監修 橋爪 祐典
労働分配率とは、企業が生み出した利益のうち、人件費として従業員に還元している割合を示す代表的な指標です。売上や利益の大小だけでは見えにくい「人材への適正な配分」と「企業の成長余力」の両面を測ることができるため、経営分析に欠かせません。
本記事では、労働分配率の定義や計算方法、ほかの指標との違い、業種・規模別の目安水準を解説します。労働分配率が高い・低い場合の対策を押さえれば、従業員への還元と企業成長を両立する、健全な経営判断ができるでしょう。
目次
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労働分配率とは
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち、どれだけが従業員への人件費に充てられているかを示す指標です。
付加価値とは、売上高から外部に支払った原材料費や外注費などを差し引いて、企業内部に残る価値を指します。一般的には、営業利益に人件費や減価償却費、支払利息などを加えた額が付加価値です。
この付加価値に対して、人件費(給与・賞与・法定福利費など)がどの程度を占めるかを計算することで、労働分配率を算出できます。
労働分配率は、企業が得た付加価値の中からどれだけ人材に還元しているかを示すため、経営の健全性や人件費の適正水準を判断する重要な指標となります。
出典:中小企業庁「中小企業白書2025年版 | 第1-1-55図 付加価値額の構成要素(企業規模別)」
労働分配率の計算方法
労働分配率の計算式は、以下のとおりです。
労働分配率の計算式
労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100
たとえば、売上高6,000万円、人件費2,000万円、外部購入費用2,000万円の企業の場合、労働分配率は以下のように計算できます。
付加価値 = 売上高 60,000,000円 − 外部購入費用 20,000,000円 = 40,000,000円
労働分配率 = 人件費 20,000,000円 ÷ 付加価値 40,000,000円 × 100 = 50%
実務では、付加価値の代わりに粗利益(売上総利益)を計算に使うケースもあります。
付加価値と粗利益の違い
付加価値と粗利益(売上総利益)は、どちらも「企業が稼ぎ出した利益」を表す指標ですが、計算方法とカバーする範囲が異なります。
| 指標 | 含まれる費用の範囲 |
|---|---|
| 粗利益 | 商品仕入や材料費など、製造・仕入に直接かかるコスト |
| 付加価値 | 材料費・外注費・運送費・光熱費など、社外に支払う全コスト |
それぞれ、以下のように求められます。
- 付加価値 = 売上高 - 外部購入費用
- 粗利益 = 売上高 - 売上原価
粗利益は、製品・商品の仕入れや製造に関わる原価のみを引いた利益を示します。一方、付加価値は、企業が内部で生み出した真の価値を示すために、外部への支出全体(外注費・運送費・水道光熱費など)を差し引いて算出します。
そのため、労働分配率を付加価値ベースで計算するか、粗利益ベースで簡易的に見るかで、結果が大きく異なる場合があります。
人件費に含まれるもの
労働分配率の計算を正確に行うには、人件費の範囲を把握することが重要です。人件費には、次のような項目が含まれます。
人件費に含まれる項目
- 給与
- 賞与
- 法定福利費
- 福利厚生費
- 退職金
- 役員報酬 など
労働分配率の計算で使用する人件費は、上記すべてを含めた「総人件費」です。会社が負担する健康保険や厚生年金などの社会保険料、通勤費や福利厚生費も含まれます。
労働分配率と労働生産性・人件費率の違い
労働分配率と似た経営指標に、「労働生産性」と「人件費率」があります。
労働生産性は、労働者一人あたりが生み出す付加価値を示す指標です。労働分配率が高い場合でも、生産性が十分に高ければ、健全な経営と判断できるケースがあります。一方で、生産性が低いのに労働分配率が高ければ、人件費が過剰になっている可能性があります。
人件費率は、売上高に占める人件費の割合を示す指標です。原価や外部委託費用が多い業種では、人件費率が低くても、労働分配率が高くなるケースもあります。
労働生産性・人件費率の計算方法
労働生産性と人件費率の計算式は、次のとおりです。
労働生産性と人件費率の求め方
- 労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数
- 人件費率(%)= 人件費 ÷ 売上高 × 100
たとえば、従業員20名、売上1億円、付加価値4,000万円、人件費2,000万円の製造業の企業であれば、それぞれ以下のように求められます。
労働分配率 = 20,000,000円 ÷ 40,000,000円 × 100 = 50%
労働生産性 = 40,000,000円 ÷ 20人 = 2,000,000円/人
人件費率 = 20,000,000円 ÷ 100,000,000円 × 100 = 20%
3つの指標を組み合わせることで、経営状況を多角的に把握できます。どこに改善の余地があるかを見極め、優先順位をつけて取り組むことが可能です。
労働分配率からわかる経営状況
労働分配率を通じて、人件費と利益のバランスが適切かを把握できます。高い場合と低い場合に分けて、労働分配率からわかる事項を整理しましょう。
【高い】人件費の負担が大きい
労働分配率が業種平均より高い場合、人件費が付加価値を圧迫しています。利益確保や将来投資が困難になるため、成長機会を失うリスクがあるでしょう。
中小企業の労働分配率目安は、一般的に70〜80%です。目安を大きく上回る場合、経営効率に課題があると考えられます。
労働分配率が高くなる原因は、売上や付加価値の伸び悩み、人員配置の最適化不足、従業員一人あたりの生産性低下、同業他社と比べた受注単価の低さなどです。
出典:中小企業庁「中小企業白書2025年版 | 第1-1-56図 労働分配率の推移(企業規模別)」
【低い】利益が出やすい
労働分配率が業種平均を下回れば、利益の確保がしやすくなります。一方で、従業員への還元が不十分だと、人材流出や採用難といったリスクが高まります。
