監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

簿記には、単式簿記と複式簿記のふたつの記帳方法があります。単式簿記は取引をひとつの側面で記録する方法で、複式簿記は取引を原因と結果のふたつの側面から記録する方法です。
記帳方法の選択は申告者に委ねられていますが、青色申告において特典のひとつである「最大65万円の青色申告特別控除」の適用を受けるには、複式簿記で記帳する必要があります。
本記事では、複式簿記に関する基礎知識や具体的な記帳方法を紹介し、単式簿記との違いや、複式簿記で記帳するメリット・デメリットを徹底解説します。
目次
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簿記とは
そもそも簿記とは「帳簿記入」の略称で、経営活動に伴う財産の増減や出納、営業取引などの情報を細かく帳簿に記録する業務です。
会計業務においては、簿記で記録した内容をまとめ、ステークホルダーに対して財務状況や利益を報告します。そのため、簿記は会計業務の一部であるといえるでしょう。
事業を行ううえでは、商品やサービスの売買、設備をはじめとした各種事業用資産の購入または貸借、営業活動に関する仕入れなど、日々さまざまな取引が行われます。それらに伴うお金の流れを簿記によって記録することは、営業実績や経営状況の把握に役立ちます。
決算期には、帳簿の記録をもとに貸借対照表や損益計算書などの決算書を作成するため、事業を営むのであれば、簿記に関する知識・スキルの習得が不可欠です。
単式簿記とは家計簿などでも利用される記帳方法
単式簿記とは、取引の内容をひとつの科目のみで記録する方法です。
例:現金1,000円から交通費として850円を使った場合の、単式簿記での記録方法
日付 | 会計科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|
令和6年 ◯◯月××日 | 旅費交通費 | 850円 | 電車賃 |
単式簿記の帳簿では、「850円を交通費として使用した」というお金の流れを確認できます。シンプルであり、家計簿や小遣い帳などでも採用される記帳方法です。
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会計の基礎知識 単式簿記とは
複式簿記とは
複式簿記とは、取引における原因と結果のふたつの側面を記録する方法です。資産増加(負債減少)を示す「借方」を左側に、資産減少(負債増加)を示す「貸方」を右側に記載します。
単式簿記がお金の出入りのみを管理するのに対して、複式簿記では財産状況の把握も可能です。単式簿記よりも多くの情報を読み取れるため、一般的に法人会計では複式簿記が採用されます。
例:現金1,000円から交通費として850円を使った場合の、複式簿記での記録方法
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|---|
令和6年 ◯◯月××日 | 旅費交通費 | 850円 | 現金 | 850円 | 電車賃 |
上記の通り、複式簿記では「交通費として850円を使った」(原因)ため、「現金が850円減った」(結果)というふたつの側面からお金の流れを記録できます。
複式簿記は14世紀頃のヴェネツィアで始まった帳簿の記録方法
複式簿記の起源には諸説あるものの、そのひとつでは14世紀頃のヴェネツィアで始まったとされています。やがてイタリアの数学者ルカ・パチョーリが著した『スムマ』によって、欧州各地に広まりました。
日本では、福沢諭吉が1873年にアメリカのテキストを翻訳して書籍『帳合之法』を出版したことなどが契機となり、複式簿記が普及しました。
複式簿記は正確な会計記録のために必要
複式簿記は、企業会計原則の一般原則のひとつ「正規の簿記の原則」を満たす記帳方法です。
企業会計原則とは、企業が会計業務を行ううえで守るべき原則です。一般的に公正妥当と認められる会計基準を要約する形で、1949年に経済安定本部・企業会計制度対策調査会によって定められました。法律によって強制されるものではありませんが、会計処理を行うにあたってすべての企業がしたがうべき基準とされます。
前述の「正規の簿記の原則」には、次のように記載されています。
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
上記原則にある「正確な会計帳簿」と認められるための要件には、以下の三つがあります。
「正確な会計帳簿」の要件
- 網羅性:すべての取引が漏れなく記録されている
- 秩序性:秩序立った一定のルールに基づいて記録されている
- 検証可能性:事後に検証可能な資料に根拠記録がある
複式簿記は青色申告の特典を受けるためにも必要
