監修 涌井 好文 社会保険労務士
有給休暇の買取は原則として違法で、在職中に自由に買い取ってもらえる制度ではありません。ただし、退職時に消化しきれなかった有給や、法定日数を超えて付与された分など、例外的に買取が認められるケースも存在します。
本記事では、有給休暇の買取が認められない理由や例外ケース、買取金額の目安などを解説します。
目次
有給休暇の買取は原則違法
有給休暇の買取は、原則として労働基準法に反する行為です。
有給休暇とは労働者が心身を休めるための権利であり、金銭で代替するとその趣旨を損なうと考えられています。在職中に有給を買い取ったり、年5日の取得義務を買取で済ませたりすることは明確な違法行為です。
ただし、すべてのケースであっても買取が禁止されているわけではありません。退職時に消化できなかった有給の清算や、法定日数を超える会社独自の付与分、時効で消滅した分については、例外的に適法とされています。
出典:厚生労働省「Q8 年次有給休暇の買上げをしても法律違反にはなりませんか。」
有給休暇の買取が認められる3つの例外ケース
有給休暇の買取は原則として認められていませんが、すべてのケースが一律に禁止されているわけではありません。以下の条件を満たす場合に限り、例外的に適法とされています。
有給休暇の買取が認められる3つのケース
- 退職時に有給休暇を消化しきれない場合
- 時効で消滅した有給休暇の場合
- 法定日数を超えて付与された有給休暇の場合
例外を正しく理解していないと、本来は問題なかったはずの買取を見逃してしまうほか、違法な対応に巻き込まれてしまう可能性もあります。
退職時に有給休暇を消化しきれない場合
退職時に有給休暇を消化しきれない場合は、買取が認められています。退職すると有給を取得する権利そのものがなくなるため、残日数を金銭で清算しても違法にはなりません。
実際、行政通達でも退職時の有給買取は問題ないと示されています。
ただし、適法であっても会社に買取義務があるわけではありません。就業規則に定めがない場合、会社は買取を拒否できます。そのため、有給買取を希望する場合は事前に社内ルールを確認し、人事担当者と相談しましょう。
出典:広島県雇用労働情報サイト わーくわくネットひろしま「6-4 未消化の年休を買上げることは問題ないか|労働相談Q&A」
時効で消滅した有給休暇の場合
時効で消滅した有給休暇については、例外的に買取が認められます。有給休暇の請求権は付与日から2年で時効で、行使しなければ権利自体が消滅します。
この場合、もはや休暇を取得する権利がないため、会社が任意で金銭を支払っても違法にはなりません。実務では、福利厚生の一環として導入されるケースもあります。
ただし、在職中の支給となるため、税務上は給与や賞与扱いとなり、税金や社会保険料が差し引かれる点には注意が必要です。
法定日数を超えて付与された有給休暇の場合
法定日数を超えて会社が独自に付与した有給休暇については、買取が認められます。
労働基準法で定められているのは最低限の付与日数であり、それを上回る分は法定外休暇として扱われます。この法定外部分は法律の規制対象外となるため、就業規則や労使の合意があれば在職中でも買い取りが可能です。
ただし、法律で保障された法定日数分は買い取れません。自分の有給が法定分か上乗せ分かを確認し、会社のルールに従って判断しましょう。
有給休暇の買取相場と計算方法
有給休暇の買取額には法律で定められた一律の相場はなく、会社が採用する計算方法によって金額に差が出ます。計算方法を知らないまま進めてしまうと、適切でない金額となる可能性もあるため、あらかじめ確認しておきましょう。
計算方法①通常賃金
有給休暇の買取で一般的なのが、通常賃金を基準にした計算方法です。有給を実際に取得した場合に支払われるはずだった賃金を、そのまま買取単価とする考え方です。
月給制であれば「月給÷所定労働日数×買取日数」、時給制なら「時給×1日の所定労働時間×買取日数」で算出します。普段の給与水準が反映されるため、不利になりにくく納得感も高い方法です。
たとえば月給30万円・月20日勤務なら、1日あたり1万5,000円が目安となります。就業規則に定めがない場合は、この通常賃金を基準に交渉するのが無難です。
計算方法②平均賃金
平均賃金を使った計算方法もあります。平均賃金は過去3ヶ月に支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割って算出する方法です。
実際の労働日数ではなく土・日曜、祝日も含めて計算するため、1日あたりの単価が下がりやすいのが特徴です。その結果、通常賃金の6〜7割程度になることもあります。
計算方法③標準報酬月額
有給休暇の買取では、標準報酬月額を基準にした計算方法が使われるケースがあります。社会保険料の算定に用いられる標準報酬月額を30日で割り、1日あたりの単価を算出する方法です。
ただし、この方式を採用するには労使協定の締結が必要で、導入している企業は多くありません。標準報酬月額には上限があるため、給与が高い人ほど通常賃金より単価が低くなる可能性があります。
