人事労務の基礎知識

みなし残業代(固定残業代)とは?メリット・デメリット、違法になるケースなどを解説

みなし残業代は固定残業代ともいわれる制度で、毎月の固定給に加えて、決まった時間分の残業代が支給されます。しかし、実労働時間がみなし残業時間を上回っても、残業代が出ないとしてトラブルになるケースも少なくありません。みなし残業とは、どういった制度なのかを解説していきます。

目次

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みなし残業代(固定残業代)とは?

みなし残業代とは、みなし残業制で支払われる、あらかじめ金額が決められた残業代のことです。みなし残業とは、固定残業ともいわれるもので、あらかじめ固定給の中に残業代が含まれている労働契約です。

みなし残業を導入するには、就業規則や雇用契約書などの書面に記載して、従業員に周知を図る義務があります。

みなし労働時間制と固定残業代制の違い

みなし残業代制(固定残業代制)は、「みなし労働時間制」と「固定残業制」の2種類に分けられます。混同されがちですが、「みなし労働時間制」と「固定残業代制」は異なる考え方です。

以下では、それぞれの制度の概要や違いを解説します。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものとして扱う制度です。あらかじめ決めた時間分だけ働いたものとみなして、その分の賃金が支払われます。

みなし労働時間制は、研究職や営業職など、実際の労働時間を把握するのが難しい場合に導入できる制度です。

みなし労働時間制では、実際の労働時間がみなし労働時間を上回った場合でも、上回った時間分の残業代は基本的に支払われません。みなし労働時間が1日7時間のケースであれば、ある日の労働時間が8時間でも1時間分の残業代は出ず、7時間分の労働とみなされます。

固定残業代制

固定残業代制とは、従業員が残業することを想定して、定額の残業代(みなし残業代)を支払う制度です。固定残業代制はみなし残業代制とも呼ばれます。

基本給に加えて固定残業代を支給するタイプと、基本給の中に固定残業代を含めるタイプの2種類の固定残業代制があります。みなし労働時間制とは違い、固定残業代制では法律上、職種による制限はありません。職種を問わず導入できます。

固定残業代制では、みなし残業代の計算のもとになった想定残業時間を上回る時間の残業をした場合、企業は残業代の支払いが必要です。

企業がみなし残業代(固定残業代)を導入するメリット

企業がみなし残業代を導入する主なメリットは、次の通りです。

みなし残業代(固定残業代)を導入する主なメリット

  • 人件費の見通しが立ちやすい
  • 残業代計算の負担を軽減できる
  • 業務効率の改善につながる

以下では、それぞれの内容を解説します。

人件費の見通しが立ちやすい

みなし残業代を導入すると、一定の残業代を支払うことが決まっているため、人件費の見通しが立ちやすくなります。

人件費は、企業の支出の中でも大きな割合を占める支出です。人件費の変動幅が抑えられ、見通しが立てやすくなると、支出予測がしやすくなります。経営計画や資金繰り計画を立てやすくなる点がメリットです。

残業代計算の負担を軽減できる

みなし残業代を導入すると、あらかじめ定めたみなし残業時間までは残業代の計算が不要です。たとえば、みなし残業が月30時間であれば、残業時間が月30時間を超えた従業員の残業代だけを計算すれば済みます。

みなし残業代を導入しない場合に比べて、残業代の計算方法がわかりやすく、残業代計算の負担を軽減できる点がメリットです。給与計算業務の効率が上がるでしょう。

業務効率の改善につながる

みなし残業代を導入すると、残業の有無によって収入が変わらないため、早く仕事を終えて帰ろうと意識する従業員が増える可能性があります。結果として、業務効率が良くなる点がメリットです。

従業員は残業をしなくても残業代が受け取れるので、収入を増やすために不必要な残業をする従業員が減り、生産性向上につながるでしょう。

企業がみなし残業代(固定残業代)を導入するデメリット

企業がみなし残業代を導入する主なデメリットは、次の通りです。

みなし残業代(固定残業代)を導入する主なデメリット

  • 残業が発生していなくても残業代の支払いが生じる
  • サービス残業や長時間労働が横行する可能性がある

以下では、それぞれの内容を解説します。

残業が発生していなくても残業代の支払いが生じる

みなし残業代を導入すると、残業をしていない従業員に対しても、一定の残業代を支払わなければなりません。

残業がない企業や残業が少ない企業では、みなし残業代を導入すると人件費が高くなる可能性があります。

またみなし残業代を導入する際、みなし残業時間を長く設定すると、その分だけ賃金が高くなる点にも注意が必要です。

基本給に加えて毎月支払うみなし残業代が増えれば、人件費が増えて経営の圧迫要因になることも考えられます。

サービス残業や長時間労働が横行する可能性がある

従業員や管理職がみなし残業制の仕組みや趣旨を間違って認識していると、サービス残業や長時間労働の原因になる場合があります。

たとえば、「固定残業時間を超えた分の残業代はつけてはいけない」「みなし残業時間分は残業しなければならない」などと誤解しているケースが考えられます。

従業員がみなし残業制の仕組みや趣旨を誤解しないよう、制度の内容を社内で周知することが必要です。

みなし残業時間と実際の労働時間が異なる場合の残業代はどうなる?

