監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
アパート経営をする際に個人事業主として開業しておけば、経費にできるものが増えたり、青色申告ができたりとさまざまなメリットがあります。個人事業主への開業は税務署に開業届を提出するだけなので、法人化と比較すると少ない手間で始められます。
本記事では、個人事業主としてアパート経営をするメリットや確定申告の際の気になる疑問を解説します。
目次
- 個人事業主になってアパート経営(不動産賃貸業)をするメリット
- 法人化に比べて少ない手間で始められる
- 青色申告で特別控除が受けられる
- 経費にできる項目が増える
- 赤字を繰り越し・繰り戻しできる
- 個人事業主になってアパート経営をするデメリット
- 個人事業税がかかる
- 青色申告は書類が多く複雑
- 個人事業主になるための開業届の提出方法は?
- 個人事業主が自分で確定申告をする方法は?
- アパート経営の確定申告に関するよくある疑問
- アパート経営の家賃収入は確定申告が必要?
- 家賃収入は不動産所得?それとも事業所得・雑所得?
- 不動産所得の計算方法は?
- アパート経営で経費として認められる出費は?
- 建物の法定耐用年数(償却期間)は?
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
freee会計で電子申告をカンタンに!
freee会計は〇✕形式の質問で確定申告に必要な書類作成をやさしくサポート!口座とのデータ連携によって転記作業も不要になり、入力ミスも大幅に削減します。
個人事業主になってアパート経営(不動産賃貸業)をするメリット
個人事業主になってアパート経営をするメリットは、主に以下が挙げられます。
個人事業主になってアパート経営をするメリット
- 法人化に比べて少ない手間で始められる
- 青色申告で特別控除が受けられる
- 経費にできる項目が増える
- 赤字を繰り越し・繰り戻しできる
それぞれのメリットを、以下で詳しく紹介します。
法人化に比べて少ない手間で始められる
個人事業主としての開業手続きは、基本的に税務署に開業届を提出するだけです。
法人を設立する場合には、会社としての概要(所有方式、法人の種類など)を決め、定款を作成し、登記申請書類を準備して法務局に提出するなど一連の手続きが必要です。個人事業主の開業と比べると、事業開始までに手間と時間、費用がかかります。
また、決算・申告・納税も法人のほうがはるかに複雑な手続きが必要です。個人事業主の場合は、確定申告ソフトウェアを活用するなどの方法で対応しやすい面があります。
青色申告で特別控除が受けられる
個人事業主は、事前に青色申告承認申請手続をしておけば、確定申告で青色申告が可能です。
開業せずにアパート経営をする場合、確定申告は自動的に白色申告になります。白色申告と比較すると、青色申告は最大65万円の特別控除が受けられる点が大きなメリットです。
アパート経営で不動産所得を得ている場合、複式簿記で記帳を行い、確定申告時に青色申告決算書を添付することで55万円の特別控除が受けられます。さらにe-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行うと、最大額の65万円の特別控除が受けられます。
【関連記事】
青色申告とは? 知っておきたい基礎知識、 白色申告との違いについて解説
経費にできる項目が増える
開業して個人事業主になることで、経費にできる項目が増えます。たとえば以下が挙げられます。
- 固定資産税、都市計画税、不動産取得税などの税金
- 保険料
- 管理費、修繕費
- 減価償却費
- 借入金利子
- 税理士・司法書士への報酬
家賃収入から、必要経費を差し引いた不動産所得に対して税金が課せられます。必要経費をより多く計上できることで節税が可能です。
また、青色申告では、配偶者や親族への給与(青色事業専従者給与)を必要経費として計上することが認められています。アパート経営で、配偶者や親族を従業員として雇用した際には、給与を必要経費として計上することが可能です。
赤字を繰り越し・繰り戻しできる
個人事業主になって青色申告することで、赤字の繰り越し・繰り戻しが可能です。アパート経営で赤字が出たときも、赤字の繰り越し・繰り戻しで納税額を抑えられます。
赤字の繰り越しは、翌年以降3年間にわたって繰り越しができ、翌年以降の黒字と相殺して支払う税額を抑えることが可能です。
相殺することで、すでに納めた所得税との差額分が還付金として返還されます。
個人事業主になってアパート経営をするデメリット
個人事業主になってアパート経営をするデメリットは、以下が挙げられます。
個人事業主になってアパート経営をするデメリット
- 個人事業税がかかる
- 青色申告は書類が多く面倒
それぞれのデメリットを、以下で詳しく解説します。
個人事業税がかかる
個人事業主になると、地方税として個人事業税がかかります。個人事業税の納付額の計算は、次の通りです。
納税額=(前年の事業所得金額-各種控除額)× 業種に応じた税率(不動産貸付業は5%)
前年の事業所得金額を差し引いた金額に対して、業種に応じた税率をかけた金額を個人事業税として納付します。不動産貸付業の場合、業種に応じた税率は5%です。
なお、個人事業税の控除のひとつに事業主控除があり、1年間を通して事業を行っていれば控除額は290万円です。所得金額が290万円以下の場合には、個人事業税はかかりません。
青色申告は書類が多く複雑
青色申告(65万円控除を受ける場合)は、白色申告に比べて提出書類が多いです。それぞれの提出書類は、次の通りです。
申告方法 | 提出する書類 |
---|---|
青色申告(65万円控除を受ける場合) | ・確定申告書B ・青色申告決算書 ・貸借対照表 ・損益計算書 ・第三表(分離課税用、事業所得に加え譲渡所得がある場合) ・第四表(損失申告用、赤字で青色申告する場合) |
白色申告 | ・確定申告書B ・収支内訳書 |
上記のように、確定申告をする際の複雑さが増えてしまうため、間違いがないよう正確に申告しなければいけません。
個人事業主になるための開業届の提出方法は?
