会計の基礎知識

流動比率は高いほうがいい?高すぎると危険な理由や業種別の目安を解説

監修 橋爪 祐典

流動比率は高いほうがいい?高すぎると危険な理由や業種別の目安を解説

流動比率とは、企業の短期的な支払能力を測定する財務指標です。貸借対照表に記載される流動資産と流動負債から算出され、資金繰りの安定性を示します。隠れた黒字倒産のリスクも判断できる指標です。

本記事では、流動比率の定義や計算方法、評価基準を解説します。業種別の目安や、改善の具体策も取り上げました。企業の経営体力を数値で可視化し、健全な財務管理に役立ててください。

目次

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流動比率とは

流動比率とは、企業の短期的な支払能力を測る代表的な財務指標です。

1年以内に現金化できる流動資産が、1年以内に支払いの期限がくる流動負債に対してどのくらいの割合を占めているかを示します。

流動資産・流動負債のバランスの指標

流動比率が高いということは、流動負債に対する流動資産の割合が高いということであり、資金ショートのリスクが低く、経営が安定している証拠です。

帳簿上で利益が出ていても、取引先への支払日に手元の現金が不足すれば、会社は黒字倒産しかねません。手元資産を確保するために、流動比率の理解は重要です。

流動資産・流動負債とは

流動比率の計算には、流動資産と流動負債が必要です。

流動資産とは、原則として1年以内に現金化が見込まれる資産です。一例は以下のとおりです。

流動資産の例

  • 現金・預金
  • 売掛金
  • 受取手形
  • 棚卸資産(在庫:販売目的で保有しているもの) など

一方、流動負債は、1年以内に返済・支払の義務がある負債です。流動負債には、次のようなものが該当します。

流動負債の例

  • 買掛金(商品の仕入れ代金で未払いのもの)
  • 支払手形
  • 短期借入金(返済期間が1年以内のもの)
  • 預り金(従業員の給与から天引きした税金など) など

流動比率が大切な理由

流動比率を把握するメリットは、次の3つです。

流動比率を把握するメリット

  • 資金ショートの危険性を察知できる/li>
  • 外部からの信用を得られる
  • 的確な経営判断の材料になる

流動比率が悪化傾向にある場合は、経営の危険信号が出ています。サインを早期につかむことで、在庫のセールによる現金化や、資金調達の準備といった対策を打てるでしょう。

また、銀行が融資を審査する際、流動比率は必ずチェックされます。数値が健全であれば、融資が通りやすくなるでしょう。

設備投資や人材採用といった投資を行う際も、流動比率は役立ちます。自社の短期的な財務体力に問題がないか判断し、適切な意思決定が可能です。

流動比率の計算方法

流動比率の計算方法は、会社の決算書である貸借対照表を使います。貸借対照表の左側(資産の部)から流動資産の合計額を、右側(負債の部)から流動負債の合計額を探しましょう。数値を以下の計算式に当てはめれば、流動比率が算出できます。

流動比率の計算式

流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

たとえば、流動資産が2,000万円、流動負債が1,250万円の企業であれば、流動比率は以下のとおりです。

流動比率(%)= 2,000 ÷ 1,250 × 100 = 160%

流動比率は120%以上を目指そう

流動比率の一般的な目安は、120%以上です。120%の流動比率は、短期負債の総額に対して、2割の支払い余力があることを意味します。売掛金の回収遅れや、想定外の支出といった、不測の事態にも対応できる安定経営の基準です。

流動比率の水準目安を、下記にまとめました。

水準流動比率(%)範囲説明
優良150%以上・財務安全性が高い
・短期負債の支払余力が十分
安全ライン120~149%・健全な状態
・突発的な支出・売掛金の遅延に対応可能
改善の余地あり100~119%・不安定な常態
・突発的な支出に対応できないリスクあり
危険水準100%未満・流動負債を賄えない
・支払遅れの危険