みなし残業代を支払っていても、毎月の業務量には変動があるケースが多く、みなし残業時間と実際の労働時間は異なることが想定されます。みなし残業制を導入していても、タイムカード等による労働時間の管理は必要です。

みなし残業時間よりも実労働時間が少ない場合

みなし残業時間より実労働時間が少ない場合でも、支給額を減らすことはできません。固定残業代は規定の額を支払うことになります。

みなし残業時間よりも実労働時間が多い場合

みなし残業時間より実労働時間のほうが多い場合には、みなし残業として決められた時間を超えた分の残業代の支払いが必要です。固定残業代として支払っていても、実際の残業時間に即して、残業手当を支払う義務があります。

みなし残業時間の上限は?

みなし残業時間の上限は設けられていませんが、法定労働時間を超えて時間外労働させる場合、労使間で締結する36協定の上限は1ヶ月45時間、1年間で360時間です。そのため36協定に抵触しないように、みなし残業時間は45時間以内に設定している企業が多くみられます。

みなし残業代(固定残業代)で違法になるケース

みなし残業による残業代の取り扱いでトラブルが多いケースを紹介します。

超過分の未払い

実労働時間がみなし残業時間を超えても、みなし残業代を支払っているので残業代の支払い義務がないという誤解から、超過分の残業代が未払いといったトラブルは少なくありません。みなし残業時間を明記せずに、残業代込みとして給与を支給している企業もみられます。

また、みなし残業代を支払うことで、労働時間の管理は不要という誤った認識から、残業時間を把握していないケースもあります。

しかし、みなし残業でも労働時間を管理して、超過分の残業代を支払わなければ違法となります。

休日・深夜の割増賃金の未適用

みなし残業代を計算する際には、休日労働や深夜労働の割増賃金も考慮しましょう。法定労働時間を超えた時間外労働の割増賃金は上乗せしていても、割増賃金を考慮していないことで起こるトラブルも多くみられます。

時間外労働の割増賃金は2割5分ですが、休日労働では3割5分になります。また、夜10時から朝5時までの深夜労働は2割5分の割増賃金となるため、時間外労働の深夜の勤務では本来は5割の割増賃金です。

たとえば、所定労働時間が9時から18時で1時間の休憩を除く8時間の場合、23時まで残業すると、18時から22時までの4時間は2割5分の割増賃金が適用されます。一方、22時から23時までの1時間は5割の割増賃金となります。

最低賃金を下回る

固定給が時給換算で最低賃金を上回り、時間外労働の割増賃金はさらに2割5分上乗せした水準以上でなければ、違法です。

たとえば、令和4年度の東京都の最低賃金は1,072円なので、時間外労働では時給1,340円が最低水準になります。

しかし悪質なケースでは、みなし残業代が時間外労働の割増を考慮していないばかりか、基本給も無視し最低賃金を下回っている場合もあります。

時間外労働の時給でも最低賃金を下回らないよう、適切に賃金を設定することが大切です。

異常な長時間のみなし残業代

最低賃金を下回らなければ、みなし残業代を何時間分でも青天井に設定してよいわけではありません。

会社は労働者に対し安全配慮義務を負っており、働き方改革法では36協定で延長できる残業時間数に罰則付きの上限が設けられました。

基本的に45時間分を超えるみなし残業代は設定すべきではありません。

その理由は、臨時的な理由で特別条項が適用される場合を除き、36協定で法定労働時間を超えて延長できる1ヶ月の残業時間数の上限は45時間だからです。

過去の判例をみても、月45時間分を超えたみなし残業代の有効性が争われた場合、裁判所は安全配慮義務違反や公序良俗違反を理由に、45時間分までのみなし残業代しか認めませんでした。違反した企業には差額の支払を命じる判決や、みなし残業代自体を否定して残業代全額の支払を命ずる判決も出されています。

みなし残業代(固定残業代)を導入する際の注意点

みなし残業代を導入する際の主な注意点は、次の通りです。

みなし残業代(固定残業代)を導入する際の主な注意点

  • みなし残業の導入は「不利益変更」に該当する場合がある
  • みなし残業代は、「金額」や「時間数」の明記が必要
  • 求人情報にもみなし残業の内容を明記する必要がある

