会計の基礎知識

減価償却の定率法とは?定額法との違いや償却率、計算方法などを解説

監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

減価償却の定率法とは?定額法との違いや償却率、計算方法などを解説

減価償却の定率法とは、固定資産の未償却残高に一定の償却率を乗じて、毎年の減価償却費を計算する方法です。

初期に多くの減価償却費を計上できるため、資産の価値減少の実態に近いほか、節税効果も高い特徴があります。ただし、償却保証額を下回ると改定償却率を用いた計算に切り替える必要があるなど、計算方法がやや複雑な側面もあります。

本記事では、定率法の仕組みや定額法との違い、具体的な計算方法などを解説します。

目次

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減価償却の必要性

企業が事業を行ううえで必要な建物や設備、車両などの資産を購入すると、購入時は高額ですが時間の経過とともに資産価値は下がっていきます。

このような固定資産は、費用をどのように会計処理するかが問題になりがちです。もし、購入した年に全額を経費として計上すると、その年だけ支出が突出し利益が少なくなります。また、翌年以降は実際には資産を使っているのに費用が計上されないため、利益が過大に表示されてしまいます。

そこで、適切な会計処理として「減価償却」という方法が用いられます。減価償却とは、長期間使用する固定資産の取得費用を、耐用年数にわたって分割し、毎年少しずつ費用として計上していく手続きです。

これにより、資産の価値が徐々に減っていく状況を会計上も反映させ、各年度の損益をより正確に把握することができます。結果として、企業の実態に即した適切な経営判断が可能になります。

【関連記事】
減価償却とは?償却できる資産や計算方法、耐用年数をわかりやすく解説

減価償却の対象資産

減価償却の対象となる資産は、取得価額が10万円以上で事業に使用するもの、かつ時間の経過で価値が減少する固定資産です。具体的には次のようなものが挙げられます。


有形固定資産
・建物および建物附属設備(電気設備・給排水設備・冷暖房設備など)
・構築物(塀・看板・舗装路面・橋など)
・機械装置
・車両運搬具(自動車・トラック・フォークリフトなど)
・工具器具備品(パソコン・コピー機・机・椅子・陳列棚などで取得価額が10万円以上のもの)

無形固定資産
・ソフトウェア
・特許権、商標権などの法律上の権利
・営業権(のれん)など

なお、たとえ高額な資産であっても、以下のものは減価償却の対象にはなりません。


減価償却の対象とならない資産理由
土地時間の経過によって価値が減少しないため
骨董品や美術品など事業に使われていても時の経過により価値が減少しないと考えられるため
取得価額が10万円未満の資産少額であり取得時に全額を費用としての計上が認められているため
耐用年数が1年未満の資産短期間で消費されるため、取得時に全額を費用計上するため

ただし、中小企業や個人事業主には「少額減価償却資産の特例」があります。取得価額が30万円未満の資産であれば、年間の合計額300万円までなど一定の条件のもと、取得した年に全額を経費計上できます。

【関連記事】
少額減価償却資産の特例とは?対象の資産・法人、仕訳などについて解説

減価償却の定率法とは

減価償却には、主に「定率法」「定額法」の2つの方法があります。定率法とは、資産のまだ費用化していない残りの金額である「未償却残高」に一定の償却率を乗じて、毎年の減価償却費を計算する方法です。未償却残高は年々減少していくため、償却費も年々小さくなっていきます。

定率法の大きな特徴は、初期の年度に多くの費用を計上できる点です。新しく購入した資産は、初めのうちは価値も高く効率もよいため、収益への貢献度も高いと考えられます。そのため、使い始めの頃に多くの減価償却費を計上する定率法は、資産の価値減少の実態に近いともいえます。

ただし、定率法ではいくら計算を続けても理論上は未償却残高がゼロになりません。そこで、未償却残高が「償却保証額」という一定の金額を下回ったときは、計算方法を変更し、最終的には備忘価額として1円だけを残して償却を終える仕組みとなっています。

