会計の基礎知識

【企業規模別】繰越欠損金とは?控除限度額や適用条件を解説

監修 橋爪 祐典 税理士

【企業規模別】繰越欠損金とは?控除限度額や適用条件を解説

繰越欠損金とは、過去の事業年度で生じた赤字を、将来の黒字と相殺できる制度です。赤字が出た場合でも、一定の条件を満たせば税負担を軽減できるため、キャッシュフロー改善に役立ちます。

繰越欠損金の適用には、青色申告や確定申告の継続、帳簿書類の保存といった細かな要件が必須です。本記事では、繰越欠損金の基本的な仕組みや、繰越期間・控除限度額をまとめました。企業規模別の控除額や、税効果会計も紹介しているので、実務に役立ててください。

目次

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繰越欠損金とは

繰越欠損金とは、事業年度に生じた赤字を将来の黒字と相殺し、法人税の負担を軽減できる制度です。繰越欠損金制度を活用することで、赤字決算を一時的な損失で終わらせず、キャッシュフローを改善できます。

赤字の計上については、関連記事で詳しく解説しています。

【関連記事】
赤字とは?赤字決算で免除される税金や赤字経営の脱却方法を解説

繰越欠損金控除の仕組み

繰越欠損金では、事業年度で生じた赤字を翌期以降に持ち越し、将来発生する黒字と相殺します。計算上、計上する利益が少なくなるため、法人税を抑えることができます。

事業は、常に黒字になるとは限りません。創業期や設備投資の時期には、赤字が発生しやすくなります。このような場合に、繰越欠損金控除を適用することで、納税額を平準化することが可能です。

繰越欠損金は、単年度の損失を切り捨てず、長期的な視点で税負担のバランスを取るために設けられています。長期的に事業を続けるうえで、経営判断を支えてくれるでしょう。

繰越欠損金の適用条件

繰越欠損金を適用するには、次の条件を満たす必要があります。


  • 発生事業年度の青色申告
  • 発生事業年度以降の確定申告
  • 帳簿書類の10年間保存

発生事業年度の青色申告

繰越欠損金を適用するには、赤字が発生した事業年度に、青色申告で確定申告を行う必要があります。繰越欠損金は、適正な記帳と申告を行う青色申告法人に与えられる、税制上の特典です。

白色申告では、災害による損失のような例外を除き、赤字の繰越は認められません。設立初年度に申請を失念したり、過去に承認が取り消されたりした場合は、赤字が年度限りで失効します。制度を適用できるか、事前の確認が必須です。

青色申告の繰越損失については、関連記事で詳しく解説しています。

【関連記事】
青色申告の繰越損失とは?適用の条件や申告書の書き方も解説

発生事業年度以降の確定申告

繰越欠損金を利用する要件のひとつは、確定申告を毎年期限内に連続して行うことです。具体的には、赤字が発生した事業年度から、実際に欠損金を黒字と相殺する年度まで、連続で期限内に申告する必要があります。

同要件の目的は、税務署が欠損金の残高や利用状況を、継続的に確認することです。途中で一度でも申告が途切れると、欠損金の計算の連続性が失われ、過去の繰越欠損金を使用する権利は消滅します。

売上がなく、法人税が発生しない年度でも、申告は必要です。将来の節税機会を確保するため、申告は忘れずに行いましょう。

帳簿書類の10年間保存

欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を10年間保存することも、適用要件のひとつです。繰越期間が10年に延長されたことに伴い、保存期間も延びています。

保存対象となる帳簿書類は、取引内容を裏付ける資料類です。一例を、下記にまとめました。


  • 総勘定元帳
  • 仕訳帳
  • 領収書
  • 請求書
  • 契約書

繰越欠損金控除を受ける際、税務調査で赤字の根拠を示す責任は、企業側にあります。通常の7年保存と混同して書類を廃棄すると、控除が受けられません。オフィス移転や担当者交代で資料が散逸しないよう、保存ルールの規定が必要です。

