最終更新日:2023/10/11

2024年問題とは、2024年4月に適用開始する働き方改革関連法により、物流・運送や建設、医療などの業界が影響を受ける問題の総称です。企業は働き方を見直し改善すると同時に、懸念される問題へ対応しなければなりません。
本記事では、特に話題となっている「物流・運送業界」における、2024年問題のポイントや起こりうる影響、企業が取るべき対策を解説します。
目次
- 2024年問題とは働き方改革で物流・運送業界に生じる問題の総称
- 物流・運送業界での働き方改革関連法改正による変更点
- 拘束時間の制限
- 休息期間の確保
- 連続運転時間に関する規制
- 時間外労働と休日労働に関する制限
- 割増賃金の引き上げ
- 物流・運送業者が受ける2024年問題の影響
- 労働時間の減少から運べる荷物量が減る
- 人件費アップで物流・運送事業者の利益や売上が減少する
- 収入減がドライバー不足に繋がる
- 荷主が受ける2024年問題の影響
- 物流コストが増大する
- これまで通りの輸送を依頼できなくなる
- 一般消費者が受ける2024年問題の影響
- 配送料が上がる
- 翌日配送や時間指定が難しくなる可能性がある
- 2024年問題の対策で企業に必要な取り組みとは?
- 2024年問題の課題や背景、企業の義務を理解する
- ドライバーの待遇や労働時間を改善する
- 荷主や一般消費者への理解を促す
- システムを導入してDX化を進める
- まとめ
- 勤怠管理を効率化する方法
- よくある質問
2024年問題とは働き方改革で物流・運送業界に生じる問題の総称
2024年問題とは、2024年4月から適用される働き方改革関連法によって生じる問題の総称です。物流・運送業界や建設業界、医療業界などに大きな影響を及ぼすことが危惧されています。
働き方改革を進めるため、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、それぞれ時間外労働に対する規制が強化されました。しかし、物流・運送業界や建設業界、医療業界などでは、時間外労働の上限規制の適用が5年間見送られています。
2019年からの5年間の猶予期間が終わり、2024年4月からはこれらの業種でも時間外労働の上限規制が適用される予定です。
事業・業務 | 2024年3月31日まで | 2024年4月1日以降 |
自動車運転の業務 | 適用なし |
・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間 ・時間外労働と休日労働の合計について、「月100時間未満」「2~6ヶ月平均80時間以内」とする規制は適用されない。 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されない |
建設事業 | 適用なし |
・災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用。 ・災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、「月100時間未満」「2~6ヶ月平均80時間以内」とする規制は適用されない |
医師 | 適用なし | 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされている |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満(2~6ヶ月平均80時間以内とする規制は適用されない) | 上限規制がすべて適用 |
特に物流・運送業界は、労働時間の長さが長年問題視されてきました。そこで2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の上限を年960時間にするなど、働き方に関する規制が強化されます。
労働時間の上限が規制されれば、トラックドライバーの労働環境は改善されますが、規制にともなって多くの問題も発生します。
想定される影響・問題点は、記事後半「物流・運送業者が受ける2024年問題の影響」で詳しく解説しています。
物流・運送業界での働き方改革関連法改正による変更点
働き方改革関連法の改正を受けて、物流・運送業界で生じる主な変更点は次の通りです。
- 拘束時間の制限
- 休息期間の確保
- 連続運転時間に関する規制
- 時間外労働と休日労働に関する制限
- 割増賃金の引き上げ
以下で、それぞれ詳しく解説します。
拘束時間の制限
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」である改善基準告示が改正され、トラック運転手の1日の拘束時間が以下のように制限されます。
改善基準告示の改正による、拘束時間の変更 | |||
期間 | 改正前 (2024年3月まで) | 改正後 (2024年4月以降) | 例外 |
1日 | 13時間以内 | 13時間以内 | 宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は、16時間まで延長可 (週2回まで) |
