確定申告の基礎知識

退職金をもらったら確定申告は必要?したほうがいいケースや還付申告について解説

退職金をもらったら確定申告は必要?したほうがいいケースや還付申告について解説

退職所得控除とは、退職所得にかかる所得税の計算時に課税対象額から差し引かれる金額のことをいいます。退職金などは、退職する企業で必要な手続きを行うことで、源泉徴収で所得税の精算が完了するため、原則確定申告は不要です。ただし、一定の要件に該当する場合が確定申告が必要になるケースがあります。

本記事では、退職金に確定申告が必要になるケースについて、退職所得控除額や退職所得、退職所得における税額や住民税の算出方法とあわせて解説します。

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目次

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退職金とは

退職金とは、退職時に勤務先の企業から支払われる手当をいいます。

退職者が企業から支払われる退職金は退職手当とも呼ばれ、その所得は給与所得ではなく退職所得に分類されます。また、退職に際して支給される「退職一時金」も、退職所得にあたります。

退職所得のうち課税対象となるのは、退職所得から退職所得控除を差し引いたあとの金額です。なお、退職所得控除の控除額は、勤務年数・退職事由によって変動します。

長年の勤労への報酬も意味する退職所得は、給与所得や事業所得などの総合課税ではなく分離課税の対象となっており、納税者の税負担が軽くなるよう配慮されています。


出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」


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退職金の確定申告は原則不要

退職所得の受給に関する申告書」を勤務していた企業に提出していれば、退職金の支給時に所得税が源泉徴収されるため、退職金を受け取ったことによる確定申告は不要です。

退職金は、上記の手続きを行うことで、退職金が支払われる際に所得税・復興特別所得税や住民税が、源泉徴収および特別徴収されます。勤労に対する報償的給与であり、あくまで一時的なものであることから、退職所得控除などの税負担に関する配慮がされています。


出典:国税庁「退職金と税」

退職所得の受給に関する申告書とは

退職所得の受給に関する申告書とは、退職金を受け取る際に、退職金額や勤務年数などに合わせた正しい税率で源泉徴収を行うために必要な書類のことです。退職金の支払いを受ける前日までに、勤務していた企業に提出する必要があります。一般的には、退職する企業から提示されます。

退職所得の受給に関する申告書を提出せず退職金を受け取ってしまうと、退職金の20.42%(復興特別所得税を含む)が、一律で源泉徴収されてしまいます。万が一、退職所得の受給に関する申告書の提出が漏れてしまった場合は、確定申告により所得税を精算します。


出典:国税庁「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」

退職金の確定申告をしたほうがいいケース

上述したように、退職金の確定申告は原則不要です。ただし、退職のタイミングに応じて確定申告を行うことで、税金の一部が還付される場合もあります。

転職先で年末調整したが、前職の源泉徴収票を提出しなかった場合

原則、以前勤めていた企業から受け取った給与が年間で20万円を下回っていれば、確定申告は不要です。

ただし、転職後の企業での年末調整時に、以前勤めていた企業の源泉徴収票を提出していない場合は、確定申告することで払いすぎた所得税が還付されるされる可能性があります。

退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合

退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、退職所得控除を含めた課税対象額の計算がされません。そのため、受け取る退職所得の全額に一律20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されてしまいます。

この場合、受け取る退職所得額や各種条件によって異なりますが、一般的に確定申告を行うことで源泉徴収税が還付されます。


出典:国税庁「別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表」


出典:国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」

年の途中で退職し、年末調整をしていない場合

給与所得者は毎月の給与や賞与の源泉徴収で所得税を納め、年末調整で正しい納税額を確定します。社会保険料控除・扶養控除・基礎控除などの所得控除は、年末調整時に適用されます。

ただし、年の途中で退職し年末調整がされていないと、源泉徴収税として天引きされていた所得税が精算されないままになってしまいます。また、所得控除が適用されず、所得税を納めすぎている状態になることもあるため注意が必要です。

この場合、退職所得を含めた確定申告を行うことで払いすぎた源泉徴収税が還付されます。なお、退職後に失業保険を受け取っている場合、失業保険は所得税の課税対象ではないため、受け取った分の失業保険(給付)の申告は不要です。


出典:国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」

退職金の確定申告が必要なケース

前述したように、退職金の確定申告は原則不要です。しかし、所得額が規定よりも大きかったり、控除を受けたりする場合は確定申告が必要になります。

また、年金受給者は受給金額に応じて確定申告が義務づけられる場合があります。

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定年退職したら確定申告は必要?確定申告が必要なケースとは

