
記帳代行とは、企業の取引内容を会計帳簿に正確に記録する業務を、外部の専門業者が代行するサービスです。近年では、経理担当者の負担軽減や業務効率化を目的に多くの企業が活用しています。
しかし、サービスの内容や対応範囲は業者によって異なり、税務対応の可否や費用面など、注意すべきポイントもあります。
本記事では、記帳代行の基本から、メリット・デメリット、費用相場、業者の選び方までをわかりやすく解説します。自社に合った記帳代行サービスを見極めるための参考にしてください。
目次
- 記帳代行とは
- 経理代行と記帳代行の違い
- 記帳業務は2014年から義務化へ
- 記帳代行の委託先
- 記帳代行専門業者
- 税理士・税理士事務所
- クラウド・インストール型の会計ソフトウェア
- 記帳代行を利用するメリット
- 作業の手間が省ける
- コストダウンができる
- 作業が迅速かつ正確
- 税理士資格を持つ記帳代行業者なら税務申告も任せられる
- 簡単に業者を変更できる
- 記帳代行を利用するデメリット
- 税理士が在籍していない場合
- 違法な業者が混じっていることがある
- 価格設定がわかりにくい場合がある
- ノウハウが蓄積しづらい
- 情報漏えいのリスクがある
- 記帳代行の費用相場
- 税理士事務所に委託する場合
- 記帳代行専門業者に委託する場合
- 記帳代行の選び方
- 税理士が在籍しているか
- スムーズなコミュニケーションが取れるか
- 十分なセキュリティ対策が整っているか
- まとめ
- よくある質問
記帳代行とは
記帳代行とは、企業の日々の取引内容を会計帳簿に記録する「記帳業務」を外部の専門業者に委託するサービスです。
取引の正確な記録は事業運営の基本であり、正しい税務申告や納税にも直結するため、記帳業務は事業を行う上で欠かせません。しかし、業務の性質上、領収書の整理や会計ソフトウェアへの入力といった手間がかかり、煩雑なうえに人件費も発生します。
こうした課題を解決する手段として有効なのが記帳代行サービスです。領収書や請求書の処理から帳簿作成まで、記帳に関わる一連の作業を外部に任せることで、自社の業務効率を高められます。自社に担当者がいない場合や時間不足といった状況にも柔軟に対応できる点も魅力です。
記帳代行は税理士や会計事務所が行うケースが一般的ですが、記帳業務を専門に扱う業者も存在します。サービスの内容や料金体系には幅があるため、自社のニーズに合った記帳代行業者を選ぶことが大切です。
経理代行と記帳代行の違い
記帳代行のほかにも、企業の業務を支援する代行サービスはさまざまに存在します。そのなかでも多くの企業が導入しているのが「経理代行」です。
経理代行と記帳代行はいずれも経理業務を外部に委託する点では共通していますが、委託可能な業務範囲に違いがあります。
記帳代行は、領収書や請求書の内容を会計ソフトへ入力し、帳簿を作成するなど、記帳作業に特化したサービスです。一方で経理代行は、記帳業務に加えて決算処理や税務申告のサポート、資金管理、給与計算、請求書の発行など、経理全般を包括的にカバーします。
ただし、税務申告などの税務業務は税理士事務所や税理士法人と連携した事業者でないと扱えません。経理代行は経理業務を幅広くカバーするサービスですが、事業者によって対応範囲が異なる点には注意しましょう。
【関連記事】
経理代行とは?経理業務をアウトソーシングするメリット・デメリットや料金相場を解説
記帳業務は2014年から義務化へ
従来、記帳の義務は白色申告を行う事業者のうち、前々年または前年の事業所得や不動産所得、山林所得の合計額が300万円を超える事業者に限られていました。
しかし、2014年の税制改正からは、すべての白色申告者に対して記帳と帳簿の保存が義務付けられています。これにより、事業規模を問わずすべての事業主に正確な記帳作業が求められるようになりました。
この改正の背景には、税務調査の透明性を高めることや、すべての納税者が正確な帳簿を保持することで適正な納税を促進するという目的があります。帳簿の保存は、税務署からの信頼を得るだけでなく、事業の実態を把握しやすくするうえでも重要な役割を果たしています。
【関連記事】
税務調査とは?調査の流れや時期、必要書類について解説
記帳代行の委託先