繰越欠損金の繰越期間は10年

繰越欠損金の繰越期間は、2025年現在の法人税法で、原則10年と定められています。2018年の税制改正により、企業の再チャレンジを後押しする目的で、期間が延長されました。

ただし、10年間の繰越が認められる欠損金は、2018年4月1日以後に開始した事業年度で発生したものに限られます。それ以前に開始した事業年度の欠損金は、繰越期間が9年です。また、個人事業主の純損失に限り、繰越期間は3年とされています。

繰越欠損金制度を利用する際は、繰越す赤字が発生した年度を把握し、期限切れを迎える前に活用しましょう。

繰越欠損金控除と混同しがちな、各種書類の保管期限は、別記事でも詳しく解説しています。

【関連記事】
領収書の保管期間はどれくらい?保管方法や注意すべきポイント

繰越欠損金の控除限度額

繰越欠損金には、控除できる金額の上限(控除限度額)が定められています。控除限度額は、企業の規模によって異なる仕組みです。企業規模と、控除限度額の関係を、下表にまとめました。

企業区分判定の目安繰越欠損金の控除限度額
中小企業資本金1億円以下の中小法人等所得金額の100%
大企業資本金1億円超、
または一定の支配関係がある法人
所得金額の50%

中小企業

中小企業に該当する場合、当期の所得金額の100%まで、繰越欠損金を控除できます。対象は、原則として資本金1億円以下の中小法人等です。資金調達力が限られがちな中小企業の経営を、税制面から支える目的で設けられています。

過去の欠損金が十分に残っていれば、当期の黒字を全額相殺でき、法人税の課税所得を0円にすることも可能です。

ただし、資本金が1億円以下であっても、大法人による完全支配関係のような要件に該当する場合は、「みなし大企業」として扱われます。100%控除の特例も、適用されません。

大企業

大企業に該当すると、繰越欠損金の控除限度額は当期の所得金額の50%までに制限されます。対象は、資本金1億円超の大法人や相互会社、規模にかかわらず一定の支配関係にある法人などです。

大企業は一定の収益基盤と担税力があると考えられるため、過去に多額の欠損金があっても、当期利益の半分には必ず課税されます。たとえば1,000万円の黒字が出た場合、控除できる欠損金は500万円までです。

残額には法人税が課されるため、中小企業と比べて税負担が生じやすくなります。

繰越欠損金の税効果会計

繰越欠損金の税効果会計を、次の3パターンに分けて解説します。


  • 発生時の仕訳
  • 消滅時の仕訳
  • 回収不可能になった場合の仕訳

発生時の仕訳

赤字を計上し、将来的に黒字化が見込まれる場合の処理が、発生時の仕訳です。たとえば、繰越欠損金が1,000万円、実効税率が30%の場合、次のように計上します。

日付借方勘定科目借方金額貸方勘定科目貸方金額摘要
決算日繰延税金資産300万円法人税等調整額(益)300万円繰越欠損金1,000万円に対する税効果計上

上記の結果、損益計算書では法人税等調整額が利益として作用します。当期純損失を、1,000万円から700万円へ圧縮することが可能です。貸借対照表にも資産が計上されるため、赤字による財務への影響を抑えられます。

消滅時の仕訳

翌期以降に事業が黒字化し、繰越欠損金を使って法人税の負担を軽減した場合は、「消滅時の仕訳」を行います。欠損金を使って、法人税から30万円を軽減した場合の仕訳例は以下のとおりです。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法人税等調整額(損)300,000円繰延税金資産300,000円

損益計算書では、法人税等調整額が費用として計上され、最終利益が減少します。過去に先取りしていた税効果を精算するためには、上記の処理が必要です。

回収不可能になった場合の仕訳

将来にわたって黒字化の見込みがなく、繰越欠損金を回収できない場合は、下記のように繰延税金資産を全額取り崩します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法人税等調整額300万円繰延税金資産300万円