青色申告において最大65万円の特別控除の適用を受けるには、複式簿記によって帳簿を作成しなければいけません。
高い節税効果を望むなら、個人事業主や副業を行う人などは帳簿を作成する際に複式簿記を選択するとよいでしょう。
なお青色申告には最大65万円の青色申告特別控除以外にも、損失(赤字)の繰越しなどさまざまな特典があります。青色申告とその特典については、次の「青色申告とは」で詳述します。
青色申告とは
青色申告とは、定められた帳簿を作成したうえで、その記録に基づいて申告・納税を行う確定申告の方法です。
青色申告にはさまざまな特典があり、要件を満たして正しく申告を行えば、所得金額の計算などにおいて有利な扱いが受けられます。
出典:国税庁「No.2070 青色申告制度」
以下、青色申告の主な特典を紹介します。
最大65万円の青色申告特別控除
以下の要件をすべて満たす場合、「青色申告特別控除」として所得金額から55万円が控除されます。
55万円の青色申告特別控除を受けるための要件
- 不動産所得または事業所得が生じる事業を営んでいる
- 複式簿記で記帳している
- 貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付し、期限(翌年3月15日)までに提出する
上記に加えて、以下のいずれかに該当する場合は、65万円の青色申告特別控除が受けられます。
65万円の青色申告特別控除を受けるための追加要件
- 仕訳帳・総勘定元帳に関して電子帳簿保存を実施している
- 期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)で確定申告書・貸借対照表・損益計算書などを提出する
青色事業専従者給与
青色申告者は、同一生計かつ年齢が15歳以上の配偶者・親族で事業に専ら従事している人に支払った給与(青色事業専従者給与)を、必要経費に算入可能です。
事前に提出する「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載した金額の範囲内、かつ、専従者の労務の対価として適正な金額であることが要件とされます。
出典:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
貸倒引当金
青色申告者は、売掛金・貸付金などの貸金の貸倒れによる損失について、その見込額を必要経費として計上可能です。
原則として、年末における貸金の帳簿価額を合計した金額の5.5%(金融業は3.3%)以下を貸倒引当金勘定に繰り入れた場合に、その金額が必要経費として認められます(一括評価)。
なお、貸倒れなどの一定の事由による損失の見込額に関しては、各事由に応じた限度額までを貸倒引当金勘定に繰り入れて、必要経費に算入可能です(個別評価)。ただし、必要経費に算入する金額の計算のもととなった貸金は、一括評価における「帳簿価額の合計額」から除外されます。
出典:国税庁「No.2070 青色申告制度」
純損失の繰越しと繰戻し
青色申告者は、損益通算を適用しても控除しきれない損失(赤字)がある場合、翌年以降3年間にわたってその損失額(純損失の金額)を繰り越し、各年分の所得金額から控除できます。
なお、前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越しの代わりに、その損失額を繰り戻して前年分の所得金額から控除し、前年分の所得税の還付を受けることも可能です。
出典:国税庁「No.2070 青色申告制度」
複式簿記の構造を理解する
お金の出入りのみを記録する単式簿記と比較して、複式簿記の構造はやや複雑です。
以下では、複式簿記の構造を理解するために、関連する貸借対照表の構造と勘定科目の分類について説明します。
複式簿記と貸借対照表の関係
上述したように、複式簿記は「借方」と「貸方」というふたつの側面を記帳する方法です。借方では「現金などの財産が増えたこと」、貸方では「財産が減ったこと」が示され、借方と貸方の金額は必ず一致します。
より理解を深めるために、下表のような貸借対照表の構造を知っておくとよいでしょう。
会社の資産・負債・純資産の状況を把握するための決算書である貸借対照表は、複式簿記と同じ考え方に基づく構造をしています。

左側に貸借対照表作成日(決算日)時点の資産、右側に負債と純資産(株主からの出資などや過去からの利益の蓄積)を記載します。「所有する資産」を示す左側とその「調達方法」を示す右側、それぞれの合計額は必ず一致します。
簿記の五大要素を借方と貸方に分類する場合
帳簿に記載する勘定科目には多くの種類がありますが、それらを大きく分類すると「資産・負債・資本(純資産)・収益・費用」の5つ(簿記の五大要素)に分けられます。
これらに関する増減を借方・貸方に当てはめると、下記のようになります。現金などの資産が増加する場合は借方に、資産が減少する場合は貸方に記入します。
