会計の基礎知識

固定費/変動費とは?該当する費用や損益分岐点について解説

監修 橋爪 祐典 税理士

固定費/変動費とは?該当する費用や損益分岐点について解説

売上は伸びているのに利益が残らない原因のひとつに、固定費と変動費の違いを正しく把握できていないことが挙げられます。家賃や人件費のように売上に関係なく発生する固定費と、仕入や外注費のように売上に応じて増減する変動費では、経営への影響が大きく異なります。

本記事では、固定費と変動費の基本的な考え方から代表例、見直しのポイントまでを整理しました。どんぶり勘定から脱却し、数字に基づいた経営判断をするための、実務的な視点を解説します。

目次

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固定費と変動費とは

固定費と変動費は、性質に応じて支出を分類したものです。次の項目に分けて、固定費・変動費について解説します。


  • 固定費は「売上に関係なく一定」
  • 変動費は「売上や数量に比例」

固定費は「売上に関係なく一定」

固定費とは、売上高の増減や操業度にかかわらず、時間の経過とともに毎月一定額が発生する費用です。事業運営を支える、「基礎代謝」の役割をもちます。

固定費は一度発生すると、簡単には減らせません。契約や雇用を前提とする費用が多く、売上が急減しても即座に解約や削減ができません。このような性質を、「下方硬直性」と呼びます。黒字経営を維持するため、固定費を回収できる利益の確保が必須です。

変動費は「売上や数量に比例」

変動費とは、商品の製造・販売・サービス提供に連動し、売上高や生産量に比例して増減する費用です。たとえば、小売業の場合、売上に対して発生した売上原価が変動費にあたります。

売上が発生しない場合、変動費も発生しません。固定費に比べると、経営リスクへの直接的な影響は少なくなっています。

変動費の把握は、損益の算出に必須です。正しい投資判断や価格設定には、正確な固変分解を行い、変動費と固定費の境界を明確にする必要があります。

固定費と変動費を分ける理由

固定費と変動費を分ける理由は、次の3つです。


  • 利益構造がわかる
  • 損益分岐点を把握しやすくなる
  • 削減すべき費用の優先順位が決まる

【関連記事】
管理会計とは?財務会計との違いから活用例まで解説

利益構造がわかる

費用を固定費と変動費に分解することで、売上高が利益にどの程度影響するか(利益構造)の把握が可能です。一般的な損益計算書では、売上原価や販管費の中に、固定費と変動費が混在しています。たとえば、売上が下がった場合、損益計算書から影響を判断するのは困難です。

利益構造の把握には、固変分解を用います。売上高から変動費を差し引いた「限界利益」を把握することで、売上と利益の関係が可視化されます。限界利益を基準に考えると、売上が増減した際に利益がどのように動くのか、構造的な理解が可能です。

損益分岐点を把握しやすくなる

固変分解を行う最大の利点は、企業の生存ラインである「損益分岐点」を把握できることです。損益分岐点とは、売上高と総費用が等しくなり、損益がゼロとなる売上水準を指します。損益分岐点を把握すれば、最低限必要な売上高の明確化が可能です。

さらに、キャッシュフローベースでの「金銭的損益分岐点」も計算できます。目指すべき具体的な売上目標を設定し、資金繰り破綻を防げるでしょう。数値のモニタリングは、守りを固めるだけでなく、攻めの投資判断を行う根拠にもなります。

削減すべき費用の優先順位が決まる

コスト削減では、固定費と変動費のどちらを見直すべきか、優先順位の設定が重要です。固変分解を行わずに一律で経費を削減すると、将来の成長に必要な広告宣伝費や研究開発費まで削ってしまうおそれがあります。

固変分解によって、「損益分岐点を下げるために固定費を見直すべき段階」なのか、「限界利益率を高めるために変動費を改善すべき段階」なのか、客観的な判断が可能です。数字に基づく整理は、削りどころのミスを防ぎ、正確な判断を行うために必須となります。

固定費・変動費の代表例(一覧)

