監修 好川寛 プロゴ税理士事務所
支払調書は、報酬を支払った事業者が「誰に、どのような内容で、年間いくら支払ったか」を税務署に報告するための書類です。確定申告の時期にフリーランスや個人事業主が受け取りますが、源泉徴収票との違いや添付の要否が分かりにくく、扱いに迷うかもしれません。
この支払調書は、税務署が申告漏れなどを確認するために使われ、一定の支払に該当する場合には、報酬の支払者には税務署への提出義務があります。しかし、受け取った側には確定申告書への添付義務はありません。
本記事では、フリーランスや個人事業主が知っておきたい支払調書の役割、確定申告での必要性、届かない場合などのトラブル対処法について解説します。
目次
支払調書とは
まず、支払調書がどのような書類なのか、役割と目的を理解しましょう。
支払調書の役割と目的
支払調書とは、報酬を支払った事業者が「誰に、どのような内容で、年間いくら支払ったか」といった情報を記載し、税務署に提出するための書類です。正式には「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」といい、報酬の内容に応じて複数の種類があります。
税務署は、この支払調書と、報酬を受け取った側が提出する確定申告書の内容を照らし合わせることで、申告された売上額が正しいか、納税が適切に行われているかを確認します。つまり、支払調書の主な目的は、税務署が納税者の申告漏れや誤りを把握し、適正な徴税を行うことにあります。
重要なのは、支払調書の作成と税務署への提出は、あくまで報酬を支払った側の事業者に課せられた法律上の義務であるという点です。報酬を受け取った側のために発行される書類ではないことを理解しておくことが、後の「確定申告書への添付は不要」という点を理解する上で鍵となります。
支払調書に関する詳しい情報は、「支払調書とは?税務署への提出義務のある範囲から書き方までわかりやすく解説」をご覧ください。
支払調書と源泉徴収票の違い
支払調書とよく混同される書類に「給与所得の源泉徴収票」があります。どちらも年間の支払額や源泉徴収税額が記載されていますが、その役割と対象者は明確に異なります。
以下にそれぞれの違いをまとめました。
| 項目 | 支払調書 | 給与所得の源泉徴収票 |
|---|---|---|
| 対象者 | 個人事業主・フリーランスなど | 会社員・アルバイト・公務員など(給与所得者) |
| 主な対象となる支払い | 業務委託契約などに基づく報酬(原稿料・デザイン料など) | 雇用契約に基づく給与・賞与など |
| 本人(支払先)への交付義務 | なし | あり |
このように、支払調書は業務委託契約を結ぶフリーランスなどに対して発行されるのに対し、源泉徴収票は雇用関係にある従業員に対して発行されます。
最も大きな違いは、本人への交付義務の有無です。源泉徴収票は、支払者が従業員本人へ交付することが法律で義務付けられています。
一方で、支払調書には支払先本人への交付義務がなく、取引先が発行してくれるのは商習慣や厚意によるものです。この違いが、「支払調書が届かない」という状況が発生する理由の一つとなっています。
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支払調書の確定申告における必要性
支払調書を受け取った人が最も気になるのは、「確定申告でどう扱うべきか」という点ではないでしょうか。ここでは、添付の要否から申告が必要になる基準まで分かりやすく解説します。
確定申告書への支払調書の添付は不要
結論として、確定申告書に支払調書を添付する義務はありません。 添付しなくても、税務上の違反になることはありません。
その理由はシンプルで、報酬を支払った事業者がすでに同じ内容の支払調書を税務署に提出しているからです。 税務署は支払者からの情報であなたの収入を把握しているため、受け取った側が重ねて提出する必要はないのです。
支払調書がなくても確定申告は可能
支払調書は、確定申告を行う上で必須の書類ではありません。あくまで年間の売上額や源泉徴収税額を確認するための参考資料という位置づけです。
