監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級

企業経営では利益に注目しがちですが、手元に残るキャッシュ(現金)の流れを把握していないと、黒字倒産のリスクなどが高まります。
こうした経営の落とし穴を回避するために有効なのが、キャッシュを重視する「キャッシュ・フロー経営」です。
キャッシュ・フロー経営では、手元のキャッシュを増やすことに注力し、経営の安定化を図ることが可能です。またキャッシュを確保すると、外部からの信用を高めることや経営の選択肢を広げることにもつながります。
本記事では、キャッシュ・フロー経営の基本や従来の経営手法との違い、メリット・デメリット、取り入れるべき企業の特徴などを解説します。
目次
キャッシュ・フローとは
キャッシュ・フローとは、企業のある会計期間にどれだけの現金が流入したのか、またどれだけの現金が流出したのかを示す、現金の流れのことです。
現金の流入をキャッシュ・イン・フロー、現金の流出をキャッシュ・アウト・フローと呼び、このキャッシュ・イン・フローとキャッシュ・アウト・フローの差額(純額)がキャッシュ・フローにあたります。
キャッシュ・フローは、貸借対照表の期首と期末の資金残高と連動しています。
キャッシュ・フローの分類
キャッシュ・フローは以下の3種類に分類されます。
キャッシュ・フローの分類
- 営業キャッシュ・フロー
- 投資キャッシュ・フロー
- 財務キャッシュ・フロー
それぞれ説明していきます。
営業キャッシュ・フロー
営業キャッシュ・フローは、本業の営業活動によりどれだけキャッシュを稼ぎ出したのかを示すものです。
営業活動でのキャッシュ・フローにおいては、商品の販売代金など現金で回収したものがプラスに、仕入代金や従業員の給与、事務所の家賃や水道光熱費などの支出のうち現金で支払ったものがマイナスとなります。
減価償却費は、キャッシュ・フロー計算書を間接法で作成する場合は営業キャッシュ・フローのプラス要因となります。
また、法人税等の支払い・保険金の受け取り・受取利息・受取配当金など、投資活動や財務活動に当たらない取引も、営業キャッシュ・フローに含むのが一般的です。
営業キャッシュ・フローがプラスとなっていれば、本業の営業活動は順調だといえます。
また、営業利益よりも営業キャッシュ・フローが多い場合、利益がキャッシュの増加につながっていると評価できます。一方、営業利益よりも営業キャッシュ・フローが少ない場合には、販売代金の回収が遅れているなどマイナス要因が多く、営業キャッシュ・フローがプラスであっても問題がある可能性があります。
投資キャッシュ・フロー
投資キャッシュ・フローは、投資活動によって生じるキャッシュの増減を示します。
投資活動では、固定資産や設備などの取得・売却によりキャッシュが増減します。営業するうえで必要な建物・工場・事務所・車両などを現金で購入することでマイナスに、売却して現金を得ることでプラスとなります。
投資キャッシュ・フローは事業に関わる「先行投資金」に値するため、一般的にマイナスとなります。マイナスが少ないほどよいとされますが、ゼロのまま、投資活動を全くしないわけにはいきません。円滑に営業活動を行うためには、適切な投資をする必要があります。
なお、営業キャッシュ・フローと投資キャッシュ・フローを足したものをフリーキャッシュ・フロー(純現金収支)といいます。フリーキャッシュ・フローは、企業が自由に使えるキャッシュを示します。
財務キャッシュ・フロー
財務キャッシュ・フローは、営業活動と投資活動を維持していくためにどれほどの現金を調達したか、または返済したかを表すものです。
資金不足の際の資金の調達方法や、フリーキャッシュができたときに現金をどこに使ったかが把握できます。
現金の調達方法としては借り入れや社債の発行、現金の使いみちとしては借入金の返済や配当金の支払いなどがあります。
財務キャッシュ・フローで特にチェックすべきは、借入金の増減です。資金不足の際に借入金を利用するとキャッシュは一時的に増えますが、返済能力以上の借入金があると健全な経営ができなくなるため注意が必要です。
キャッシュ・フロー経営とは
キャッシュ・フロー経営とは、現金つまりキャッシュを重視していく経営のことです。
企業の手元に残るキャッシュを増やすことを目的とする経営のあり方で、利益追求・節税・資金調達・リストラなどがその手段となります。
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キャッシュ・フローとは?考え方や計算書の作成方法をわかりやすく解説
これまでの経営手法との違い
これまでの経営手法とキャッシュ・フロー経営の主な違いは、手元の現金を確保し増やすために「現金の流れの把握」を第一とする点です。
例として、商品を掛けで販売したケースを挙げます。一般的に会計上の処理においては、商品を販売し売掛金が発生した時点で損益計算書に売上として計上されますが、この時点では現金の動きはありません。
従来の経営手法では、経営状況の把握において損益計算書上の売上や利益が重視される傾向にあり、把握される「売上・利益」と実際の「現金の流れ」に乖離が生じることがありました。
一方キャッシュ・フロー経営では、売掛金が発生したときではなく現金を回収したときを基準として、実際の現金の流れを把握することができます。
キャッシュ・フロー経営を意識することは、利益第一主義から一線を画し、企業の体力である現金を増やし黒字倒産を避けることにつながり得ます。