固定費・変動費に分類される、代表的な費用は、次のとおりです。

固定費変動費
・人件費(固定給・役員報酬など)
・物件費・設備費
・通信費・システム利用料
・保険料・租税公課
・支払利息
・仕入原価・原材料費
・販売手数料
・運送費・物流費
・決済手数料
・外注費(数量・稼働連動)

固定費に分類される費用

固定費に分類される費用を、下表にまとめました。

科目具体例
人件費・役員報酬
・正社員給与
・賞与
・法定福利費(社会保険料など)
・退職給付費用
物件費・設備費・地代家賃(オフィス・店舗)
・水道光熱費(基本料金部分)
・減価償却費
IT・通信関連費・SaaS利用料(サブスクリプション)
・通信費(回線利用料・基本料金)
・クラウドサービス利用料
金融・保険関連費・損害保険料
・借入金利息
公租公課・固定資産税
・事業税
・印紙税
戦略的固定費・広告宣伝費
・研究開発費
・交際費

固定費とは、企業が事業を継続するために発生する費用です。人件費や家賃以外に、広告宣伝費や研究開発費などの「戦略的固定費」も、固定費に含まれます。コスト削減を検討する際は、まず戦略的固定費から見直し、企業の基礎体力を落とさないようにしましょう。

変動費に分類される費用

変動費には、下記の費用が該当します。

科目具体例
仕入・原材料費・商品仕入高(卸売業・小売業)
・原材料費(製造業)
販売関連費・荷造運賃
・発送費・配送料
物流・配送費・荷造運賃・発送費
・配送料
決済関連費・クレジットカード決済手数料
・オンライン決済手数料
製造関連費・燃料費(重油・ガスなど、生産量連動)
・消耗品費(生産量比例)
外注費(変動型)・納品ベースの製作費
・稼働時間連動の業務委託費

変動費は、売上に比例して変化する費用です。たとえば、商品の仕入や配送料、製造にかかる費用は、すべて変動費に該当します。

一部の外注費も、変動費扱いです。納品数や稼働時間に応じて請求される契約であれば、変動費として計上する必要があります。

固定費と変動費の分け方

固定費と変動費を分類する方法は、下記の2つです。


  • 勘定科目法
  • 回帰分析法

勘定科目法

勘定科目法とは、各費用を勘定科目ごとに固定費か変動費のどちらかへ分類する方法です。高度な計算や統計知識を必要としないため、管理会計を導入したばかりの中小企業でも取り組みやすいでしょう。

たとえば、地代家賃や役員報酬は固定費、商品仕入高や原材料費は変動費というように、科目の性質から一律で判断します。

ただし、固定部分と変動部分が混在する場合に勘定科目法を使うと、実態と帳簿にズレが生じます。とくに、外注費は費用形態によって実態が変わるため、一律に固定費として扱ってはいけません。実際より固定費が少なく見え、損益分岐点を誤って低く見積もるリスクがあります。

回帰分析法

回帰分析法とは、過去の実績データを用いて、費用区分を統計的に分解する手法です。売上高と総費用の関係を分析し、売上に連動して増減する部分を変動費、連動しない部分を固定費として分解します。勘定科目ごとの精査が不要で、データの動きから費用構造を把握できるのが特徴です。

回帰分析法の強みは、勘定科目の名称や感覚に頼らず、数値の動きから費用構造を把握できる点にあります。また、分析結果の信頼性も数値で確認できるため、金融機関や社内に対しての根拠を論理的に説明できるでしょう。

なお、Excelの機能を使えば、専門的な数式を理解していなくても、変動費率や固定費を自動で算出できます。

固定費・変動費を使った指標

固定費・変動費から算出できる指標と、役割を紹介します。経営状態の分析に使える指標は、次の4つです。


  • 限界利益率
  • 損益分岐点売上高
  • 売上高変動費率
  • 安全余裕率

限界利益率

限界利益率とは、売上高のうち、固定費の回収・利益の創出に使われている金額の割合です。計算式は、下記のようになります。

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高

限界利益率の数値は、事業の稼ぎやすさを示します。限界利益率が高い事業では、売上が一定水準を超えた後、利益が加速度的に増えやすい性質です。一方で、限界利益率が低い事業は薄利多売の構造になり、固定費を回収するために多くの売上が必要になります。

