監修 好川寛 プロゴ税理士事務所

譲渡所得とは、個人が資産を売却・交換などによって他人へ譲渡した際に生じる所得です。
土地や建物・株式・会員権など幅広い資産が対象となり、課税方式や所有期間に応じて税率が変わるなど、申告には正確な理解が求められます。
本記事では、譲渡所得の種類・税率や計算方法、確定申告のやり方などについて網羅的に解説します。
目次
\確定申告は簡単オンライン!/
freee会計は、税務署に行かずにオンラインで簡単に確定申告ができます。
e-taxが初めてという方でも安心です!
譲渡所得とは
譲渡所得とは、資産の譲渡によって得た収入がある場合に発生する所得のことです。所得税法では所得を10種類に分類しており、譲渡所得はそのうちのひとつにあたります。
譲渡所得の対象となるのは、以下のような資産です。
譲渡所得の対象となる資産
- 土地
- 借地権
- 建物
- 株式等
- 金地金
- 宝石
- 書画
- 骨とう
- 船舶
- 機械器具
- 漁業権
- 取引慣行のある借家権
- 配偶者居住権
- 配偶者敷地利用権
- ゴルフ会員権
- 特許権
- 著作権
- 鉱業権
- 土石(砂) など
出典:国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
「譲渡」とは、有償・無償を問わず資産の所有権を移転する全ての行為を指し、売買だけでなく交換・競売・現物出資・代物弁済・財産分与なども含まれます。
ただし、事業者が商品を譲渡したことによる所得は事業所得に、山林を伐採して、または立木のまま譲渡した場合の所得は原則として山林所得(山林を取得してから5年以内の譲渡は事業所得または雑所得)に分類されます。
譲渡所得がある場合は、原則として確定申告が必要です。もっとも、生活用動産(家具や衣類、通勤用自動車など普段の生活で使うもの)の譲渡による所得は課税対象外です。
出典:国税庁「No.1300 所得の区分のあらまし」
【関連記事】
所得とは?収入との違いや種類別の計算方法を解説
譲渡所得の種類と税率
譲渡所得の対象となる資産は、課税方法や所有期間によって以下のように分けられます。
譲渡所得の種類
- 課税方法による分類:総合課税と申告分離課税
- 資産の所有期間による分類:短期譲渡所得と長期譲渡所得
譲渡所得の計算では、総合課税と申告分離課税、短期譲渡所得と長期譲渡所得、それぞれどちらに区分される資産なのかによって所得税の計算方法や税率が変わります。
確定申告に際して譲渡所得を計算する際は、各区分に分類される資産の種類を理解しておきましょう。
総合課税と申告分離課税
所得税の計算方法には「総合課税」と「申告分離課税」の2種類があります。所得税は原則として総合課税によって計算しますが、資産の種類に応じて、ほかの所得と分離して税額を計算する申告分離課税が適用されることもあります。
総合課税と申告分離課税の違い
- 総合課税:各種の所得を合計して求めた総所得金額をもとに税額を計算する方法
- 申告分離課税:ほかの所得と合算せずに、その所得単独で税額を計算する方法
譲渡所得の対象資産の課税方法は、以下のとおりです。
譲渡資産の種類 | 課税方法 | ||
---|---|---|---|
土地・建物・借地権 | 申告分離課税 | ||
株式等(上場・一般) | 短期所有土地の譲渡に類似するもの | 申告分離課税 | |
ゴルフ会員権の譲渡に類似するもの | 総合課税(原則) | ||
上記以外の株式等に係る譲渡 | 申告分離課税 | ||
その他の資産(機械器具・車両・著作権・特許権など) | 総合課税 |
総合課税の資産を譲渡した場合は、事業所得や給与所得など他の所得と合算して税額を計算します。総合課税では、課税対象となる所得金額が高くなるほど税率も高くなる仕組み(累進課税)で、所得金額に応じて5〜45%の税率が適用されます。
一方、申告分離課税の対象となる資産の譲渡については、ほかの所得と合算せずに単独で所得税を計算します。税率は、短期譲渡所得と長期譲渡所得で異なります。
出典:国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
出典:国税庁「No.2240 申告分離課税制度」
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
短期譲渡所得と長期譲渡所得
譲渡所得は、資産を所有している期間により「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられます。いずれの所得に該当するか、また総合課税と申告分離課税のいずれの対象となるかによって、所得税・住民税の税率や計算方法が異なります。
種類 | 所有期間 | 課税方法の特徴と税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 (総合課税) | 取得日から譲渡日まで5年以内 | ・全額を他の所得と合算して税額を計算 ・所得税は累進課税、住民税は税率10%を適用 |
