監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

「帳簿上は大きな資産があるのに、なぜか利益が出ない」。もしあなたの会社がそんな状況なら、それは減損損失を計上すべきタイミングかもしれません。
減損損失とは、企業が保有する固定資産の価値が著しく下がったときに計上する資産のことです。
たとえば、新しい技術が登場したり、市場の状況が変わったりして、資産から思ったほど利益が出せなくなったとします。すると、会社の帳簿に載っている金額と、資産が実際に持っている価値にズレが生じてしまいます。このズレをきちんと調整して、会社の財産の状態を正確に伝えるための仕組みが「減損会計」です。
本記事では、減損損失の対象となる固定資産や、メリット・デメリット、判定の流れを解説します。財務諸表への影響にも触れているため、参考にしてください。
目次
- 減損損失とは?資産の価値が下がったときに計上する損失
- 減損損失の対象となる固定資産
- 減損会計のメリット:資産の実態を把握し、透明性を高める
- 資産の実態を把握できる
- 財務諸表の透明性が向上する
- 減損会計のデメリット
- 業績悪化として評価される可能性がある
- 複雑な手続きと多大な労力が必要となる
- 会計担当者の主観が入り込む可能性がある
- 減損会計の判定の流れ
- 1. 対象資産のグルーピング
- 2. 減損の兆候を把握する
- 3. 減損損失の認識の判定を行う
- 4. 減損損失を測定する
- 減損の計算方法:回収可能価額と減損損失の差額を算出
- 1. 回収可能価額の計算
- 2. 減損損失の計算
- 減損損失が財務諸表におよぼす影響
- 損益計算書(P/L)
- 貸借対照表(B/S)
- キャッシュ・フロー計算書(C/F)
- まとめ
- 大変な法人決算と税務申告を効率的に行う方法
- よくある質問
減損損失とは?資産の価値が下がったときに計上する損失
減損損失とは、事業活動で利用している固定資産の価値が、大幅に低下した際に計上する損失のことです。この損失を計上する一連の会計処理を「減損会計」といいます。
企業が保有する固定資産は、時間の経過とともに価値が減少していくのが一般的です。そのため会計上は毎年、減価償却によって少しずつ費用として計上していきます。
しかし、経済状況の変化や市場の動向、技術革新などによって、固定資産の収益性が当初の想定よりも大きく下回ることがあります。たとえば、工場の新設を計画して土地と建物を購入したものの市場の需要が急激に減少し、工場を稼働させても期待したほどの収益が見込めなくなったケースなどが該当します。
このような状況下では、帳簿上の資産の価値と、実際にその資産が将来的に生み出すと期待される収益が乖離します。このような乖離を修正し、企業の財務状況をより正確に反映させるために行われるのが減損会計です。
減損会計では具体的に、固定資産の帳簿価額を将来得られるであろう収益を反映した金額まで引き下げ、その差額を損失として計上します。減損会計は、企業が保有する資産の実態を財務諸表に正しく反映させ、投資家や債権者に対して透明性の高い情報を提供することを目的としています。
減損損失の対象となる固定資産
減損損失の対象となる固定資産は、主に有形固定資産と無形固定資産です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
有形固定資産 | |
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建物・構築物・土地など |
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機械装置・車両運搬具 |
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無形固定資産 | |
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ソフトウェア |
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のれん |
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特許権・商標権 |
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なお、有価証券や棚卸資産、繰延税金資産などは減損会計の対象外です。これらの資産は、それぞれ評価方法や会計基準が異なるため、減損会計とは別のルールで価値の評価や調整が行われます。
減損会計のメリット:資産の実態を把握し、透明性を高める
減損会計は企業に一時的な損失を計上させるため、デメリットしかないように思われがちですが、実際には以下のようなメリットがあります。
資産の実態を把握できる
減損会計を行うことで、資産が現在の事業活動においてどれだけの価値を持つのかを正確に把握できます。
減損会計によって資産価値を正確に把握できれば、経営者は資産の有効活用や売却、事業再編などの意思決定をより適切に行えます。将来性の見込めない資産に固執するのではなく、収益性の高い事業領域への経営資源の集中や、新たな投資機会の検討といった戦略的な判断も可能です。
