介護職員処遇改善加算とは、介護サービスを行う職員(介護職員)の待遇を安定させ、賃金を向上させる目的で設けられた加算制度です。事業所が処遇改善加算を実施するにあたり、特定の要件を満たし、加算率を用いた計算が必須です。
本記事では、処遇改善加算について基礎から詳しく解説します。受け取るための要件や流れも解説しているので参考にしてください。
目次
介護職員の処遇改善加算とは
介護職員処遇改善加算とは、事業所が一定の要件を満たせば、介護職員の給与を増やすためのお金が国から支給される仕組みです。1人あたり最大月37,000円相当が受け取れます。
処遇改善加算は、介護業界の人手不足を改善するために、優秀な人材を確保し、長期間働ける環境を整備するために導入されました。介護職員の給与の増加や、職場環境の向上による定着率の向上が目的です。
支給対象
主に介護職に従事する介護職員が対象です。介護職員であれば雇用形態や資格に関係なく、パートタイマーや派遣社員であっても受け取れます。
相談員・看護師・栄養士などの他職種には基本的に適用されません。ただし、介護職員の業務も兼ねている場合は、加算の対象になる可能性があります。
加算区分と支給金額
処遇改善加算には3つの加算区分があり、各区分に応じて加算される金額や要件が異なります。
加算区分 | 介護職員1人あたりの加算金額 | 要件 |
---|---|---|
加算I | 月額37,000円相当 | キャリアパス要件のうち、 ①+②+③を満たすかつ 職場環境等要件を満たす |
加算Ⅱ | 月額27,000円相当 | キャリアパス要件のうち、 ①+②を満たすかつ 職場環境等要件を満たす |
加算Ⅲ | 月額15,000円相当 | キャリアパス要件のうち、 ①or②を満たす かつ職場環境等要件を満たす |
加算金額は、各サービスにおける介護職員数に基づいて決定される「加算率」を、事業所の全体の報酬に掛け合わせた金額が支給されます。
加算区分の要件である「キャリアパス要件」「職場環境等要件」については、「処遇改善加算を受け取るための要件」で解説します。
支給形式
処遇改善加算には主に3つの支給方法があります。
処遇改善加算の支給形式
- 基本給を上げる
- 賞与に加える
- 特別手当として支給する
厚生労働省の調査によると、実際の加算は手当の新設に約65%、既存手当の引き上げに約19%、定期昇給に約14%、給与表を改定して賃金水準を引き上げるのに約15%使われています(複数回答)。
出典:「厚生労働省・令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果のポイント」
手当の支給方法やタイミング、金額の配分は各施設の管理者に委ねられています。そのため、介護職員本人が「どの程度手当がもらえるのか」「自分が手当の対象になるか」を介護施設に確認する必要があります。
処遇改善手当との違い
介護職員処遇改善加算は、介護職員の待遇をよくする目的で、国から介護事業所に対して提供される金額の制度です。
一方で、「処遇改善手当」は、上記の制度によって事業所が受け取った金額を、介護職員に対して支給することを指します。
処遇改善加算を受け取るための要件
処遇改善加算を受け取るためには、主に「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」の2つの基準が設定されています。
キャリアパス要件
処遇改善加算を受けるためのキャリアパス要件には、以下の3つがあります。
キャリアパス要件
- 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
(職位を設け、上位の職位になるために必要な要件を定める。職位による賃金をはっきりと示すなど) - 資質向上のための計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること
(介護職員のスキルアップのための目標を設ける。研修の参加機会、資格獲得に向けた支援をするなど) - 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みを作る。または一定の基準に従い定期に昇給を判定する仕組みを設けること
(勤務年数や経験に応じた昇給の仕組み作り。資格取得者の昇給の制度。人事評価の結果に基づいた昇給の仕組み)
出典:厚生労働省「介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要」
職場環境等要件
職場環境等要件は以下の通りです。
職場環境等要件
賃金改善を除く、職場環境等の改善
出典:厚生労働省「介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要」
職場環境等要件とは、職場の状況をよりよくするために必要な基準や要件です。たとえば、「研修を通じたスキル向上」や「通信技術(ICT)を使った効率の向上」などの取り組みが含まれます。
適用するには、厚生労働省の定めるカテゴリーの中で、ひとつつ以上の活動に取り組んでいる必要があります。
詳細は厚生労働省の「処遇改善に関する加算の職場環境等要件」を確認してください。
処遇改善加算を受け取るまでの流れ
介護職員や事業所が処遇改善加算を受け取るまでの流れを確認しましょう。
処遇改善加算を受け取るまでの流れ
- 計画の立案:介護事業所が介護職員のキャリアアップや職場環境改善の計画を作成する
- 計画の実施と報告:計画を実行した後、結果を都道府県や市町村などの自治体に報告する
- 加算の承認:報告書が承認された場合、介護報酬として追加の費用(給料の上乗せ)が事業所に支給される
- 職員への手当支給:事業所は、受け取った加算を介護職員処遇改善手当として職員に支給する
事業所が受け取った加算は、介護職員に賃金として還元するのが義務です。また、事業所側は「介護職員処遇改善実績報告書」を自治体に提出する必要があります。
処遇改善加算のために必要な書類
