監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

資産除去債務とは、固定資産を取得した際に、その固定資産を除去するときに発生するであろう費用を見積もり計上する負債のことです。
資産除去債務の処理が義務付けられている企業は、固定資産を取得する際に、将来発生する除去費用を見積もり計上する必要があります。
本記事では、資産除去債務とは何か、会計上の資産除去債務と税務上の資産除去債務、資産除去債務の仕訳例、資産除去債務と税金の関係、資産除去債務の見積変更について解説します。
目次
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資産除去債務とは
資産除去債務とは、固定資産を取得した際に、その固定資産を除去するときに発生するであろう費用を見積もり計上する負債のことです。これには、その固定資産が使えなくなった場合にかかると予想される費用も含まれます。
固定資産の管理においては、固定資産ごとに定められた耐用年数が過ぎたときに備えて撤去費用などをあらかじめ負債に計上しておく考え方が一般的です。資産除去債務も、この考え方を前提にしています。
資産除去債務の定義は、企業会計基準で次のように定められています。
「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれる。
資産除去債務が発生するケースには、以下のようなものがあります。
- 建物の解体
- 賃貸物件の原状回復
- 環境規制に基づく除去
- リース契約における状態回復の義務
会計上の資産除去債務
前述のとおり、会計における資産除去債務の定義は「資産除去債務に関する会計基準」で定められており、会計処理もこれに基づいて行われます。
資産除去債務に関する会計基準は、上場企業やその連結子会社などでは、資産除去債務に関する会計基準の適用が義務化されています。一方、中小企業などでは義務化されておらず適用は任意です。
資産除去債務が計上されるようになった背景や具体的な計上方法について、解説します。
資産除去債務を計上するようになった背景
資産除去債務という考え方が日本の会計基準で適用されるようになったのは、2010年以降です。それまでは、資産除去債務の計上に関するルールがありませんでした。
日本で資産除去債務の計上が導入された背景には、次のようなものがあります。
国際財務報告基準(IFRS)との整合性をとるため
日本の会計基準と国際的な会計基準の差をなくし、世界中の会社の決算資料を比較しやすくする取り組みのひとつとして、資産除去債務が導入された経緯があります。
国際財務報告基準(IFRS)については、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】
【会計の基礎知識】国際財務報告基準IFRSとは
費用配分の合理化
資産除去債務の計上によって将来発生するコストを事前に計上すれば、単年度の損益のほか資産の使用期間全体で費用を等しく配分するための体制を整えられます。
財務リスクの可視化
将来発生する支出を事前に負債計上することで、企業が抱える潜在的な財務リスクを財務諸表へ正確に表示する目的があります。
資産除去債務の計上方法
資産除去債務を計上する場合、以下の流れに沿って各事業年度ごとに会計処理を行う必要があります。
- 資産除去債務として将来の除去費用の現在価値を負債に計上する
- 負債に対応する除去費用を有形固定資産の帳簿価額に加算する
- 減価償却を通じて資産の耐用年数にわたって費用を配分する
- 時間経過に伴う現在価値の推移を利息費用として計上する
税務上の資産除去債務
資産除去債務は、会計上と税務上で取り扱いが異なる場合があります。
具体的には、税務上は債務確定主義が採用され、実際に固定資産が除去される時点でしか損金算入できないため、会計上の資産除去債務に関する一連の費用すべてを税務上の損金として取り扱うことができません。
そのため、資産除去債務の処理においては、次のような税務調整が必要となります。
資産除去債務を処理するための税務調整の流れ
- 資産除去債務に対応する減価償却費を課税所得に加算する
- 負債の割引計算に基づく利息費用を課税所得に加算する
- 貸借対照表に計上された資産除去債務や固定資産の帳簿価額に加算した額については、税務上なかったものとして調整する
資産除去債務の仕訳例
次のケースにおける資産除去債務の仕訳例を説明します。
- 資産除去債務を算定する場合
- 資産除去債務について期末処理する場合
- 資産除去債務に関する資産を除去した場合
- 敷金を簡便処理する場合
資産除去債務を算定する場合
資産除去債務を算定する際には、将来の除去費用を見積もる必要があります。
たとえば、企業が期首に以下のような有形固定資産を取得した場合の仕訳について考えます。
- 購入価格:10,000,000円
- 耐用年数:5年(定額法)
このケースにおいて、将来の除去費用を500,000円と見積もり、割引率が2%、割引価値が452,865円となった場合、仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
有形固定資産 | 10,452,865 | 現金 | 10,000,000 |
資産除去債務 | 452,865 |
なお、割引価値は、除去費用を 500,000円を(1 + 0.02)の5乗(耐用年数)で割った額となります。
資産除去債務について期末処理する場合
期末においては、資産除去債務の利息費用を計上する仕訳が必要となります。
先と同様の有形固定資産について期末処理を行った場合、仕訳は次のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
利息費用 | 9,057 | 資産除去債務 | 9,057 |
利息費用は、資産除去債務残高が452,865円、割引率が2%の場合、次のように計算されます。
利息費用 = 452,865× 0.02 = 9,057
加えて、有形固定資産は期末の減価償却費も必要になりますので、有形固定資産10,452,865円を耐用年数5年(定額法)で減価償却する次の仕訳も計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 2,090,573 | 減価償却累計額 | 2,090,573 |
資産除去債務に関する資産を除去した場合
実際に資産を除去する場合、それまで見積もりとして計上してきた資産除去債務と実際に発生する費用に差額が生じる可能性が高くなります。
