会計の基礎知識

法人税等調整額とは?調整対象の差異や仕訳例をわかりやすく解説

監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

法人税等調整額とは?調整対象の差異や仕訳例をわかりやすく解説

法人税等調整額とは、企業会計の利益と税務会計の課税所得の差異を調整する税効果会計で用いる勘定科目です。企業会計と税務会計では会計処理のルールが異なり、差異が生じて調整が必要になることがあります。

一定規模以上の企業や会計監査の対象となる企業では税効果会計が義務付けられているため、税効果会計の手順や法人税等調整額の計算方法は、企業の会計担当者にとって欠かせない知識です。

本記事では、法人税等調整額の対象となる差異・計算方法・仕訳例などを解説します。

目次

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税効果会計で使う勘定科目「法人税等調整額」とは

法人税等調整額とは、企業会計の利益と税務会計の課税所得の差異を調整する税効果会計で使用する勘定科目です。

企業の会計には、投資家や金融機関などの利害関係者に財務情報を開示するための「企業会計」と、税金の計算を目的とした「税務会計」があります。

この2つは目的が異なるため、利益の計算方法などに違いが生じることがあります。税効果会計は、こうした会計と税務の差異を調整し、企業の実態に近い財務状況を示すための会計処理です。

税効果会計の際に「法人税等調整額」を使用し、法人税等の額を適切に期間配分して調整します。これにより、法人税等を控除する前の税引前当期純利益と法人税等を対応させることができます。


法人税等調整額
出典:企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準」

税効果会計の適用対象となる企業

会計処理で勘定科目「法人税等調整額」を使うのは、税効果会計を適用する場合です。以下の企業では、会計処理をする際に税効果会計の適用が義務付けられています。

税効果会計が義務付けられている企業

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場企業
  • 会計監査人設置企業(非上場企業を含む)

損益計算書の記載方法

法人税等調整額は損益計算書に記載する項目です。「法人税、住民税及び事業税」の次に表示され、法人税等に対してどれだけプラスあるいはマイナスの調整があるかを示します。


損益計算書

税効果会計を適用しない場合や、企業会計と税務会計の差異が生じない場合は、法人税等調整額を用いた調整は不要なため、損益計算書にも記載しません。

法人税等調整額の対象になる差異

企業会計と税務会計の差異には、一時差異と永久差異の2種類があります。


種類概要
一時差異企業会計と税務会計における計上・認識タイミングのずれによって生じる差異。翌期以降に解消される減価償却限度超過額・貸倒引当金繰入限度超過額 など
永久差異企業会計と税務会計における計上の考え方が異なることで生じる差異。その性質上、永久に解消されない交際費等の損金不算入額・寄附金の損金不算入額・受取配当等の益金不算入額 など

法人税等調整額の対象になるのは、一時差異のみです。永久差異は将来的に解消されることがないため、法人税等調整額の対象になりません。

また、一時差異は、その差異が解消された際に課税所得を減少させるもの(将来減算一時差異)と増加させるもの(将来加算一時差異)の2種類に分けられます。


概要
将来減算一時差異企業会計と税務会計の差異が解消されたタイミングで課税所得を減額させる効果があるもの減価償却の超過額・損金不算入の棚卸評価損 など
将来加算一時差異企業会計と税務会計の差異が解消されたタイミングで課税所得を増額させる効果があるもの資産評価益の否認・積立金方式による圧縮記帳 など
出典:企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準」

法人税等調整額の対象になる差異

繰延税金資産と繰延税金負債

繰延税金資産と繰延税金負債は税効果会計で使用する勘定科目で、法人税等調整額を算出する際にも用います。

繰延税金資産は、将来支払う税金が減る可能性がある場合に、その減税効果に資産価値があると考えて資産として計上するものです。一方、繰延税金負債は、将来支払う税金が増える可能性がある場合に、その増税効果を負債として計上するものです。

繰延税金資産・繰延税金負債の計算式

  • 繰延税金資産 = 将来減算一時差異 × 法定実効税率
  • 繰延税金負債 = 将来加算一時差異 × 法定実効税率

繰延税金資産は、一時差異のうち「将来減算一時差異」に法定実効税率を乗じて算出し、将来減額される税額を表します。一方で、繰延税金負債は、「将来加算一時差異」に法定実効税率を乗じて算出し、将来増額される税額を表します。法定実効税率とは、企業が所得に対して実質的に負担する税率のことです。

税効果会計の流れと法人税等調整額の計算方法

税効果会計を適用する場合、以下の流れで会計処理を行います。

税効果会計の流れに沿って法人税等調整額の計算方法を解説します。

①一時差異を把握する

まずは、企業会計上の収益・費用、税務会計上の益金・損金を比較し、差異を確認して一時差異と永久差異に分類します。税効果会計の対象になる一時差異のみ集計し、将来減算一時差異と将来加算一時差異のそれぞれの金額を算出します。

