監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

「純資産」は企業の実質的な自己資本を示すもので、株主からの出資金や、過去からの利益の蓄積などが含まれます。企業が保有するすべての資産を意味する「総資産」と併せて、企業の財務状況を理解するうえで非常に重要な指標となります。
純資産と総資産の意味を理解して財務分析に活用することが、財務の健全性を維持するには欠かせません。
本記事では、純資産の求め方や区分と内訳、総資産との違い、そして経営判断への活用方法を解説します。
目次
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純資産とは資産から負債を差し引いたもの
純資産とは、企業の資産のうち返済や支払の義務がないものを指し、自己資本とも呼ばれます。株主からの出資金などや、過去からの利益の蓄積が含まれます。
企業の財務状況を評価するにあたっては、純資産が重要な指標のひとつとなります。
純資産の求め方
純資産は、総資産(企業が保有するすべての資産)から負債(返済や支払の義務があるマイナスの財産)を差し引いて算出します。
純資産の求め方
- 純資産 = 総資産 − 負債
中小企業庁の調査によれば、令和4年度の中小企業の純資産の平均は1億6,000万円です。業種別に見ると、製造業が2億7,700万円、卸売業が2億4,500万円、不動産業・物品賃貸業が2億2,900万円と、平均を上回っています。
出典:中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査速報」
純資産がマイナスだとどうなる?
純資産がマイナスの場合、資産よりも負債が多い「債務超過」の状態に陥っていることを意味します。
債務超過が続くと、取引先や金融機関からの信用が低下し、新しい融資を受けにくくなります。その結果、日々の運転資金の調達や将来の成長に向けた投資が制限され、事業の継続が困難になりかねません。
さらに、経営の悪化は従業員や株主に不安をもたらし、企業価値の低下につながる恐れもあります。
純資産がプラスの状態、つまり資産が負債を上回る健全な経営状態に転換するには、事業の見直しによって利益を上げる、増資によって資産を増やす、所有する資産を売却するといった施策が必要です。
純資産の区分と内訳
純資産は、以下のように区分されます。
区分 | 内訳 | |
---|---|---|
株主資本 | 資本金 | |
資本剰余金 | 資本準備金 | |
その他資本剰余金 | ||
利益剰余金 | 利益準備金 | |
その他利益剰余金 | ||
自己株式 | ||
株主資本以外 | 評価・換算差額等 | |
新株予約権 |
以下で各項目について詳しく解説します。
資本金
資本金とは、株主から提供された資金のうち、資本金とした部分です。この資金が、会社運営の元手となります。
企業が成長する過程で、資本金を増やす「増資」を行うと、規模拡大や新しい事業への投資が可能になります。また、一定の資本金をもつことで社会的な信用が高まり、取引先や銀行などからの評価も向上します。
資本金は企業の存続と成長を支える重要な資源であり、長期的な投資計画や事業戦略においても重要な役割を果たします。
資本剰余金
資本剰余金は、株主から提供された資金のうち、資本金としなかった部分です。資本剰余金は、資本準備金・その他資本剰余金のふたつに分類されます。
資本準備金
株式の発行や売却で得た金額のうち、資本金以外に計上される部分です。払い込まれた資金の2分の1を超えない範囲で計上できます。企業の将来的な資本減少に備え、安定性をたもつために内部留保として活用されます。
その他資本剰余金
資本準備金以外に株主から提供された追加的な資本であり、自己株式処分差益などが該当します。
利益剰余金
利益剰余金は、企業の事業活動で生じた利益のうち、配当されずに社内に残る部分です。企業の安定的な運営や将来の投資に活用され、内部留保として財務の安定性を支えます。
利益剰余金は、利益準備金・その他利益剰余金のふたつに分類されます。
利益準備金
利益剰余金のうち、法的に積み立てが義務付けられている部分です。企業の財務安定化や資本維持、債務返済を目的に積み立てられます。
その他利益剰余金
法的な義務はなく、企業が自由に用途を決められる内部留保です。企業の成長戦略に沿って、投資や借入金の返済などに利用されます。
自己株式
自己株式とは、企業が自社株を買い戻して保有する株式のことです。株主資本から控除されるため、企業の資産には含まれません。自己株式は、株価の安定や資本効率の向上、株主還元のために保有されるケースが多く、企業の戦略的な資本運用に活用されます。
自己株式は売却または消却して資金調達などに活用することもあり、企業にとって重要な資本政策のひとつだと言えます。
評価・換算差額等
評価・換算差額等とは、企業が保有する有価証券などの購入価格と、現在の時価の差額のことです。
有価証券のうち売買を目的としたもの、1年以内に満期を迎えるものなどは流動資産として取り扱います。評価・換算差額等が計上されるのは、売買目的有価証券・満期保有目的有価証券・関係会社株式に該当しないその他有価証券と呼ばれるものです。
新株予約権
新株予約権とは、将来の一定期間内に特定価格で株式を購入できる権利であり、主に従業員や取締役に対するストックオプションとして付与されます。
企業は新株予約権を発行することで、将来的な株式発行を見据えた資金調達や、従業員へのインセンティブ付与を行うことができます。
純資産と総資産の違い
