監修 好川寛 プロゴ税理士事務所

雑損控除とは、災害や盗難、横領などによる損害を受けた場合に活用できる所得控除制度です。
確定申告を行って雑損控除の適用を受けることで、所得税や住民税の負担を軽減できます。
本記事では、雑損控除の概要や対象となる資産・損害の原因の要件、確定申告の方法について詳しく解説します。また控除額の計算方法も具体例を挙げて紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
雑損控除とは
雑損控除とは、災害や盗難、横領などによる損害を受けた場合に利用できる所得控除制度です。損害額に応じて算出した金額を所得金額から差し引き、所得税・住民税の負担を軽減できます。
雑損控除においては、対象となる資産と損害の原因にそれぞれ要件が設けられており、それらを満たしたうえで確定申告を行った場合にのみ所得控除の適用が受けられます。
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
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雑損控除の対象となる「資産」の要件
雑損控除の適用対象となる資産は、以下の要件をいずれも満たすものです。
雑損控除の適用対象となる資産の要件
- 納税者本人もしくは、納税者と生計を一にする配偶者や親族(その年の総所得金額などが48万円以下)が所有する資産であること
- 棚卸資産・事業用固定資産など・「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しないこと
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
適用を受けられるのは、自宅用の家屋や家具・家電、衣類、書籍、生活において使用する自動車など、日常生活に必要な資産です。
事業用の資産や棚卸資産、別荘・貴金属・書画・骨董などで1個または1組あたり30万円を超えるものは、生活に通常不要であるとして控除の対象外となります。
雑損控除の対象となる「損害の原因」の要件
雑損控除の適用対象となるのは、損害の原因が以下に該当する場合です。
雑損控除の適用対象となる損害の原因の要件
- 自然現象による災害:震災・風水害・冷害・雪害・落雷など
- 人為による災害:火災・爆発など
- 生物による災害:害虫被害
- 盗難
- 横領
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
詐欺や恐喝など上記に該当しないものによる損害は、雑損控除の対象にはなりません。
雑損控除の計算方法
雑損控除の控除額は、以下2種類の計算方法で算出した金額のうち、いずれか多い方です。
- (損害金額 + 災害関連支出の金額 - 保険金等の額) −(総所得金額等)× 10%
- (災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
各費用の詳細は、以下を参考にしてください。
- 損害金額:損害を受ける直前の該当資産の時価をもとに計算した金額
- 災害関連支出の金額:災害などによって損なわれた資産の取り壊し・除去、盗難や横領によって損害を受けた資産の原状回復などのために支出した金額
- 保険金等の額:災害によって受け取った保険金・損害賠償金などの金額
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
雑損控除の具体的な計算例
今回は、以下のケースを想定して雑損控除の控除額を計算します。
- 総所得金額:5,000,000円
- 損害金額:4,000,000円
- 災害関連支出額:500,000円
- 保険金等の額:300,000円
上記の費用をもとに、2種類の計算方法で控除額を算出すると、金額はそれぞれ以下のようになります。
1.(損害金額 + 災害関連支出の金額 - 保険金等の額) −(総所得金額等)× 10%
=(4,000,000円 + 500,000円 − 300,000円)− 5,000,000円 × 10%
= 3,700,000円
2.(災害関連支出の金額 − 保険金等の額)− 5万円
=(500,000円 − 300,000円)− 50,000円
= 150,000円
それぞれの計算結果を比較して多い方、つまり今回のケースでは1.の計算式で算出した「370万円」が控除額となります。
雑損控除を受けるための確定申告のやり方
雑損控除を受けるためには、確定申告を行わなけばなりません。雑損控除の確定申告における必要書類は、以下の通りです。
雑損控除の確定申告における必要書類
<作成が必要な書類>
- 確定申告書第一表
- 確定申告書第二表
<添付が必要な書類>
- 罹災証明書の写し
- 被災状況が確認できる写真などの書類
- 災害などに関連してやむを得ず支出した金額についての領収書
- 保険金や損害賠償金の受領証明書など金額がわかる書類
- 資産の取得価額、取得年月日がわかる書類 など
出典:大阪市「災害や盗難等により資産に損害を受けた場合の雑損控除の申告について」
必要書類は、雑損控除の適用対象となる損害や資産の種類などによって異なるため、状況に合わせて書類を用意しましょう。
なお申告期間は、2月16日から3月15日まで(開始日・終了日が土日祝日などの場合は、翌開庁日が開始日・終了日)です。
確定申告書第一表の書き方

確定申告書第一表には、雑損控除による控除額を記載します。左側の「所得から差し引かれる金額」の項目の「雑損控除(26)」欄に、計算した控除金額を記載しましょう。
そのほか、該当する控除や収入についても、第一表の各項目に記載します。
確定申告書第二表の書き方

