会計の基礎知識

赤伝票とは?必要になるケース・正しい処理方法・トラブルを防ぐポイントまで解説

監修 橋爪 祐典(税理士)

赤伝票とは?必要になるケース・正しい処理方法・トラブルを防ぐポイントまで解説

赤伝票(あかでんぴょう)とは、すでに計上した取引を取り消したり金額を減らすときに使うマイナスの伝票です。

誤記訂正・返品・値引き・相殺など、実務ではさまざまな場面で必要になります。元の黒伝票を削除してしまうと履歴が残らず、税務調査や社内チェックで問題になることもあるため注意しましょう。

本記事では、赤伝票と黒伝票の違いや発行すべきケース、正しい処理方法から建設業で注意すべきポイントまで解説します。

目次

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赤伝票とは

赤伝票(あかでんぴょう)とは、すでに完了した取引を取り消すために使うマイナスの伝票のことです。一度計上した売上や仕入に、後から間違いや変更が発生したときに使われます。

もともとは通常の伝票と区別するため、金額を赤字で記入していたことから赤伝票と呼ばれるようになりました。

現在は会計ソフトで金額の前にマイナスを付けたり、返品・取り消しの機能を選ぶことで処理します。

赤伝票と黒伝票の違い

赤伝票と黒伝票の違いは、記載する内容と金額の考え方にあります。

上述したように、赤伝票はその取引を取り消したり、金額を減らしたりするときに使うマイナスの伝票です。一方、黒伝票は商品を販売したときなど、取引が発生した事実をプラスで記録します。

たとえば、10万円で売上を計上した後に返品があれば「売上−10万円」と赤伝票を入力して元の取引を相殺します。元の黒伝票を消すと、取引が発生した理由や取り消しの経緯が残らず、会計の正確性が損なわれてしまいます。

赤伝票と黒伝票を分けて記録するのは、履歴を明確にし、税務調査や社内の確認にも対応できるようにするためです。

赤伝票が必要になる3つのケース

赤伝票は、すでに計上した取引のキャンセルや入力ミスの訂正、売上や仕入金額の訂正など3つの場面で必要になります。

1. 記入ミスや入力ミスの訂正

一度承認された伝票を消したり書き換えたりすると、いつ誰がどのように修正したのかが履歴に残らず、内部統制や税務上の説明ができなくなります。

そのため、発行済みの伝票に金額や勘定科目の誤りが見つかった場合は、元の伝票を直接修正せず、赤伝票で一度取り消してから正しい内容の黒伝票を発行するのが原則です。

赤伝票で処理することで、誤りと訂正の経緯が帳簿上に残るため、後からでも正しい内容が確認できます。

2. 返品・キャンセルなどのマイナス処理

販売した商品が返品されたり、提供したサービスがキャンセルされたりした場合に赤伝票でマイナス処理を行います。返品やキャンセルは、一度成立した取引が取り消されたことを意味するため、帳簿を正しい状態に戻す必要があります。

たとえば、10万円の売掛金で計上していた商品が全額返品された場合、元の仕訳と逆の赤伝票を入力して売上と売掛金を相殺します。

また、どの伝票に対する取り消しなのかを摘要欄に記録しておくと、後の確認やトラブル防止に役立ちます。

3. 売上や仕入の金額訂正

売上や仕入の金額を訂正する際にも、赤伝票を使用します。発行済みの伝票に誤りが見つかった場合でも、元データを削除したり書き換えたりしてはいけません。

一度計上された取引を直接修正してしまうと、どこで間違いが起き、どのように訂正したのかという履歴が残らず、内部統制や税務上のトラブルにつながる可能性があります。

赤伝票で誤った内容を取り消したうえで、正しい金額の黒伝票を発行すると、帳簿の整合性が保たれ、後から見返しても安心して説明できる状態になります。

【ケース別】赤伝票の正しい処理方法

同じマイナス処理でも、訂正の内容によって処理方法が異なります。ここからは、以下のケース別に具体的な処理方法について解説します。

誤った対応をすると帳簿の整合性が崩れたり、説明できない取引として残ってしまう可能性もあるため注意しましょう。

記入ミスや入力ミスなど訂正する場合

発行済みの伝票に金額や内容の誤りが見つかった場合は、元データを直接削除したり書き換えたりせず、赤伝票で一度取り消してから正しい黒伝票を発行するのが基本です。

たとえば、本来は12万円で計上すべきところを誤って21万円で処理していた場合、まず21万円を赤伝票で取り消し、その後に正しい12万円の黒伝票を発行します。具体的な手順は以下のとおりです。

