
源泉徴収とは、1年間の収入にかかる所得税を、会社側が給与からあらかじめ差し引くことです。つまり、報酬の受け取り時に一定の所得税額を先に納めることになります。
本記事では、源泉徴収がどんな制度か、対象者や対象期間、交付期限などについてわかりやすく説明します。
目次
源泉徴収とは
源泉徴収とは、給与や報酬を受け取る際にかかる所得税を、報酬や給与からあらかじめ一定額差し引き、納税する制度です。

所得税は、報酬を得ている本人が「所得額」「納税額」を自ら計算し、申告および納税する申告納税制度が採用されています。
しかし特定の所得については、報酬を支払う個人または法人が、報酬の支払い時に決められた計算方法で所得税額を計算し、所得税を差し引き納税しなくてはなりません。
源泉徴収義務者とは
源泉徴収制度では、所得税や復興特別所得税を源泉徴収して国に納付する義務を負う者を源泉徴収義務者といいます。会社や協同組合、学校、官公庁、個人や人格のない協会や財団など、対象となる報酬の支払い者はすべて源泉徴収の義務があります。
また、税理士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収の必要はありません。
出典:国税庁「No.2502 源泉徴収義務者とは」
源泉徴収の対象範囲
源泉徴収税の対象となる所得の範囲は、給与や報酬を受け取るものが個人か法人かのどちらかで変わります。
報酬を受け取る者 | 報酬の範囲 | |
個人 | 給与 | 給与や賞与 |
報酬 | ・原稿料、講演料
・弁護士、公認会計士、司法書士などの特定の資格保持者への報酬 ・社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 ・プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などへの報酬 ・映画、演劇、テレビなどの出演料等/芸能プロダクションを営む個人への報酬 ・ホテルや旅館での宴会等で接客を行うホステスなどへの報酬 ・役務の提供に伴う契約に際して支払われる契約金 ・広告宣伝のために支払う賞金/馬主への競馬の賞金 | |
その他 | ・利子、配当 ・退職手当 ・公的年金、保険契約に基づく年金 | |
法人 | 利子・配当など | |
国外居住者 国外法人 | 利子・配当など |
出典:国税庁「源泉徴収のしかた」
源泉徴収の対象となるものは、ほとんどが給与所得です。他にも、コンサルティングの報酬や賞金、広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金、プロスポーツ選手の契約金なども源泉徴収の対象となります。
また、個人事業主やフリーランスも、企業やクライアントから報酬が振り込まれた段階で源泉徴収されています。代わりに会社やクライアントが納税をしていると考えると良いでしょう。
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源泉徴収の対象期間
源泉徴収の対象期間は、その年の1月から12月までの12ヶ月間です。これは、報酬の対象となる労働を行ったタイミングではなく、実際に支払いが行われたタイミングを指します。
源泉徴収票の対象期間 (○年分) | 給与の対象期間 (実際に働いた期間) | 給与が支給される期間 |
2023年分 | 2022年12月 | 2023年1月 |
2023年1月〜2023年11月 | 2023年2月〜2023年12月 | |
2024年分 | 2023年12月 | 2024年1月 |
2024年1月〜2024年11月 | 2024年2月〜2024年12月 | |
2025年分 | 2024年12月〜2025年11月 | 2025年1月〜2025年12月 |
従業員として給与や賞与を受け取る場合
源泉徴収の対象が従業員への給与であった場合、その期間に受け取った給与や源泉徴収で差し引いた所得税について年末調整を行い、実際に納めるべき所得税の過不足を調整する必要があります。
会社によっては、12月分の給与が翌月に振り込まれる場合がありますが、その場合、原則として1月に振り込まれた給与は翌年の源泉徴収の対象です。
年の途中で転職した場合、年末調整を行う会社と前の会社、両方の支給額の合計が年末調整の源泉徴収の対象となります。そのため、年末調整時には必ず転職前の会社の源泉徴収票が必要です。
年末調整を行った後、従業員に源泉徴収票を配布し、内容を通知します。
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個人事業主として報酬を受け取る場合
源泉徴収の対象となる報酬が個人事業主やフリーランスに支払われる場合も、給与同様、報酬が支払われる日がそのまま源泉徴収の対象期間に反映されます。そのため、2023年12月に報酬を支払われた場合の源泉徴収期間は2023年となります。
また、個人事業主やフリーランスの場合、年末調整の書類や源泉徴収票は発行されませんが、、正しい所得税額に修正するためには確定申告が必要です。