定額法との違い

未償却残高に一定の償却率を乗じる定率法とは対照的に、定額法は資産の取得価額に一定の償却率を乗じて計算します。最終年を除いて毎年同じ金額の減価償却費が計上されるため、計算が手軽な点が特徴です。

<定率法と定額法の違い>

項目定率法定額法
計算基礎期首未償却残高取得価額
償却費の推移初期に多く、年々減少していく毎年ほぼ一定額
特徴早期に費用化、初期の節税効果が大きい計算が簡単、毎年の費用が安定
計算の複雑さやや複雑(償却保証額、改定償却あり)簡単

定率法と定額法のどちらを使うべきか

減価償却の計算にどちらの方法を選ぶかは、企業の経営戦略や財務状況、対象資産の性質によって検討する必要があります。それぞれのメリット・デメリットは、以下のとおりです。


メリットデメリット
定率法・初期の節税効果が高い
・資産の収益貢献の実態に即した合理性
・計算がやや複雑
・後半は償却費が少なく負担が増加
定額法・計算が簡単
・償却費が一定で期間ごとの損益比較や利益計画が容易
・定率法より初期の償却費が少なく節税効果が緩やか

このように、早期に費用計上して税負担を減らしたいなら定率法を選ぶとよいでしょう。一方、事務負担の軽減や毎期の利益安定を求めるのであれば、定額法が適しています。

ただし、すべての資産で自由に選択できるわけではない点に注意が必要です。国税庁によると、資産の種類によって償却方法が定められているものがあります。


償却方法が定額法と定められているもの
・1998年4月1日以降に取得した建物
・2016年4月1日以降に取得した建物附属設備・構築物

出典:国税庁「減価償却のあらまし」

また、機械設備や車両、工具器具備品などは法人税法上「定率法」が法定償却方法とされています。ただし、「減価償却資産の償却方法の届出」を税務署に提出すれば定額法も選択可能です。

定率法の償却率

定率法で使用する償却率は、資産の「法定耐用年数」に基づいて決められています。法定耐用年数とは、資産が通常の使用状態でどれくらいの期間使えるかを示した年数で、資産の種類や構造、用途によって税法で細かく定められています。

定率法の償却率には、主に以下2種類があります。


償却率概要
200%定率法・定額法の償却率を2倍した数値で算出する方法
・2012年4月1日以降に取得した固定資産に適用される
250%定率法・定額法の償却率を2.5倍した数値で算出する方法
・2007年4月1日~2012年3月31日までに取得した固定資産に適用される

定額法の償却率は「1 ÷ 耐用年数」で算出できますが、定率法の償却率はそれよりも高い率が設定されています。たとえば耐用年数10年の場合、定額法償却率は0.100、定率法償却率は0.200となります。重要なのは、定額率とは数値が異なる点です。

正しい償却率を求めるには、取得した時期と耐用年数を正確に把握する必要があります。詳しくは、「減価償却資産の償却率等表」で確認しましょう。

出典:国税庁「法定耐用年数」
出典:国税庁「減価償却資産の償却率等表」


【関連記事】
耐用年数とは?減価償却資産の種類と各耐用年数について解説

定率法による減価償却費の計算方法

定率法の計算方法は、定額法に比べてやや複雑です。特に「償却保証額」と「改定償却率」について理解する必要があります。

ここでは、2012年4月1日以降に取得した100万円の資産を、耐用年数5年、200%定率法で計算するケースを解説します。

1. 通常の減価償却費を計算する

まずは、通常の減価償却費を計算します。計算式は以下のとおりです。

通常の減価償却費 = 期首未償却残高 × 定率法償却率

期首未償却残高とは、取得価額から前年までの減価償却費の合計を引いた金額です。1年目は、期首未償却残高 = 取得価額となります。また、定率法償却率は40%(2.0 ÷ 5 = 0.4)です。


通常の減価償却費期首未償却残高未償却残高
1年目40万円100万円60万円
2年目24万円60万円36万円
3年目14万4,000円36万円21万6,000円
4年目8万6,400円21万6,000円12万9,600円
5年目5万1,840円12万9,600円7万7,760円
6年目7万7,760円

