人事労務の基礎知識
給与計算における住民税の計算・更新・納付について解説
公開日:2019/4/05
最終更新日:2020/06/25
給与計算における住民税とは、従業員が住民票のある市町村や都道府県によって課税される税金です。実際の計算方法や納付方法など詳しい内容を確認しましょう。
[監修:山本 務(特定社会保険労務士)]

目次
住民税とは
住民税とは、「市区町村民税」と「都道府県税」の2つを合わせた総称で、1月1日時点で住所のあった市区町村に納付する税金です。国に納めるのが所得税で、自分の居住地に納めるのが住民税になります。この住民税のおかげで地方自治体の行政サービスが維持されています。
また、住民税に関する基礎知識は動画でもご紹介しております。わずか8分で簡単にわかる様に解説しておりますので、文字ではなく音声で聞きたいという方は下記の動画をご覧ください。
住民税は前年の所得に応じて、税額が決まります。その前年の所得に対して決まった税額は、翌年の6月から支払いが始まります
所得税と同様、住民税も本来は従業員が自分で手続きして支払うものを、会社が給料から天引きして代わりに納付します。
住民税と所得税の異なる点は、前述にもある通り、住民税は前年の所得をもとに計算した税額を当年に納付するのに対して、所得税は当年の所得をもとに計算した税額を当年に納付します。
例として、2019年の所得に対して計算された住民税は2020年の6月より納付が始まります。よって、住民税は前年に所得がない場合は、通常税額が発生しません。このように後払いだからこそ、新卒1年目は住民税を払わなくて良いと言われ、会社を退職したサラリーマンが現在の収入が少ない、又は全くないにもかかわらず、住民税額を納付しなければならないと言われるのはこのためです。
住民税は所得税や保険料の計算に影響を与えないため、給与明細においても最後の項目として記載されることが多いようです。
国税 | 地方税 | |
所得課税 | 所得税 法人税 地方法人特別税 復興特別所得税 地方法人税 |
地方税 事業税 |
住民税の特別徴収と普通徴収
住民税の納める方法は下記の2通りあります。
- 普通徴収
- 特別徴収
普通徴収
普通徴収とは、従業員が個々人で納付書などで支払い手続きを行うことを住民税の「普通徴収」と呼びます。年間の住民税が4回分の納付書となって個人に送付されます。個人事業主やフリーランスの方は普通徴収になります。
特別徴収
特別徴収とは、会社が従業員の給料から住民税を天引きし、従業員の代わりに会社が納付することを「特別徴収」と呼びます。普通徴収とは違い、毎月にわたって行われるのが特徴です。勤め人は、原則特別徴収になります。
住民税は、前述のように従業員個人が納める場合もありますが、通常は特別徴収によって会社側が給与から天引きします。理由は、従業員から所得税の源泉徴収の義務がある事業所については、同時に住民税の特別徴収の義務も課せられているためです。
また東京都や神奈川県、千葉県、埼玉県などでは、平成29年度から原則としてすべての事業主を対象として住民税の特別徴収を徹底するようになっています。
パートやアルバイトは特別徴収の対象?
会社での源泉徴収は、正社員に限らず、パートやアルバイトの社員までが対象です。源泉徴収を行っている場合は、住民税の特別徴収の対象になることから、原則は役員を含め、正社員、パート、アルバイトまですべての従業員が住民税の特別徴収の対象となります。
住民税を納める流れ
まず、基本的に住民税の金額を自分で計算する必要はありません。これは、市区町村が各従業員の毎月の納付額を計算し、納付書という形で会社に郵送してくれるからです。会社に必要な作業を特別徴収の流れから解説します。
上記の図の様に毎年1月31日までに給与支払報告書を地方自治体に提出します。その内容を基に、地方自治体が住民税額の計算を行い、その計算結果を住民税課税決定通知書として会社に送付されます。その上で会社が従業員に対して、 住民税課税決定通知書の交付を行い、従業員から住民税の特別徴収を行います。
住民税課税通知書は、従業員の住んでいる各市区町村の数だけまとめて届きます。その中には「会社用」と「従業員用」の2種類存在します。
まず会社用の住民税課税通知書に対して、労務担当はエクセルや給与計算システムに全従業員分の住民税額を転記します。従業員用の住民税課税通知書に対しては、各従業員に「手渡し」か「郵送」で届けます。
この転記された全従業員の住民税額を毎月の給与から天引きをしなければなりません。※住民税は6月から前年度分の給与をもとに算出された決定されたこの税額を6月から反映する必要があります。
この様に住民税は給与の天引きから納税を行わなければならないので、住民税額の変更にも漏れることなく実施することが必須になります。給与計算システムを使うと、住民税の更新作業や給与計算への反映も効率化できます。
人事労務freeeなら、住民税の特別徴収・振り込みを簡単に行います。
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住民税課税決定通知書の注意点
