヶ月分程度の額保有しておくことで資金繰りを安定させられるとも考えられます。
業種・業態ごとの特性や自社の企業規模などをふまえて、内部留保の取り扱いを検討しましょう。
内部留保を増やす方法
内部留保が「当期純利益 - 株主への配当金など」の式で算出されることをふまえ、内部留保を増やす方法として次のふたつが挙げられます。
内部留保を増やす方法
- 当期純利益を大きくする
- 配当金を減らす
当期純利益を大きくする
当期純利益の額を増やせば、内部留保として蓄積できる資金も増えます。
当期純利益は「売上高 - 費用 - 税金」で算出されるため、売上の拡大とコスト削減に加え、効率的な資金運用や税務戦略の工夫も重要です。
具体的には、新規顧客の開拓や既存顧客への追加販売による売上増加、生産性向上による原価低減、無駄な固定費の削減などが挙げられます。また、在庫や債権の管理を徹底することで資金繰りを改善し、余分な金融費用を抑えるのも有効です。
配当金を減らす
当期純利益から差し引かれる株主への配当金を減らすことで、内部留保として蓄積できる分を増やす方法もあります。
特に同族経営の中小企業では、オーナー経営者が「利益を配当としてどの程度株主に還元するか」の方針を決定できるため、大企業よりも内部留保優先の方針を取りやすいでしょう。
しかし、株主との関係や企業価値への影響は、慎重に考慮しましょう。外部株主がいる場合は、配当金を減らして内部留保を優先することで株主の期待を損なうリスクがあります。
日本の企業における内部留保の現状
財務省の法人企業統計調査によると、2024年度末の日本企業の内部留保(利益剰余金)は前年度比約6パーセント増の637兆円超でした。過去13年にわたって、内部留保額は最高を記録しています。
円安による輸出企業の収益改善、コロナ禍からの経済回復、デジタル化投資の効果などにより、多くの企業で当期純利益が増加したことが背景にあると考えられます。
出典:財務省「報道発表 年次別法人企業統計調査(令和6年度) 結果の概要」
まとめ
内部留保とは、企業が得た利益のうち社内に蓄積された部分のことで、会計上は「利益剰余金」に該当します。現預金のほかに設備や在庫、土地・建物なども含まれます。
内部留保を増やすメリットは、財務基盤の強化・金融機関からの信用獲得・投資の原資確保などです。一方で、ステークホルダーとの関係悪化や機会損失のリスクもあるため、バランスの取れた経営判断が重要になります。
内部留保の本質を正しく理解し、企業の持続的成長と社会的責任を両立させる活用方法を検討しましょう。
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よくある質問
内部留保は現金だけ?
内部留保は、企業が得た利益のうち社内に蓄積される部分の累積額で、現金だけでなく、設備や建物、在庫などさまざまなものが含まれます。「内部留保が多いと現金が潤沢にある」という認識は誤解です。
詳しくは、記事内「【貸借対照表】「内部留保=現預金」ではない」をご覧ください。
内部留保の勘定科目は?
内部留保は勘定科目「利益剰余金」に該当し、貸借対照表の純資産の部に表示されます。
詳しくは、記事内「内部留保とは利益剰余金のこと」をご覧ください。
内部留保が多いと批判されるのはなぜ?
内部留保への批判の背景には、「内部留保が多い企業は利益をため込み、従業員への還元や社会への貢献を怠っている」といった誤解があります。
しかし、内部留保とは企業が将来的な投資や緊急時への備えなどのために積み上げる資金であり、内部留保の多い企業が、賃上げや社会貢献を渋っているとは限りません。内部留保を増やすことのメリット・デメリットを正しく理解し、適切に蓄積・活用することが重要です。
内部留保のメリット・デメリットについて詳しくは、記事内「内部留保を蓄積するメリット」「内部留保を増やすデメリット」をご覧ください。
監修 橋爪 祐典
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
