監修 好川寛 プロゴ税理士事務所

準確定申告とは、亡くなった人の相続人が代わりに確定申告を行うことです。本来、確定申告が必要な人が亡くなった場合、相続人となった人は必ずその人の確定申告を行わなければなりません。
ただし通常の確定申告と準確定申告では、期限や必要書類などに違いがあるため、注意が必要です。
本記事では、準確定申告が必要なケースややり方など、詳しく解説します。
目次
- 準確定申告とは
- 準確定申告と確定申告の違い
- 準確定申告が必要なケース
- (1)亡くなった人に納税額があるかを計算する
- (2)確定申告が必要になるケースに該当するか確認する
- 準確定申告が不要なケース
- 準確定申告の義務はないが、したほうがよいケース
- 準確定申告のやり方・手順
- 1.相続人全員に申告が必要という連絡をする
- 2.準確定申告の必要書類を用意する
- 3.準確定申告書に相続人全員の署名をする
- 4.税務署にて申告する
- 準確定申告の期限
- 準確定申告を行う際の注意点
- 期限を過ぎると加算税や延滞税が科せられる場合がある
- 相続人が複数いる場合は申告書作成の相談が必要
- 還付金が発生したら相続税の対象となる
- 所得控除等の適用範囲が通常の確定申告とは異なる
- まとめ
- よくある質問
準確定申告とは
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得について、相続人が代理で確定申告するものです。相続人が複数いる場合には、全員が共同して手続きをする必要があります。
また、準確定申告が必要になるのは所得税の納付または還付がある場合ですが、所得税の納付に関しては義務になるため、必ず準確定申告をしなければなりません。
納付義務があるにもかかわらず、申告漏れがあるとペナルティを受けてしまうおそれがあるため、相続人同士で協力して準確定申告を行いましょう。
出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
準確定申告と確定申告の違い
一般的な確定申告と準確定申告は、申告期限や必要書類など、あらゆる点において違いがあります。具体的な違いについては、以下の表にまとめました。
一般的な確定申告 | 準確定申告 | |
---|---|---|
申告期限 | 申告が必要な年度の翌年の3月15日まで | 相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内 |
申告書類 |
・確定申告書 ・所得金額がわかるもの ・控除証明書 ・本人確認書類 等 | ・(準)確定申告書 ・死亡した人の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表 ・死亡した人の源泉徴収票 ・死亡した人の控除証明書 ・死亡した人の医療費等の領収書 ・委任状(準確定申告書用) |
申告のする場所 | 本人の住民届がある住所を管轄している税務署 | 死亡した人の住所を管轄している税務署 |
申告する人 | 本人 | 相続人全員で行う※連署や個人番号が必要 |
医療費控除の対象 | 1年間に支払った医療費 | 死亡の日までに支払った医療費 |
保険料控除の対象 | 1年間に支払った保険料 | 死亡の日までに支払った保険料 |
扶養控除や配偶者控除の対象 | 12月31日の状況において決定 | 死亡の日の状況において決定 |
出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
上記のように、一般的な確定申告と準確定申告は異なる点が多いため、混同して間違うことのないようにご注意ください。
準確定申告が必要なケース
準確定申告が必要になるのは、原則として死亡した人が確定申告しなければならなかった場合です。逆に言えば、死亡した人が確定申告の対象でなければ準確定申告する必要はありません。
準確定申告が必要かどうかは、以下の手順で確認ができます。
準確定申告が必要かどうかの確認方法
- (1)亡くなった人に納税額があるかを計算する
- (2)(1)の計算で残高(納税額)があり、一定の条件に該当する
(1)亡くなった人に納税額があるかを計算する
通常の確定申告は1月1日から12月31日までの1年間の所得に対しての所得税額を計算し納税しますが、準確定申告の場合は、1月1日から亡くなった日までに確定した所得金額および税額を計算し、申告・納税をします。
納税額の計算手順は以下のとおりです。
- 所得税の対象となる「課税所得」を求める
計算式:所得 - 所得控除 = 課税所得 - 課税所得にかかる「所得税額」を求める
