最終更新日:2023/01/13

雇用保険は、会社員や要件を満たした短時間労働者が退職や失業をした際に、約3ヶ月から1年間、給与の代わりとなる「失業等給付」を支給することを目的とした保険です。雇用保険料とは、雇用保険の掛け金のことを指し、従業員と雇用主の双方で負担します。
本記事では、雇用保険の目的や加入対象者、雇用保険料の計算方法などを解説します。
なお、2022年4月1日から、新型コロナウイルス感染症の影響で、雇用保険の財源が悪化したため雇用保険料が引き上げられることになりました。雇用保険料の引き上げについては、雇用保険料率の項目で詳しく解説しています。
目次
雇用保険とは
雇用保険とは、勤めていた会社を退職するなどして、失業した方が再就職や起業するまでに必要な給付を受けることができる労働保険のひとつです。また、雇用保険は広義の社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険)のひとつでもあります。
会社は従業員(労働者)を1人でも雇用したら、強制的に雇用保険加入の適用事業となり、その会社で働く従業員は基本的に被保険者になります。
ただし、1週間の労働時間が20時間未満と短かったり、31日以上の雇用が見込まれない従業員は、雇用保険に加入できません。
また、雇用保険の保障内容には、健康保険と同様に傷病手当金の給付も含まれます。ただし、これらは医療費の負担を軽減するのを目的としておらず、再就職するために一時的に仕事を休んでいる間の生活を保障するもので、健康保険とは目的が異なります。

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雇用保険の目的
前述したように雇用保険は、従業員の雇用に関する支援を行う保険制度です。
たとえば、もし従業員が失業や休業をしてしまうと、給与がもらえずに生活が困窮する可能性があります。そのような事態を防ぐために、失業や休業をしたら「失業等給付」という給付を受けることができます。
失業等給付を受けられる期間は約3ヶ月から1年間で、給付の条件や日数は年齢や離職理由などによって異なります。
そのほかにも雇用保険には、労働者が再び働くことができるよう、支援機能が備わっています。被保険者は雇用の機会を提供してもらったり、就職に役立つ知識やスキルを習得したり、資格などを取得できるように職業訓練を受けたりできます。
また、失業時だけではなく、育児や介護のために一時的に休職する際の手当も雇用保険から支給されます。
雇用保険の目的
- 労働者が失業した際の生活を守るために支給される失業給付や、育児休暇中の育児休業給付などを行う
- 労働者の新しい知識やスキルなどを習得するために、職業訓練や職業教育を実施して再就職の促進をはかる
- 労働者が失業しないよう予防したり、雇用状態を是正して離職防止と雇用機会の増大をはかる
出典:厚生労働省「雇用保険制度」
雇用保険の加入対象者
雇用保険は、従業員を守るための保険であり、会社を経営する会社役員や個人事業主は加入できません。また、従業員であったとしても、全ての従業員が加入できるのではなく、以下の条件を満たしている方が加入できます。
雇用保険の加入対象者
- 最低でも31日以上の雇用が見込まれている
- 1週間で20時間以上働いている
- 昼間部の学生ではない
加入対象条件に該当していれば、正社員や契約社員、アルバイトなどの雇用形態には関係なく雇用保険への加入が義務付けられます。
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雇用保険料とは
雇用保険料とは、公的な労働保険制度である雇用保険の掛け金のことで、給与明細に保険料が記載されます。労働保険制度とは、「雇用保険」と「労災保険(労働者災害補償保険)」の二つを合わせた総称で、いずれも国が管掌する保険です。
雇用保険と労災保険の給付はそれぞれ別に行われていますが、両保険料の納付に関しては労働基準監督署へ一緒に納めます。
雇用保険料の支払いは事業者と従業員の双方が負担しますが、従業員が負担する金額は労使折半ではなく、事業者が多く支払うようになっています。
一方、労災保険料は事業者が負担するため、従業員は金銭の負担は一切ありません。そのため、労災保険料は給与明細に記載されません。
雇用保険料の対象となる賃金