(最大16時間/15時間超は週2回まで目安) | (最大15時間/14時間超は週2回まで目安) |
改善基準告示における拘束時間は、始業時刻から終業時刻までの時間を指し、労働時間と仮眠を含めた休憩時間の合計です。
1日の拘束時間は、始業時刻から起算した24時間以内の拘束時間で計算します。翌日の始業時刻が早まっている場合、前日の始業時刻から起算する24時間以内に含まれる翌日の拘束時間も、前日の拘束時間と重複してカウントされるので注意が必要です。
また1ヶ月・1年間の拘束時間は、以下のように制限されます。
改善基準告示の改正による、拘束時間の変更 | |||
期間 | 改正前 (2024年3月まで) | 改正後 (2024年4月以降) | 備考 |
1ヶ月 | 原則293時間 | 原則284時間以内 | 労使協定を締結することで、1年のうち6ヶ月までは1ヶ月310時間までに延長が可能 |
1年 | 原則3,516時間 | 原則3,300時間以内 | 労使協定を締結することで、年間3,400時間までに延長が可能 |
なお1ヶ月あたり284時間を超える月は、連続で3ヶ月までとされ、かつ1ヶ月あたりの時間外労働時間数を100時間未満にするように努めなければなりません。
拘束時間や休息期間については、「2人乗務の特例」や「隔日勤務の特例」「分割休息の特例」などの特例もあります。
特例の種類 | |
2人乗務の特例 | ・トラック運転手が1台の車両に2人以上で乗務する際、車両に身体を伸ばして休息できる設備がある場合に限り、最大拘束時間を20時間まで延長できる。 ・ひとつの運行が終了した後、継続して11時間以上の休息期間を与える場合は、拘束時間を24時間まで延長できる。 ・さらに、車両内のベッド等で、8時間以上の仮眠時間を与える場合は、拘束時間を28時間まで延長できる。 |
隔日勤務の特例 | ・21時間を超えないこととされている2暦日における拘束時間を、事業場内仮眠施設または同種の施設で4時間以上の仮眠時間を与えれば、24時間まで延長できる。 ・ただし、2週につき3回を限度とし、2週における総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えないものとする。なお、勤務終了後は継続して20時間以上の休息期間を与える必要がある。 |
分割休息の特例 | ・勤務終了後に継続して9時間以上の休息期間を与えられない場合に分割して休息時間を与えられるようにする ・一定期間の全勤務回数の2分の1を限度に、拘束時間の途中や拘束時間の経過直後に休息時間を分割できる。 ・ただし、分割した休息期間は、1日に1回あたり継続して3時間以上、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上でなければならない。 |
休息期間の確保
トラック運転手の休息期間は、2024年4月から以下のように改正されます。
改善基準告示の改正による、1日の休息時間の変更 | |||
改正前 | 改正後 | 例外 | |
休息時間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、9時間を下回らない |
・宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は、継続8時間以上の休息期間を設ける ・休息期間が9時間を下回る場合は運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える必要がある) |
トラック運転手の休憩時間とは、勤務が終了して次の勤務に入るまでの時間です。また休息期間にも「分割休息の特例」「2人乗務の特例」などの特例があります。
連続運転時間に関する規制
2024年4月以降、連続して運転できる時間は4時間以内とされ、運転を中断した際は原則として1回おおむね10分以上、合計30分以上の「休憩時間」を設けなければなりません。
改正前は「非運転時間」を確保することとされていたため、運転の中断時に荷積みや荷卸しの作業を行うことも認められていました。
しかし改正後は、原則として「休憩時間」を設けることとされるため、運転を中断していても荷積みや荷卸しなどの作業を行うことは認められません。
例外として、サービスエリアやパーキングエリアに駐停車できないなどやむを得ない場合は、連続運転時間を4時間30分まで延長可能です。
時間外労働と休日労働に関する制限
2024年4月からは、自動車運転業務での時間外労働の上限が年960時間になります。原則、月45時間・年360時間とし、臨時的な事情がある場合でも年960時間が限度です。
また休日労働は、2週間に1回を超えない、かつ休日労働によって拘束時間の上限を超えないことと定められています。
なお時間外労働や休日労働をさせる場合、「時間外労働及び休日労働に関する協定届(36協定届)」を労働基準監督署に届け出なければなりません。
割増賃金の引き上げ