有給休暇を買い取ってもらう際の注意点
有給休暇の買取が可能なケースであっても、会社に買取の義務はありません。対象にならない日数や違法となる扱いもあるため、事前に以下の注意点を理解しておきましょう。
有給休暇の買取は会社に法的義務がない
退職時の有給休暇買取は適法ですが、会社に応じる法的義務はありません。就業規則に定めがなければ、会社は買取を拒否できます。そのため「法律で認められている」と主張しても、必ずしも通るわけではない点を理解しておきましょう。
ただし、有給休暇を消化する権利は労働者にあります。買取を断られた場合でも、有給をすべて消化してから退職することは可能です。
引き継ぎ完了や退職日の調整を条件に、双方にメリットのある形で交渉する余地は十分にあります。
年5日の取得義務には買取が適用されない
年5日の有給休暇取得義務については、買取で代替できません。
2019年の法改正により、年10日以上の有給が付与される労働者には、年5日を実際に取得させるのが会社の義務です。この5日分は本人が希望しても金銭での処理は認められず、取得させなければ会社が罰則を受ける可能性があります。
退職時も同様で、年度内にこの5日を消化していない場合、会社は買取ではなく休暇として取得させる必要があります。残日数が多くても、すべてが買取対象になるわけではない点に注意しましょう。
出典:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
有給休暇の買取予約は違法
有給休暇の買取で注意すべきなのが、事前に買取を約束する「買取予約」です。入社時や年度初めに、有給を取得させず金銭で処理する契約を結ぶことは労働基準法に違反します。
有給は実際に休むための権利であり、あらかじめ放棄させることは認められていません。仮にそのような契約を結ばされていても、条項自体が無効になるため有給休暇の権利は消えません。
有給休暇の買取は社会保険や所得税の課税対象になる
有給休暇の買取で従業員が受け取るお金は、課税対象です。額面がそのまま手取りになるわけではなく、税金や社会保険料が差し引かれます。
多くの場合、在職中の処理では有給休暇の買取額は「賞与」として扱われ、社会保険料や所得税が引かれるため、手取りは7〜8割程度になります。一方、退職に伴う精算として「退職所得」扱いになると、社会保険料はかからず、退職所得控除も適用されます。
手取りを減らさないために、会社に処理区分を確認したうえで適切な手続きを行いましょう。
まとめ
有給休暇の買取は、労働者を休ませるという制度の趣旨から、在職中は原則として違法です。
ただし、退職時に消化しきれない有給や時効で消滅した分、法定日数を超えて付与された休暇については、例外的に買取が認められます。
一方で、会社には買取の法的義務はなく、年5日の取得義務分や事前の買取予約は認められていません。また、買取金額は計算方法によって差が出るほか、税金や社会保険料の影響で手取りが減るなど注意点もあります。
有給を無駄にしないためには、制度を正しく理解したうえで消化と買取のどちらが有利かを事前に検討し、会社と早めに相談しましょう。
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よくある質問
有給休暇の買取はできますか?
有給休暇の買取は、原則として認められていません。労働基準法では、有給休暇は実際に休んで心身を回復させるための制度とされており、在職中に金銭で買い取ることは違法になります。
ただし、退職が決まっており、退職日までに消化しきれない有給がある場合などは、例外的に買取が認められています。
詳しくは「有給休暇の買取が認められる3つの例外ケース」をご覧ください。
有給休暇の買取相場はいくらですか?
買取相場に法律で決まった金額はありませんが、一般的には有給休暇を取得して休んだ場合と同じ日給が基準とされています。
月給制であれば月給を所定労働日数で割った額、時給制なら時給に1日の労働時間を掛けた金額が目安です。
ただし、会社によっては平均賃金や標準報酬月額を用いる場合もあり、その場合は受取額が下がることがあります。買取を希望する際は、計算方法を事前に確認し、通常賃金での算定を相談してみましょう。
詳しくは「有給休暇の買取相場と計算方法」をご覧ください。
使いきれなかった有給休暇は買い取ってもらえますか?
使いきれなかった有給休暇が、自動的に買い取られることはありません。
退職時であっても会社に買取の法的義務はなく、制度がなければ未消化分は消滅する可能性があります。そのため、何もしなければ有給を失ってしまう点に注意が必要です。
監修 涌井好文(わくい よしふみ) 社会保険労務士
平成26年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。退職時におけるトラブル相談や、転職時のアドバイスなど、労働者側からの相談にも対応し、労使双方が円滑に働ける環境作りに努めている。また、近時は活動の場をWeb上にも広げ、記事執筆や監修などを通し、精力的に情報発信を行っている。
HP:涌井社会保険労務士事務所