財務諸表の透明性が向上する
減損損失を計上することで、実態に即した財務諸表を作成でき、投資家や金融機関からの信頼を得やすくなります。
帳簿上の価値と実質的な価値に乖離がある状態では、企業の本当の価値を判断するのは困難です。減損会計ではこの乖離を解消し、より透明性の高い情報開示につなげます。結果として、適正な企業評価を受けることができ、資金調達や株式の取引においても健全な市場形成が期待できます。
減損会計のデメリット
減損会計にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
業績悪化として評価される可能性がある
減損損失を計上すると、その事業年度の利益が減少して赤字に転落する可能性があります。赤字は投資家や金融機関に「この事業はうまくいっていない」という印象を与え、株価の下落や資金調達の難航といった問題に発展する恐れがあるため、注意しましょう。
特に、大きな金額の減損損失を計上した場合は、企業の投資判断や経営能力に対する疑問が生じ、市場での信頼失墜につながるリスクがあることを理解しておくべきです。
複雑な手続きと多大な労力が必要となる
減損会計は減損の兆候を把握したり、将来のキャッシュ・フローを予測したりするなど、複雑な手続きを要します。専門的な知識が必要なだけでなく、多くの時間や労力もかかります。
具体的には、資産のグルーピングから始まり、減損の兆候の判定、将来キャッシュ・フローの算定、回収可能価額の測定まで、各段階で高度な専門性が求められます。こうした手続きを実施するための人的リソースや専門知識が不足している場合は、外部の専門家への依頼が必要です。
会計担当者の主観が入り込む可能性がある
将来のキャッシュ・フロー予測には、市場の動向や企業の事業計画など、さまざまな不確実な要素が含まれます。そのため、会計担当者の主観的な判断が入る可能性や、恣意的な会計処理が行われるリスクに注意しなければなりません。
特に、将来の事業環境や収益性の見通しについては、楽観的な予測と悲観的な予測で大きく異なる結果となる可能性があります。
減損会計の判定の流れ
減損会計を判定する際は、以下の流れに沿って確認します。
減損会計の判定の流れ
- 対象資産のグルーピング
- 減損の兆候を把握する
- 減損損失の認識の判定を行う
- 減損損失を測定する
減損損失の測定により、最終的な減損損失額を把握できます。
1. 対象資産のグルーピング
減損の判定は、資産をグループ分けして行います。これは、個々の資産が単独でキャッシュ・フローを生み出すわけではなく、複数の資産が組み合わさって収益を生み出すことが多いためです。
なお、グルーピングは「キャッシュ・フローを独立して生み出す最小の単位」を基準にして行います。たとえば工場の場合、生産ライン全体を一つのグループと見なします。個々の機械の価値だけでなく、生産設備全体としての収益性を評価するためです。
適切なグルーピングを行うことで、資産の本来の収益力をより正確に測定できます。
2. 減損の兆候を把握する
グルーピングされた資産について、減損の兆候があるかどうかをチェックします。減損の兆候とは、資産の収益性が低下している可能性を示すサインのことです。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 事業活動から生じる損失が継続している
- 資産の市場価格が著しく下落している
- 技術の陳腐化や事業環境の悪化が著しい
- 事業計画の見直しにより収益性が低下する見込みである
これらの兆候が該当する場合は、次の段階に進む必要があります。
3. 減損損失の認識の判定を行う
減損の兆候が認められた場合、その資産グループから将来生み出されるであろうキャッシュ・フローの総額(割引前将来キャッシュ・フロー)を算定します。割引前将来キャッシュ・フローの総額がその資産グループの帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識すべきと判定されます。
この段階では、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く前の金額で比較することがポイントです。割引前の金額を使用する理由は、割引計算を都度行うと作業負担が重くなることと、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合は相応程度の減損があると考えられるためです。
4. 減損損失を測定する
減損損失の認識が必要と判定された場合、実際に減損損失の金額を計算します。これは、帳簿価額と回収可能価額の差額として計算されます。
回収可能価額とは、その資産グループを売却した場合の正味売却価額と、その資産グループを使い続けた場合に将来生み出されるであろうキャッシュ・フローの割引後の現在価値(使用価値)のうち、いずれか高い方の金額です。
- 減損損失 = 帳簿価額 - 回収可能価額
この計算により最終的な減損損失額が確定します。確定した減損損失額は、損益計算書の特別損失として計上されます。