公的年金等にかかる雑所得以外の所得金額が20万円を超す場合

公的年金を受け取っている場合、公的年金等にかかる雑所得以外の所得金額が20万円を上回る場合に確定申告を行う必要があります。

ここでいう所得には、以下のようなものが含まれます。

  • 給与所得
  • 雑所得(公的年金等の雑所得を除く)
  • 配当所得
  • 一時所得

また各所得の例として、雑所得は個人年金や原稿料など、配当所得は株式の配当など、一時所得は生命保険の満期返戻金などが挙げられます。


出典:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

所得控除を受けたい場合

所得控除は15種類あり、その中で主な所得控除は以下のとおりです。

所得控除の種類

  • 医療控除
  • 雑損控除
  • 社会保険控除
  • 生命保険控除
  • 地震保険控除
  • 扶養親族関連の各種控除
  • 寄付金控除

退職の有無にかかわらず、年末調整を受けていない場合に所得控除を受ける際には確定申告が必要です。

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不動産所得や事業所得があり、赤字が発生した場合

退職した人が不動産や事業を経営しており、退職した年に赤字が発生したり退職後にはじめた事業の所得が赤字になったりした場合、確定申告により退職所得と損益の通算が可能です。

この場合、退職所得と損益通算する前に、給与所得・配当所得・雑所得と損益通算し、それでも損益通算しきれない赤字がある場合にのみ退職所得と損益通算できます。


出典:国税庁「No.2250 損益通算」

公的年金等の収入金額の合計が400万円を超す場合

公的年金等の収入金額が400万円を上回る場合は、確定申告が必要です。公的年金等を複数受給している場合は、受給金額の合計が確定申告の対象となります。


出典:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

退職所得にかかる税金と計算方法

退職金は、所得税・住民税の対象です。

以下の項目からは、退職控除額・退職所得・退職所得の税額・住民税それぞれの計算方法について解説します。なお今回は、以下の想定で計算しています。


  • 勤続30年
  • 定年退職
  • 退職金2000万円

①退職所得控除額を計算する

退職所得控除額は勤続年数20年をボーダーに、金額が変動します。


勤続年数退職所得控除額
20年以下400,000円 × 勤続年数(80万円以下の場合は80万円)
20年超8,000,000円 + 700,000円 × (勤続年数 - 20年)

出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

今回は勤続30年を想定しているため、退職所得控除額は以下のように計算できます。

8,000,000円 + 700,000円 × (30年 - 20年)= 15,000,000円

なお、勤続年数に1年未満の端数がある場合は、たとえ1日のみでも「1年」として計算します。そのため、仮に30年と2ヶ月勤務した場合は、端数の2ヶ月が「1年」にカウントされるため、以下のように計算します。

8,000,000円 + 700,000円 ×(31年 - 20年)= 15,700,000円

また、障がい状態が原因で退職せざるを得ない場合は、退職所得控除額に100万円が上乗せされます。

②退職所得を計算する

課税対象になる退職所得は、一般的に以下の方法で計算します。

課税退職所得金額の計算方法

(退職金(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 課税退職所得金額

今回の想定である「退職金2,000万円」に先ほど算出した退職所得控除額を加えることで、以下の退職所得が導き出されます。

課税退職所得金額の計算方法

(20,000,000円 - 15,000,000円円)× 1/2 = 2,500,000円

源泉徴収票に「収入金額」や「退職に起因する源泉徴収前の収入金額」と記載されているものが、いわゆる源泉徴収前の退職金額です。

確定給付企業年金規約に基づき支給される退職一時金などで、従業員本人が負担した保険料・掛金がある場合、支給額から従業員が負担した保険料・掛金の金額を差し引いた残額が退職所得の金額とされます。

ただし、退職手当等が「特定役員退職手当等」に該当する場合は注意が必要です。

役員等としての勤続年数が5年以下の人が勤続年数に応じた退職金を受け取る場合、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額が退職所得の金額になります。よって、上記の計算式における「2分の1計算」は適用されません(2013年分以後)。

役員等としての勤務年数とは、勤続年数のうち役員等として働いた期間(1年未満切り上げ)を指します。ここでいう「役員等」に該当するのは、以下の役職です。

退職所得にかかる役員等の役職例

  • 企業の取締役
  • 執行役
  • 監査役
  • 理事
  • 清算人
  • 国会議員
  • 地方公共団体の議員
  • 国家公務員
  • 地方公務員