注意したいのは、住民税の金額は最初の月だけ異なっていたり、新しい従業員が入ると納付書が更新される場合がある点です。会社は、「今月はどの市区町村にいくら納付する必要があるか」について1年を通じて正確に把握しておく必要があります。
また、金額や対象者の確認はもちろんですが、届いた通知書に漏れがないかどうかも確認しておきましょう。1月1日時点で対象の従業員が市町村に住民票がないという理由で、住民税課税通知書が届かない場合もあります。
住所の変更などがあった場合は、新たな市町村への変更届を特別徴収義務のある会社側で行わなければなりません。
給与支払報告書の構成は源泉徴収票とほぼ同じで、従業員ごとに1年間の所得や源泉徴収額が記入されています。全従業員の給与支払報告書を作成したら、各市区町村ごとの合計を「総括表」に記入し、各市区町村の役所に提出しましょう。
住民税の計算方法と所得割・均等割
住民税額の書かれた納付書が送られてきますが、住民税額の計算方法はどのように行うのでしょうか。
【住民税の計算方法】
住民税は5つの要素からなっています。住民税の計算では、5つの項目から、負担軽減のために設けられた調整控除を差し引き、実際に課税される住民税の額を算出します。
住民税=所得割+均等割+利子割+配当割+株式等譲渡所得割
なお、利子割、配当割、株式等譲渡所得割は特定の所得があった場合のものですから、給与所得のみの場合は所得割と均等割が重要となります。所得割は、所得によって加算されるもの、均等割は市町村ごとに一律に加算される額のことです。
所得割
所得割の税率は、県民税4%、市民税6%です。給与所得から所得控除を差し引き、税額をかけたうえで、さらに配当控除、外国税額控除、寄附金税額控除の税額控除を差し引いたうえで算出します。
(給与収入―給与所得控除―所得控除)×税額(10%)―税額控除
なお、市町村によって異なりますが、扶養親族がいない場合、前年の総所得35万円以下は所得割が非課税になります。
均等割
均等割は、所得額に関わらず均等に加算される税額のことです。均等割額は、都道府県、市町村によって異なりますが、3,000~5,000円程度が相場となります。
なお、市町村によって異なる可能性がありますが、前年の総所得35万円以下が非課税の対象です。
住民税の納付方法と期限
毎年5月に納付書(通知書)が送られる
前述のように、毎年5月ごろに各市町村により送付される住民税課税決定通知書には、納付書も同封されています。送付された納付書は特別徴収をした毎月の住民税の支払いで必要になるのでしっかり保管しておきましょう。
住民税の納付期限は "翌月10日"
住民税の支払期限は従業員から住民税を天引きした翌月の10日までとなります。納付期限日を過ぎてしまった場合は、延滞税が加算されてしまうので注意しましょう。
入退社時の住民税の処理方法
入社をする時の住民税の処理方法
転職による入社の場合は、従業員の前の職場より給与所得者異動届出書が送付されるので、「転勤先」など必要事項を記入して、 異動があった月の翌月10日までに従業員の住民票のある市町村に提出する必要があります。
入社する以前、従業員が普通徴収で住民税を支払っている場合は、特別徴収に切り替える必要があるため、市町村に特別徴収への切り替えについての書類の提出が必要です。
退社する時の住民税の処理方法
退社する従業員の転職先が決まっている場合は、入社同様、給与所得者異動届出書を転職先に送付して、引き続き特別徴収を行えるように処理をします。
問題は、転職先がまだ決まっていない場合です。転職先が決まっていない場合は、6月から12月末まで、1月から5月末までで徴収の方法が異なります。
- 退社日が6月1日~12月31日
基本的には通常通りひと月分を徴収。従業員からの希望があれば、翌年の5月分までを一括徴収します。 - 退社日が1月1日~5月31日
原則、5月分までを一括徴収。一括徴収分額が差し引く給与や退職金を超えた場合は、超過分は普通徴収になります。
給与所得者異動届出書は、従業員の退職などがあった際に会社が市町村に提出する必要のある書類です。提出が遅れると住民税の滞納に繋がる可能性もあるので、異動のあった翌月10日までには提出するようにしましょう。
詳しくは下記のページもご覧ください。
【関連記事】従業員が退職する際の手続きとは? 社会保険や税金など会社側でやること
【関連記事】従業員が入社する際の手続きは? 雇用時の必要書類や保険の加入条件や税金などをまとめて解説
まとめ
特別徴収義務者である会社は、従業員の住民税についてしっかりと納付し、異動などの手続きを行う必要があります。毎月の納付や入退職者などの対応はもちろん、源泉徴収票の作成や給与支払報告書の作成も、正しく行なうようにしましょう。

監修:山本務 <やまもと つとむ>
(特定社会保険労務士)
やまもと社会保険労務士事務所、代表の山本です。労働相談、あっせん代理、労務環境調査、行政調査対応、人事労務管理、就業規則の作成・見直し、労働保険・社会保険の電子申請、給与計算、助成金申請支援など幅広く展開しています。
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