中小企業では、2023年3月まで、月60時間を超える部分の時間外労働に対する割増賃金率は25%でした。しかし2023年4月以降は、50%に引き上げられています。
中小企業の時間外労働の割増賃金率 | ||
1ヶ月の時間外労働時間 (1日8時間・1週40時間を超える労働時間) | 2023年3月まで | 2023年4月以降 |
60時間以下 | 25% | 25% |
60時間超 | 25% | 50% |
さらに22時から翌5時(条例によっては23時から翌6時)までの深夜時間帯に時間外労働をさせる場合は、深夜割増賃金として25%が加算されます。60時間を超える時間外労働かつ深夜労働なら、割増賃金率は75%です。
物流・運送業者が受ける2024年問題の影響
物流・運送業者が受ける2024年問題の主な影響は次の通りです。
- 労働時間の減少から運べる荷物量が減る
- 人件費アップで物流・運送事業者の利益や売上が減少する
- 収入減がドライバー不足に繋がる
それぞれ以下で詳しく説明します。
労働時間の減少から運べる荷物量が減る
トラックドライバーの拘束時間や時間外労働が制限されれば、今までと同様に運ぶことは難しくなり、運べる荷物量が減少します。
運べる荷物が減ると、物流・運送業者の売上が減少するなどの影響が出るでしょう。
人件費アップで物流・運送事業者の利益や売上が減少する
2023年4月からは中小企業でも、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金の支払いが必要です。
これまで従業員に60時間を超える時間外労働をさせていた中小企業は、時間外労働時間を削減しなければ人件費が増加し、2023年3月以前より利益が減少する恐れがあります。
またその対策として、物流・運送料金の値上げを実施すれば、顧客の確保が難しくなり売上の減少につながることも考えられます。
収入減がドライバー不足に繋がる
時間外労働の規制や割増賃金の適用は、トラックドライバーの労働環境の改善になりますが、収入の減少につながる可能性があります。
事業者が時間外労働の規制や割増賃金の適用に対して対策を行った結果、トラックドライバーの時間外労働が減れば、これまで時間外労働で得ていた分の収入が減ってしまいます。
収入の低下によりなり手が減少し、ドライバー不足が起きる可能性のある点が、2024年問題に関連して懸念されている事項のひとつです。運送業者が必要な人員を確保できなければ、請け負う仕事も減らさざるを得なくなります。
荷主が受ける2024年問題の影響
荷主が受ける2024年問題の主な影響は、以下の通りです。
- 物流コストが増大する
- これまで通りの輸送を依頼できなくなる
それぞれ、以下で詳しく説明します。
物流コストが増大する
2024年問題によってドライバー不足に陥った場合、給料を上げて人材確保に対応すれば、物流・運送業界では人件費が今まで以上にかかります。
人件費などのコストが上がれば、物流・運送業者が運送料金を値上げする可能性があり、物流コストの増大という形で荷主に影響が生じます。
荷主にとって物流コストの増大は、利益や売上の減少につながり、事業経営に直接的に影響する問題です。物流コストが増えた分、ほかの費用を削減する必要に迫られれば、これまで提供していた送料無料のサービスなどが継続できなくなることも考えられます。
これまで通りの輸送を依頼できなくなる
トラックドライバーの時間外労働や休日出勤の制限、ドライバー不足によって、これまで通りの輸送を依頼できなくなる可能性があります。
たとえば、長距離の輸送やタイトなスケジュールでの輸送などは、働き方改革関連法が適用される2024年4月以降は難しくなるかもしれません。
2024年問題によって物流にかかる日数や依頼できる量が変わった場合、仕入れや商品の発送など、会社全体で業務スケジュールや体制の組み直しが必要になるでしょう。
一般消費者が受ける2024年問題の影響
一般消費者が受ける2024年問題の主な影響としては、以下の点が挙げられます。
- 配送料が上がる
- 翌日配送や時間指定が難しくなる可能性がある
それぞれ以下で詳しく説明します。
配送料が上がる
2024年問題によって物流・運送業界の人件費が上がれば、配送料の値上げにつながるでしょう。実際にドライバー不足等の理由から、配送料の改定を行った運送業者もあります。
今まで送料無料だったサービスでも送料がかかるようになり、家計の負担になることも考えられます。配送料が高ければ購入を躊躇しやすくなり、日常生活における商品の購入に影響が出るでしょう。
翌日配送や時間指定が難しくなる可能性がある
2024年問題によって、物流・運送業者が運べる荷物が減ったり、ドライバー不足になったりすれば、翌日配送や時間指定が難しくなるかもしれません。実際に、配送にかかる日数や指定できる時間帯の改定を行った運送業者もあります。
配送の日数や時間指定など、従来のサービスを維持できずに変更する物流・運送業者が、今後さらに増えることも考えられます。
2024年問題の対策で企業に必要な取り組みとは?