以下ではそれぞれの内容を解説します。

みなし残業の導入は「不利益変更」に該当する場合がある

みなし残業の導入で、みなし残業代を基本給に上乗せして支払う場合には、従業員の不利益には当たらないため同意は不要です。

一方、これまでの基本給にみなし残業代を含む形での変更では、実質的な賃金の低下となり従業員にとって不利益となります。そのため原則として、従業員の同意が必要です。

みなし残業代は、「金額」や「時間数」の明記が必要

みなし残業では、決められた残業時間に基づいたみなし残業代を支払います。「月給30万円(45時間分の固定残業代8万円を含む)」、あるいは「基本給22万円 固定残業代(45時間分)8万円」といったように、固定残業代と残業時間がわかる形で明記することが必要です。

明記していないと、残業代未払いで訴訟になった場合会社が敗訴する可能性が高いので、リスク管理の面からもみなし残業代の明記は必須です。金額・時間数、両方併記しておくのがいいでしょう。

求人情報にもみなし残業の内容を明記する必要がある

みなし残業制(固定残業制)を導入したら、求人情報にもみなし残業の内容を明記する必要があります。明記しなければならない内容は、以下の通りです。

求人情報に明記が必要なみなし残業代(固定残業代)の内容

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

出典:厚生労働省「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」

求人サイトに情報を掲載する際、文面をよく確認せずに掲載してしまい、後々トラブルになるケースも少なくありません。採用時や採用後のトラブルを回避するためにも、求人情報には法令で定められた事項を適切に明示しましょう。

みなし残業代を導入すべき企業・導入すべきでない企業

みなし残業代の導入パターンには、「経営戦略型」と「やむなく型」の2種類があります。

みなし残業代を導入すべきかどうか、下記それぞれのパターンと照らし合わせて検討しましょう。

経営戦略型

まず「経営戦略型」のみなし残業代ですが、さらに2種類に分かれます。第1は、「ダラダラ仕事をする人が残業代で稼ぎ、効率良く働いている人のモチベーションを下げたり、賃金の逆転現象が起きないようにしたりするため」です。

どれだけ効率的に顧客対応できるかが勝負の営業会社や、プレゼンテーションの作成業務・リサーチ業務などデスクワーク系の会社は、このタイプのみなし残業代は親和性があるでしょう。

第2は、「本人が自由に働ける職場環境を提供するため」です。スタートアップ企業ではフレックスタイム制や裁量労働制とセットで導入されることも多く、「本人の就労の自由度を高めつつ、企業としての人件費は一定範囲に固定したい」という場合に用いられます。

残業をしてよい時間数の上限だけ決めて、あとは本人の自由に任せる形になるので、裁量の大きいスタートアップ企業には全般的に親和性が高いでしょう。

以上を踏まえると、逆に製造業のライン作業、飲食店のホールスタッフのように、本人の努力や工夫で残業時間数を調整しにくい業種には、みなし残業代はなじみにくいです。

やむなく型

次に「やむなく型」のみなし残業代です。やむなく型は、上記のような積極的な形ではなく、財務的な事情等で残業代が払いきれないため、やむなく、基本給の一部や諸手当などを、みなし残業代として支払うというパターンです。

未払い残業代を計上し続けることは大きな法的リスクになるので、就業規則の不利益変更や、従業員との雇用契約の内容の見直しによりみなし残業代を導入し、形の上だけでも残業代の未払いをなくすのが先決となります。

その上で、経営の立て直しなど、根本対策を進めていく必要があります。

まとめ

みなし残業代(固定残業代)の導入は、適正な人件費の配分・企業文化に合った働き方の実現・経営リスクの回避など導入理由はさまざまです。いずれの場合においても、超過分や深夜労働などの割増賃金を支払わず、違法性があるケースもみられます。そのため導入は慎重に判断し、導入後も正しく制度を運用できるようにしましょう。

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よくある質問

みなし残業代(固定残業代)とは?

みなし残業代とは、あらかじめ固定給の中に残業代が含まれている労働契約で支払われる残業代です。

みなし残業代について詳しく知りたい方は「みなし残業代(固定残業代)とは?」をご覧ください。

みなし労働時間制と固定残業代制の違いとは?

みなし労働時間制は、実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものとしてその分の賃金を支払う制度です。一方で固定残業代制は、実際の残業時間に関わらず、残業を一定の時間しているものとして固定の残業代を基本給や年俸に含める制度です。

みなし労働時間制と固定残業代制の違いについて詳しく知りたい方は「みなし労働時間制と固定残業代制の違い」をご覧ください。

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