確定申告で最も重要となるのは、あなた自身が日々記録している帳簿や、発行した請求書の控えです。これらの記録に基づいて正確な収入と経費を計算し、申告を行うのが原則です。
したがって、万が一支払調書が取引先から届かなかったり、紛失してしまったりした場合でも、ご自身の記録が整理されていれば問題なく確定申告を進めることができます。
確定申告が必要になる所得の基準
確定申告が必要かどうかは所得税が生じるかどうか等で判定します。会社員で年末調整済みの場合、給与・退職所得を除く所得が20万円以下なら、所得税の確定申告は不要とすることができます。ただし、住民税の申告は必要になる場合があります。
より詳しい条件については、国税庁のウェブサイトをご確認ください。
支払調書の情報を確定申告書に入力する方法
支払調書の内容を確認したら、次はその情報を確定申告書に正しく入力します。
ここでは、e-Tax(確定申告書等作成コーナー)と、会計ソフトfreeeでの具体的な入力手順を解説します。
入力対象となる所得区分(事業所得・雑所得)の確認
支払調書に記載された報酬を確定申告する際、まず「事業所得」と「雑所得」のどちらで申告すべきかを判断する必要があります。
- 事業所得:その収入が本業である場合に選択します。事業として継続的・安定的に収入を得ているフリーランスのデザイナーやライターの報酬などが該当します。
- 雑所得:その収入が副業である場合や、一時的なものである場合に選択します。会社員が週末だけ単発の仕事で得た報酬などが該当します。
ご自身の働き方に合わせて、適切な所得区分を選択してください。
e-Tax(確定申告書等作成コーナー)での入力手順
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用してe-Taxで申告する場合の入力手順を、画面のイメージと共に解説します。
手順1. トップページから「作成開始」を選択
手順2. 提出方法を選択する
- e-Tax マイナンバーカード方式:マイナンバーカードを使って電子申告する方法です。
- e-Tax ID・パスワード方式:事前に税務署で発行されたIDとパスワードで電子申告する方法です。
- 印刷して提出:作成した申告書を印刷し、郵送または税務署の窓口へ持参して提出します。
その後作成したい申告書を選択し、e-Taxへログインします。
手順3. 申告する所得の選択
続いて「申告する所得の選択等」画面が表示されます。
支払調書の報酬を入力する場合は、ご自身の働き方に応じて「事業所得」または「雑所得」のいずれか、もしくは両方を入力しましょう。
その後は通常通り、控除の入力や還付方法等などを入力し、確定申告を行います。
出典:国税庁「確定申告書等作成コーナー入力マニュアル」
freee会計での入力手順
会計ソフト「freee会計」を利用している場合、日々の取引を登録しておけば、確定申告時の入力作業はさらに簡単になります。
freee会計での入力手順
- 日々の取引を登録
請求書の発行や口座の入金明細から、売上を登録します。その際、源泉徴収された金額も入力しておきます。 - 確定申告書類の作成画面へ
確定申告の時期になったら、「確定申告」メニューから確定申告が行えます。 - 内容を確認し、質問に答えるだけ
freee会計が日々の取引データをもとに、収入金額や源泉徴収税額を自動で集計し、申告書の該当箇所に反映してくれます。あなたは画面の質問に答えていくだけで、申告書の作成が完了します。
e-Taxでは支払調書を見ながら手動で転記する必要があるのに対し、freee会計では日々の記帳がそのまま確定申告データになるため、転記ミスや入力漏れを防ぎ、作業時間を大幅に短縮することができます。
支払調書の各項目の見方と転記する情報
最後に入力作業の元となる支払調書の、どの項目を見ればよいかを確認しましょう。
確定申告で主に入力するのは、以下の2つの項目です。
支払調書の見方と転記する内容
- 支払金額:1年間にその取引先から支払われた報酬の合計額です。この金額が、確定申告書における「収入金額」の基になります。
- 源泉徴収税額:支払われた報酬から天引きされた所得税および復興特別所得税の合計額です。この金額を申告書の所定の欄に入力することで、納めるべき税額から差し引かれます。