計算式:課税所得 × 所得税率 - 控除額 = 所得税 - 納税する「納税額」を求める
計算式:所得税 - 税額控除 = 納税額
所得控除や税額控除、詳しい計算方法については、別記事「確定申告とは?全くわからない人向けに申告の流れ・対象者について解説!」をあわせてご確認ください。
(2)確定申告が必要になるケースに該当するか確認する
(1)の計算において納税額があり、かつ以下の条件いずれかに該当する場合には、準確定申告が必要です。
準確定申告が必要になるケース
- 給与の収入金額が2,000万円を超えていた
- 源泉徴収されていない所得の合計額が20万円を超えていた
- 給与を複数から受けていてメインの給与以外の所得合計金額が20万円を超えていた
- 公的年金等の収入金額が400万円を超えていた
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円を超えていた
- 土地や建物を売却して受け取った譲渡所得金額が20万円を超えていた
- 生命保険の満期保険金で受け取った課税対象額が20万円を超えていた
出典:国税庁「確定申告が必要な方」
準確定申告が不要なケース
亡くなった人が以下に当てはまる場合は、準確定申告は不要です。
準確定申告が不要なケース
- 給与所得者で年末調整を受けていた場合
- 公的年金の収入金額が400万円以下の場合
- その他収入における課税所得が20万円以下の場合
準確定申告の義務はないが、したほうがよいケース
亡くなった人の状況によっては、準確定申告をすることで還付金が受けられる場合があります。還付金とは、実際に納めるべき納税額よりも多く支払っていた場合、準確定申告(還付申告)により返還されるお金です。
この場合、申告自体は義務ではないため、準確定申告をしなくても罰則などはありません。ただし、申告をしないと還付金を受け取れないので、以下のケースに該当する場合には準確定申告を行うとよいでしょう。
準確定申告によって還付を受けられるケース
- 亡くなった人が勤めていた会社の年末調整を受けていなかった
- 雑損控除や医療費控除などの各種控除を受けられる予定だった
- 退職所得があり所得控除を他の所得から引ききれない
出典:国税庁「【確定申告・還付申告】」
準確定申告のやり方・手順
準確定申告は以下の流れで進めていきます。準確定申告は相続人全員で協力して行う必要があるため、必要書類の書き方や署名の方法などきちんと確認しておきましょう。

1. 相続人全員に申告が必要という連絡をする
上述のように、準確定申告では相続人全員の連署・押印が必要であるため、まずは相続人全員に申告が必要になるということを連絡しましょう。
相続人には包括受遺者も該当し、万が一相続人が1人もいない場合には包括受遺者が準確定申告を行います。
ただし、法定相続人に該当する人で相続放棄をした人については、準確定申告の義務が生じる相続人にはあたりません。
2. 準確定申告の必要書類を用意する
相続人全員に連絡をしたら、実際に準確定申告の手続きを進めていきます。まずは準確定申告に必要な以下の書類を準備しましょう。
- (準)確定申告書
- 死亡した人の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
- 死亡した人の源泉徴収票
- 死亡した人の控除証明書
- 委任状(準確定申告書用)
1.(準)確定申告書
準確定申告を行う際、専用の確定申告書は存在していません。そのため、準確定申告では通常の確定申告書に「(準)」をつける形で申告します。また、確定申告書には被相続人の名前や死亡した人の死亡日などを追記事項として記載しましょう。
確定申告書のダウンロードは、国税庁「確定申告書等の様式・手引き等」から、書類の書き方については国税庁「死亡した方の準確定申告をする場合の記載例」をそれぞれご確認ください。
2.死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表

死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表には、各相続人の氏名や住所等を記載します。
ただし、準確定申告を行う段階では不明な部分もある場合が多いため、わからない箇所は空欄でも構いません。
3.亡くなった人の源泉徴収票
準確定申告では亡くなった人の所得金額を確認するため、源泉徴収票の提出が求められます。源泉徴収票は亡くなった人の勤務先から相続人に対して交付されるので、忘れずに受け取ってください。