借方 | 貸方 |
---|---|
資産が増える | 資産が減る |
純資産(資本)が減る | 純資産(資本)が増える |
負債が減る | 負債が増える |
収益が減る | 収益が増える |
費用が増える | 費用が減る |
複式簿記の記帳例
実際に複式簿記による記帳例を見ていきます。
例1:商品を販売して10,000円の売上が発生し、現金を10,000円受け取った場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 10,000円 | 売上 | 10,000円 |
現金は資産です。資産が増加する場合は借方に記帳し、現金を得た理由である「売上」は貸方に記帳します。
例2:現金で5,000円の水道代を支払った場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
水道光熱費 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
水道代を支払うことで資産である現金が減るため、右側の貸方に記帳し、現金が減少した理由の「水道光熱費」は借方へ記帳します。
単式簿記と複式簿記のメリット・デメリット
単式簿記・複式簿記には、下表に示すように、それぞれメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
単式簿記 | ・記帳が簡単 |
・正しい財務状況の把握が困難 ・貸借対照表の作成ができない |
複式簿記 |
・貸借対照表の作成が可能 ・青色申告特別控除を受けられる | ・専門的な知識が必要 |
単式簿記の場合
単式簿記のメリット
単式簿記では、取引の内容をひとつの科目のみで記録します。家計簿や小遣い帳などでも用いられるシンプルな記帳方法です。簿記に関する知識・スキルは不要であり、初心者でもスムーズに記帳できます。
単式簿記のデメリット
たとえば現金に着目した場合、単式簿記ではお金が増減した理由(原因)が不明です。
銀行から借入れをして100万円の融資を得た場合、単式簿記では「入金されたお金」として記録されるだけで、理由は記載されません。借入れしたお金は負債にあたりますが、単式簿記では「お金が増えた」というプラスのカテゴリで集計されるため、正確な財産管理が困難です。
単式簿記では、基本的に収入と支出の発生しか記録できません。そのため、一定期間の損益状況を確認するための「損益計算書」は作成できますが、ある時点の財務状況を確認するための「貸借対照表」は作成できないことに注意してください。
複式簿記の場合
複式簿記のメリット
複式簿記は「正規の簿記の原則」の要件を満たす記帳方法であり、その記録をもとに貸借対照表を作成して企業財務の健全性を確かめることが可能です。
また複式簿記によって記帳を行い、期日までに確定申告書と貸借対照表・損益計算書の提出を行うなどの要件を満たせば、青色申告特別控除として所得金額からの最大65万円の控除が受けられます。
複式簿記のデメリット
単式簿記と比較して複式簿記は構造が複雑で、会計に関する知識の習得が必要です。
複式簿記による記帳の仕方がわからない場合は、税務署などが実施する記帳指導や各種説明会を活用できます。そのうえで不明な点がある場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
まとめ
複式簿記は、14世紀頃のヴェネツィアで発展したとされる記帳方法で、取引を「原因」と「結果」のふたつの側面から記録します。
単式簿記と比べると複式簿記は記帳すべき情報が多く構造が複雑ですが、正しく記帳を行えば、その記録をもとに貸借対照表を作成してある時点での財務状況を正しく把握でき、経営判断に役立ちます。
また複式簿記を採用し、確定申告時に貸借対照表・損益計算書を提出するなどの要件を満たせば、最大65万円の青色申告特別控除によって高い節税効果も得られます。
多くの企業が採用する複式簿記への理解を深め、正確な会計記録を行いましょう。
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よくある質問
単式簿記とは?
単式簿記とは、取引の内容をひとつの科目のみで記録する記帳方法です。通常、収支のみを記録します。
詳しくは、記事内「単式簿記とは家計簿などでも利用される記帳方法」で解説しています。
複式簿記とは?
複式簿記とは、取引を原因と結果のふたつの側面で記録する記帳方法です。単式簿記と比較すると構造が複雑ですが、貸借対照表の作成を通じた財務状況の把握に役立ちます。
詳しくは、記事内「複式簿記とは」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