長期譲渡所得 (総合課税) | 取得日から譲渡日まで5年超 | ・総所得金額の2分の1を他の所得と合算して税額を計算 ・所得税は累進課税、住民税は税率10%を適用 |
短期譲渡所得 (申告分離課税) | 譲渡年の1月1日時点で5年以下 | ・該当する所得単独で税額を計算 ・土地・建物の譲渡:所得税では30%、住民税では9%の税率を適用 ・株式などの譲渡:所得税では15%、住民税では5%の税率を適用 |
長期譲渡所得 (申告分離課税) | 譲渡年の1月1日時点で5年超 | ・該当する所得単独で税額を計算 ・土地・建物の譲渡、株式などの譲渡ともに所得税では15%、住民税では5%の税率を適用 ※一定の要件に該当する特許権や著作権など、所有期間に関係なく長期譲渡所得として扱われる資産もあります。 |
「取得日」は、原則として土地などの引渡しを受けた日となりますが、納税者の選択により、契約の効力発生の日とすることもできます。
総合課税では「取得日から譲渡日までの期間」で所有期間を判定するのに対し、申告分離課税では「譲渡した年の1月1日時点の所有期間」で判定します。
なお、株式などの譲渡においては、所有期間にかかわらず、一律で所得税では15%、住民税では5%の税率が適用されます。
出典:国税庁「No.1460 譲渡所得(土地、建物及び株式等以外の資産を譲渡したとき)」
出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
出典:国税庁「土地や建物を売ったとき」
出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
譲渡所得金額と税額の計算方法
譲渡所得金額と譲渡所得にかかる税額は、総合課税・分離課税(土地・建物)・分離課税(株式等)の3つに分けて計算します。
譲渡所得金額は、以下の計算式で算出します。
譲渡所得金額の求め方
〈総合課税〉
譲渡所得金額(譲渡益)={短期譲渡所得の収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)}+{長期譲渡所得の収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)}
〈分離課税(土地・建物)〉
譲渡所得金額 = 収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)
〈分離課税(株式等)〉
譲渡所得金額 = 収入金額 −(取得費 + 委託手数料等)
上記の所得金額をもとに、3つの区分それぞれで所得税額を計算します。
所得税額の求め方
〈総合課税〉
-
譲渡益から特別控除額(最大50万円)を差し引く
※まず短期譲渡所得の譲渡益から控除し、控除残額があれば長期譲渡所得の譲渡益から控除する。
※譲渡益が50万円より少なければ、譲渡益の金額が特別控除額となる。 - 1.で算出した短期譲渡所得の譲渡益全額と、長期譲渡所得の2分の1の額を他の所得金額と合計し、「総所得金額」を算出する
- 以下の計算式で、総所得金額に対する所得税額を算出する 所得税額 =(総所得金額 − 所得控除額)× 税率 − 税額控除額
〈分離課税(土地・建物)〉
-
譲渡所得金額から特別控除額を差し引き、課税対象となる譲渡所得の額を求める
課税譲渡所得金額 = 譲渡所得金額 − 特別控除額 -
以下の計算式で、課税譲渡所得金額に対する所得税額を計算する
所得税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率
〈分離課税(株式等)〉
-
以下の計算式で、譲渡所得金額に対する所得税額を算出する
所得税額 = 譲渡所得金額 × 税率
以下では、収入金額の考え方や取得費・譲渡費用など必要経費に含まれるものについて解説します。
出典:国税庁「No.1460 譲渡所得(土地、建物及び株式等以外の資産を譲渡したとき)」
出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
収入金額に含まれるもの
一般的には、譲渡価格を含む「譲渡の対価として買主から受け取る金銭の額」を収入金額とします。ただし、金銭の代わりに物や権利を受け取る場合は、その物や権利の時価が収入金額になります。
土地・建物を売却する際、固定資産税や都市計画税(市町村が都市整備用に課す税金)は、売主が既にその年分を支払っています。そのため、売却日以降の未経過分を買主が売主に支払い、清算します。この清算金は売主の譲渡による収入金額に含まれます。
なお、資産を著しく低い価額で法人に譲渡する場合は、税法上で「低額譲渡」として扱われ、実際の譲渡価額ではなく時価を基準にして所得税が計算・課税されます。低額譲渡とみなされるのは、「時価の2分の1未満の譲渡価額」での譲渡です。
出典:国税庁「収入金額とは」