確定申告書第二表には、損害の詳細について記載します。該当箇所は第二表の中央右側、「雑損控除に関する事項(26)」の項目です。記載項目は以下の通りです。
確定申告書第二表の記載項目
- 損害の原因
- 損害年月日
- 損害を受けた資産の種類など
- 損害金額
- 保険金などで補填される金額
- 差引損失額のうち災害関連支出の金額
確定申告書の書き方について詳しくは、別記事「【2025年最新】令和6年分確定申告書の見方と書き方を項目別にわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
災害や盗難に遭った場合に活用できる確定申告以外の制度
災害や盗難に遭った場合は、雑損控除以外にも、災害減免法や自治体ごとの減免制度も活用できます。
概要 | |
---|---|
災害減免法 | 損害金額と災害にあった年の合計所得金額が要件を満たす場合に、所得税の軽減または免除が受けられる制度 |
自治体ごとの減免制度 | 税金の軽減・免除や納税期間の猶予など、自治体ごとに設定された措置の適用が受けられる制度 |
災害減免法
災害減免法とは、以下2つの要件を満たし、その損失について雑損控除の適用を受けない場合に、所得税の軽減または免除が受けられる制度です。所得金額から一定額が控除される雑損控除と異なり、災害減免法においては所得税額から一定額が直接控除されます(税額控除)。
災害減免法の適用要件
- 保険金などによる補填後の損害額が、資産の時価の1/2以上である
- 災害にあった年の納税者の合計所得金額が1,000万円以下である
出典:国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
災害減免法によって控除される金額は、以下のように所得額によって異なります。
所得金額の合計額 | 軽減または免除される所得税の額 |
---|---|
500万円以下 | 所得税の額の全額 |
500万円を超え750万円以下 | 所得税額の2分の1の額 |
750万円を超え1,000万円以下 | 所得税額の4分の1の額 |
その年の所得が1,000万円以下の場合は、雑損控除と災害減免方のうち有利な方を選択できます。所得が1,000万円を超える場合は災害減免法を適用できず、雑損控除のみが適用されます。
なお、災害減免法の対象となる災害と住宅・家財の範囲は、以下の通りです。住宅・家財は、以下の要件をいずれも満たす場合に適用対象となります。
災害減免法の適用対象となる災害
- 自然現象による災害:震災・風水害・冷害・雪害・落雷など
- 人為的な災害:火災・爆発など
- 生物による災害:害虫被害
災害減免法の適用対象となる資産
- 納税者本人もしくは、納税者と生計を一にする配偶者や親族(その年の総所得金額などが48万円以下)が所有する資産であること
- 納税者または扶養親族が日常生活を送る家屋、もしくは納税者または扶養親族の日常生活に通常必要な家具・什器・衣服・書籍などの資産であること
災害減免法による所得税の軽減・免除を受ける場合も確定申告が必要です。確定申告書に適用を受ける旨と被害状況、損害金額を記載して提出します。
出典:国税庁「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
自治体ごとの減免制度
災害を受けた場合は、お住まいの地域における減免制度を適用できる可能性があります。たとえば、千葉県の場合は災害被災者に対して、以下3種類の減免措置などを設けています。
なお、減免制度の内容は自治体ごとに異なるため、お住まいの自治体のホームページなどを確認しましょう。
雑損控除を受ける際に知っておくべきポイント・注意点
雑損控除の適用を受けるにあたっては、事前に知っておくべきポイントや注意点があります。主なポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
雑損控除にまつわるポイント・注意点
- 雑損控除は会社員でも受けられる
- 控除しきれない場合は繰越しが可能
- 遡って申告できるのは5年間まで
雑損控除は会社員でも受けられる
雑損控除は、個人事業主だけでなく会社員も適用を受けられる制度です。
ただし、雑損控除は年末調整の対象外となる所得控除のため、適用を受けるためには雇用形態にかかわらず確定申告を行う必要があります。
控除しきれない場合は繰越しが可能
災害などによる損失金額が高額で控除しきれない場合は、翌年以降に損失を繰り越し、最大3年間にわたってその年の所得金額から控除できます。
たとえば災害にあった年の所得が300万円で、雑損控除による控除額が500万円であった場合に、災害にあった年だけでは500万円を控除しきれません。このとき、控除できなかった200万円分は翌年に繰り越し、翌年の所得金額から控除できるということです。
ただし、繰越控除の適用を受ける場合は、雑損控除の申告をした年から連続して、繰越控除を行う年ごとに確定申告を行う必要があります。
遡って申告できるのは5年間まで
雑損控除の適用対象となる災害にあった年の翌年1月1日から5年間であれば、遡って雑損控除の申告を行い、払い過ぎた税金の還付を受けることができます。損害を受けてすぐに確定申告が行えなかった場合、5年以内に忘れずに申告を行いましょう。
まとめ
雑損控除とは、火災や盗難などによって日常生活に必要な資産に損害を受けた場合に適用できる、所得控除です。
確定申告書の雑損控除に関する項目に必要事項を記載し、損害の状況や金額を示す書類を添付して申告することで、雑損控除の適用を受けられます。
災害のあった年の翌年1月1日から5年以内であれば、雑損控除を申告して払い過ぎた税金の還付を受けられるため、損害を受けた場合は忘れずに雑損控除を申告しましょう。
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雑損控除とは?
雑損控除とは、納税者が要件を満たす資産に対して災害や盗難、横領による損害を被った場合に、損害額に応じて算出する金額を所得から差し引ける所得控除のことです。
詳しくは、記事内「雑損控除とは」をご覧ください。
雑損控除の具体例は?
雑損控除は、たとえば家屋が自然災害によって火災に遭い、大きな損失を被ってしまった場合などに活用できます。控除額が高額で1年では控除しきれない場合、最大3年にわたって繰越控除することが可能です。
控除額の計算方法の具体例は、記事内「雑損控除の具体的な計算例」をご覧ください。
雑損控除の対象となる事故は?
雑損控除の適用対象となる事故、つまり損害の原因にはさまざまな種類があります。震災・風水害などの自然災害や、火災・爆発などの人為的な災害などが、主に適用対象となります。
詳しくは、記事内「雑損控除の対象となる「損害の原因」の要件」をご覧ください。
監修 好川寛(よしかわひろし)
元国税調査官。国税局では税務相談室・不服審判所等で審理事務を中心に担当。その後、大手YouTuber事務所のトップクリエイターの税務支援、IT企業で税務ソフトウェアの開発に携わる異色の税理士です。