これらの項目を、ご自身の帳簿記録と照らし合わせた上で、確定申告書に正確に転記することが重要です。
支払調書に関するトラブルと対処法
確定申告の準備を進める中で、「支払調書が届かない」「記載されている金額が自分の記録と違う」といった予期せぬトラブルに遭遇することがあります。
しかし、慌てる必要はありません。ここでは、そうしたケースごとの具体的な対処法を解説します。
支払調書が届かない・ない場合の対処法
取引先から支払調書の提出期限である1月末を過ぎても書類が届かない場合、不安に思うかもしれませんが、問題はありません。
前述の通り、支払調書は確定申告書への添付義務がなく、あくまで参考資料です。確定申告の根拠となるのは、あなた自身が記録している帳簿、発行した請求書の控え、そして事業用口座の入出金明細です。
これらの資料に基づいて、ご自身で1年間の正確な売上金額と源泉徴収税額を計算し、申告を行ってください。
そもそも事業者には支払調書を取引先本人へ交付する義務はないため 、届かないケースは珍しくありません。支払調書の有無にかかわらず、日々の記帳を正確に行い、ご自身の記録を正として申告準備を進めることが重要です。
支払調書の金額が自分の記録と違う場合の対処法
届いた支払調書の「支払金額」や「源泉徴収税額」が、ご自身の帳簿上の記録と異なっていることに気づくケースもあります。この場合も、まずは慌てずにご自身の正しい記録(請求書や通帳など)を信じてください。
金額に差異が生まれる理由としては、以下のようなケースが考えられます。
- 消費税の扱い
支払調書の支払金額が、消費税込みの金額か税抜きの金額か、双方の認識が異なっている。 - 計上タイミングのズレ
あなたが売上の発生ベース(例:12月に納品完了)で計上しているのに対し、取引先は支払日ベース(例:報酬の支払いが翌1月)で支払調書を作成している。 - 取引先の単純なミス
支払調書を作成した取引先側で計算や転記のミスがあった。
対処法としては、まずご自身の帳簿や請求書の控えを再確認し、間違いがないかを確認します。それでも金額が合わない場合、基本的にはご自身の正しい記録に基づいて確定申告を行ってください。
支払調書は参考資料であり、その数字に合わせてご自身の申告内容を修正する必要はありません。もし差異の理由がどうしても気になる場合は、取引先に確認してみるのも一つの方法です。
まとめ
支払調書は、支払者が税務署に提出する書類で、フリーランスや個人事業主の確定申告では参考資料として扱います。添付義務はなく、支払調書の有無にかかわらず、申告は自身の正確な帳簿に基づいて行うことが重要です。支払調書の役割を正しく理解し、慌てずに確定申告を進めましょう。
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よくある質問
支払調書があるのに確定申告しないとどうなりますか?
確定申告が必要な所得があるにもかかわらず申告をしなかった場合、ペナルティが課される可能性があります。
税務署は、取引先から提出された支払調書によって、あなたが誰からいくら報酬を受け取ったかを把握しています。そのため、無申告の状態は税務署に発覚する可能性が非常に高いと言えます。
申告期限を過ぎてから申告した場合や、税務調査で無申告を指摘された場合には、本来納めるべき税額に加えて、「無申告加算税」や「延滞税」といった追徴課税が発生します。余分な税金を納めることにならないよう、必ず期限内に正しく申告しましょう。
支払調書の保管義務はありますか?
報酬を受け取った側(個人事業主など)に、支払調書そのものを保管する法律上の義務はありません。
ただし、支払調書はご自身の年間の売上を確認するための参考資料にはなります。確定申告で使用した他の帳簿書類(請求書や領収書など)と同様に、一定期間((青色申告者は、帳簿や決算関係書類は原則7年、請求書・領収書など一部の書類5年))は保管しておくことが望ましいでしょう。
参考文献
監修 好川寛(よしかわひろし)
プロゴ税理士事務所。元国税調査官。国税(調査・相談2万件・審判実務)×民間(事業会社実務・PdM)の複眼的な視点が強み。クリエイター/IT・SaaS等の現代的ビジネス、海外取引・非居住者税務に明るい。