出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
出典:e-Gov法令検索「所得税法第五十九条第一項」
出典:e-Gov法令検索「所得税法施行令第百六十九条」
取得費に含まれるもの
取得費に含まれるのは、次のような費用です。
取得費に含まれる支出
- 譲渡した資産の購入代金
- 購入時の手数料
- 設備費
- 購入後にかかった改良費など
建物の取得費については、購入代金や建築代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額を用います。減価償却費相当額とは、所有期間中の時間の経過や使用などによる、建物の価値の減少分を見積ったものです。
また、土地や建物の購入時に支払った登録免許税・不動産取得税・印紙税、借主を立ち退かせるためにかかった立退料なども取得費に含まれます。
なお、代々引き継いできた土地など購入時の金額が不明な場合は、譲渡金額の5%を概算取得費とします。たとえば、売却金額が4,000万円の場合、概算取得費200万円を譲渡所得の計算に用います。
出典:国税庁「No.3252 取得費となるもの」
出典:国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」
譲渡費用に含まれるもの
譲渡費用に含まれるものは次のような費用です。
譲渡費用に含まれる支出
- 譲渡の際に支出した仲介手数料
- 貸家を売る際、借家人に建物を明け渡してもらうために支払った立退料
- 土地などを売るためにその上の建物を取り壊した際の取壊費用と、建物の損失額
- 売主が負担した印紙税
- 借地権を売るときに支払う名義書換料など
譲渡費用とは、土地や建物を譲渡・売却するために直接かかった必要経費を指します。
したがって、修繕費や固定資産税、管理費など資産の維持管理のためにかかった費用、あるいは売却代金の取り立てにかかった費用などは譲渡費用には含まれません。
出典:国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」
譲渡所得の特別控除の種類と控除額
譲渡所得の特別控除とは、土地や建物を売ったときに一定の要件に該当すると適用できる特例制度です。特別控除を適用できれば、控除額の分だけ譲渡所得金額が低くなり、税負担を抑えることができます。
譲渡所得の特別控除の種類
- 公共事業などのために土地や建物を売った場合の5,000万円の特別控除の特例
- マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
- 特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除の特例
- 特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除の特例
- 平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除の特例
- 農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例
- 低未利用土地等を売った場合の100万円の特別控除の特例
出典:国税庁「No.3223 譲渡所得の特別控除の種類」
適用できる特別控除の額は、その年の譲渡益全体を通じて「合計5,000万円」が上限です。複数の特例制度の適用を受ける人は、上記1から順に適用し、5,000万円に達するまで適用できます。
【関連記事】
税金の控除制度とは? 所得控除・税額控除の種類や違いを解説
出典:国税庁「No.3223 譲渡所得の特別控除の種類」
マイホームの売却時に適用できる特別控除・特例制度
マイホームを売るときに、特別控除や特例制度を適用できれば税負担を軽減できる場合があります。マイホームの売却時に適用の可否を確認しておきたい制度は、以下の3つです。
マイホームの売却に関する特別控除・特例制度
- マイホームの譲渡による3,000万円の特別控除
- 軽減税率の特例
- マイホームの買換えの特例
マイホームの譲渡による3,000万円の特別控除
マイホームを売却した場合、以下の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。したがって、特別控除の要件を満たせば、譲渡所得があっても3,000万円までは所得税がかかりません。
3,000万円の特別控除の要件
- 売った資産が、下記のイからホまでのいずれかに該当する資産であること
イ 現に自分が住んでいる家屋
ロ 以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限る)
ハ 上記イまたはロの家屋とともに売ったその敷地や借地権
ニ 上記イまたはロの家屋を取り壊した場合のその敷地で、次の2つの要件を満たすもの
a. その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