記帳代行には大きく分けて、「記帳代行専門業者」「税理士・税理士事務所」「会計ソフトの活用」の3つのパターンがあります。それぞれ特徴やメリットが異なるため、自社の状況やニーズに合った方法を選ぶことが大切です。
記帳代行専門業者
記帳業務に特化した代行業者は、比較的低コストでサービスを提供しているのが特徴です。多くの場合、企業の取引量や予算に応じて、月単位など柔軟な契約ができます。
こうした業者は記帳を主業務としており、請求書や領収書をもとに帳簿を作成する業務を効率的に代行してくれます。ただし、税理士が在籍していない、あるいは提携していない業者では、税務申告などの税務関連業務に対応できません。税務対応が必要な場合は、サービス範囲を事前に確認することが重要です。
税理士・税理士事務所
税理士や税理士事務所は、記帳業務に加えて、税務相談、決算処理、確定申告、年末調整といった税務全般のサポートを一括で依頼できる点が大きな強みです。高い専門性を有しており、法改正への対応や税務リスクの回避を含めた正確な処理が期待できます。
ただし、その分、記帳代行業者に比べて費用がやや高めになる傾向があります。また、事務所ごとにサービス内容や料金体系が異なるため、契約前にしっかりと確認しましょう。
クラウド・インストール型の会計ソフトウェア
クラウド型会計ソフトウェア | インストール型会計ソフトウェア | |
---|---|---|
インストール | 不要 | 必要 |
OS | Windows・Macに対応 | ソフトウェアにより対応OSが異なる (Windows・Macどちらか) |
デバイス | パソコン、スマホ、タブレット端末などから利用可能 | パソコンのみ利用可能 |
支払い | 月額制 or 年額制 | パッケージ購入 or ダウンロード購入 |
バージョンアップ | 無料 | 有料(年1回必要) |
インターフェース (構成・操作感など) | シンプル | 複雑 |
グラフレポート | あり | なし |
預金取引 | 自動取得可 | 手動 |
近年では、会計ソフトウェアの活用を通じた記帳代行も注目されています。ソフトウェアには「クラウド型」と「インストール型」があり、それぞれ使用環境や管理方法に特徴があります。
クラウド型会計ソフトウェア
クラウド型会計ソフトは、月額または年額の契約に基づき、インターネットを通じてアクセスできるサービスで、パソコンへのインストールが不要です。法改正に伴うバージョンアップが自動的に行われることが多いため、常に最新の制度に対応できます。
また、インターネット環境があればどこからでもリアルタイムに情報を確認でき、社内外問わず急を要する作業が発生した際もスピーディに対応できます。パソコン・タブレット・スマートフォンなど複数のデバイスに対応しており、柔軟な働き方や業務効率の向上を実現したい企業にとって非常に便利です。
インストール型会計ソフトウェア
インストール型は、ソフトウェア提供事業者からパッケージやライセンスを購入し、自社のパソコンやサーバーに直接インストールして使う形式の会計ソフトウェアです。
インターネット接続が不要なためセキュリティ面で安心感がありますが、外部からのアクセスには対応していない場合が多く、運用はやや制限されます。
また、アップデートやバックアップは手動対応となるため、導入の際には更新時期の確認や対応、バックアップの整備・管理といった体制構築が必要です。法改正などに合わせてソフトの更新が必要な点や、トラブル時の対応など、ITリテラシーや社内体制にある程度の準備が求められます。
記帳代行を利用するメリット
記帳代行を依頼することで、企業は経理業務にかかる負担を軽減し、業務の効率化とコスト削減を同時に実現できます。とくに中小企業や個人事業主にとっては、人的リソースやノウハウの不足を補える有効な手段となるでしょう。
ここでは記帳代行の代表的なメリットを紹介します。
作業の手間が省ける
記帳代行を利用する最大の利点の一つが、経理作業の負担軽減です。領収書や請求書整理、会計ソフトへの入力など、帳簿や仕訳帳を作成する一連の作業は時間も手間もかかります。記帳代行に依頼すれば、これらの作業をすべて外部委託できるため、コア業務に集中できる時間を確保できるでしょう。
また、毎月発生する経理業務を安定して処理してもらえるため、繁忙期や担当者不在時でも業務の停滞を防げます。
コストダウンができる