個人事業主として開業するためには、開業した日から1ヶ月以内に開業届を提出します。
また、青色申告する場合には、青色申告承認申請書の提出も必要です。開業届を提出するタイミングで青色申告承認申請も済ませておくとよいでしょう。
開業届や青色申告承認申請書は、国税庁ウェブサイトからPDFでダウンロードして、印刷・記入のうえ書面で税務署に届出・申請ができます。また、e-Taxソフトウェアでの提出も可能です。
個人事業主が自分で確定申告をする方法は?
個人事業主が自分で確定申告をするには、必要書類を準備して確定申告書を作成し、提出期間に必要書類一式を税務署に提出します。
開業から青色申告を行うやり方は、以下のような流れです。
自分で確定申告をする方法
- 開業届・青色申告承認申請書を税務署に提出する
- 確定申告書の作成と必要書類を準備する
- 確定申告書と必要書類を提出する
確定申告は、書面での提出(税務署に直接提出または郵送で提出)のほか、e-Taxによる電子申告も可能です。1月1日から12月31日までの事業の所得や所得税額を、翌年の2月16日から3月15日の間に申告します。
アパート経営の確定申告に関するよくある疑問
アパート経営の確定申告のよくある疑問を回答していきます。
アパート経営の確定申告のよくある疑問
- アパート経営の家賃収入は確定申告が必要?
- 家賃収入は不動産所得?それとも事業所得・雑所得?
- 不動産所得の計算方法は?
- アパート経営で経費として認められる出費とは?
- 建物などの法定耐用年数(償却期間)は?
アパート経営の家賃収入は確定申告が必要?
アパート経営の家賃収入は、基本的に確定申告が必要です。
会社員の場合はお勤め先が所得税の申告・納税を行ってくれますが、不動産所得の場合は、1年分の所得と税額を計算して確定申告を行う義務があります。
個人事業主であれば48万円以下、会社員の副業であれば20万円以下の所得の場合は、確定申告が不要ですが、アパート経営の家賃収入となると多くの場合はその金額を上回ることが想定されるでしょう。
家賃収入は不動産所得?それとも事業所得・雑所得?
家賃収入は、不動産所得に分類されます。アパートなどの部屋や建物を貸すだけでなく、土地を貸した場合に得られる所得も不動産所得です。
なお土地や建物の貸し付けでは一部、事業所得や雑所得に該当する場合があります。
たとえば、賄い付き下宿は、部屋を貸すだけでなく食事を出す役務の提供も含まれるので事業所得(規模によっては雑所得)です。保管責任を伴う有料駐車場の貸し付けも事業所得または雑所得です。
不動産所得の計算方法は?
不動産収入から必要経費を差し引いた金額が、不動産所得です。この不動産所得に対して、所得税や住民税などの税金がかかります。不動産収入に含まれるものは、以下が挙げられます。
不動産収入に含まれるもの
- 不動産(土地、建物など)の貸し付けによる家賃収入
- 名義書換料、承諾料、更新料、頭金など
- 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
- 賃貸物件の礼金、権利金
- 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など
アパート経営で経費として認められる出費は?