b. 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと
ホ 家屋が災害により滅失した場合のその敷地で、次の区分に応じた期限までに売るもの
a. 上記イの家屋の敷地の場合は、災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
b. 上記ロの家屋の敷地の場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで - 譲渡した年の前年・前々年にこの特例やマイホームの譲渡損失に関する損益通算および繰越控除の特例の適用を受けていないこと
- 譲渡した年・その前年・前々年にマイホームの買換えや交換の特例の適用を受けていないこと
- 譲渡した家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと(ただし軽減税率の特例とは併用可能)
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に売ったものでないこと(生計を一にする親族や同居親族、内縁関係者なども含まれる)
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
家や土地の所有期間の要件は特にありません。居住用の家屋や土地で上記の要件を満たせば本特例の適用を受けられます。ただし、別荘や投資用マンションは居住用家屋とはいえないため、本特例の対象外です。特例の適用を受けるには確定申告をする必要があります。
出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
軽減税率の特例
「マイホームの譲渡による3,000万円の特別控除」の要件を満たすことに加えて、売却するマイホームの所有期間が10年を超える場合、軽減税率の特例の適用を受けられます。
【10年を超えたマイホームの譲渡特別控除の具体例】
課税長期譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10% | 4% |
6,000万円超の部分 | 15% | 5% |
通常の長期譲渡所得の税率は所得税15%・住民税5%ですが、本特例の適用を受けられれば、6,000万円以下の部分に対する税率は所得税10%・住民税4%になります。
所有期間が10年超かどうかは、売った年の1月1日を基準に判定します。ただし、取り壊された家屋やその敷地は、「家屋が取り壊された日の属する年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること」が要件となります。
本特例は、買換えの特例や交換の特例とは併用できませんが、3,000万円の特別控除とは併用可能です。
出典:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
マイホームの買換えの特例
マイホームの買換えの特例とは、居住期間が10年以上であるなど、一定の要件を満たすマイホームを売却した場合に、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられる特例制度です。
たとえば、1,000万円で購入したマイホームAを4,000万円で売却して6,000万円のマイホームBに買い換え、将来マイホームBを8,000万円で売却するケースを考えてみましょう。
譲渡所得の計算では、通常は売却額から購入額を差し引くので、A売却時の譲渡益は3,000万円(4,000万円 - 1,000万円)、B売却時の譲渡益は2,000万円(8,000万円 - 6,000万円)です。
しかし、マイホームの買換えの特例を適用すると、A売却時の譲渡益3,000万円は将来に繰り延べられるので、Aを売却した時点で所得税は課税されません。繰り延べた3,000万円はB売却時にあわせて課税され、B売却時には譲渡益5,000万円に対して課税される仕組みです。
マイホームを買い換えた際に所得税がかからないことで、「所得税が課されて納税資金を準備できず、買換え後のマイホームを売却せざるを得なくなった」という事態を避けられます。
本特例の適用要件は、「現に自分が住んでいる家屋」や「以前に住んでいた家屋で、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るもの」が対象となる点など、基本的な要件は「マイホームの譲渡による3,000万円の特別控除」と同じです。
ただし、マイホームの買換えの特例では、以下の要件も満たす必要があります。
マイホームの買換えの特例の要件
<売却するマイホームの要件>
- 売った資産は、売った人の居住期間が10年以上、かつ、売った年の1月1日時点で売った家屋やその敷地の所有期間が10年を超えていること