雇用保険料の対象となる賃金には、従業員に毎月支払われる給与の金額だけではなく、賞与額にも適用されます。雇用保険料は税金や社会保険料などを控除する前の額面の金額から算出されます。
ただし、雇用保険料の対象となる賃金と対象とならない賃金があります。たとえば、通勤手当や残業した際の超過勤務手当、夜間勤務による深夜手当などは雇用保険料の対象となります。一方で、役員報酬や退職金、出張旅費や宿泊費などは雇用保険料の対象とはなりません。
雇用保険料の対象となる賃金と対象にならない賃金
<雇用保険料の対象となる賃金>
- 通勤手当(非課税分を含む)・定期券・回数券(通勤のための現物支給分)
- 超過勤務手当・深夜手当(いわゆる残業手当など)・宿直手当・日直手当
- 家族手当・子供手当・扶養手当
- 技能手当・教育手当・特殊作業手当
- 住宅手当・地域手当
- 皆勤手当・精勤手当などの奨励手当
<雇用保険料の対象とならない賃金>
- 役員報酬
- 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・年功慰労金・勤続褒賞金・退職金
- 出張旅費・宿泊費
- 休業補償費(「労働基準法」第76条。労働者が業務災害により休業した場合に支給)
- 傷病手当金(「健康保険法」第99条。労働者が業務外の傷病により休業した場合に支給)
- 解雇予告手当(「労働基準法」第20条。30日前の解雇予告なしに労働者を解雇する場合に支給する手当)
出典:厚生労働省「雇用保険料の対象となる賃金」
注意すべきは、所得税の計算では控除の対象とならない「通勤手当」が雇用保険料の計算では対象となることです。
また、健康保険料や厚生年金保険料は標準報酬月額を元に計算しているので、1年間の保険料が変わりません。しかし雇用保険料は、残業で発生した超過勤務手当や深夜手当などにより、総賃金額が変わると金額が変動してしまいます。そのため、会社は従業員の雇用保険料を毎月計算しなくてはなりません。
雇用保険料率とは
雇用保険料は、毎月の給与総額に「雇用保険料率」を掛けて算出されます。雇用保険料率は、失業保険の受給者数や積立金の残高に応じて毎年見直しが行われており、料率に変更がある場合は毎年4月1日から施行されます。
そして、新型コロナウイルス感染症の影響で雇用保険の財源が悪化したことを理由として、2022年4月1日から雇用保険料率が引き上げられました。
引き上げは2段階行われ、2022年4月からは事業主負担分のみ対象として引き上げられ、10月から事業主負担分と従業員負担分双方の引き上げが行われます。従業員と事業主では負担の割合が異なりますが、事業の種類によっても保険料率は異なります。
業種は「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに分類されます。

※「農林水産の事業」は、園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖及び特定の船員を雇用する事業については一般の事業の率が適用されます。
事業の種類によって保険料率が異なる理由
雇用保険は「一般の事業」と「農林水産・清酒製造の事業」「建築の事業」のつに分類されており、それぞれに分類された事業の保険料は異なります。
なお、一般の事業とは、農林水産・清酒製造の事業と建築の事業に当てはまらない事業すべてが該当します。
各事業の保険料率は一般の事業が一番安くなっており、建設の事業が一番高く設定されています。
農林水産・清酒製造の事業の保険料が高い理由
農林水産・清酒製造の事業は季節によって事業規模が縮小し、就業状態が不安定になることがあることから失業保険を受給する可能性が高いとされているため、一般の事業に比べて保険料率が高く設定されています。
ただし、農林水産の事業の中でも、季節的な休業や事業規模の縮小がないと厚生大臣が指定する以下の事業は、一般の事業として取り扱われて、保険料率も一般の事業と同様となります。
建設事業の保険料が高い理由
建設の事業は、正社員だけではなく個人事業者(一人親方)などと、建築物単位で一定期間だけ雇用契約を結ぶケースが多く、失業給付を受けるケースがその他の事業と比べて多くなると考えられるため、保険料率が3つの事業の中で一番高く設定されています。
また、建設の事業には独自の助成金が多いのも、保険料率が高い理由です。この建設の事業独自の助成金の財源は雇用保険料から賄っているのですが、一般の事業でもらえる金額に上乗せして支給される助成金が多いという特徴があります。