減損の計算方法:回収可能価額と減損損失の差額を算出
減損損失の計算方法について、具体的な例を用いて説明します。
<前提条件>
- 帳簿価額:1,000万円
- 売却した場合の正味売却価額:400万円
- 使用し続けた場合の割引後のキャッシュ・フロー(使用価値):600万円
1. 回収可能価額の計算
回収可能価額は「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方です。この前提条件では「使用価値」の600万円が回収可能価額となります。
- 回収可能価額 = 400万円と600万円のうち高い方 = 600万円
2. 減損損失の計算
次に、「帳簿価額」から「回収可能価額」を引いて減損損失を算出します。
- 減損損失 = 1,000万円 − 600万円 = 400万円
計算の結果、減損損失は400万円と測定されます。この結果、帳簿上では1,000万円で計上されていた資産の価値が、実際の経済価値である600万円まで切り下げられ、その差額の400万円が減損損失として損益計算書の特別損失に計上されることになります。
減損損失が財務諸表におよぼす影響
減損損失は、利益や資産の見かけを変えます。ただし、実際の現金支出は伴わないため、財務諸表ごとに影響の出方が異なります。
ここでは、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」の3つにおいて、減損損失が及ぼす影響を説明します。
損益計算書(P/L)
減損損失は特別損失として計上されるのが一般的です。これにより、当期の税引前当期純利益や当期純利益が減少し、業績が悪化します。
たとえば、当期純利益500万円の企業が減損損失400万円を計上した場合、当期純利益は100万円に減少します。減損損失は一時的な損失であるものの、その計上年度においては企業の収益性を押し下げる要因となります。
ただし、減損処理により固定資産の帳簿価額が減少するため、翌年度以降の減価償却費は少なくなり将来的な利益改善効果は期待できます。
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貸借対照表(B/S)
減損損失を計上すると固定資産の帳簿価額が減るため、資産の合計額も小さくなります。同時に、利益剰余金も減るため、自己資本(純資産)も減少します。
結果として自己資本比率が低下するため、企業の財務健全性は悪化したように見られがちです。しかし、これは帳簿上の価値を実態に合わせた結果であり、企業の財政状態をより適切に反映したものといえます。
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貸借対照表(バランスシート)とは?見方や読み方についてわかりやすく解説
キャッシュ・フロー計算書(C/F)
減損損失は将来のキャッシュ・フロー予測に基づいて計算されるものであり、実際には現金の支出は発生せず、営業活動によるキャッシュ・フローには直接的な影響はありません。
間接法では減損損失の計上によって当期純利益が減少します。ただし、その後のキャッシュ・フロー計算書の調整項目では「減損損失」が足し戻されるため、最終的には「利益は減ったが現金は減っていない」と明確に示されます。
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まとめ
減損損失とは資産の収益性が大きく低下した際に、帳簿価額と回収可能価額との差額として計上される損失です。また、減損損失を計上する処理を減損会計と呼びます。
減損会計は一時的に業績を悪化させる要因となりますが、資産の実態を明らかにし、投資家や金融機関への信頼性を高める効果があります。さらに、経営判断を支える材料となり、企業の中長期的な健全経営に資するものです。減損損失を計上する際は、メリットとデメリットを理解したうえで、正しく対応することが重要です。
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よくある質問
減損損失とは?
減損損失とは、資産価値が大幅に低下した際に計上する損失のことです。この損失を計上する会計処理を「減損会計」と呼びます。減損会計は、企業が保有する資産の実態を財務諸表に正しく反映させ、投資家や債権者に対して透明性の高い情報を提供することが目的です。
詳しくは、記事内「減損損失とは」をご覧ください。
減損損失の対象となる資産は?
減損損失の対象となるのは固定資産で、有形固定資産と無形固定資産に分けられます。有形固定資産には土地や建物など、また無形固定資産にはソフトウェアや特許権・商標権などが含まれます。
詳しくは、記事内「減損損失の対象となる固定資産」をご覧ください。
減損損失の仕訳方法は?
減損損失を仕訳する場合は、帳簿価額を減額し、その減少分を費用として計上します。具体的には、減損損失(費用勘定)を借方に、固定資産減損累計額(資産の控除勘定)を貸方に記入します。固定資産の帳簿価額が実態に合わせて引き下げられ、当期の損益計算書に損失が反映されます。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。
