裁量労働制の適用対象は、厚生労働省が定める一定の職種や、特定の機能を持つ事業所での仕事に限られています。そもそも裁量労働制とはどのような制度なのか、その概要と裁量労働制における時間外手当の計算方法も解説します。
目次
裁量労働制の概要と適用対象となる職種
裁量労働制の概要
労働基準法において、裁量労働制とは、業務の性質上、実施する方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用される制度です。そして、業務を遂行する手段や時間配分等の決定に関して使用者が具体的な指示をしないこととされています。
たとえば、ある日は5時間働き、その翌日には10時間働いた労働者がいたと仮定します。この労働者が、裁量労働制の下で、「みなし労働時間」が8時間の雇用契約を締結していれば、その労働者は、両日ともに8時間働いたものとみなされるわけです。
裁量労働制の適用対象となる職種
裁量労働制は、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類に大別されます。
専門業務型裁量労働制が適用される業務は、業務の遂行手段や時間配分の決定等について使用者が具体的な指示を与えることが困難なものとして、厚生労働省令によって全19種類に限定されています。
- 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析又は設計の業務
- 新聞・出版・放送の事業における記事の取材もしくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- コピーライターの業務
- システムコンサルタントの業務
- インテリアコーディネーターの業務
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 証券アナリストの業務
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
なお、専門業務型裁量労働制を導入するには、その要件について労使協定を結び、管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
一方、企画業務型裁量労働制が適用される業務は、「特定の事業場」に対象業務がある場合に限定されます。
たとえば、本社や本店またはそれに準ずる事業所における経営に関与する部分での企画、立案、調査及び分析の業務を担う労働者が適用対象です。
また、対象となる労働者はその業務を行うための知識や経験等を有するものであり、かつ、企画業務型裁量労働制により働くことに同意していることが前提です。そして、会社内に「労使委員会」を設置し、委員の5分の4以上の多数により、企画業務型裁量労働制導入に必要な事項に関する決議をし、管轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
裁量労働制を適用した場合の時間外手当の計算方法と具体例
裁量労働制を適用した場合においても、時間外手当の支払いが発生することもあります。
また、夜10時から翌朝5時までの深夜勤務や、法定休日に勤務した場合にも、会社側は、他の労働者と同様に深夜業の割増賃金や休日労働の割増賃金を支払う義務があります。以下、それぞれの場合に分けて、時間外労働の割増賃金について計算方法と具体的な事例を紹介していきましょう。
みなし労働時間を8時間超とした場合の時間外手当
裁量労働制を適用し、みなし労働時間を8時間以下とした場合には、法定労働時間内ですので時間外手当は発生しません。
しかし、労使協定または労使委員会の決議で、裁量労働制のみなし労働時間を8時間超に設定した場合には、休憩時間を除く労働時間が8時間を超える分につき、時間外手当(通常の賃金に25%以上の割増賃金を上乗せ)が発生します。
<具体的な計算事例>
時間外労働の割増賃金率が25%の事業場で、みなし労働時間10時間、1時間あたりの賃金3,000円の労働者は、1日あたりの時間外手当を以下のように算出します。
- 1日あたりの法定時間外労働=10時間-8時間=2時間
- 1日あたりの時間外手当=2時間×3,000円×1.25=7,500円
深夜勤務をした場合の割増賃金
裁量労働制を適用しているか否かにかかわらず、労働者が深夜勤務(夜10時~翌朝5時)をした場合には、労働時間数に応じて割増賃金を支払う必要が生じます。
この場合の割増賃金は、深夜時間帯の合計労働時間に、対象労働者の1時間あたりの賃金に深夜業の割増賃金率(25%以上)を掛けて算出します。
<具体的な計算事例>
深夜業の割増賃金率が25%の事業場で、1時間あたりの賃金2,000円の労働者が、ある日の夜10時から翌朝4時まで深夜勤務をした場合の割増賃金は、以下のように算出します。
- 深夜勤務をおこなった労働時間数=6時間
- 上記の深夜勤務に対して支払うべき割増賃金=6時間×2,000円×0.25=3,000円を上乗せ
法定休日に勤務した場合の割増賃金
日曜日など、法定休日に勤務した場合には、裁量労働制が適用されている労働者であっても、労働時間数に応じた35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
<具体的な計算事例>
休日労働の割増賃金率が35%の事業場で、1時間あたりの賃金2,500円の労働者が、法定休日である日曜日(1日のみ)に、午後1時から5時まで勤務した場合の賃金は、以下のように算出します。
- 法定休日の労働時間数=4時間
- 上記の法定休日勤務に対して支払うべき賃金=4時間×2,500円×1.35=13,500円うべき賃金=4時間×2,500円×1.35=13,500円
法定休日以外の「所定休日」の割増賃金
裁量労働制が適用されている労働者は、所定休日に勤務することも可能です。所定休日の労働時間と同じ週の他の日の労働時間の合計が、法定労働時間である週40時間を超えた場合、時間外手当(通常の賃金に25%以上の割増賃金を上乗せ)の支払いが必須となります。
<具体的な計算事例>
時間外労働の割増賃金率が25%の事業場で、1時間あたりの賃金5,000円の労働者が、所定休日に8時間勤務し、その週の合計労働時間が48時間となった場合の残業代は、以下のように算出することができます。
- 週40時間超えをした労働時間数=48時間-40時間=8時間
- 上記の例において、支払うべき時間外手当=8時間×5,000円×1.25=50,000円
時間外労働時間および割増賃金算定時の留意事項
裁量労働制の適用を受ける労働者の時間外労働時間数は、他の労働者と同様、労働基準法に基づく法定労働時間(1日8時間、週40時間)を基準として算出します。さらに、正確に時間外手当の計算をおこなう上で、時間外労働の種類に応じて、割増賃金率を加味することも重要です。
特に、1か月につき60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の割増賃金を支払うか、通常の割増率に加算された部分の25%以上の割増賃金に代えて代替休暇を与える必要がある(中小事業主の場合は、当分の間、実施が猶予されます)点にも注意しましょう。
まとめ
裁量労働制の適用を受ける労働者の時間外手当や割増賃金の計算にあたり、時間外労働や深夜労働、休日労働など種類別の各時間数を厳密に把握しておく必要があります。法定労働時間にも留意しながら、賃金の正しい算出をおこないましょう。
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