処遇改善加算を受けるには、まず各介護事業所で「介護職員処遇改善計画書」を作り自治体に提出します。
その後、加算を受けた事業所は自治体へ「介護職員処遇改善実績報告書」を提出し、基準を満たしているか・賃金改善が適切に行われたかを確認します。
もし不備が見つかった場合、加算金の返還を求められたり、加算の認定が取り消されたりすることもあるため、要件をきちんと確認し適切に運営を行いましょう。
処遇改善加算をもらえない人
以下の要件に当てはまる人は、介護処遇改善加算の対象外となるので注意が必要です。
処遇改善加算をもらえない人
- 勤め先の介護事業所が処遇改善加算を受けていない
- 介護事業所で働いているが介護職ではない
- 事業所が手当の配分対象に選んでいない
また、対象外の事業所は以下が挙げられます。
- 処遇改善加算を取得していない事業所
- 訪問介護
- 訪問リハビリテーション
- 福祉用具貸与
- 特定福祉用具販売
- 居宅療養管理指導
- 居宅介護支援
- 介護予防支援
自分が手当を受けられるかどうか不安な人は、勤め先へ確認しておきましょう。
処遇改善加算を取得しやすい施設
各施設形態での加算取得状況は、以下の通りです。
施設形態 | 加算取得率(届出) | 加算Ⅰ取得率 |
---|---|---|
介護老人福祉施設(特養) | 99.3% | 92.4% |
介護老人保健施設 | 97.4% | 82.9% |
訪問介護 | 92.7% | 75.2% |
通所介護 | 95.5% | 79.8% |
特定施設入所者生活介護 | 98.7% | 92.8% |
全体で見ると、介護施設の約94.5%が処遇改善加算を受けており、その中でも80.5%が加算Ⅰを受けています。特に介護老人福祉施設(特養)が最も高い取得率を示しており、次に有料老人ホームや介護老人保健施設が続いています。
まとめて知っておきたい「介護職員等特定処遇改善加算」
介護職員等特定処遇改善加算は、従来の処遇改善加算に加え、経験・技能のある介護職員を対象として追加加算する制度です。
経験・技能のある介護職員とは、主に勤続10年以上の介護福祉士が該当します。「10年以上」の基準は各事業所で定められているため、勤務先に確認しましょう。
ほかの医療職(看護師、リハビリスタッフなど)や看護師は、基本的に「経験・技能のある介護職員」には含まれません。しかし、事業所が賃上げの対象を広げる場合は、ほかの医療職も賃上げの対象になるケースがあります。
取得要件
特定処遇改善加算を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
介護職員等特定処遇改善加算の取得要件
- 現行の処遇改善加算Ⅰ〜Ⅲのいずれかを算定していること
- 職場環境要件について、「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の区分で、それぞれひとつ以上取り組んでいること
- ホームページなどの情報公表システム等において、取り組んでいる職場環境等要件の内容を公表していること
これらの要件を満たしている事業所は加算の申請が可能で、その後手当として介護職員に支給できます。
加算区分と支給金額
特定加算には「Ⅰ」と「Ⅱ」の2種類があります。
サービス区分 | 介護職員等特定処遇改善加算Ⅰ | 介護職員等特定処遇改善加算Ⅱ |
---|---|---|
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護 地域密着型通所介護 | 1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 3.1% | 2.4% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 2.7% | 2.3% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護 (老健) | 2.1% | 1.7% |
(介護予防)短期入所療養介護(病院等 (老健以外)) 介護医療院サービス (介護予防)短期入所療養介護(医療院) | 1.5% | 1.1% |
「Ⅰ」を受けるためには、以下の追加要件が必要です。
- 事業所がほかの特定の加算(特定事業所加算・日常生活継続支援加算・入居継続支援加算)のいずれかをすでに取得していること。
上記の特定加算をひとつも取得していない場合は、特定加算Ⅱが適用されます。
支給金額は、10年以上働いている介護福祉士に対して、月平均で80,000円の給与向上を行うのが基準となっています。また、役職者を除いた全業種の平均年収440万円を最低ラインに、支給の設定・確保する方針です。
複雑な処遇改善加算は自動ツールで一気に解決!
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事業所の運営がよりスムーズに、そして効率的に行えるようになります。
まとめ
介護職員処遇改善加算は、介護業界で働く人々の賃金を改善するための国の支援制度です。
介護施設やサービス提供者が一定の要件を満たすことで、介護職員の給与に月額37,000円相当が加算されます。この制度は、優秀な人材を確保し長期間働ける環境を整えるため、そして介護業界全体の人手不足を解消するために導入されました。
処遇改善加算の手続きや管理は複雑であり、業務の負担となる可能性があります。freee介護加算を導入すれば、処遇改善加算の業務を自動ツールで簡単に解決できるでしょう。
よくある質問
処遇改善って何?
国が実施する介護職員などの賃金をあげるために実施する方策です。詳しくは「介護職員の処遇改善加算とは」をご参照ください。
処遇改善手当は毎月もらえる?
「支給形式」の通り、各施設の方針により異なります。毎月の給料に追加されるケースや、手当としてボーナスが出ることもあるでしょう。
処遇改善手当は誰がもらえる?
主に介護業務を行う職員に適用されます。雇用形態や資格に関係なく、パートタイマーや派遣社員も対象です。詳しくは「支給対象」をご確認ください。