- 譲渡対価は1億円以下であること
<買い換えるマイホームの要件>
- 一定の新耐震基準に適合していること
- 家屋の床面積が50㎡以上、土地はその面積が500㎡以下であること
- 耐火建築物の中古住宅の場合は、取得の日以前25年以内に建築されたものであること、または一定の耐震基準を満たすものであること
- 耐火建築物以外の中古住宅の場合は、取得の日以前25年以内に建築されたものであること、または、取得期限までに一定の耐震基準を満たすものであること
出典:国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」
なお、マイホームの買換えの特例は、軽減税率の特例や譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例との併用はできません。
譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例
一般的に、土地や建物の売却で損失が生じても、他の所得と相殺する「損益通算」はできません。
しかし、一定の要件を満たす場合は、マイホームを買い換えた際の旧居宅の譲渡損失を、その年の給与所得など他の所得から控除することが認められています。さらに、損益通算をしても控除しきれない譲渡損失については、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越す「繰越控除」が可能です。
「現に自分が住んでいる家屋」や「以前に住んでいた家屋で、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るもの」が対象となる点など、基本的な要件は「マイホームの譲渡による3,000万円の特別控除」と同じです。
ただし、本特例の適用を受けるには、住宅ローンの償還期間が10年以上であること、かつ控除しきれない損失があることなど、追加の条件を満たす必要があります。
出典:国税庁「No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)」
譲渡所得の確定申告のやり方
譲渡所得など各種所得の合計額から所得控除を差し引いた残額があれば、基本的に確定申告が必要です。また、土地や建物の譲渡に伴って特例制度の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。
譲渡所得の確定申告は以下の手順で進めます。
譲渡所得の確定申告のやり方
- 必要書類を用意する
- 譲渡所得金額と所得税額を計算する
- 確定申告書を作成する
- 確定申告書の提出・所得税の納付を行う
必要書類を用意する
確定申告で一般的に必要になる書類は以下のとおりです。
確定申告の主な必要書類
- 確定申告書
- 所得金額がわかる書類
- 所得控除や税額控除に関する書類
- 本人確認書類・マイナンバー確認書類
- 銀行口座がわかるもの(還付を受ける場合)
確定申告書のうち、第一表と第二表は必ず提出するものです。他の所得とは分離して所得税額を計算する申告分離課税の対象となる所得がある場合は、「確定申告書第三表(分離課税用)」も併せて作成し、提出します。
譲渡所得金額を計算して確定申告書に記入するために、譲渡所得に関する収入や取得費・譲渡費用などの金額がわかる書類が必要です。
また譲渡所得について申告する場合には、所得の内容や適用を受ける特例などに応じて、以下のような書類が必要となります。
譲渡所得の確定申告の主な必要書類の例
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用 / 総合譲渡用)
- 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
- 売却した居住用財産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- 買い換えた居住用財産の登記事項証明書や売買契約書の写し
- 戸籍の附票の写し など
「譲渡所得の内訳書」は、不動産の所在地・売却価格・取得費や譲渡費用など譲渡所得の内訳を明記したもので、特例適用の有無にかかわらず提出を求められます。
出典:国税庁「A4-1 申告手続き(譲渡所得関係 申告書添付書類)」
譲渡所得金額と所得税額を計算する
不動産の売買契約書をはじめとした書類をもとに収入金額を確認し、また取得費・譲渡費用に含まれるものを集計し、譲渡所得金額とそれにかかる所得税額を計算します。
所得金額と所得税額は、総合課税・分離課税(土地・建物)・分離課税(株式等)の3つの区分でそれぞれ計算します。
詳しい計算方法は、記事内「譲渡所得金額と税額の計算方法」を参考にしてください。
確定申告書を作成する
譲渡所得の申告をするには、まず「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を作成します。