出典:厚生労働省「建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)」
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、雇用保険料 = 給与額または賞与額 × 雇用保険料率で算出されます。具体的にはどのように計算されるのか、以下の例題を参考にしてください。
A社に勤務するBさんが2022年4月に以下の支払いを受けた場合の計算例
- 税金・社会保険料など、控除前の給与額:30万円
- 税金・社会保険料など、控除前の賞与額:50万円
① Bさんの給与にかかる雇用保険料
30万円×3÷1,000(2022年4月「一般の事業」の雇用保険料率)= 900円
② Bさんの賞与にかかる雇用保険料
50万円×3÷1,000(2022年4月「一般の事業」の雇用保険料率)= 1,500円
2022年10月1日からは、従業員の雇用保険料率も引き上げられるため、以下のようになります。
A社に勤務するBさんが2022年10月に以下の支払いを受けた場合の計算例
- 税金・社会保険料など、控除前の給与額:30万円
- 税金・社会保険料など、控除前の賞与額:50万円
① Bさんの給与にかかる雇用保険料
30万円×5÷1,000(2022年10月「一般の事業」の雇用保険料率)= 1,500円
② Bさんの賞与にかかる雇用保険料
50万円×5÷1,000(2022年10月「一般の事業」の雇用保険料率)= 2,500円
Bさんが2022年4月1日から2022年9月30日の間で給与の際に支払う雇用保険料は900円、賞与の際に支払う雇用保険料は1,500円です。2022年10月1日以降は、給与の際に支払う雇用保険料は1,500円、賞与の際に支払う雇用保険料は2,500円となります。
端数が出た場合の雇用保険料
雇用保険料の従業員負担額を源泉徴収する場合、1円未満の端数が出た際は、原則として「50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げ」となります。
ただし、「全て切り捨て」など、労使間で慣習的な端数処理などの特約がある場合は、従来どおりの端数計算方法で取り扱うことも認められています。
以下では、端数が出た際の取り扱いを具体例を出して解説します。
端数が出た際の取り扱いを具体例
(1)給与総額が24万3,088円の場合の雇用保険料
(2022年4月「一般の事業」の保険料率)
・243,088円 × 3 ÷ 1,000 = 729.264円 → 729円
※端数が50銭以下の場合は切り捨て
(2)給与総額が24万3,900円の場合の雇用保険料
(2022年4月「一般の事業」の保険料率)
・243,900円 × 3 ÷ 1,000 = 731.7円 → 732円
※50銭1厘以上の場合は切り上げ
(3)給与総額が24万3,088円の場合の雇用保険料
(2022年10月「一般の事業」の保険料率)
・243,088円 × 5 ÷ 1,000 = 1,215.44円 → 1,215円
※端数が50銭以下の場合は切り捨て
(4)給与総額が24万3,900円の場合の雇用保険料
(2022年10月「一般の事業」の保険料率)
・243,900円 × 5 ÷ 1,000 = 1,219.5円 → 1,220円
※50銭1厘以上の場合は切り上げ
まとめ
雇用保険は労働保険のひとつで、失業して仕事がなくなった際に、再就職や起業するまでに必要な給付を受けられたり、職業訓練などを受けて新しいスキルを得たりできる保険制度です。
雇用保険料率は、失業保険の受給者数や積立金の残高に応じて毎年見直しが行われますが、2022年4月は事業主が、2022年10月からは事業主と従業員の料率が引き上げられます。
雇用保険料率は毎月固定ではなく、残業代などで給与が増減する可能性があるため、経理担当者は毎月計算する必要があります。
よくある質問
雇用保険とは?
雇用保険とは、失業した人が再就職や起業するまでに必要な給付を受けることができる労働保険のひとつです。目的や加入対象者を詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
雇用保険料はどう計算する?
雇用保険料は、「雇用保険料 = 給与額または賞与額 × 雇用保険料率」で算出されます。具体的な計算の仕方はこちらで解説しています。