記帳業務を担う経理担当者を新たに採用・教育するには、給与や社会保険料のほか、業務環境の整備など多くのコストがかかります。一方、記帳代行であれば、必要な業務だけを外注できるため、固定費を変動費化でき、コストの最適化が可能です。
経理担当者が不在の企業や経理業務に割ける人材が限られている企業にとっては、効率的かつ経済的な選択肢といえます。
作業が迅速かつ正確
記帳代行業者や税理士事務所には、会計・経理の実務経験が豊富なスタッフが在籍しており、記帳ミスや入力漏れなどのリスクを最小限に抑えることができます。プロに任せることで、作業スピードはもちろん、記帳の精度も高まり、帳簿の正確性を担保できます。
税理士資格を持つ記帳代行業者なら税務申告も任せられる
税理士資格を有する記帳代行専門業者や税理士事務所に依頼すれば、日々の記帳業務に加え、確定申告や年末調整、消費税の申告など、税務関連の業務も一括で委託できます。
また、税法は頻繁に改正されるため、常に最新情報に基づいた対応が求められます。税理士に任せることで、法令遵守はもちろん、節税対策や税務リスクの回避といった付加価値も得られるのが大きなメリットです。
簡単に業者を変更できる
記帳代行は、月単位など短期契約が可能な場合が多く、自社に合わないと感じた場合は、他の業者に切り替えることができます。業者の柔軟な変更が可能である点は、初めて記帳代行を利用する企業にとっても安心材料となるでしょう。
記帳代行を利用するデメリット
記帳代行の導入には多くのメリットがありますが、いくつかの注意点やリスクも伴います。導入前には、以下のデメリットをしっかりと理解しておくことが大切です。
税理士が在籍していない場合
記帳代行業者のなかには、税理士が在籍していない、あるいは税理士との提携がない業者も存在します。その場合には、税務申告や節税相談など税理士資格が必要な業務は対応できません。
記帳以外にも税務関連業務を一括で委託したい場合には、あらかじめ「税理士が在籍しているか」「税理士との提携があるか」を確認することが重要です。
違法な業者が混じっていることがある
一部の悪質な記帳代行業者の中には、税理士資格がないにもかかわらず「税務申告も対応可能」などと虚偽の案内をする違法業者も存在します。税務申告を無資格で行うことは法律違反であり、企業側にもリスクが及ぶ可能性があります。
業者選定の際は、公式な登録状況や口コミ、過去の実績などを確認し、信頼できる業者を選ぶようにしましょう。
価格設定がわかりにくい場合がある
一見リーズナブルな価格設定に見えても、業務内容に応じた追加料金が発生し、結果として想定以上のコストがかかってしまうケースもあります。たとえば、仕訳数の上限を超えるごとに追加料金がかかったり、決算対応は別料金となったりと、細かい条件が設定されていることも少なくありません。
サービス内容と価格体系を事前に細かく確認し、見積もりを取得したうえで契約することが重要です。
ノウハウが蓄積しづらい
記帳業務を外部に完全委託してしまうと、社内に経理の知識や業務ノウハウが蓄積されにくくなります。そのため、将来的に自社内で経理体制を構築したいと考えた際に、教育・育成のハードルが高くなる可能性もあります。
記帳代行を活用する場合は、委託先の具体的な業務の進め方を把握し、成果物の確認やフィードバックを行うことで、最低限の知識と管理体制を社内に保つことが大切です。
情報漏えいのリスクがある
記帳代行を依頼する際には、自社の取引先情報や財務データなど、機密性の高い情報を外部に提供する必要があります。どれだけ信頼できる業者であっても、情報漏えいや不正アクセスのリスクがゼロとはいえません。
そのため、セキュリティ対策や個人情報保護への取り組みをしっかり行っている業者を選定することが重要です。契約前には、プライバシーポリシーや情報管理体制の確認も忘れずに行いましょう。
記帳代行の費用相場
記帳代行の費用は、依頼先の種類や業務内容、処理量によって大きく異なります。ここでは、「税理士・税理士事務所」と「記帳代行業者」に委託する場合の料金体系について解説します。
税理士事務所に委託する場合
税理士事務所に記帳代行を依頼する場合は、顧問契約を結ぶのが一般的です。
料金は「月額顧問料」という形式で、月額20,000〜50,000円程度が相場とされています。ただし、事業規模が大きい、仕訳数が多い、複雑な会計処理が必要などの理由で、月額料金がそれ以上になるケースもあるため、事前の確認が必要です。