個人事業主のアパート経営で必要経費として認められるのは、以下が挙げられます。
アパート経営で経費として認められる出費
- 固定資産税、都市計画税、不動産取得税などの税金
- 保険料
- 管理費、修繕費
- 減価償却費
- 借入金利子
- 税理士・司法書士への報酬
- 水道光熱費
- 立ち退き料
不動産所得を計算する際、登録免許税・不動産取得税・印紙税・固定資産税・事業税などは経費として認められます。同じ税金でも所得税や住民税は経費にならないので注意しましょう。
貸し付けの対象となる建物や部屋に火災保険や地震保険を掛けた場合、その保険料も経費です。
アパート経営は、まず不動産を取得する必要があるため、初期投資の金額が大きいのが特徴です。仮に、金融機関から資金を借り入れて土地や建物、マンションなどを購入した場合は、借入金利子は経費として認められます。
ただし元本の返済金は経費にはなりません。
建物の法定耐用年数(償却期間)は?
アパートの構造別の耐用年数(償却期間)は次の通りです。
構造の種類 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
鉄骨造 | 骨格材の厚み3mm以下:19年 骨格材の厚み3mmを超え4mm以下:27年 骨格材の厚み4mm以上:34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
アパートの建物は、減価償却費として一定の計算方法で毎年経費化します。耐用年数(償却期間)は財務省の別表により定められていて、アパートの建物の場合は上記の期間です。
減価償却費の計算方法には、毎年一定の額を償却する定額法と、毎年一定の率で償却する定率法があります。個人事業主の場合は、基本的に法廷償却方法は定額法です。
届け出をすることによって定率法を選択することもできますが、建物の償却法は定額法しか選択できません。
まとめ
アパート経営は、個人事業主としてなら簡単な手続きで始められます。
また、開業届を提出して青色申告で確定申告すれば、最大65万円の特別控除が受けられます。赤字を繰り越し・繰り戻しができることも大きなメリットです。
確定申告の際には、確定申告ソフトを活用することで、少ない手間で済ませられます。アパート経営を行う場合は、個人事業主としての開業がおすすめです。
確定申告を簡単に終わらせる方法
確定申告に関する作業を効率化したいとお考えの方には、確定申告ソフト「freee会計」の活用がおすすめです。
freee会計には、以下のような機能があります。
- 銀行口座やクレジットカードを同期して出入金を自動入力
- 家計簿感覚でできる帳簿付け
- 確定申告時、税額控除の金額を自動算出
- e-tax(電子申告)対応でオンライン申告も可能
日々の経費管理から確定申告の対応まで、さまざまな作業を自動化して時間や手間を大幅に削減できます。
勘定科目も予測して入力できるため、慣れない人でも安心して使用いただけます。
また、確定申告の際には質問に回答すると税額控除の金額を自動算出できます。ご自身で面倒な計算をする必要がなく、スムーズな書類作成が可能です。
さらに有料プランでは、チャットで確定申告について質問ができるようになります。オプションサービスに申し込めば、電話での質問も可能です。
freee会計を使うとどれくらいお得?
税理士などの専門家に代行依頼をすると、確定申告書類の作成に5万円〜10万円程度かかってしまいます。freee会計なら月額980円(※年払いで契約した場合)から利用でき、自分でも簡単に確定申告書の作成・提出までを完了できます。
忙しい年度末の負担を減らすためにも、ぜひfreee会計の利用をご検討ください。
よくある質問
個人事業主になってアパート経営をするメリットは?
個人事業主になってアパート経営をするメリットは、以下が挙げられます。
- 法人化に比べて少ない手間で始められる
- 青色申告で特別控除が受けられ、経費にできる項目が増える
- 赤字を繰り越し・繰り戻しできる
個人事業主になってアパート経営をするメリットを詳しく知りたい方は「個人事業主になってアパート経営 (不動産賃貸業)をするメリット」をご覧ください。
個人事業主になってアパート経営をするデメリットは?
個人事業主になってアパート経営をするデメリットは、以下が挙げられます。
- 個人事業税がかかる
- 確定申告する際の青色申告には書類が多く面倒
デメリットを詳しく知りたい方は「個人事業主になってアパート経営をするデメリット」をご覧ください。
個人事業主にならなくてもアパート経営はできる?
開業届を提出して個人事業主にならなくても、アパート経営は可能です。その場合は、確定申告は自動的に白色申告で行います。
アパート経営を行うのは個人事業主か法人どっちがいい?
所得金額が900~1,000万円を超えるあたりが法人化を考える目安です。そのタイミングで法人化したほうが、個人事業主の場合よりも税金の負担額を抑えられます。
個人事業主は決算・申告・納税の手間が少なく、青色申告で確定申告すれば、最大65万円の特別控除が受けられるのがメリットです。個々の状況や所得金額にあわせて自身の事業に適した形態を選択しましょう。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ)
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。