②法定実効税率を計算する

法定実効税率は、事業税の損金算入の影響を考慮したうえで、実際の税負担がどれくらいなのかを算出する際に用いる税率で、以下の計算式で算出できます。

法定実効税率 = {法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率} ÷ (1 +事業税率)


出典:企業会計基準委員会「税効果会計に係る会計基準の適用指針」

③繰延税金資産・繰延税金負債を計算する

算出した将来減算一時差異・将来加算一時差異にそれぞれ法定実効税率を乗じて、繰延税金資産と繰延税金負債を算出します。

  • 繰延税金資産 = 将来減算一時差異 × 法定実効税率
  • 繰延税金負債 = 将来加算一時差異 × 法定実効税率

④回収可能性を検討する

算出した繰延税金資産を回収できる可能性があるかを検討し、将来の税金負担額を軽減できると見込まれる範囲で資産計上します。

一方、繰延税金負債は、将来加算一時差異がある限り、原則として計上します。

⑤勘定科目「法人税等調整額」で仕訳する

算出した繰延税金資産と繰延税金負債を仕訳して計上します。仕訳時に用いる相手勘定科目は「法人税等調整額」です。

繰延税金資産は借方に、繰延税金負債は貸方に計上し、それぞれ相手勘定科目として法人税等調整額を用いて仕訳します。

法人税等調整額の仕訳例

以下では、勘定科目「法人税等調整額」を用いた繰延税金資産および繰延税金負債の仕訳例を紹介します。

繰延税金資産の仕訳例

将来減算一時差異が生じて繰延税金資産を計上する場合、借方に繰延税金資産、貸方に法人税等調整額を計上します。

以下は、繰延税金資産として30万円を計上するときの仕訳例です。


借方貸方
繰延税金資産300,000円法人税等調整額300,000円

将来減算一時差異が解消したときには、以下のように反対仕訳を行います。


借方貸方
法人税等調整額300,000円繰延税金資産300,000円

繰延税金負債の仕訳例

将来加算一時差異が生じて繰延税金負債を計上する場合、借方に法人税等調整額、貸方に繰延税金負債を計上します。

以下は、繰延税金負債として20万円を計上するときの仕訳例です。


借方貸方
法人税等調整額200,000円繰延税金負債200,000円

将来加算一時差異が解消したときには、以下のように反対仕訳を行います。


借方貸方
繰延税金負債200,000円法人税等調整額200,000円

法人税等調整額に関する注意点

法人税等調整額に関する注意点は主に次の2つです。

法人税等調整額に関する注意点

  • 一時差異と永久差異を混同しない
  • 法人税等調整額のプラス・マイナスは現金の出入りを表すわけではない

以下では、それぞれの注意点について解説します。

一時差異と永久差異を混同しない

法人税等調整額で調整対象になるのは一時差異のみです。税効果会計を適用する際は、一時差異と永久差異を明確に区別したうえで、誤って永久差異に該当するものを含めないようにしてください。

たとえば、交際費等や寄附金の損金不算入額、受取配当等の益金不算入額などは永久差異に該当し、法人税等調整額の対象外です。

法人税等調整額のプラス・マイナスは現金の出入りを表すわけではない

法人税等調整額は、企業会計と税務会計上のずれを調整するために損益計算書上に記載されるもので、実際の現金の出入りを伴わない勘定科目です。

つまり、法人税等調整額がプラスまたはマイナスであっても、実際の現金収入や支出が発生するわけではありません。

まとめ

税効果会計が義務付けられている企業では、一時差異が生じた場合には法人税等調整額を計算して損益計算書に記載します。

法人税等調整額の対象となるのは一時差異のみで永久差異は含めません。なお、法人税等調整額の計算で使う税率は法定実効税率です。

将来減算一時差異と将来加算一時差異に法定実効税率を乗じて、繰延税金資産と繰延税金負債を計算すれば法人税等調整額を算出できます。税効果会計では計算の対象となる一時差異を正確に把握し、適切に会計処理を行いましょう。

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よくある質問

法人税等調整額とは?

法人税等調整額とは、企業会計と税務会計の差異を調整するために税効果会計で使用される勘定科目です。

詳しくは記事内「税効果会計で使う勘定科目「法人税等調整額」とは」とは」をご覧ください。

法人税等調整額の計算方法は?

企業会計と税務会計の差異のうち、税効果会計の対象となる一時差異を把握します。法定実効税率を計算したうえで、「将来減算一時差異 × 法定実効税率」により繰延税金資産を、「将来加算一時差異 × 法定実効税率」により繰延税金負債を算出します。

詳しくは記事内「税効果会計の流れと法人税等調整額の計算方法」をご覧ください。

監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)

神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。

北田 悠策

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