このような企業は利益率が高い一方で、従業員の定着率が低く、採用コストが増大する傾向にあります。加えて、従業員のモチベーション低下、優秀な人材の離職、新規採用の困難といった中長期的な経営課題にもつながるでしょう。
【2025年最新】日本の労働分配率の現状
2025年現在、日本企業の労働分配率は上昇傾向にあります。労働分配率は人件費の上昇や、原材料価格の変動といった要因に左右されやすいため、経営戦略を考えるうえでは最新動向の確認が必要です。
2024年度の労働分配率は61.5%
2024年度の統計データによると、労働分配率は日本企業全体で61.5%です。ただし、業種によって労働分配率は異なります。
2023年度から24年度にかけては、賃上げが進みました。同時に、労働分配率に占める人件費の割合が増えたため、労働分配率は下降傾向にあります。
また、大企業では労働分配率が46.4%なのに対し、中規模企業では64.3%、小規模企業では75.5%でした。賃上げに意欲を示す中小企業は多い一方で、厳しい状態が続いているといえそうです。
出典:厚生労働省「ユースフル労働統計2024 第3章 第1-(3)-14図」
労働分配率の目安
労働分配率の目安は、企業規模や業界によって異なります。以下のポイントから目安を把握し、自社の水準を正確に測りましょう。
労働分配率の見るべきポイント
- 企業規模別の労働分配率
- 業界別の労働分配率
企業規模別の労働分配率
労働分配率には、企業規模による水準差が存在します。企業規模別の労働分配率目安は、次のとおりです。
| 企業規模 | 想定される労働分配率目安 |
|---|---|
| 大規模企業(大手) | 約 45〜65% |
| 中規模企業 | 約 70〜80% |
| 小規模企業 | 約 75〜90% |
大企業は、設備投資や研究開発への投資比率や、スケールメリットによる効率性が高いため、相対的に労働分配率が低くなる傾向があります。
一方、中小企業は労働集約的な事業構造が多く、設備投資による生産性向上の余地も限定的です。したがって、労働分配率が高くなる特徴があります。
業界別の労働分配率
業種によって、労働分配率は異なります。一覧を、次の表にまとめました。
| 業種 | 労働分配率(%) |
|---|---|
| 製造業 | 55.3 |
| 情報通信業 | 60.9 |
| 建設業 | 66.4 |
| 運輸業、郵便業 | 82.1 |
| 卸売業・小売業 | 68.6 |
| サービス業 | 71.5 |
| 医療、福祉業 | 83.0 |
自社が属する業界の平均値を確認し、±10%程度の範囲内であれば適正と判断できます。
労働分配率を適切に保つ方法
労働分配率を適切に維持するには、人件費と付加価値の双方をバランスよく管理する必要があります。以下の観点から、総合的に取り組みましょう。
労働分配率を適切に保つ方法
- 生産性を上げる
- 給与規定や人事評価制度を整備する
- 人件費を適正に管理する
生産性を上げる
労働分配率を適正に保つには、従業員一人あたりの生産性を上げるのが効果的です。生産性が向上し企業の付加価値が高まれば、労働分配率は下がります。人件費を削減することなく、労働分配率の水準を保てるでしょう。
主な施策としては、業務のIT化・自動化が挙げられます。また、従業員研修による技能向上や資格取得支援、価格転嫁、無駄な作業の排除と標準化による業務プロセス改善なども有効です。
給与規定や人事評価制度を整備する
透明性の高い給与規定と、成果連動型の人事評価制度を整備することで、労働分配率の適正化が実現できます。これにより、人件費の計画的な管理と従業員のモチベーション向上が期待できます。
制度整備の具体例として、職務内容と責任に応じた基本給設定を行う職能給制度や、売上目標達成率・利益貢献度に応じた成果連動賞与などがあります。
人件費を適正に管理する
労働分配率を適正に保つには、定期的なモニタリングと計画的な人員配置が不可欠です。人件費は一度決まると変えにくいため、計画と継続的な管理が欠かせません。
業務量の変動に応じた人員体制と、正社員・派遣・外注の組み合わせにより、効率的な人件費管理を行いましょう。
実践例としては、人員配置の最適化や、コア業務以外の外注活用、目標値からの乖離を把握できる仕組みなどがあります。
まとめ
労働分配率は人件費を付加価値で割った指標で、自社の人件費バランスを客観的に評価できる経営指標です。
自社の数値を業界平均と比較することで、従業員への適正な還元と、企業成長投資のバランスを見極められます。高すぎる場合は生産性向上や人事制度整備、低すぎる場合は従業員満足度向上を検討しましょう。
定期的な労働分配率の確認により、持続可能な経営判断が可能になります。
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よくある質問
労働分配率の計算方法は?
労働分配率(%)は、「人件費 ÷ 付加価値 × 100」で計算します。
たとえば、売上1億円、売上原価6,000万円、人件費2,000万円、外部購入費用2,000万円の企業なら、付加価値4,000万円に対して、労働分配率は50%になります。
詳しくは、記事内「労働分配率の計算方法」をご覧ください。
労働分配率で適正とされる数値は?
労働分配率の適正な数値は、企業規模と業種によって異なります。中小企業では70〜80%、大企業では50%程度が目安です。業界平均よりも、同業他社との比較が重要になります。
詳しくは、記事内「労働分配率の目安」をご覧ください。
労働分配率が100%を超えると、企業はどうなる?
労働分配率が100パーセントを超えると、人件費が付加価値を上回る状態になります。「人件費 > 付加価値」となり、人件費以外の経費である、家賃や減価償却費を賄う原資がない危険な状況です。
100パーセントに近づいたら、価格改定、生産性向上、人員配置見直しを速やかに実行しましょう。少なくとも、業界平均の範囲内まで改善することが必要です。
監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)
2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。