譲渡所得の内訳書の記載事項
- 1面:現住所・電話番号・氏名・職業・関与する税理士の情報
- 2面:譲渡(売却)した土地や建物について
(所在地・資産の詳細・譲渡/売却先・譲渡価額など) - 3面:譲渡(売却)した土地や建物の購入(建築)代金など・償却費相当額・取得費・譲渡費用・各金額をもとに算出した譲渡所得金額など
- 4面:特例の適用に必要な情報など
続いて、確定申告書に必要事項を記載します。
譲渡所得の確定申告における、確定申告書の書き方
- 譲渡所得の内訳書をもとに、第一表の「収入金額等」と「所得金額等」の該当項目に金額を記載する
- 第二表を作成する
- 第二表をもとに、第一表の「所得から差し引かれる金額」の該当項目に金額を記載する
- 譲渡所得の内訳書をもとに、第三表に分離課税の「収入金額」と「所得金額」、「分離課税の短期・長期譲渡所得に関する事項」などを記載する
- 4.の記載内容をもとに第三表の「税金の計算」の箇所に記載する
- 5.で算出した税金の額を踏まえ、第一表の「税金の計算」「その他」などの箇所を記載する
出典:国税庁「確定申告書の記載手順」
確定申告書の第一表・第二表、申告分離課税の所得がある人が提出する第三表の書き方について、詳しくは別記事「【2025年最新】令和6年分確定申告書の見方と書き方を項目別にわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
確定申告書の提出・所得税の納付を行う
作成した申告書類は、原則として、申告対象となる年の翌年2月16日から3月15日の申告期間に所轄の税務署に提出します。申告書を提出する方法は、以下の通りです。
確定申告書の提出方法
- 税務署へ持参して提出する
- 税務署へ郵送して提出する
- 電子申告(e-Tax)を行う
申告書の提出後、申告した所得税額を申告期間内に納付します。所得税の納付方法は、主に以下の7種類です。
所得税の納付方法
- 預貯金口座からの振替納税
- ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替)
- インターネットバンキングやATMからの納付
- クレジットカード納付
- スマートフォンアプリ納付(金額に制限あり)
- コンビニ納付(金額に制限あり)
- 金融機関や税務署の窓口での納付
出典:国税庁「【税金の納付】」>「Q34 税金はどのように納付すればよいですか。」
譲渡所得で節税するポイント
譲渡所得で節税するためには、所有年数を確認して土地や建物を売買すること、特にマイホームを譲渡する場合は、どの特例が対象になるかを確認することが大切です。
土地や建物を売買するときは所有年数に注意
土地や建物を売買するときには、資産の所有年数を確認しましょう。5年超か5年以下かによって譲渡所得の税率が変わります。
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら所得税30%・住民税9%、5年超なら所得税15%・住民税5%です。たとえば、4年保有している物件の売却を検討しているなら、5年を過ぎる時期まで待ってから売買するほうが税負担を軽減できます。
マイホームを譲渡する際は特例の対象かを確認する
マイホームを譲渡する際は、特例の適用対象になっているか確認してください。
3,000万円の特別控除の特例以外にも10年超所有しているマイホームを売却する際は、軽減税率の特例の適用を受けられます。6,000万円以下の部分は所得税10%・住民税4%、6,000万円を超える部分は所得税15%・住民税5%で計算されるため、税負担が軽くなります。
さらに、マイホームの買換えのための譲渡であれば、特例制度の要件を満たすことで譲渡所得の課税を将来に繰り延べることもできます。
まとめ
譲渡所得は、土地や建物、株式などの資産の譲渡によって得た収入がある場合に発生する所得であり、所得税の税率や計算・申告方法は資産の種類や所有期間によって異なります。
総合課税と分離課税、短期譲渡所得と長期譲渡所得それぞれの違いや、非課税となるケース、特例制度などについて理解し、また取得費や譲渡費用を適切に計上して、正しく申告・納税を行いましょう。
確定申告をかんたんに終わらせる方法
確定申告の期間は1ヶ月です。それまでに正確な内容の書類を作成し、申告・納税しなければいけません。
ほかにも、青色申告の場合に受けられる特別控除で、最大65万円を適用するためにはe-Taxの利用が必須条件であり、はじめての人には難しい場面が増えることが予想されます。
そこでおすすめしたいのが、確定申告ソフト「freee会計」の活用です。
freee会計は、〇✕形式の質問で確定申告に必要な書類作成をやさしくサポートします。また、所得額や控除額の計算は自動で行ってくれるため、計算・入力ミスの削減できるでしょう。
ここからは、freee会計を利用するメリットについて紹介します。
1.銀行口座やクレジットカードは同期して自動入力が可能!