上記の処理は、「評価性引当額の計上」とよばれ、資産の価値をゼロにする対応です。取り崩しの結果、営業成績とは無関係に費用が発生し、決算が大きく悪化するおそれもあります。繰延税金資産は黒字化を前提とした会計処理であるため、黒字化が見込めない場合、不用意に利用するのは避けましょう。

繰越欠損金を活用するメリット

繰越欠損金を活用するメリットは、将来黒字化した際の法人税負担を抑え、手元資金を増やせる点です。通常、利益の約30%は、法人税等として社外に流出します。しかし、繰越欠損金があれば、過去の赤字と相殺する形で、課税所得の圧縮が可能です。

たとえば、1,000万円の利益が出た場合、同額以上の繰越欠損金があれば、法人税の支払いはほぼ発生しません。本来納税に充てるはずだった資金は、借入返済や設備投資、人材採用などに振り分けられます。

赤字決算は、経営上の失敗とは限りません。繰越欠損金制度を正しく理解すれば、赤字は将来の税負担を減らす原資になります。黒字化後に得られるキャッシュを最大化できる点で、繰越欠損金は重要な仕組みです。

繰越欠損金を活用するリスク

繰越欠損金に依存しすぎると、経営判断を誤るリスクがあります。まず、繰越欠損金の繰越期間は、原則10年です。期限内に黒字化できなければ、欠損金は失効します。赤字体質を改善せず、放置したまま期限を迎えると、節税の機会を失うでしょう。

また、繰越欠損金制度は、業績回復を前提にした制度です。楽観的な事業計画にもとづいて繰延税金資産を計上すると、業績悪化時に取り崩しを迫られます。法人税等調整額が費用として計上されるため、自己資本が減少するケースも少なくありません。

繰越欠損金は、期間限定かつ、黒字化を満たして初めて価値になるものです。いつ利益が出るか、いつ繰越欠損金で相殺するか、明確にした事業計画を立てましょう。

まとめ

繰越欠損金は、過去の赤字を将来の黒字と相殺し、法人税の負担を軽減できる制度です。正しく活用すれば、黒字化後のキャッシュフローを大きく改善し、事業再建や成長投資に資金を回せます。

一方で、繰越期間は原則10年であり、黒字化できない場合は失効します。繰延税金資産の計上は将来の収益見通しが前提となるため、過度に楽観的な判断は財務リスクとなるでしょう。繰越欠損金は、期限を意識した黒字化計画とあわせて活用することが、安定した経営につながります。

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よくある質問

繰越欠損金の期限は何年?

繰越欠損金の期限は、法人の場合は原則10年、個人事業主(青色申告)は3年です。それぞれ、法人税法と所得税法で規定されています。

法人の繰越期間は税制改正により延長されており、平成30年4月1日以後に開始した事業年度で発生した欠損金から、10年間が繰越期間です。それ以前に発生した欠損金は、9年が期限となります。

詳しくは記事内「帳簿書類の10年間保存」をご覧ください。

繰越欠損金は貸借対照表のどこに記載する?

繰越欠損金は税務上のデータであり、貸借対照表には直接記載されません。正確な残高や期限は、法人税申告書の別表七(一)で管理されます。

ただし、税効果会計を適用する場合には、将来の節税効果を資産として評価する決まりです。貸借対照表の資産の部に、繰越欠損金が「繰延税金資産」として計上されることがあります。一方、赤字の累積は、純資産の部における繰越利益剰余金のマイナスとして表れます。

詳しくは記事内「繰越欠損金とは」をご覧ください。

法人税の繰越欠損金の適用範囲は?

繰越欠損金の控除は、法人税以外にも適用されます。適用対象の一例は、次のとおりです。

  • 地方法人税
  • 法人事業税
  • 法人住民税の法人税割

いずれも所得金額を基に計算されるため、繰越欠損金で課税所得がゼロになれば、税負担は軽減されます。

ただし、法人住民税の均等割は、赤字でも免除されないため、納付が必要です。

詳しくは記事内「繰越欠損金を活用するリスク」をご覧ください。

参考文献

監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)

2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。

監修者 橋爪 祐典

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