損益分岐点売上高

損益分岐点売上高とは、利益がちょうどゼロとなる売上高の水準であり、下記の計算式で求められる数値です。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

損益分岐点売上高を超えた金額が、企業の利益になります。たとえば、毎月の固定費が500万円で、限界利益率が50%の場合、損益分岐点売上高は1,000万円です。売上が水準を下回れば赤字、上回れば黒字になります。

損益分岐点が高い場合、固定費を下げるか、限界利益率を高めるか、いずれかの対策が必要です。損益分岐点の求め方や活用方法については、関連記事をご覧ください。

【関連記事】
損益分岐点とは?計算方法やグラフの作り方を例題に沿ってわかりやすく解説

売上高変動費率

売上高変動費率とは、売上高に対して変動費が占める割合です。計算には、下記いずれかの計算式を使います。

売上高変動費率 = 変動費 ÷ 売上高

= 1 - 限界利益率

売上高変動費率から、原価や外注費などが適切に管理されているか、確認が可能です。売上高変動費率が上昇すれば、売上が伸びても、利益は残りにくくなります。定期的に数値を確認し、仕入条件や業務プロセスを見直すことが欠かせません。

安全余裕率

安全余裕率とは、現在の売上高が損益分岐点から、どの程度余裕をもっているかを示す指標です。売上が減少した場合、どの程度なら赤字に転落せず耐えられるかを、数値で表します。計算式は、下記のとおりです。

安全余裕率(%)=(現在の売上高 − 損益分岐点売上高) ÷ 現在の売上高 × 100

安全余裕率が高いと、景気悪化や市場変動が起きた際の耐久力が高いため、経営は安定していると判断できます。たとえば、安全余裕率が30%あれば、売上が3割減少しても黒字を維持できます。

一方、10%未満の場合は、わずかな売上減少でも赤字に陥りやすい状態です。経営の安全度を把握するうえで、定期的な確認が欠かせません。

固定費・変動費を見直すポイント

支出を改善する際のポイントを、次の場合に分けてご紹介します。


  • 固定費を見直す場合
  • 変動費を見直す場合

支出改善に役立つ原価計算の方法については、関連記事をご覧ください。

【関連記事】
原価計算とは?計算方法や種類、基本知識を解説

固定費を見直す場合

固定費の見直しは、損益分岐点売上高を直接引き下げる、即効性の高い施策です。実行した翌月から支出が減り、効果が継続します。ただし、手順を誤ると成長力を損なうため、優先順位づけが重要です。

基本は、オフィス賃料やシステム利用料などの「外部への支払い」から着手し、人件費のような「内部への投資」は最後に検討します。たとえば、減額交渉やシェアオフィスへの移転で家賃を節約したり、SaaSや通信費の未使用アカウントを解約したりするだけでも削減効果が見込めます。

上記以上の改善が必要な場合に限り、人件費の見直しが必要です。安易なリストラや給与カットは避け、固定給の一部を業績連動賞与に切り替えるような、柔軟性のある対応が求められます。

変動費を見直す場合

変動費の見直しは、「単価を下げる」「数量やロスを減らす」の両面から取り組みましょう。売上が伸びるほど削減効果が拡大するため、成長フェーズにある企業ほど優先度が高くなります。

仕入先や外注先に対して定期的に相見積もりを行い、競争原理を働かせて適正価格を維持します。外注費については、必要な分だけ発注するスポット契約へ切り替えるのも有効です。

変動費の見直しでは、品質の維持が前提になります。原材料や物流コストを削りすぎて品質低下や納期遅延が起きれば、顧客が離れかねません。成果の一部を還元する仕組みづくりが、継続的な改善につながります。

固定費を変動費化する3つの方法

固定費を変動費に転換することで、損益分岐点を引き下げ、経営リスクを抑えることが可能です。損益分岐点を下げたい場合は、以下の方法を検討しましょう。


  • 業績給を採用する
  • 外注や業務委託を利用する
  • 非正規雇用を積極的に採用する

業績給を採用する

人件費は、一度引き上げると削減が難しい、下方硬直性をもつ固定費です。固定給の比率を抑え、賞与やインセンティブを業績連動型に切り替えることで、合理的にコストカットを実施できます。

