監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

月次決算とは、事業年度末に行う年次決算とは別に、1ヶ月ごとに行う決算業務のことです。月次決算を行うと、月ごとの会社の損益・財産の状況などが可視化され、タイムリーに経営状況を把握できます。
本記事では、月次決算と年次決算との違いを、月次決算のメリット・デメリットややり方、効率化するためのポイントを解説します。
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目次
- 月次決算とは
- 月次決算のタイミング
- 年次決算との違い
- 月次決算のメリット
- 会社の損益・資産・負債の状況がタイムリーにわかる
- 年次決算時の作業負担を減らすことができる
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
- 月次決算のデメリット
- 経理担当の月末〜月初の業務負担が増加する
- 短期的な業績に振り回されるリスクがある
- 月次決算の流れ
- ①現金・預金の残高を確認する
- ②棚卸資産を確認する
- ③仮払金と仮受金の振り替えを行う
- ④経過勘定を計上する
- ⑤引当金を計上する
- ⑥減価償却費を計上する
- ⑦その他年間支払費用の月割を計上する
- ⑧月次決算書を作成する
- ⑨月次業績報告資料を作成する
- 月次決算を効率的に進めるポイント
- 取引書類を整理しておく
- 締め日やスケジュールを全社共有する
- 会計ソフトを活用する
- 大変な法人決算と税務申告を効率的に行う方法
- まとめ
- よくある質問
月次決算とは
月次決算とは、1ヶ月ごとに行う決算業務のことです。自社の財務状況は、決算業務を行うことで把握できます。そのため、年度末に実施する年次決算では1年間の事業経営の結果しか分からず、タイムリーな経営判断ができません。
月次決算を行うことで、月ごとに会社の損益や財産の状況を可視化でき、単月や四半期ごとの変化を把握できるようになります。
月次決算のタイミング
一般的に月次決算は、当月末締めした取引の記録に対して翌月初に決算処理を行います。
決算作業を行う期間は、月初の3~10日程度が一般的であり、経営判断に活用するために迅速な対応が求められます。一般的な月次決算のスケジュールは以下の通りです。
日程 | 作業内容 |
---|---|
当月(1日〜月末) | 売上・仕入・経費の計上、請求書の発行・受領 |
翌月初(1〜3営業日頃) | 請求書等の提出・経費精算 |
3〜7営業日頃 | 決算整理 |
7〜10営業日頃 | 月次試算表の作成、経営層への報告 |
10営業日以降 | 月次会議で経営分析、翌月の計画策定 |
月次決算の作業内容は、記事内「月次決算の流れ」で紹介しています。
年次決算との違い
年次決算とは、1年に1回、年度末に行う決算作業のことで、会社法の規定により、年次決算は上場・非上場にかかわらず全ての会社に義務付けられています。 一方で、月次決算は会社ごとの判断で任意に行うものです。法的な義務や、作成しなければならない書類も定められていません。一般的に月次決算では、記帳作業と内部報告用の資料を作成します。
項目 | 月次決算 | 年次決算 |
---|---|---|
実施頻度 | 1ヶ月に1回 | 1年に1回 |
実施義務 | なし | 原則あり |
作成書類 | 規定なし | 規定あり (貸借対照表や損益計算書などの計算書類) |
実施目的 |
・タイムリーに会社の経営状態を把握し、迅速な経営判断をするため ・年次決算の業務負担を軽減するため |
・法的義務のもと、事業年度ごとの業績や資産状況などを取りまとめて法人税の申告・納付をするため ・株主総会などで報告するため |
月次決算のメリット
月次決算を行うメリットとして、経営や業務の観点から以下の3つが挙げられます。
月次決算のメリット
- 会社の損益・資産・負債の状況がタイムリーにわかる
- 年次決算時の作業負担を減らすことができる
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
会社の損益・資産・負債の状況がタイムリーにわかる
1ヶ月ごとに決算を行うことで、会社の経営状況をこまめに把握できます。月次決算によって年間売上や損益の着地見込みを予想しやすくなる点がメリットです。
事業経営では、当初計画した予算と現時点の実績がかけ離れる場合や、当初予測していなかった売上や費用が発生する場合があります。月次決算によって経営状況を把握できれば、年の途中であっても課題の洗い出しや必要な対応、年間業績見込みの修正が可能です。
年間の業績予想の見込みをタイムリーに知ることで、経営戦略や営業方針の転換を臨機応変に実施できます。
年次決算時の作業負担を減らすことができる