2. 償却保証額を計算する

次に、償却保証額を計算します。

償却保証額とは定率法を採用していることにより、減価償却期間が過度に長くなったり、少なくなりすぎたりしないよう設定される最低償却額の基準です。

保証率とは、この償却保証額を計算するための率で、耐用年数ごとに定められています。詳しい保証率については「減価償却資産の償却率等表」に記載されています。

償却保証額 = 取得価額 × 耐用年数に応じた保証率

今回のケースでは保証率「0.108」なので、取得価額100万円とすると、償却保証額は10万8,000円となります。

3. 減価償却費と償却保証額を比較する

前の手順で算出した、減価償却費と償却保証額を比較します。減価償却費が償却保証額と同じか上回る場合は、通常の減価償却費を計上します。反対に、減価償却費よりも償却保証額が上回っている場合、その年以降は「改定償却率」を使った計算に切り替えとなります。


通常の減価償却費償却保証額計上
1年目40万円10万8,000円通常の減価償却費(40万)
2年目24万円10万8,000円通常の減価償却費(24万)
3年目14万4,000円10万8,000円通常の減価償却費(14万4,000円)
4年目8万6,400円10万8,000円改定償却率を用いた減価償却費
5年目5万1,840円改定償却率を用いた減価償却費
(ただし全額償却せず1円残す)

4. 改定償却率を用いた計算を行う

ここからは、改定償却率を用いた減価償却費の計算を行います。なお、この計算方法に切り替わると、その年以降は毎年同額の減価償却費が計上されることになります。

具体的な計算方法は、以下のとおりです。

減価償却費 = 改定取得価額 × 改定償却率

改定取得価額とは、償却保証額が通常の減価償却費を上回った年の、期首未償却残高を指します。改定償却率は耐用年数ごとに決められており「減価償却資産の償却率等表」に記載されています。

このケースでは、改定取得価額は21万6,000円、改定償却率は50%です。そのため、4年目以降の減価償却費は以下のようになります。


計上する減価償却費改定取得価額備考
4年目10万8,000円21万6,000円
5年目10万7,999円1円を残す

最終年の処理は、期首未償却残高を1円になるよう償却します。具体的には、期首未償却残高から備忘価額1円を差し引いた金額が最終年の減価償却費です。

このように、定率法では償却の途中で計算方法が変わるポイントがあるために複雑になりやすいといわれています。実際には資産が複数あったり、計算方法が変わるタイミングがそれぞれ異なっていたりするため、担当者にとっては負担の大きい業務となりがちです。業務負担の軽減や正しい計上を行うためには、会計システムの利用をおすすめします。

まとめ

減価償却の定率法は、未償却残高に一定の償却率を乗じて計算する方法で、使用初期に多くの減価償却費を計上できる特徴があります。

定額法と比較すると、初期の節税効果が高い反面、後半の償却費が少なくなるといった違いがあります。どちらの方法を選ぶかは企業の判断によって異なりますが、建物や設備など一部の資産には定額法の適用が義務付けられているケースもあるため注意しましょう。

また、定率法の計算過程では、償却保証額を下回ると改定償却率を用いる必要になるなど、やや複雑な一面があります。適切な減価償却処理のためには、会計システムの活用も検討するとよいでしょう。

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よくある質問

定率法とは?

定率法とは、資産のまだ費用化していない残りの金額である「未償却残高」に一定の償却率を乗じて、毎年の減価償却費を計算する方法です。減価償却費が年々小さくなっていく特徴があります。

詳しくは記事内「減価償却の定率法とは」をご覧ください。

定率法の計算式は?

定率法によって減価償却費を計算するには、まずは通常の減価償却費と償却保証額を算出します。それらを年数ごとに比較し、減価償却費よりも償却保証額が上回ると、その年以降は「改定償却率」を用いて計算します。

詳しくは記事内「定率法による減価償却費の計算方法」で解説しています。

監修 前田 昂平(まえだ こうへい)

2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。

前田 昂平

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