なお、亡くなった人が個人事業主である場合は、請求書や領収書など事業に関わるすべての帳票書類が必要になります。
4.亡くなった人の控除証明書や領収書
準確定申告で所得控除を受けるには、各種の控除証明書が必要です。控除証明書は紙で用意することもできますが、電子的交付を受けることもできます。
また、医療費控除を受けるときは亡くなった人が支払った医療費の領収書が必要です。もし領収書を無くしてしまっていた場合は、保健組合から送られる「医療費のお知らせ」を添付書類とすれば医療費控除を受けられます。
出典:国税庁「控除証明書等の電子的交付について」
出典:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
5.委任状(準確定申告用)

委任状(準確定申告用)は、還付金の受け取りを相続人の代表者が一括受領する場合に、ほかの相続人が受領を委任したことを知らせる書類です。つまり、納税が必要な申告では委任状の提出は必要ありません。
委任状では、各相続人の氏名と住所を手書きで記入します。
委任状(準確定申告用)の記載要領については、国税庁「委任状(準確定申告用)の記載要領」から確認できます。
3.準確定申告書に相続人全員の署名をする
相続人が複数いる場合には、準確定申告書に全員の署名が必要です。これは、相続人全員が準確定申告の内容を承諾したという意味合いも含んでいるため、必ず漏れがないようにしましょう。
なお、署名は作成した準確定申告書に連署するやり方がおすすめです。
4.税務署にて申告する
申告書類の用意ができたら、税務署に提出して準確定申告を完了させましょう。申告方法は主に以下の3種類です。
- e-Tax(電子申告)
- 郵送
- 税務署へ直接持参
e-Tax(電子申告)
e-Taxとは、所得税や消費税などをはじめとした国税の申告や申請、納税に関するオンラインサービスです。e-Taxを利用することで、税務署へ直接足を運んだり郵送したりしなくても、自宅から簡単に準確定申告ができるようになります。
なお、e-Taxで準確定申告を行う場合、送信する人が相続人の代表であれば相続人代表の電子証明書を、税理士が代理する場合であれば税理士の電子証明書と相続人代表の電子証明書(省略可)がそれぞれ必要になります。
【関連記事】
e-Tax(電子申告)で確定申告をするやり方とは?スマホでの流れや必要書類を解説
郵送
確定申告書は信書に該当するため、「郵便物」または「信書便物」として郵送しなければなりません。
また、郵送での確定申告書提出日は消印の日付となります。そのため、消印が提出期限を過ぎると期限後申告として扱われるため注意が必要です。
申告書の控えが欲しい場合は、控えの申告書と切手を貼った返信用封筒を忘れずに同封しましょう。
【関連記事】
確定申告書は郵送できる?郵送方法や封筒の書き方・注意点について解説
税務署へ直接持参
税務署の開庁時間は平日8:30〜17:00までの土日祝休みです。すべての税務署に設置されている時間外収受箱であれば土日祝でも24時間投函ができます。
ただし、時間外収受箱は職員に事前に確認してもらうことができません。申告書類の記載内容に不安がある場合は、窓口に直接手続きしに行くとよいでしょう。
準確定申告の期限
準確定申告の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。
たとえば、1月に亡くなった人の相続を3月1日に知った場合は、翌日3月2日から7月1日までが準確定申告期限となります。

また、確定申告しなければならない人が1月1日から3月15日までの間に亡くなった場合の準確定申告の期限は、前年分と本年分の両方とも、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内となります。
この場合、2年分の準確定申告が必要になるため、くれぐれもご注意ください。
出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
準確定申告を行う際の注意点
準確定申告を行う際は、以下の点に注意しましょう。
【準確定申告を行う際の注意点】
- 期限を過ぎると加算税や延滞税が科せられる場合がある
- 相続人が複数いる場合は申告書作成の相談が必要
- 還付金が発生したら相続税の対象となる
- 所得控除等の適用範囲が通常の確定申告とは異なる
期限内に正しく準確定申告を行うためにも、これらの注意点はきちんと抑えておきましょう。
期限を過ぎると加算税や延滞税が科せられる場合がある
準確定申告は所得税法において義務付けられているものなので、申告期限を過ぎると当然ながら法律違反となってしまいます。この場合、ペナルティとして以下の附帯税が科せられる場合があります。