月次決算を行わずに年1回の年次決算だけ行うと、年間の記帳・決算作業が一時期に集中してしまいます。
決算日から税務申告期限まで急いで作業することになる可能性があり、記帳のミスや抜け漏れが発生しやすくなるでしょう。また、1年分の会計資料をまとめて整理・確認する場合、何ヶ月も前のことをさかのぼって確認しなければいけません。
しかし、月次決算を行えば月々の会計資料を翌月の初めにすぐに確認できます。記憶が鮮明なうちに確認作業を行うため、金額の入力や集計、仕訳ミスのチェックをスムーズに行えます。
毎月少しずつ会計関係の作業を進めることで、1年に1回の年次決算に作業が集中せずに済み、決算期の負担を減らせる点でも効率的です。
金融機関からの融資が受けやすくなる
融資の審査時の提出書類は金融機関ごとに異なりますが、年次決算だけでなく月次決算の書類も提出すれば、金融機関は会社のタイムリーな経営状況を確認できスムーズに審査を進められます。
月次決算によって会社の財務状況を毎月確認していることを金融機関に示せれば、それ自体が金融機関の心証をよくすることにつながり、審査に通りやすくなる可能性があります。
月次決算のデメリット
月次決算は、現状の経営状況の把握と年次決算の作業負担軽減のメリットがある一方、デメリットとしては以下の3つが挙げられます。
月次決算のデメリット
- 経理担当の月末〜月初の業務負担が増加する
- 短期的な業績に振り回されるリスクがある
- 年間全体の経営判断ができないことがある
経理担当の月末〜月初の業務負担が増加する
月次決算では、経理担当が締め作業および決算作業を、毎月末と月初に行わなければなりません。月次決算を行うことで年次決算の作業負担が軽減されるというメリットはありますが、同時に月末〜月初の作業時間を確保しなくてはならないというデメリットが伴います。
個人事業主や小規模企業など経理担当者がいないのであれば、自身で記帳をするか、従業員を雇ったり会計事務所に記帳代行を依頼したり、会計ソフトなどを用いて業務負担を低減するなどの方法が考えられます。
短期的な業績に振り回されるリスクがある
月次決算により毎月の業績が明確に出ることで、短期的な業績の変動に過敏になりやすくなる可能性があります。その結果、月次決算の業績を良くすることに注力してしまい、利益を上げるためにコストカットを急ぐなど、長期的な視点で経営判断ができなくなるリスクが考えられます。
このようなリスクを回避するには、長期的な経営を見据えて月次決算のデータを活用することや、経営判断には季節変動や一時的な要因を考慮することが重要です。
年間全体の経営判断ができないことがある
業種・業態によっては、月次決算のデータでは年間の経営状況を判断できないことがあります。
たとえば、季節ごとに売上高が変わる小売業や飲食業は、単月の損益だけでは経営状況の判断ができません。また、年間の特定の時期に売上が計上されるソフトウェア受託開発なども、納品がない月は人件費などの費用のみが発生し、年間の業績予測を立てるのが難しくなります。
このような業種・業態では、月次決算を経営判断の材料とするのではなく、あくまで年次決算の作業負担の分散や費用の確認を行うための決算として活用しましょう。
月次決算の流れ
月次決算のスケジュールのうち、決算整理以降の作業は以下の流れで行います。それぞれの決算作業を遅滞なく行うために、チェックリストを作成するなど、計画的に進めましょう。
月次決算の流れ
①現金・預金の残高を確認する
②棚卸資産を確認する
③仮払金と仮受金の振り替えを行う
④経過勘定を計上する
⑤引当金を計上する
⑥減価償却費を計上する
⑦その他年間支払費用の月割を計上する
⑧月次決算書を作成する
⑨月次業績報告資料を作成する
①現金・預金の残高を確認する
会社の金庫にある現金や通帳、ネットバンキングの入出金明細から、月末残高がいくらなのかを確認します。
次に、その月末残高が帳簿上の現金預金勘定残高と一致しているかを確認します。もし差異があるなら、原因を特定して正しい残高を帳簿に記帳しましょう。
②棚卸資産を確認する
月次棚卸を実施している場合は、月末時点で未販売の製品・商品・材料・切手・サンプル品などの貯蔵品が社内にどれくらいあるかをカウントし、それらが帳簿残高と一致しているか確認します。
棚卸の実施が月次ではなく半年ごと、または年1回の場合は、商品の受け払いに関する記録をもとに正しい月末残高を記帳します。
【関連記事】
棚卸しとは? 目的・実施タイミングや評価方法までわかりやすく解説
③仮払金と仮受金の振り替えを行う
当月に精算した仮払金や確定した仮受金の振り替えを行います。また、入金漏れや支払漏れがないかどうかも確認します。
④経過勘定を計上する
当月に支払や受取が行われておらず、次月以降に支払や収入があるものについては、未払費用や未収収益として経過勘定に計上します。
特に、月次決算中に受け取った請求書の未払計上は漏れることが多いので注意が必要です。