2024年問題に対処するため、企業に求められる主な取り組みは次の通りです。
- 2024年問題の課題や背景、企業の義務を理解する
- ドライバーの待遇や労働時間を改善する
- 荷主や一般消費者への理解を促す
- システムを導入してDX化を進める
それぞれ以下で詳しく説明します。
2024年問題の課題や背景、企業の義務を理解する
企業はまず、2024年問題に挙げられている課題や背景を知り、企業の義務をしっかり理解したうえで、対策する必要があります。
物流・運送業の2024年問題に挙げられる主な課題は以下の通りです。
荷物量の減少 | 運転時間の規制により運べる荷物量が減る |
人件費の高騰; | 月60時間超の割増賃金が上がることで人件費が上がる |
ドライバー不足 | ドライバーの収入減に伴い、人材の確保が難しくなる |
しかし、改正基準公告の改正や働き方改革関連法が改正されるに至ったのは、長時間労働になりやすいドライバーの労働環境を改善するという背景があります。
改正基準公告や働き方改革関連法を守り、ドライバーにとって働きやすい労働環境を整えることは、物流・運送業に関わる企業の義務です。
2024年4月直前になってから対応した場合、勤務形態や運行予定が急激に変化し、トラックドライバーを含め社内で混乱が起きかねません。2023年から対策していくことが求められます。
もし、働き方改革関連法による変更に不明点がある場合は、都道府県労働局や労働基準監督署で確認できます。
ドライバーの待遇や労働時間を改善する
1日の拘束時間は基本的に13時間以内、時間外労働時間の上限は年960時間など労働時間が制限されます。トラックドライバーの拘束時間や時間外労働時間が上限を超えている場合は、運行計画を見直すなどの改善が必要です。
また、長時間労働で残業代ありきの給与形態を見直し、週休2日制の導入や有給休暇の取得を推進するなど、働きやすい環境作りも求められます。
荷主や一般消費者への理解を促す
2024年問題で挙げられる問題点には、物流・運送事業者側だけでは解決できない部分もあります。物流・運送サービスを利用する荷主や一般消費者にも2024年からの変化を知ってもらい、意識を変えてもらわなければなりません。
割増賃金の引き上げによって人件費が上がることや、労働時間の制限で配送量や物流・運送料金に影響が出ることに対して理解を促しましょう。
システムを導入してDX化を進める
2024年問題に対処する方法のひとつが「業務の効率化」です。システムを導入してDX化を進めれば、業務の効率化を図れます。
物流・運送業では、荷待ち時間の長さも問題となっており、荷待ち時間の削減も対処すべき課題のひとつです。荷待ち時間を削減できれば、ドライバーの時間外労働時間や休日労働が制限されても、運べる荷物量を維持できるかもしれません。
たとえば、トラック予約受付システムの導入で、荷待ち時間を削減できる可能性があります。AIを活用して異業界の荷主同士をマッチングさせ、共同輸送することで効率化を図る事例も存在します。他社の成功事例を参考にしながら、業務の効率化を進められるといいでしょう。
まとめ
働き方改革関連法の改正により、2024年4月から物流・運送業界の規制が強化されます。労働時間の制限、時間外労働に対する賃金割増しなどの影響から、物流・運送量の減少やコスト増、トラックドライバーのなり手不足などが危惧されています。
物流・運送業界の経営者や人事・労務担当者は、規制内容や起こりうる問題を理解し、2024年問題に備えて対策が必要です。
よくある質問
2024年問題とは?
2024年問題とは、働き方改革関連法の改正により物流・運送業界に発生するさまざまな問題の総称です。2024年問題について詳しく知りたい人は「2024年問題とは働き方改革で物流・運送業界に生じる問題の総称」をご覧ください。
2024年問題の対策として企業がすべきことは?
課題や背景、企業が負う義務を理解し、労働環境の改善が必要です。労働時間を調整するとともに、時間外労働ありきの給与形態も見直すことが大切です。
2024年問題の対策を詳しく知りたい方は「2024年問題の対策で企業に必要な取り組みとは? 」をご覧ください。