たとえば、経常利益の一定割合を賞与原資と定めることで、売上や利益の変動に応じて人件費総額を調整可能です。業績悪化時でも、リストラや給与カットといった強硬策を取らずに、支出を抑えられます。

制度導入にあたっては、好調時には報酬が増える仕組みを明示し、従業員の納得感と透明性を確保することが重要です。

外注や業務委託を利用する

専門性が高い業務や、繁閑差の大きい業務は、業務委託への切り替えを検討しましょう。正規雇用による内製から、外注や業務委託へ切り替えることで、固定費を変動費へ転換できます。

正社員を雇用すると、給与だけでなく社会保険料、採用費、教育費といった見えにくい固定費の負担が必要です。たとえば、物流業務を外部に委託し、出荷件数に応じた支払いに切り替えれば、コストは売上に連動します。

システム開発やデザイン業務を、納品ベースで外部に依頼する方法も有効です。外注により一時的に利益率は下がる代わりに、損益分岐点が下がり、不況時の耐久力は高まります。

非正規雇用を積極的に採用する

日本の労働法制では、正社員の整理解雇に厳格な要件があります。景気や業績にあわせた人員調整は、容易ではありません。

業務量の変動に対応するには、パートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用を活用しましょう。繁忙期の増加分を有期雇用で補完し、基幹業務は正社員が担うことで、固定費の膨張を抑えられます。たとえば、工場の製造ラインやカスタマーサポートなど、稼働量が売上に直結しやすい部門では、非正規雇用の活用が有効です。

同一労働同一賃金に配慮しつつ、組織の柔軟性を高める視点で人員構成を設計すると、経営の安定性が高まります。

まとめ

固定費と変動費を正しく分けて把握することは、経営判断の基本です。固定費は企業の基盤を支える一方で、下がりにくい特徴があります。変動費は、売上に連動して利益を左右する支出です。固変分解を通じて「どこを守り、どこを見直すべきか」を論理的に判断することが、正確な経営判断につながります。

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よくある質問

固定費・変動費に関する基本的な疑問と、経営危機における意思決定のポイントについて回答します。


  • 固定費と変動費の違いは何ですか?
  • なぜ費用を固定費と変動費に分ける必要があるのですか?
  • 売上が落ち込んだら、変動費だけでなく固定費も見直すべき?

固定費と変動費の違いは何ですか?

固定費と変動費の違いは、費用が「時間の経過」で発生するか、「事業活動の量」に応じて増減するかにあります。

固定費は家賃や正社員給与のように売上がなくても一定額が発生し、減らしにくい性質をもちます。一方、変動費は仕入原価や販売手数料など、売上や生産量に比例して増減する費用です。

区別を明確にすることが、利益悪化を防ぐ第一歩となります。

詳しくは「固定費と変動費とは」をご覧ください。

なぜ費用を固定費と変動費に分ける必要があるのですか?

費用を固定費と変動費に分ける目的は、損益分岐点や限界利益を正確に把握し、合理的な経営判断を行うためです。

通常の損益計算書では両者が混在しており、売上変動時の影響を把握できません。固変分解を行えば、黒字化に必要な売上水準が明確になり、感覚に頼らない数値ベースの意思決定が可能になります。

詳しくは「固定費と変動費を分ける理由」をご覧ください。

売上が落ち込んだら、変動費だけでなく固定費も見直すべき?

売上が落ち込んだ場合、固定費の見直しは最優先で行うべきです。変動費は売上減少に伴い自然に減りますが、固定費は同額でキャッシュを消費し続けます。

固定費を削減できれば損益分岐点が下がり、少ない売上でも耐えられる体質になります。ただし、将来の売上回復につながる変動費まで削りすぎない判断が重要です。

詳しくは「固定費・変動費を見直すポイント」をご覧ください。

参考文献

監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)

2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。

監修者 橋爪 祐典

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