⑤引当金を計上する
年間の賞与や退職金に係る引当金相当額を年次決算で計上する場合、月次決算で当月負担額を計上します。
⑥減価償却費を計上する
減価償却対象の固定資産があれば、年間の減価償却費を月割計算して計上します。
【関連記事】
減価償却とは?償却できる資産や計算方法、耐用年数をわかりやすく解説
⑦その他年間支払費用の月割を計上する
たとえば、年払いや数ヶ月に1度の支払費用がある場合、月次決算で月割計上します。以下は、月割計上する費用の例です。
- 生命保険料
- 損害保険料
- 労働保険料
- 固定資産税 など
⑧月次決算書を作成する
月次決算では、作成義務のある特定書類はありません。会社の状況に応じて必要な書類を作成し、経営判断などに活用します。たとえば以下のような書類が該当します。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 資金繰り表
- 推移表
- 試算表 など
推移表とは、会社の財務データや経営状況の変化を時系列で一覧表にまとめたものです。推移表は現預金残高や売上高、経費などの各月の金額を記載して月次推移がわかるようにしておくと、月ごとの変化などが確認しやすくなります。
上記の書類のほか、在庫管理が重要な業種では、在庫管理表を作成することがあります。ほか、借入金があって返済状況の確認が必要であれば、借入金一覧表を作成しましょう。
⑨月次業績報告資料を作成する
月次決算書を作成したら経営層に報告します。前月までとの比較ができるように報告資料を準備し、前月までと比べて特異な点があれば経営層に報告しましょう。
何の項目の数値がどのような原因で増減したのか、その月の月次決算資料を読み解いて原因や会社の現状を経営層に共有することで、経営計画に活かすことができます。
月次決算を効率的に進めるポイント
作業工程の多い月次決算作業を少しでも効率的に進めるポイントとして、以下の3つを押さえておきましょう。月次決算のポイント
- 取引書類を整理しておく
- 締め日やスケジュールを全社共有する
- 会計ソフトを活用する
取引書類を整理しておく
経費に関する請求書や領収書、銀行口座の入出金明細、その月に発生した売上に関する資料など、月次決算に必要な取引書類は日頃から整理しておくことが大切です。後からまとめて対応しようとすると、書類が溜まって整理するのが大変になります。
取引件数が多ければ多いほど、これらの証憑の数も多くなるので、必要書類は月ごとに封筒やファイルに保管しておくことが望ましいでしょう。
締め日やスケジュールを全社共有する
月次決算作業を効率的に進めるためには、月次決算の締め日や証憑などの書類提出のスケジュールを事前に全社共有しておくことが大切です。
月次決算を行うには、経理担当だけでなく営業・販売・人事総務など各担当部署が支払った費用の金額や種類の情報、取引先から受け取った請求書などの情報を集める必要があります。
会計ソフトを活用する
会計ソフトを活用すれば、記帳や試算表の作成などが簡単にできるようになり、月次決算を効率的に進められます。
会計ソフトによっては、銀行やクレジットカードなどの取引データを自動で取り込む機能があるものもあります。ほか、経理業務初心者が使用するのであればサポート体制が充実したソフトにするなど、自社の会計・経理業務に必要な機能を備えた会計ソフトを選ぶようにしましょう。
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まとめ
月次決算は1ヶ月単位で行う決算業務のことであり、実施が義務付けられているものではありません。
しかし、月次決算を行うことで、会社の損益・資産・負債の状況が月ごとにわかり、経営状況を1ヶ月単位でタイムリーに把握できます。また、年次決算時の記帳作業にかかる時間や工数を削減し、作業負担を減らすメリットもあります。
作業時間を毎月確保する必要がありますが、あらかじめ取引書類を整理したり締め日やスケジュールを全社共有したりするなど、効率的に準備を進めてスムーズに月次決算を行いましょう。
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よくある質問
月次決算はいつ行う?
月次決算は経営状況をタイムリーに把握することが目的のひとつであるため、月初5〜10営業日程度で完了させることが望ましいでしょう。
詳しくは記事内、「月次決算のタイミング」をご覧ください。
月次決算のメリットは?
月次決算を行うメリットは、会社の損益・資産・負債の状況がタイムリーにわかること、年次決算時の作業負担を減らすことができること、金融機関からの融資が受けやすくなることの大きく3つが挙げられます。
詳しくは記事内、「月次決算のメリット」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