附帯税 | 詳細 |
---|---|
延滞税 | 期限から遅れた日数分課せられ、期限翌日から2ヶ月を基準に税率が異なる 出典:国税庁「延滞税の割合」 |
無申告加算税 | 納税すべきであった税額に対し、50万円までは15%、それ以上は20%が課せられる 出典:国税庁「確定申告を忘れたとき」 |
過少申告加算税 | 納めた納税額よりも少ない額を納めており、修正申告よりも前に税務署から調査・更正の連絡があった場合に課せられる。 出典:国税庁「確定申告を間違えたとき」 |
重加算税 | 特に悪質だと判断された場合に課せられる 期限内申告できれば納付すべき税額の35%、期限後申告となると40%となる 出典:財務省「加算税の概要」 |
これらの附帯税が発生する場合は相続人に対して科せられてしまうため、くれぐれもご注意ください。
相続人が複数いる場合は申告書作成の相談が必要
相続人が複数いる場合の準確定申告は、代表者を決めて手続きを進めることが一般的です。そのため、誰が代表となって申告するのか相続人同士で話し合う必要があります。
もし相続人の距離が離れている場合は手続きに時間がかかってしまうので、期限に遅れないよう署名などはできるだけ早く用意するようにしてください。
還付金が発生したら相続税の対象となる
準確定申告の結果として還付金が発生したら、受け取った還付金も相続税の課税対象となります。
これは、亡くなった後に還付金が発生するとしても、生きている間に潜在的な請求権が亡くなった人に帰属しているため、死亡により顕在化したものと考えられているからです。
そのため、相続税の計算に還付金を含めることを忘れないように気をつけてください。
出典:国税庁「被相続人の準確定申告に係る還付金等」
所得控除等の適用範囲が通常の確定申告とは異なる
上述したように、準確定申告では所得控除が適用可能です。ただし、適用条件が通常の確定申告とは異なるので注意しましょう。
- 医療費控除の対象:
・1月1日から亡くなった日までに亡くなった人が支払った医療費
・死亡後に相続人等が支払ったものを準確定申告で医療費控除の対象に含めることはできない - 社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除等の対象:
・1月1日から亡くなった日までに亡くなった人が支払った保険料等の額 - 配偶者控除や扶養控除等の適用の有無に関する判定:
・亡くなった日の状況
出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
【関連記事】
所得控除とは?種類や対象者、計算方法などを解説
まとめ
準確定申告は、死亡した人が本来するべきであった確定申告を、相続人または包括受遺者が代わって行うことです。一般的な確定申告とやるべきことは同じですが、必要書類や申告期限などが異なるため、漏れがないように準備しなければなりません。
また、相続人が複数人いる場合は全員の署名や押印が必要なので、協力して準確定申告の手続きを進めていく必要があります。万が一、期限に遅れるようなことがあるとペナルティとして附帯税が科せられるおそれがあるので、申告は余裕をもって行いましょう。
※freee会計は準確定申告に対応していません。
よくある質問
準確定申告とは?
準確定申告とは、亡くなった人の相続人が代わりに確定申告を行うことです。本来、確定申告が必要な人が亡くなった場合、相続人となった人は必ずその人の確定申告を行わなければなりません。
準確定申告が必要な人は、記事内「準確定申告が必要なケース」をご覧ください。
準確定申告をしなくていい人は?
亡くなった人が確定申告の対象ではなかった場合、準確定申告をする必要はありません。
たとえば、亡くなった人が勤務先の年末調整を受けていたり、その他収入による課税対象所得額が20万円以下だったりする場合は準確定申告の対象外です。
詳しくは記事内「準確定申告が不要なケース」をご覧ください。
準確定申告を出さないとどうなる?
準確定申告が必要なケースにもかかわらず申告をしなければ、ペナルティが科せられるおそれがあります。主なペナルティは、加算税や延滞税といった附帯税です。
詳しくは記事内「期限を過ぎると加算税や延滞税が科せられる場合がある」をご覧ください。
監修 好川寛(よしかわひろし)
プロゴ税理士事務所代表。20年以上のキャリアをもつ国税OB税理士。税務調査や複雑な税務判断に精通し、幅広い税務相談に対応。クライアントの事業を深く理解し、長期的な視点で最適な税務戦略を支援しています。