源泉徴収税とは
源泉徴収税とは、特定の所得や報酬から差し引かれる所得税および復興所得税のことをいいます。
給与所得の場合、支払われた給与から健康保険や厚生年金などの社会保険料を差し引いた金額を「給与所得の源泉徴収税額表(令和4年分)」にあてはめて、該当する源泉徴収税額を給与から差し引きます。
給与以外の報酬に対して差し引く源泉徴収税の税率は、一部の所得を除き所得税および復興所得税を合わせて10.21%です。ただし、一度に支払う報酬が100万円を超える場合、100万円を超えた分の報酬の源泉徴収税率は20.42%となります。
なお、利子や配当所得および、国外に居住する者などに対する源泉所得税はその種類や金額などによって税率が別途定められているため、詳しくは国税庁ホームページ「令和5年版 源泉徴収のあらまし」で確認しましょう。
源泉徴収税の具体的な計算方法
上述したように、源泉徴収税の税額や計算方法や求め方は給与かそれ以外の報酬・所得かで異なります。給与は国税庁が提示している源泉徴収税額表にあてはめて計算しますが、それ以外の報酬や所得は支払われる報酬に定められた税率を掛けて計算します。
ここでは、原稿料の支払いの際の源泉徴収税額の計算方法を解説します。原稿料の源泉徴収税率は10.21%なので、原稿料にこの税率を掛けて源泉徴収税を求めます。
源泉徴収税の計算式
報酬額 × 10.21 = 差し引かれる源泉徴収税額
例えば、原稿料が12万円の場合、以下のように源泉徴収税を計算できます。
源泉徴収の具体例
原稿料が12万円の場合
120,000円 × 10.21% = 12,252円
ただし、給与などの一部が支払われ、残りが未払いの場合には、実際に支払われた給与などの金額に対応する所得税および復興特別所得税の部分を源泉徴収しなければなりません。
本来30万円の給与を支払うところを、20万円しか支払えなく、残りの10万円が未払いになっていた場合を例として、計算をしてみます。
実際に源泉徴収をされる所得税および復興特別所得税額は以下の手順で計算します。
1.支払われるべきだった所得税等を計算する
まず、その月に支払われるべきだった給与額(30万円)を「給与所得の源泉徴収税額表」に当てはめて、所得税および復興特別所得税額を計算します。

その月の手取り金額(社会保険料等控除後の給与等の金額)が30万円、扶養親族0人の列に該当する金額(8,420円)が、所得税および復興特別所得税額です。
2.実際に支払った給与に対する所得税の計算
上記で算出した所得税および復興特別所得税額に、本来支払われるべきだった給与の額(30万円)を分母とし、実際に支払われた給与の額(20万円)を分子とした比率を乗じて算出します。
実際に源泉徴収される金額の計算式
本来の給与に合わせた源泉徴収税額 × 実際に支払われた給与額 ÷ 本来の給与
実際に上記の金額を当てはめて計算してみましょう。
実際に源泉徴収される金額の計算例
- 本来支払われるべきだった給与の額:30万円
- 実際に支払われた給与の額:20万円
- 扶養家族:0人
- 8,420円 × 20 ÷ 30 = 5,613円
つまり、30万円の給与額から実際に20万円しか支払われなかった場合、5,613円が実際に源泉徴収する税額になります。
源泉徴収されるタイミング
所得税および復興特別所得税の源泉徴収のタイミングは、源泉徴収の対象となる所得が実際に支払われたときです。所得の支払いが確定していても、実際に支払われていなければ、原則として源泉徴収の必要はありません。
また、源泉徴収を目的とした「支払い」には、実際の金銭の受け渡しだけでなく、元本や預金口座に振り替えるなど、支払い債務を消滅させる行為も含まれます。
ただし配当など、役員賞与、組合契約に基づく恒久的施設を通じた事業からの利益の分配は、実際に支払われていなくても、一定期間が経過した日に支払われたものとみなされ、源泉徴収が必要となります。
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源泉徴収された所得税および復興特別所得税の納付方法
源泉徴収された所得税および復興所得税は、給与や報酬を支払う個人や法人が納付します。
納付期限
源泉徴収義務者が源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、源泉徴収の対象となる所得が発生した月の翌月10日までに納付しなければなりません。また、納付期限が土・日曜日、祝祭日に当たる場合は、休日の翌日が納付期限になります。
期日までに支払いが行われない場合、源泉徴収義務者は延滞税と不納付加算税などを支払う必要があります。
企業はこの納付期間に間に合わせるために、年末調整業務のスケジュールを立てることをおすすめします。下記に大まかなスケジュールを紹介するので参考にしてください。
月 | 年末調整業務 |
11月 | ・年内に支払う給与を確定 ・申告書や証明書を従業員から受け取り ・内容の確認と不備の修正 |