確定申告を行うためには、1年間のお金にまつわる取引を正しく記帳しなければなりません。自身で1つずつ手作業で記録していくには手間がかかります。
freee会計では、銀行口座やクレジットカードの同期が可能で、利用した内容が自動で入力されていきます。
日付や金額を自動入力するだけでなく、勘定科目も予測して入力してくれるため、日々の記帳がほぼ自動化でき、工数削減につながります。

2.現金取引の入力もカンタン!
会計ソフトでも現金取引の場合は自身で入力し、登録しなければなりません。
freee会計は、現金での支払いも「いつ」「どこで」「何に使ったか」を家計簿感覚で入力できるので、毎日手軽に帳簿付けが可能です。
自動的に複式簿記の形に変換してくれるため、会計処理の経験がない人でも正確に記帳ができます。

さらに有料プランでは、チャットで確定申告について質問ができるようになるので、わからないことがあったらすぐに相談できます。また、オプションサービスには電話相談もあるので、直接相談できるのもメリットの1つです。
freee会計の価格・プランについてはこちらをご覧ください。
3.〇✕形式の質問に答えるだけで各種控除や所得税の金額を自動で算出できる!
各種保険やふるさと納税、住宅ローンなどを利用している場合は控除の対象となり、確定申告することで節税につながる場合があります。控除の種類によって控除額や計算方法、条件は異なるため、事前に調べなければなりません。
freee会計なら、質問に答えることで控除額を自動で算出できるので、自身で調べたり、計算したりする手間も省略できます。

4.確定申告書を自動作成!
freee会計は取引内容や質問の回答をもとに確定申告書を自動で作成できます。自動作成した確定申告書に抜け漏れがないことを確認したら、税務署へ郵送もしくは電子申告などで提出して、納税をすれば確定申告は完了です。
また、freee会計はe-Tax(電子申告)にも対応しています。e-Taxからの申告は24時間可能で、税務署へ行く必要もありません。青色申告であれば控除額が10万円分上乗せされるので、節税効果がさらに高くなります。
e-Tax(電子申告)を検討されている方はこちらをご覧ください。

freee会計を使うとどれくらいお得?
freee会計には、会計初心者の方からも「本当に簡単に終わった!」というたくさんの声をいただいています。
税理士などの専門家に代行依頼をすると、確定申告書類の作成に5万円〜10万円程度かかってしまいます。freee会計なら月額980円(※年払いで契約した場合)から利用でき、自分でも簡単に確定申告書の作成・提出までを完了できます。
余裕をもって確定申告を迎えるためにも、ぜひfreee会計の利用をご検討ください。
よくある質問
譲渡所得とは?
譲渡所得とは、資産の譲渡によって得た収入がある場合に生じる所得です。土地・建物・株式などの資産の売却・交換などによって所得が生じると、譲渡所得として原則課税対象になります。
詳しくは、記事内「譲渡所得とは」をご覧ください。
譲渡所得の税率は?
譲渡所得に適用される税率は、課税方式と資産の所有期間によって異なります。たとえば、土地や建物の短期譲渡所得については所得税で30%、住民税で9%の税率が適用され、長期譲渡所得については所得税で15%、住民税で5%が適用されます。
詳しくは、記事内「譲渡所得の種類と税率」をご覧ください。
譲渡所得はいくらまで非課税?
通常、譲渡所得が発生すれば原則として課税対象となりますが、マイホームの売却にあたっては3,000万円までの特別控除が認められる特例があります。この特例を利用することで、譲渡所得が3,000万円以下であれば課税対象とならない可能性があります。
詳しくは、記事内「譲渡所得の特別控除の種類と控除額」をご覧ください。
監修 好川寛(よしかわひろし)
プロゴ税理士事務所代表。20年以上のキャリアをもつ国税OB税理士。税務調査や複雑な税務判断に精通し、幅広い税務相談に対応。クライアントの事業を深く理解し、長期的な視点で最適な税務戦略を支援しています。