①黒伝票(誤記)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/10仕入仕入210,000買掛金210,000

②赤伝票(誤仕訳の取り消し)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/12仕入
(誤仕訳取消)
買掛金▲210,000仕入▲210,000

③黒伝票(正しい金額で再計上)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/12仕入
(正しい金額)
仕入120,000買掛金120,000

この手順を踏むことで誤りと訂正の記録が帳簿に明確に残り、後から見返したときも安心して説明できる状態になります。

返品・キャンセルなどのマイナス処理をする場合

販売した商品が返品されたり、予定していたサービスがキャンセルになった場合は、赤伝票で元の取引を取り消す処理を行ってください。

具体的には、10万円の商品を掛売りで計上していた場合、全額返品が発生すると売上時とは逆の仕訳を赤伝票で入力し、売上と売掛金を相殺します。これにより、取引がなかった状態に正しく戻せます。

①黒伝票(売上計上)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/10商品売上売掛金100,000売上100,000

②赤伝票(売上の取消処理)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/12商品返品
(売上取消)
売上▲100,000売掛金▲100,000

売上や仕入の金額訂正をする場合

取引完了後に契約内容の変更や合意によって代金の一部が値引きされたり、相殺が発生した場合も赤伝票で処理します。

たとえば、100万円の工事代金を計上済みで、元請が立て替えた5万円を差し引くことになった場合、その5万円分を赤伝票で処理して未収入金を減額します。売上そのものを取り消すのではなく、自社が負担すべき費用を計上する形で調整するのが一般的です。

①黒伝票(売上計上)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/10工事代金売掛金1,000,000売上1,000,000

②赤伝票(売掛金を50,000円減額)

  
日付摘要値引き
(相殺)
借方科目金額貸方科目金額
4/12工事代金
(相殺分取消)
売上▲50,000売掛金▲50,000

③黒伝票(元請立替分の費用を計上)