12月 | ・年末調整の計算 ・所得税の過不足分の還付、追加徴収 ・源泉徴収票や支払い調書、法定調書などの書類準備 |
1月 | ・税務署への年末調整に関連する書類を提出 ・地方自治体への住民税に関連する書類を提出 ・年末調整に関連する書類の保管 |
なお、常時10人未満に給与等を支払う源泉徴収義務者は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出して承認を受けることで、給与等や退職手当等、税理士等の報酬・料金について所得税と復興特別所得税を以下のように年2回に分けて納付する納期の特例制度があります。
区分 | 納付期限 |
1月から6月までの間に源泉徴収をした 所得税および復興特別所得税 | 7月10日 |
7月から12月までの間に源泉徴収をした 所得税および復興特別所得税 | 翌年1月20日 |
出典:国税庁「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」
納税地
源泉徴収義務者が源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、実際に支払いが行われた日に支払地を所轄する税務署に納付します。納税地は源泉徴収の対象となる所得の支払いを取り扱う事務所または事業所の所在地となります。
支払いを取り扱う事務所などが移転した場合、移転前の支払にかかる源泉所得税および特別所得税の納税地は、移転通知書に記載された移転後の事務所などの所在地となります。
取り扱う事務所または事業所の所在地を管轄する税務署がわからないときは、国税庁ホームページ「税務署の所在地などを知りたい方」を利用して、税務署を検索してください。
出典:国税庁「給与等に係る源泉所得税及び復興特別所得税の納税地」
納付手続き
源泉徴収された所得税および復興特別所得税の納税手続きは、e-Taxを利用した電子申請もしくは、「所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて最寄りの金融機関や税務署の窓口で支払う方法があります。
e-Taxを利用することで、納付書を印刷したり届け出るために足を運ぶ必要がないので、手軽に行えます。
所得税徴収高計算書(納付書)の記載方法は、国税庁ホームページ「所得税徴収高計算書(納付書)の記載のしかた」を参考にしてみてください。
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源泉徴収票の交付期間
源泉徴収票は、通常給与所得者の年末調整後12月中に発行されますが、交付の期限そのものは、源泉徴収の対象となる年の翌年1月31日までです。
また、退職者が出た場合、その会社は退職者への源泉徴収票を退職後1ヶ月以内に交付しなくてはなりません。
出典:e-Gov法令検索「 所得税法|源泉徴収票 」
給与以外の報酬や源泉徴収はその年に支給した金額で計算されるため、会社の従業員が転職年の途中で転職した場合、前の会社と現在の会社の2ヶ所から源泉徴収票が発行されることになります。なお、転職した従業員は現在の会社で年末調整を行う際、前の会社から受け取った源泉徴収票を現在の会社に提出しなければなりません。
給与による年収が2,000万円を超える場合や、副業の収入が20万円を超える場合、住宅ローン控除や扶養控除など、各種所得控除の申告をする際には、確定申告を従業員本人が行う必要があり、その際にも源泉徴収票が必要になります。
給与所得者からの依頼があったにも関わらず源泉徴収票の発行を怠ると、所得税法により懲役や罰金の対象になる可能性があるので注意が必要です。
まとめ
源泉徴収とは、給与や報酬を支払う法人および個人が給与や報酬から所定の金額を差し引き、報酬を受け取る者に代わって納税する制度です。源泉徴収の対象期間は、その年の1月から12月までとなっています。
また、源泉徴収票は1月末に事業所などの住所を管轄する税務署長に提出する法定調書の一つですので、期限に注意して発行漏れがないようにしましょう。
よくある質問
源泉徴収とは?
源泉徴収とは、1年間の収入にかかる所得税を、会社が給与や報酬からあらかじめ差し引くことです。報酬を支払う個人または法人が、報酬の支払い時に決められた計算方法で所得税額を計算し、所得税を差し引いて納税します。
詳しくは「源泉徴収とは」をご覧ください。
源泉徴収では何が引かれている?
源泉徴収では、報酬に対する所得税および復興所得税が引かれており、これを源泉所得税といいます。ここで引かれた源泉所得税と実際に支払わなければならない所得税額および復興所得税額の差額は、年末調整や確定申告で調整します。
詳しくは「源泉徴収とは」をご覧ください。
源泉徴収は誰が行うのか?
源泉徴収は、給与や報酬を支払う法人や個人が行います。この源泉徴収を行う者のことを「源泉徴収義務者」といいます。
詳しくは「源泉徴収義務者」とはをご覧ください。
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