「総資産」とは企業が保有するすべての資産の合計額で、そこから負債を差し引いたものが「純資産」です。つまり、総資産が企業の全体的な資産規模を示すのに対し、純資産はそのうち返済や支払の義務のない自己資本部分に相当します。
純資産と総資産の関係
- 総資産 = 負債(他人資本)+ 純資産(自己資本)
総資産が多い企業であっても、負債も多ければ純資産は少なくなり、財務的な安定性が高いとはいえません。
なお、資産には流動資産・固定資産・繰延資産の3種類があります。
種類 | 概要 | 該当するものの例 |
---|---|---|
流動資産 | 短期保有目的の資産、1年以内に現金化できる流動性の高い資産 |
・現金 ・預金 ・受取手形 ・売掛金 |
固定資産 | 長期保有目的の資産や現金化に1年超かかる資産 |
・土地 ・建物 ・特許権 ・投資有価証券 |
繰延資産 | 支出した費用のうち、その効果が1年以上に及ぶもの |
・創立費 ・開業費 ・株式交付費 |
資産の詳細については、別記事「資産とは?種類や管理方法など、わかりやすく解説」をご参照ください。
純資産で経営状況を判断するための指標
純資産に関する指標は、企業の財務健全性や経営状況を評価するうえで重要な役割を果たします。主な指標には、以下の6つがあります。
自己資本比率
自己資本比率は、企業の総資産のうち自己資本が占める割合を示す指標です。
- 自己資本比率 = 自己資本(純資産)÷ 総資産 × 100
自己資本比率が高いほど、企業が自己資本で経営を支えている割合が多く、財務の健全性が高いと判断できます。一般的に50%以上が望ましいとされますが、業種によって適切な比率が異なるため、一概には言えません。
自己資本比率が低い場合、他者からの借入金への依存度が高く、債務超過によって経営が悪化する可能性があるため、財務健全性の向上が求められます。
自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率(ROE)は、企業が自己資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標です。- 自己資本利益率(ROE)= 当期純利益 ÷ 自己資本(純資産) × 100
ROEが高いほど、株主からの出資が効果的に利用されていると評価され、一般的に10%以上であれば収益性が高いと見なされます。
業界や企業の成長段階によって目標値は異なりますが、ROEは株主にとって投資のリターンを確認する重要な指標であり、企業の収益力と経営効率を把握するうえで欠かせません。
負債比率
負債比率は、企業がどれだけ負債に依存しているかを表す指標です。
- 負債比率 = 総負債 ÷ 自己資本(純資産)× 100
負債比率が低いほど自己資本での運営割合が大きく、財務の健全性が高いと評価されます。負債比率が高いと資金繰りのリスクが高まるため、自己資本の強化や負債削減が必要です。
通常100%以下が望ましいとされますが、業種や企業の戦略によって適切な比率は異なります。
固定比率
固定比率は、自己資本で固定資産をどの程度カバーしているかを示す指標です。
- 固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本(純資産) × 100
固定比率が100%以下であれば、自己資本で固定資産を十分に賄っていると判断され、財務の安定性が評価されます。固定比率が高すぎると固定資産の保有が負担となり、資金繰りの柔軟性が損なわれる恐れがあり、注意が必要です。
一方、固定比率が低い場合は流動性が高く、安定した財務体質を維持できるため、長期視点での資産構成の最適化が求められます。
固定長期適合率
固定長期適合率は、固定資産が自己資本と固定負債でどれだけ賄われているかを示す指標です。
- 固定長期適合率 = 固定資産 ÷(自己資本 + 固定負債)× 100
固定長期適合率は100%以下が望ましいと言えます。100%以下の場合、自己資本と固定負債という安定した資金で、長期的に使用する固定資産が十分にカバーされており、健全な財務体制と評価されます。
一方、固定長期適合率が100%を超えると、短期的な資金で固定資産を賄っている可能性があり、資金繰りに不安が生じるため注意が必要です。
利益剰余金比率
利益剰余金比率は、企業の総資本の中で、過去の利益の積み立てがどの程度あるかを示します。
- 利益剰余金比率 = 利益剰余金 ÷ 総資本 × 100
一般的に、利益剰余金比率が高いほど内部留保が充実しており、再投資や将来の支払いへの備えがあると評価されます。
まとめ
純資産とは、企業が保有するすべての資産(総資産)から負債を差し引いた、実質的な自己資本です。株主からの出資金や利益剰余金、新株予約権などが含まれます。
純資産や関連するさまざまな指標から、企業財務の健全性を測ることが可能です。
負債と自己資本のバランスを保って安定した経営を行うために、各指標を活用して定期的に財務状況をチェックしましょう。
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よくある質問
純資産とはどういう意味?
純資産とは、資産から負債を差し引いたもので、企業が返済や支払の義務を負わない「自己資本」を指します。企業の財務健全性を測る指標として重要です。
純資産について詳しくは、記事内「純資産とは資産から負債を差し引いたもの」をご覧ください。
純資産と総資産の違いは?
総資産は「企業が所有する資産の総額」であり、純資産は総資産から負債を差し引いた「返済や支払が不要な自己資本」です。
純資産と総資産の違いについて詳しくは、記事内「純資産と総資産の違い」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