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キャッシュ・フロー分析を行うメリットは?見るべきポイントや8パターンの特徴を解説
キャッシュ・フロー経営のメリット
キャッシュ・フロー経営のメリットには、以下のような点があります。
キャッシュ・フロー経営のメリット
- 経営を安定化できる
- 経営の自由度が高まる
- 信用が高まる
キャッシュ・フローを重視し、現金を確保することで、経営の安定化が可能です。給与や仕入れ、税金の納付などあらゆる支払いの場面で、現金が不足する懸念が少なくなります。
またキャッシュ・フロー経営では、必要なときに既存事業に資金を投入したり、好機となるタイミングで新規事業に挑戦したりと、手元の現金で自由度の高い経営判断ができます。設備投資や人材の採用などにも、自己資金で柔軟に対応することが可能です。
そのほか、手元に十分な現金が確保されることで、外部からの信用も高まります。金融機関や投資家からの資金調達もしやすくなり、企業の成長にもつながります。
キャッシュ・フロー経営のデメリット
キャッシュ・フロー経営のデメリットとしては、以下が挙げられます。
キャッシュ・フロー経営のデメリット
- 収益を得る機会を逃す可能性がある
- 株主から配当を求める圧力を受ける可能性がある
キャッシュ・フロー経営は、資金調達でレバレッジをかける経営(他人資本の活用など)
と比べると、収益面で機会損失になることがあります。キャッシュ・フローの範囲で経営するため、安定経営ができる反面、企業成長という点ではチャンスを逃す懸念もあるということです。
また株式会社では、利益の一部を配当として株主に還元します。キャッシュ・フロー経営では、利益をキャッシュとして多く蓄えることになり、株主からは配当に回すように要求される可能性があります。
キャッシュ・フロー経営を意識するべき企業の特徴
キャッシュ・フロー経営を意識することが望ましいのは、以下のような企業です。
キャッシュ・フロー経営を意識するべき企業の例
- スタートアップの企業
- 売掛金の回収に時間がかかる企業
- 資金繰りが不安定な企業
- 設備投資が多い企業
スタートアップの企業は、信用力の低さから融資を受けることが難しく、事業計画も予定通りには進まないことが少なくありません。創業期は特に手元の現金が不足しないように経営を進めることが重要です。
また、売掛金の回収に時間がかかる、資金繰りが不安定などの特徴をもつ企業も、現金をショート(枯渇)させない経営を行う必要があります。
そのほか、設備投資が多い企業も現金が不足しやすい傾向にあります。設備投資が利益に反映されるまでには、時間がかかることもあります。長期の計画が必要な中でも、キャッシュ・フロー経営で手元に現金を十分に確保しておけば、リスクを回避しやすくなります。
キャッシュ・フローを改善するには
キャッシュ・フローを改善する方法としては、主に以下が挙げられます。
キャッシュ・フローを改善する方法
- 余分な在庫がないか見直す
- 経費を削減する
- 売掛金を確実に回収する
- 利益が増えるように事業を改善する
- 資金繰り表を作成する
在庫の見直しや経費削減など、無駄を減らすことでキャッシュ・フローを改善できます。また、未回収の売掛金があれば、確実に回収を行いましょう。
根本的な改善として、コスト削減・ブランディングの強化・顧客満足度の向上など、利益を増大できるように事業自体を改善していくことも重要です。
なお、キャッシュ・フローの管理にあたっては、一定期間の現金の収入や支出を記録した資金繰り表の作成が有効です。月の収入・支出・預金残高を確認することで、資金不足になりそうなタイミングを事前に把握しやすくなります。
【関連記事】
資金繰り表とは?作成のメリットやエクセルでの作り方をわかりやすく解説
キャッシュ・フロー経営を行うために必要なこと
キャッシュ・フロー経営をしていくには、まず営業キャッシュ・フローがプラスとなっているかどうかをチェックしましょう。ここがプラスになっていなければ、商品を販売してから売掛金の回収が上手くいっていないなどの問題があり、早急に改善が必要です。
そのうえで、投資キャッシュ・フローや財務キャッシュ・フローが適切な状態となっているかどうかを確かめます。
まとめ
キャッシュ・フロー経営は、利益よりも手元のキャッシュを増やすことに重点をおいた経営方法です。
手元の現金が確保されることで経営が安定し、外部からの信用も高まります。自己資金で自由な経営判断ができることも、キャッシュ・フロー経営のメリットです。
一方で、資金調達でレバレッジをかける経営と比べると機会損失を生む可能性があります。また、株主から配当を求める圧力を受ける可能性もあるため、キャッシュ・フロー確保を優先するために新規の投資や配当を抑制しすぎないようにしましょう。
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よくある質問
キャッシュ・フロー経営とは?
キャッシュ・フロー経営とは、現金(キャッシュ)を重視する経営のことです。利益追求・節税・資金調達・リストラなどを手段として、手元のキャッシュを増やすことを目指します。
詳しくは、記事内「キャッシュ・フロー経営とは」をご覧ください。
キャッシュ・フロー経営のメリットは?
キャッシュ・フロー経営のメリットとしては、経営の安定化・経営の自由度の高さ・信用力の向上などの点が挙げられます。
詳しくは、記事内「キャッシュ・フロー経営のメリット」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。
