
所得税の計算方法は、「課税所得金額 × 税額 - 税額控除」です。
所得税は1月1日から12月31日までに得た所得に対してかかる税金のことで、給与所得者も該当するため、労務担当者は正確な計算をする必要があります。
本記事では、労務担当者や給与所得者が知っておきたい所得税の計算方法について解説します。
目次
給与所得者の所得税の計算方法
給与所得者の所得税額を求めるには、所得控除や税額控除などを決められた流れで計算しなければなりません。
給与所得者の所得税の計算は、以下のように3つのプロセスを経て算出します。
所得税の計算方法の流れ
- 給与収入 - 非課税の手当 - 給与所得控除 = 給与所得
- 給与所得 - 所得控除 = 課税所得
- 課税所得 × 税率 - 控除額 = 所得税額

1. 給与所得の計算方法
給与所得金額は、以下の式で計算します。
給与所得金額の計算方法
給与所得金額 = 給与収入 − 給与所得控除(特定支出控除) − 非課税の手当
まずは、その年の1月1日から12月31日に得た給与収入を計算します。給与収入には給与だけでなく賞与も含まれますが、交通費や児童手当、育児休業給付金などの非課税の所得は除外します。
所得税の計算に用いる給与は、当該年の1月1日から12月31日に実際に支給された給与のことを指します。たとえば、12月勤務分の給与がその翌年1月20日に支払われる勤務先の場合、所得税の計算に含まれるのは、前年12月勤務分から当年11月勤務分までの給与です。
合計した給与収入から、給与所得控除額を引くと給与所得金額が割り出せます。
また、給与所得の計算式における「非課税の手当」とは、一定金額以下の特定の手当を指します。たとえば、通勤手当や日直手当がこれに該当します。この金額は、手当の種類によって所得税法で定められています。
手当の種類 | 非課税になる手当額 |
通勤手当 | 15万円以下 |
日直手当 | 1回あたり4,000円以下 |
各収入額に対する給与所得控除額の計算式は、以下のとおりです。
給与などの収入額 | 給与所得控除額 |
162万5,000円以下 | 55万円 |
162万5,000円超〜180万円以下 | 収入金額 × 40% - 100,000円 |
180万円超〜360万円以下 | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
360万円超〜660万円以下 | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
660万円超〜850万円以下 | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
給与所得金額の計算例
例:合計収入が400万円の場合の所得金額
- 給与所得控除額:(4,000,000円 × 20% + 440,000円)= 1,240,000円
- 給与所得額:4,000,000円 - 1,240,000円 = 2,760,000円
給与所得控除について、より詳しく知りたい方はこちらの記事をご確認ください。
【関連記事】
給与所得控除とは?給与所得の計算方法や所得控除との違いについてくわしく解説
2. 課税所得金額の計算方法
次に、所得金額から所得控除額を差し引いて課税所得金額を計算します。課税所得金額の計算方法は以下の通りです。
課税所得金額の計算方法
課税所得金額 = 給与所得 - 所得控除
所得控除は、配偶者控除や扶養控除、医療費控除など、全て合わせると15種類あります。
なお、所得控除の中には勤務先の年末調整では対応できないものがあります。勤務先が年末調整で対応できない控除に関しては、個人で確定申告が必要です。
年末調整で対応できる所得控除は以下の12種類です。
年末調整で対応可能な控除 | 適用される条件 |
---|---|
社会保険料控除 | 健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料の支払い ※生計を同じくする配偶者やその他の親族も含む |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済の掛金の支払い |
生命保険料控除 | 生命保険や介護医療保険、 個人年金保険の支払い |
地震保険料控除 | 地震保険料の支払い |
障害者控除 | 納税者や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合 |
寡婦(寡夫)控除 | 配偶者と死別または離婚して扶養家族がいる場合 ※寡夫控除は2020年度分より、ひとり親控除に変更 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親である場合 |
勤労学生控除 | 学校に行きながら働いている場合 ※ただし前年分の合計所得金額が75万円以下 |
配偶者控除 | 配偶者の合計所得が48万円以下の場合 |
配偶者特別控除 | 納税者の合計所得が1,000万円以下、配偶者の合計所得が48万円以上133万円未満である場合 |
扶養控除 | 16歳以上の子どもや両親などを扶養している場合 |
基礎控除 | すべての人に適用される |
続いて、個人で確定申告が必要な控除は以下の3つです。
個人で確定申告が必要な控除 | 適用される条件 |
---|---|
雑損控除 | 災害や盗難、横領によって損害を受け場合 |
医療費控除 | 一定額以上の医療費を支払った場合 ※生計を同じくする配偶者やその他の親族も含む |
寄付金控除 | ふるさと納税や認定NPO法人等に対して寄付をした場合 |
上記の控除に関しては、確定申告が必要です。申告漏れがあれば控除は受けられないため注意しましょう。
たとえば、配偶者控除を受ける場合の課税所得金額の計算方法は以下の通りです。
課税所得金額の計算例
例:従業員の合計所得金額が276万円かつ配偶者の合計所得が100万円の場合
- 受けられる控除:配偶者特別控除 48万円
- 課税所得金額:2,760,000円 - 480,000円 = 2,280,000円
所得控除の額は、控除内容によって異なります。詳しい計算方法を知りたい方は、以下の記事で詳しく解説していますのであわせて確認してください。
【関連記事】
確定申告の所得控除は15種類! 対象となる条件や控除額、税額控除との違いについて解説
3. 所得税額の計算方法