【業種別】流動比率の平均と目安

流動比率の健全な水準は、業種によって大きく異なります。自社が属する業種の平均値と比較し、自社の水準を把握しましょう。

業種流動比率
建設業200.05%
製造業198.66%
情報通信業245.49%
運輸業・郵便業180.53%
卸売業172.90%
小売業160.73%
不動産業・物品賃貸業176.93%
学術研究、専門・技術サービス業189.18%
宿泊業・飲食サービス業154.89%
生活関連サービス業・娯楽業171.99%
サービス業他183.01%
出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査 / 令和3年確報(令和2年度決算実績) 確報」

在庫の多い製造業や卸売業、小売業では、流動比率の目安が130〜180%程度です。物理的な在庫を抱えない情報通信業(IT業界)は、目安が200%以上になります。

流動比率を上げる3つの方法

流動比率を改善するには、流動資産を増やすか、流動負債を減らす必要があります。具体的な方法は、次の通りです。

流動比率を上げる方法

  • 債権の回収を早める
  • 在庫や固定資産を見直す
  • 短期借入金を減らす

債権の回収を早める

流動比率を上げるには、売上債権の回収サイクルを早めましょう。帳簿上は資産でも、回収前の売掛金では支払いができません。債権をスピーディーに現金化することで、流動資産の質が向上し、実質的な支払能力が高まります。

施策の一例は、請求書の発行タイミングを月末締めから納品後即時に早める、入金が遅れた取引先には迅速に督促するルールを設ける、などです。また、回収期間の短いクレジットカード決済や、口座振替の導入も検討しましょう。

在庫や固定資産を見直す

長期間売れ残っている不良在庫や、使われていない固定資産(遊休資産)を処分して現金化すれば、流動資産が増え、流動比率の改善につながります。とくに過剰な在庫は、保管コストや資金繰りの悪化を招く原因にもなるため、定期的な見直しが重要です。

在庫はABC分析などでランク分けし、売れ行きの悪いものから順に現金化を進めるとよいでしょう。

短期借入金を減らす

流動比率を改善するには、短期借入金を減らすのが効果的です。

金融機関と交渉し、短期借入金を返済期間の長い長期借入金へ借り換えましょう。借金の総額は変わらなくても、会計上の分類が流動負債から固定負債へと移ります。短期的な返済プレッシャーが和らぎ、資金繰りも安定します。

流動比率を確認する際の注意点

流動比率による短期支払能力の把握は、時に誤解を招きます。数値に振り回されないよう、次のポイントに注意しましょう。

流動資産の内訳を確認する

流動比率の数字だけをみて安心するのではなく、貸借対照表で流動資産の内訳を確認しましょう。ひと括りに流動資産といっても、現金化のしやすさ(流動性)は、項目ごとに大きく異なります。

たとえば、同じ流動比率150%の会社でも、資産の大部分が「現金・預金」である場合と、「棚卸資産(在庫)」である場合を考えましょう。

前者は、手元資産が十分にあるので、迅速な支払いが可能です。しかし、後者は在庫が計画通りに売れなければ、現金になりません。現金化しにくい資産が多いと、黒字倒産のリスクがあります。

数字の正確性を精査する

貸借対照表に記載されている資産の金額は、必ずしも実態と一致しません。とくに「棚卸資産(在庫)」と「売掛金」の評価額は、実際の価値から乖離している可能性があります。

資産価値が実態よりも過大に評価されていると、流動比率が見かけ上高く算出されるでしょう。しかし、実態は異なるため、誤った経営判断を下してしまう危険があります。

不良在庫や劣化材料は、帳簿上の価格(簿価)より、価値が低い物品です。また、取引先の経営状況が悪化し、売掛金の回収が困難になるケースもあります。

季節変動の影響を考慮する

流動比率の計算には、月次や四半期ごとの数値を使いましょう。計算結果を比較して、季節による売上変動の影響を考慮する必要があります。

小売業やアパレル業、観光業などは、時期によって資金サイクルが変動しやすい業種です。たとえばアパレル業の場合、夏物や冬物のセール前には仕入れによって在庫が膨らみます。したがって、一時的に流動比率が悪化する傾向です。

また、従業員への賞与支払月や、法人税などの納付月には、流動比率が低下することも考慮しましょう。

現金化が難しい資産もある

流動資産の中には、現金化が困難なものが含まれます。たとえば、1年以上売れ残っている滞留在庫や、回収が滞っている不良債権です。帳簿上、資産として流動比率を上げる物品でも、実際の支払能力には貢献しません。