また、決算申告などスポット業務に関しては、別途数万円〜十数万円の追加費用が発生することもあるため、契約前に業務範囲と費用の詳細を明確に確認しておきましょう。
記帳代行専門業者に委託する場合
記帳代行専門業者に委託する場合は、税理士事務所よりも比較的シンプルで低コストな料金体系が採用されているケースが一般的です。
多くの業者では、仕訳数に応じて料金が変動する「従量課金制」を採用しており、1仕訳あたり50~100円程度が相場とされています。たとえば、月間100仕訳なら5,000〜10,000円程度が目安となります。
ただし、業種や業務内容によって処理の複雑さが異なるため、実際の費用は上下することがあります。また、「領収書の整理を含むかどうか」「月次報告書を提出するかどうか」などのオプションによっても料金は変動するため、見積もりは必ず複数社から取り、内容を比較しましょう。
記帳代行の選び方
記帳代行は、コスト削減や業務効率化に貢献する便利な手段ですが、依頼先の選定を誤ると逆に手間やトラブルを増やす原因になります。ここでは、自社に最適な記帳代行を見極めるための主なポイントを紹介します。
税理士が在籍しているか
記帳業務自体は資格がなくても対応可能ですが、税務申告や決算書の作成は税理士資格を持つ人しか対応できません。
そのため、将来的に税務関連の業務も一括して依頼したい場合は、以下のいずれかを満たす業者を選ぶとよいでしょう。
税務業務を委託する際のチェックポイント
- 税理士が在籍している記帳代行業者
- 税理士事務所そのもの
- 提起する税理士が明示されている業者
契約前には「税務申告まで対応可能か」「誰が申告業務を行うのか」について、必ず確認しましょう。
スムーズなコミュニケーションが取れるか
業務を外部委託する際、担当者との連携のしやすさは非常に重要です。記帳内容の確認や資料の提出など、細かいやりとりが発生するため、スムーズにコミュニケーションが取れる業者を選ぶことが求められます。
代行業者を選定する際には、以下のポイントをチェックするとよいでしょう。
代行業者選定のポイント
- 返信のスピードや対応の丁寧さ
- 担当者の変更があった際の引き継ぎ体制
- サポート窓口や問い合わせ方法の明確さ
とくにチャットやメール、電話など、自社にとって使いやすい連絡手段があるかどうかも確認しておくと安心です。
十分なセキュリティ対策が整っているか
記帳代行では、自社の売り上げ・仕入れ・取引先情報など、機密性の高いデータを代行業者に共有することになります。そのため、情報漏えいや不正アクセスに対するセキュリティ体制が万全かどうかを事前に確認することが欠かせません。
主なチェックポイントは以下の通りです。
セキュリティ対策のチェックポイント
- データの暗号化やアクセス制限の有無
- スタッフの情報管理教育や内部統制体制
- 外部への情報漏えい対策(ウイルス対策・ファイアウォールなど)
- 秘密保持契約(NDA)の締結の可否
上記のような体制が整っておらず機密データの取り扱いに問題がある場合、情報流出の被害に遭うリスクも高まります。選定の際には情報管理の体制などを確認し、記帳代行業者と秘密保持契約の締結を行いましょう。
まとめ
記帳代行を活用すれば、経理業務の負担軽減やコスト削減、業務の効率化といった多くのメリットが得られます。一方で、業者選定を誤ると、思わぬトラブルや追加コストが発生する可能性もあるため注意が必要です。
まずは自社の経理体制や業務の課題を明確にし、税理士の有無・セキュリティ体制・サポート内容などを慎重に比較検討したうえで、信頼できる業者を選びましょう。
よくある質問
記帳代行とは?
企業の日々の取引内容を会計帳簿に記録する「記帳業務」を外部の専門業者に委託するサービスです。
詳しくは記事内「記帳代行とは」をご覧ください。
記帳代行を導入するメリットは?
記帳代行を活用することで、従業員の作業の手間が省ける、コストダウンにつながる、作業が迅速かつ正確になるといったメリットが得られます。
詳しくは記事内「記帳代行を利用するメリット」をご覧ください。
記帳代行の費用相場は?
記帳代行の費用は、依頼先の種類や業務内容、処理量によって大きく異なります。記帳代行専門業者に委託する場合、1仕訳あたり50~100円程度が目安となります。
詳しくは記事内「記帳代行の費用相場」をご覧ください。