  
日付摘要借方科目金額貸方科目金額
4/10立替金精算
(元請負担分)
支払手数料
または
雑費 等
50,000売掛金50,000

値引きや相殺を行う際は、覚書や領収書などの根拠を確認し、双方の合意内容を残しておくことが後々のトラブル防止につながります。

赤伝票の処理が建設業法に違反になるケース

赤伝票の処理は、会計上の正しい対応として必要な場面がありますが、建設業では扱いを誤ると法令違反につながる場合があります。

下請業者との協議・同意なしに費用を一方的に差し引く

元請業者が下請業者と事前の協議や合意をしないまま、赤伝票を理由に工事代金を一方的に減額する行為は、建設業法に違反します。

たとえば、契約書にない協力費を支払い時に差し引く、下請に責任のない共通経費を勝手に相殺するなどが典型例です。

承認のない赤伝票処理は、不当な減額として重大なトラブルにつながりかねないため注意しましょう。

差し引く費用の根拠が不明確

たとえ元請が「費用を相殺する」と説明していても、その内容や金額の根拠が示されないまま赤伝票で減額処理を行うのは危険です。

建設業法では、元請と下請の取引に公正さと透明性が求められており、代金を減額する場合は「なぜ」「いくら」を示す客観的な証拠と双方の合意が前提になります。

見積書や領収書が提示されないまま差し引かれたり、事前の書面合意がない追加費用を一方的に相殺する行為は、不当な減額と判断される可能性があります。

赤伝票の処理でトラブルを避けるためのポイント

赤伝票の処理自体は正しい会計対応ですが、やり方を誤ると取引先とのトラブルや法令違反につながるおそれがあるため、慎重な対応が必要です。

元請と下請で協議・合意する

赤伝票で代金を差し引く場合、事前に協議のうえで合意しておくことが欠かせません。

トラブルの多くは、元請が一方的に減額することが原因です。下請が知らないまま代金を差し引くと、不信感や法令違反につながります。

たとえば、元請が立て替え費用を相殺したいときに、連絡せず支払い時に勝手に赤伝票を処理するのは避けるべきです。事前に「この費用を相殺したい」と説明し、領収書などの根拠を確認して下請の了承を得ましょう。

事務担当者も依頼を受けた際に「先方と合意済みですか」と確認するだけで、不要なリスクを防げます。

赤伝票処理の内容を書面にて明記する

元請と下請が赤伝票処理に合意していても、口頭だけで済ませるのは避けましょう。「なぜ」「いくら」差し引くのか、その理由と金額の根拠を必ず書面に残すことが重要です。

書類がないまま処理すると、後になって認識違いや「不当な減額だった」とトラブルに発展する可能性があります。

また、税務調査や内部監査の際にも、赤伝票による減額が正当だったと示す客観的な資料が求められます。

契約書や覚書、費用の領収書コピー、返品に関する書類などを保管し、赤伝票の摘要欄にも「合意済みの相殺分」など根拠が分かる記載をしておくと安心です。

差引額は下請の過剰負担にならないようにする

赤伝票で差し引く金額は、根拠が明確であるだけでなく、下請にとって不当に大きな負担にならないことが前提です。

本来負担する必要のない費用や、契約内容を逸脱したペナルティを一方的に差し引くことは、建設業法第19条の3が禁止する「不当な減額」に該当する可能性があります。

赤伝票による相殺が認められるのは、下請が本来負担すべき費用の立替分や、双方で合意した値引きに限られます。下請側も契約書や見積書を確認し、正当な理由のない減額には応じない姿勢を徹底することが重要です。

まとめ

赤伝票は、取引を取り消したり金額を訂正したりするときに使用する伝票で、黒伝票とセットで記録することで帳簿の整合性と証拠性を保てます。

誤記訂正・返品・金額変更といった場面では、元データを直接修正せず、赤伝票でマイナス処理を行うのが原則です。

また、建設業では一方的な減額や根拠のない相殺は法令違反につながるため、事前の協議・書面での確認・正当な根拠の確保が欠かせません。

赤伝票を正しく扱うことが、トラブル防止と信頼性の高い会計処理につながります。

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よくある質問

赤伝票とは何ですか?

赤伝票とは、処理済みの取引を取り消したり金額を修正したりする際に使うマイナスの伝票です。

通常の取引は黒伝票でプラス計上しますが、後から返品や入力ミスの訂正、値引きや相殺が発生した場合は、帳簿を正しい状態に戻す必要があります。

詳しくは「赤伝票とは」をご覧ください。

赤伝票と黒伝票の違いは何ですか?

赤伝票と黒伝票の違いは、記録する内容がプラスかマイナスかにあります。黒伝票は取引が発生したときに使い、売上や仕入などをプラスで計上します。

一方、赤伝票は返品や入力ミスの訂正、値引きなどにより取引を取り消したり減額する際に使うマイナスの伝票です。

元の黒伝票を削除してしまうと、取引の履歴が残らず説明できなくなるため、実務では黒で計上し、必要に応じて赤で相殺する「赤黒処理」が基本となります。

詳しくは「赤伝票と黒伝票の違い」で解説しています。

赤伝票の保存期間はどのくらいですか?

赤伝票の保存期間は、法人の場合で申告期限の翌日から原則7年間の保存義務があります。

ただし、欠損金が発生した事業年度などでは10年間の保存が必要です。返品依頼書や合意書面など関連書類とあわせて、決められた期間きちんと保管しましょう。

監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)

2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。

監修者 橋爪 祐典

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