見かけ上の資産が多いと、数字のうえでは安全に見えても実態は火の車、という危険な状態に陥ります。厳しく安全性をチェックする当座比率という指標を併用するとよいでしょう。

流動比率とほかの指標の違い

経営の安全性をより正確に分析するには、流動比率とほかの指標を組み合わせる必要があります。

当座比率

当座比率は、流動比率と同様、企業の短期的な支払能力を測る指標です。最大の違いは、計算の際に棚卸資産(在庫)を除外する点にあります。

棚卸資産は、すぐに現金化できるとは限らず、売れ残れば価値が下がる可能性もあります。そこで当座比率では、売掛金や現預金などのすぐに使える資産(=当座資産)だけで、短期負債をどれだけカバーできるかを確認します。計算式は以下のとおりです。

当座比率(%) =(流動資産-棚卸資産)÷ 流動負債 × 100

当座比率の目安は、100%以上とされます。

流動比率が高くても当座比率が低い場合、在庫過多の可能性があります。両方をセットで確認することで、黒字倒産のリスクや資金繰りの不安定さに早めに気づくことができます。

固定比率

固定比率は、長期的な財務の安定性を測るための指標です。土地や建物、機械などの固定資産を、自己資本だけでどの程度まかなえているかを示します。

計算式は以下のとおりです。

固定比率(%)= 固定資産 ÷ 自己資本 × 100

固定比率の目安は100%以下です。自己資本だけで固定資産を賄えていれば、将来的に返済が必要な負債に頼らず、安定した経営基盤を築けていると判断されます。

固定比率が高い(100%を大きく超えている)場合、設備投資の資金を借入金などの負債でまかなっていることになり、長期的な財務リスクが高まる可能性があります。

自己資本比率

自己資本比率は、会社の総資産のうち、返済する必要がない自己資本の割合です。流動比率が短期的な資金繰りの体力を測るのに対し、自己資本比率は財務体質の強さや倒産リスクの低さを示します。

自己資本比率(%)=自己資本 ÷ 総資産 × 100

自己資本比率が高いほど、借入金への依存が少なく、外部環境に左右されにくい安定した経営基盤があると評価されます。

中小企業では20%以上が標準、40%を超えると優良とされます。一時的に流動比率が低下しても、自己資本比率が高ければ、返済に充てられる余力がある企業と判断される可能性があります。

まとめ

流動比率は、企業の短期的な支払能力を示す数値です。自社の安全性を把握するには、流動比率120%以上を目安としつつ、自社が属する業種の平均値と比較することになります。

ただし、数値が高くても、在庫過多などのリスクが隠れている可能性が否定できません。より厳格な当座比率や、長期的な返済能力を示す固定比率などとあわせて分析することで、企業の実態をより正確に分析できます。

よくある質問

流動比率は高いほうがよい?

流動比率は、高ければ良いというわけではありません。流動比率が高すぎると、資金を有効に活用できていない経営の非効率を示す可能性があります。

詳しくは記事内「数字の正確性を精査する」をご覧ください。

流動比率が100%以下になると起こることは?

流動比率が100%を下回る状態は、現金化できる資産をすべて使っても、返済ができない「危険水域」です。短期的な資金繰りが厳しくなり、黒字倒産のリスクが急激に高まります。

詳しくは記事内「流動比率は120%以上を目指そう」をご覧ください。

流動比率はなぜ大事?

流動比率が大事な理由は、企業の「短期的な健康状態」を示すためです。倒産リスクの管理、信用力の証明、経営判断の根拠など、多くの役割を持っています。実態に基づいた資金繰りを行いつつ、経営を続けるため、流動比率の把握は欠かせません。

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監修 橋爪 祐典(はしづめ ゆうすけ)

2018年から現在まで、税理士として税理士法人で活動。中小企業やフリーランスなどの個人事業主を対象とした所得税、法人税、会計業務を得意とし、相続業務や株価評価、財務デューデリジェンスなども経験している。税務記事の執筆や監修なども多数経験している。

監修者 橋爪 祐典

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