所得税額の計算方法は以下の通りです。
所得税額の計算方法
所得税額 = 課税所得 × 税率 - 控除額
税率は、課税所得金額によって変化する超過累進課税制度が採用されています。
所得税率の速算表
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
たとえば、課税所得金額が276万円の場合、税率は10%・控除額は9万7,500円です。実際の計算式にあてはめると以下のように所得税額を求めることができます。
所得税額の計算例
例:課税所得金額が276万円の場合
- 課税所得税額:276万円
- 控除額:9万7,500円
- 税率:10%
- 所得税額:2,760,000円 × 10% - 97,500円 = 178,500円
基準所得税額の計算方法
次に、割り出した所得税額から税額控除額を引いて実際の納税額を計算します。ここで計算する実際の納税額のことを基準所得税額といいます。
税額控除とは、所得税額から直接差し引ける控除のことです。税額控除は主に22種類ありますが、ここでは代表的なものを紹介します。
控除の種類 | 適用条件 |
配当控除 | 国内企業の株式からの配当が収入に含まれるとき |
外国税額控除 | 外国企業からの収入があって、すでにその国の所得税が課されたとき |
政党等寄付金特別控除 認定NPO法人等寄付金特別控除 公益社団法人等寄付金特別控除 | 所得控除である寄付金控除以外で、公的な団体に寄付をしているとき |
住宅借入金等特別控除 | 国内で住宅ローンを組んだとき |
住宅耐震改修特別控除 | 1981年5月以前に建てられ、現在も使用されている住居に耐震工事をしたとき |
住宅特定改修特別税額控除 | 住居にバリアフリー工事や省エネのためのリフォーム工事を施したとき |
基準所得税額の計算方法
たとえば、所得税額が17万8,500円の人が、1970年に建てられた住居の耐震工事を行い、12万円住宅耐震改修特別控除を申告する場合の計算方法は以下のとおりです。
基準所得税額の計算例
例:所得税額が17万8,500円で、12万円住宅耐震改修特別控除を申告する場合
- 基準所得税額:178,500円 - 120,000円 = 58,500円
復興特別所得税額の計算方法
上記のほかに、2037年12月31日までは復興特別所得税が別途課せられます。復興特別所得税額は、基準所得税額の2.1%です。
所得税と源泉所得税の違い
源泉所得税とは、給与や報酬を支払う法人や個人が給与や報酬を受け取る者の給与や報酬から一定の割合で先に徴収し、従業員に代わって支払う所得税のことを指します。

また源泉所得税と復興特別所得税を足して、実際に税務署へ納税する税金を源泉徴収税といいます。
給料の場合、源泉徴収税は総支給額から健康保険料などの社会保険料を差し引いた金額を、扶養人数に合わせて国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」にあてはめて算出します。源泉徴収税額は、およその所得税額でしかありません。そのため、年末調整や確定申告で実際に納めるべき所得税を計算し源泉徴収で支払った所得税との差額を修正します。
一方、所得税は、個人が受け取る収入にかかる税金そのものをいいます。日本では「申告納税制度」を採用しているため、原則納税者が個人で申告をして納税します。しかし、給与収入や一部の報酬に関して源泉徴収を行うことで、納税を確実に行うことができます。
源泉徴収はあくまでも簡易に計算したものであるため、実際に納税しなければならない所得税額と差が出てきます。そのため、源泉徴収で差し引かれた所得税との差分を修正するために、年末調整や確定申告を行います。
給与所得者が確定申告する場合
給与所得者は企業が代わりに本人の所得税の支払いをするため、一般的に確定申告は不要です。
ただし給与所得者であっても、確定申告をしなければならない場合もあります。
ここでは、給与所得者が確定申告をしなければならないケースと、確定申告をした方が得になるケースを紹介します。
確定申告しなければならないケース
サラリーマンとして働いている給与所得者であっても、確定申告しなければならないケースは以下の7つです。
個人で確定申告が必要な人
- 個人事業主やフリーランスとして働いている人
- 給与所得が2,000万円を超える人
- 副業の所得が年間20万円を超える人一定額の公的年金を受け取っている人
- 株取引で一定の利益を得た人
- 不動産などそのほかの所得があった人
- 2ヶ所以上の就業先から一定の収入を得ている人
出典:国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」
確定申告した方が得になるケース
続いて、給与所得者が確定申告をした方が得になるケースは以下の7つです。
確定申告をした方が得になる人
- 一定額以上の医療費を払った人
- 経費の合計金額が、給与所得控除額の半分以上だった人
- 家族に自営業やフリーランスの人がいる人
- 年末調整で、控除書類の準備ができなかった人
- 年末調整後に、結婚した人
- 寄付やふるさと納税をおこなった人
- 住宅ローンを組んだ人
- 住居を売って、ローンが残った人
寄付をしたり一定額以上の医療費を払ったりした場合は、個人で確定申告をしないと控除されません。
そのほか、配偶者が自営業またはフリーランスで収入が不安定であれば確定申告をします。配偶者の収入が133万円以下なら配偶者控除や配偶者特別控除が受けられます。
【関連記事】
サラリーマンで確定申告をしなければならない人・したほうが得になる人とは?条件別に詳しく解説
まとめ
所得税の計算はさまざまな控除が関係し複雑ですが、間違いがあってはならないものです。所得税の制度をしっかり把握し、労務担当者は正確な計算を行いましょう。
所得税の計算は、給与支払いシステムを運用するとミスなく運用できます。そのほか顧問税理士や会計士に業務を依頼し外部リソースを活用するのもおすすめです。
よくある質問
所得税率はどれくらい?
所得税率は、課税所得によって異なる超過累進課税制度が採用されています。税率は大きな幅があり5〜45%です。詳しくは所得税額の計算方法をご覧ください。
所得税を計算する方法は?
所得金額から課税所得金額を割り出し、税率を掛けて控除額を引きます。所得税は所得によって税率が大きく変動し、最低で5%、最高で40%になります。詳しくは所得金額の計算方法をご覧ください。