また、退職手当等が「短期退職手当等」に該当している場合は、短期勤続年数に対して退職手当等として支払いを受けます。

短期勤続年数は、勤務期間により計算した勤続年数が「5年以下」の場合が対象です。(役員等以外)。勤続年数内に役員等としての勤務期間がある場合、役員等の勤務期間を含めて計算しなければなりません。

この場合、特定役員退職手当等に該当しないものについて、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額が300万円を上回る部分は、上記の計算式における「2分の1計算」は不要です。


出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

③退職所得の税額を算出する

退職所得の所得税額を求める計算式は、以下のとおりです。

所得税の計算方法

(課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額)× 102.1% = 退職金の所得税額

上記の計算式を①と②で算出した数字に当てはめると、退職所得の税額が算出可能です。なお、税額に1円未満の端数がある場合は「切り捨て」とします。

(2,500,000円 × 10% - 97,500円)× 102.1% = 155,702円(端数切捨て)

課税退職所得金額から源泉徴収すべき所得税・復興特別所得税の額は退職所得金額に応じて変動するため、以下の速算表を参考にしてください。


課税退職所得金額(A)※所得税率(B)控除額(C)税額=((A)×(B)-(C))×102.1%
195万円以下5%0円((A)× 5%)× 102.1%
195万円超330万円以下10%9万7,500円((A)× 10% - 97,500円)
330万円超695万円以下20%42万7,500円((A)× 20% - 427,500円)× 102.1%
695万円超900万円以下23%63万6,000円(A)× 23% -636,000円)× 102.1%
900万円超1,800万円以下33%153万6,000円((A)× 33% - 1,536,00
1,800万円超4,000万円以下40%279万6,000円((A)× 40% - 2796,000円)× 102.1%
4,000万円超45%479万6,000円((A)× 45% - 4,796,000円)× 102.1%

課税退職所得金額(A)に1,000円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。


出典:国税庁「別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表」

④住民税を算出する

住民税は、課税退職所得金額に住民税率を乗じることで算出できます。

住民税の計算方法

課税退職所得金額 × 住民税率(10%) = 住民税

課税退職所得の金額にかかわらず、住民税率は一律10%となります。10%の内訳は、以下のとおりです。


  • 都道府県民税4%
  • 市区町村税6%

②で算出した課税対象の退職所得金額を、上記の計算式に当てはめて住民税を算出しましょう。

2,500,000円 × 10% = 250,000円

③の計算式で算出した所得税額と、算出した住民税をあわせた金額が、退職金にかかる税金となります。

155,702円(所得税)+ 250,000円(住民税)= 405,702円

退職金に関する確定申告の特殊なケース

ここでは、退職金を受け取る際に発生する以下のような特殊なケースの場合に必要な対応について紹介します。

退職金を受け取る本人が亡くなった場合

退職金を受け取る本人が亡くなり、被相続人に支給されるべきであった退職手当金や功労金のほか、これに準じる給与などを「退職手当金等」といいます(物品による支給の場合も「退職手当金等」に含まれます)。

亡くなった後、3年以内に支払いが確定した「退職手当金等」を相続する者が受け取った場合、相続税の課税対象となります。

非課税限度額の計算方法は以下のとおりです。

非課税限度額の計算方法

5,000,000円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

たとえば、法定相続人が3人の場合は以下のように計算します。

非課税限度額:5,000,000円 × 3(法定相続人の数) = 15,000,000円

法定相続人の数は、相続の放棄をした人も相続人の数に含みます。また、法定相続人の中に養子がいる場合の法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までです。


出典:国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」

1年で複数回の退職金を受け取る場合

複数の企業に所属していた等の理由で、同じ年に2回以上の退職金を受け取る場合は「退職所得の受給に関する申告書」の記入や提出時に注意が必要です。

同時に2つ以上の企業(支払者)に申告書を提出する際は、申告書に順番を記載して提出します。

また、すでに受け取り済みの退職金がある場合は、支払者の名称・退職金額・源泉徴収税額などを申告書に記入し、受け取り済みの源泉徴収票を添付して勤務先に提出してください。

まとめ

退職金は源泉徴収後に支払われるため、確定申告は原則不要です。ただし、場合によっては確定申告が義務づけられます。また確定申告により、源泉徴収税が還付される場合もあります。

本記事で紹介した、退職控除額・退職所得・退職所得の税額・住民税の計算方法を用いながら、自身がどのケースに該当するかを確認したうえで確定申告を行いましょう。

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