そのため、ここまで例にした有形固定資産を5年間使用し、600,000円で除去した場合、下記のように資産除去債務と履行差額を計上する仕訳が必要です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産除去債務 | 500,000 | 現金 | 600,000 |
履行差額 | 100,000 |
ここでの減価償却累計額は「資産除去債務について期末処理する場合」で説明した処理を毎期末に5年分の計上したものの累計額です。
敷金を簡便処理する場合
資産除去債務は、資産と負債が両建になるよう処理するのが原則ですが、賃貸物件の敷金に関する処理では例外として簡便法の使用が認められています。
以下は、期首から契約開始する賃貸物件に対して100万円の敷金を支払った場合の仕訳です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金 | 1,000,000 | 現金 | 1,000,000 |
敷金は、一般的に契約終了後に返還されます。しかし、支払った敷金のうち20万円は原状回復費に充てられるため返還されないことが判明した場合などは、入居契約期間である10年にわたって20万円を償却する仕訳を計上します。
以下は入居を開始した年度末に返還されないと見込まれる敷金1年分を償却した場合の仕訳です。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金の償却 | 20,000 | 敷金 | 20,000 |
資産除去債務と税金の関係
資産除去債務の税務上の扱いについて、さらに詳細を解説します。
減価償却費や調整額は税務上損金にならない
先述のとおり、資産除去に関連する「資産除去債務の金額を含めた減価償却費」や「資産除去債務の時間の経過に伴う調整額」は税務上の損金になりません。
そもそも税務上は「資産除去債務」という考え方が存在しないため、会計上と税務上の差異が生じ、資産除去債務は税効果会計の対象となります。
資産除去債務は課税取引でない
資産除去債務は課税取引ではありません。
資産除去債務を計上する段階では、消費税は発生しません。ですが、将来実際に固定資産を撤去するために業者に依頼したときなどには消費税がかかり、その際に仮払消費税を計上することになります。
そのため、実務上は固定資産本体の金額は課税、資産除去債務は課税ではないと会計システムに入力する必要があります。
資産除去債務の見積変更とは
資産除去債務の見積変更について解説します。
資産除去債務を計上する場合、さまざまな要因によって、当初見積もった将来キャッシュフローが増減する可能性も考えられます。
将来キャッシュフローとは、資産除去債務を計上する場合の根拠となり、有形固定資産を除去する際に発生する費用の見積額のことです。
さまざまな要因によって当初の見積額にズレが生じるケースも多いため、見積変更を行い、変更後の将来キャッシュフローに調整するための会計処理が必要になります。
見積変更が必要な事例
見積変更が必要となるのは、時間の経過とともに、将来発生する除去費用をより正確に見積もることができるようになった場合です。
具体的には以下のようなケースが想定されます。
- 技術革新によって当初の想定よりも容易に除去できるようになった場合
- 人件費や材料費などのインフレによって、業者に支払う除去費用が高騰している場合
資産除去債務を計上する企業では、決算のたびに見積変更を行う必要がないかどうかを確認する必要があります。
見積変更が生じた場合の会計処理方法
見積変更の必要が生じた場合、計上した資産除去債務と当該有形固定資産の帳簿価額を調整する必要があります。
資産除去債務に見積変更を行う際の会計処理では、資産除去債務に関する会計基準である「プロスペクティブ・アプローチ」を採用します。
プロスペクティブ・アプローチとは、資産除去債務に関連する将来のキャッシュフローの見積もり変更があった場合に用いられる会計処理方法です。その調整額を資産除去債務と有形固定資産の帳簿価額にそれぞれ反映させ、さらにその変更分を残存耐用年数にわたって減価償却費用として計上します。
見積変更が生じた場合は割引率に注意
先ほどの仕訳例でも触れたように、資産除去債務は将来的に固定資産の除去に伴って発生すると予想される「割引前将来キャッシュフロー」に、所定の割引率を乗じて計算します。
将来キャッシュフローの見積額に変更が生じた場合には、会計処理において適用する割引率の見直しにも注意が必要です。
将来キャッシュフローが増加する場合は、見積変更時点での割引率を適用します。反対に将来キャッシュフローが減少する場合は、負債計上したときの割引率を適用します。
また、過去に将来キャッシュフローの見積額が減少し、かつ過去に見積りが増加したことがあるとき、減少部分に適用すべき割引率が明らかでない場合には、加重平均した割引率を適用します。
まとめ
資産除去債務は、上場企業においては会計処理が義務付けられている一方、中小企業ではその適用が義務付けられていません。しかし、企業が自社の資産や将来的なキャッシュアウトを正確に把握するためには、中小企業にとっても有効な処理といえます。
資産除去債務の会計上・税務上の取り扱いの違いや、各時点での必要な処理を正しく理解し、適切に対応していくことが重要です。
なお、資産除去債務を適用する際には複雑な会計処理が必要となります。そのため、固定資産の管理にあたっては、会計システムを導入するなどして効率的に管理することをおすすめします。
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よくある質問
資産除去債務とは?
資産除去債務とは、固定資産を取得した際に、その固定資産を除去するときに発生するであろう費用を見積もり計上する負債のことです。
詳しくは、記事内「資産除去債務とは」で解説しています。
資産除去債務は貸借対照表のどこに表示される?
資産除去債務は、資産を取得し資産除去債務を算定したあとに仕訳として計上され、貸借対照表の負債に表示されます。
記事内の「資産除去債務の仕訳例」で、詳しく解説しています。
資産除去債務は損金に計上できる?
資産除去債務自体は貸借対照表上の負債にあたるものであり、資産除去債務に関連して計上される減価償却費や調整額といった費用科目は、いずれも税務上の損金とみなされません。
詳しくは、記事内「資産除去債務と税金の関係」をご覧ください。
資産除去債務に消費税はかかる?
資産除去債務を計上する段階では、消費税は発生しませんが、将来実際に固定資産を撤去するために業者に依頼したときなどには消費税がかかります。
記事内の「資産除去債務は課税取引でない」で、詳しく解説しています。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。
