協会けんぽ(全国健康保険協会)とは、国内最大規模の健康保険事業者のことです。
会社員は、一般的に協会けんぽ、もしくは会社が設置している健康保険組合に加入しており、協会けんぽの加入者は、主に中小企業の従業員とその被扶養者です。
本記事では、協会けんぽの概要や被保険者が受けられる制度について解説します。
目次
協会けんぽ(全国健康保険協会)とは
協会けんぽとは、国内最大規模の健康保険事業を運営する保険者で、正式名称は「全国健康保険協会」といいます。
2008年10月から健康保険法にもとづき、国が運営してきた健康保険事業(政府管掌健康保険)に代わり設立された公法人です。
協会けんぽの主な業務は健康保険事業の運営および検診・保健指導で、加入している多くは中小企業の従業員とその被扶養者です。
自身の健康保険が協会けんぽかどうかは健康保険証で確認できます。健康保険証の保険者名称が「全国健康保険協会」となっていれば、協会けんぽに加入していることになります。
出典:全国健康保険協会「協会けんぽの概要」
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社会保険の加入条件まとめ!手続き方法や書類を解説
協会けんぽ(全国健康保険協会)以外の健康保険
健康保険は所属する会社の規模のほか、自営業やフリーランスといった業務形態、公務員など職種によっても異なります。
主な健康保険は以下の4種類です。
協会けんぽ | 健康保険組合 | 国民健康保険 | 共済組合 | |
---|---|---|---|---|
運営元 | 全国健康保険協会 | 複数または単体の企業が設立した健康保険組合 | 各自治体 | 各共済組合 |
主な被保険者 | 中小企業の従業員など | 大企業など民間企業の従業員 | 自営業者やフリーランスなど | 公務員や私立学校の職員など |
加入人数 | 4,044万人 | 2,884万人 | 2660万人 | 854万人 |
出典:厚生労働省「第154回社会保障審議会医療保険部会_基礎資料」
75歳以上は後期高齢者医療制度の対象のため、上記の健康保険の加入対象には含まれません。
協会けんぽは、主に健康保険組合を設立していない中小企業が加入する健康保険です。
一方、健康保険組合は主に常時700人以上の従業員を雇用する会社が健康保険組合を設立、運営している健康保険を指します。
健康保険組合は複数の会社で設立・運用することも可能です。ただし、複数の会社で健康保険組合を設立する場合、従業員の総数は3,000人以上であることが条件です。
協会けんぽ(全国健康保険協会)の保険料と介護保険料
協会けんぽの保険料率は、被保険者が所属する事業所がある都道府県によって異なります。
たとえば、被保険者を雇用している会社が東京都にあっても、実際に勤務している事業所が東京都以外の道府県にある場合、事業所がある道府県の保険料率が適用されます。
保険料は、都道府県ごとに定められている保険料率をもとに、自身の標準報酬月額や標準賞与額から計算します。
保険料率はほぼ毎年改定されるため、自身の保険料率や保険料を確認したい場合は、協会けんぽのホームページをご覧ください。
2024年度の全国の健康保険料率は以下のとおりです。
2024年度(令和6年度) | |
---|---|
北海道 | 10.21% |
青森県 | 9.49% |
岩手県 | 9.63% |
宮城県 | 10.01% |
秋田県 | 9.85% |
山形県 | 9.84% |
福島県 | 9.59% |
茨城県 | 9.66% |
栃木県 | 9.79% |
群馬県 | 9.81% |
埼玉県 | 9.78% |
千葉県 | 9.77% |
東京都 | 9.98% |
神奈川県 | 10.02% |
新潟県 | 9.35% |
富山県 | 9.62% |
石川県 | 9.94% |
福井県 | 10.07% |
山梨県 | 9.94% |
長野県 | 9.55% |
岐阜県 | 9.91% |
静岡県 | 9.85% |
愛知県 | 10.02% |
三重県 | 9.94% |
滋賀県 | 9.89% |
京都府 | 10.13% |
大阪府 | 10.34% |
兵庫県 | 10.18% |
奈良県 | 10.22% |
和歌山県 | 10.00% |
鳥取県 | 9.68% |
島根県 | 9.92% |
岡山県 | 10.02% |
広島県 | 9.95% |
山口県 | 10.20% |
徳島県 | 10.19% |
香川県 | 10.33% |
愛媛県 | 10.03% |
高知県 | 9.89% |
福岡県 | 10.35% |
佐賀県 | 10.42% |
長崎県 | 10.17% |
熊本県 | 10.30% |
大分県 | 10.25% |
宮崎県 | 9.85% |
鹿児島県 | 10.13% |
沖縄県 | 9.52% |
40歳から64歳の被保険者は健康保険料のほか、介護保険料も加算されます。
介護保険料率は令和6年3月分(5月1日納付期限分)から全国一律で1.60%ですが、定期的に改定されるため、協会けんぽのホームページを確認しましょう。
保険料の計算方法について詳しく知りたい方は別記事「社会保険料まとめ!計算方法から社会保険料控除まで徹底解説」をご覧ください。
協会けんぽ(全国健康保険協会)の加入方法
すべての法人の事業所(企業)は国が定めた保険加入の義務があり、また、保険適用は事業所単位で行われます。
会社を設立し、常時雇用する従業員が5人以上になった場合は強制適用事業所となるため、「新規適用届」を提出しましょう。
強制適用事業所とは、特定の要件に該当する事業所のうち、事業主や従業員の意思に関わらず健康保険への加入が義務付けられている事業所をいいます。
会社が健康保険の適用対象になった場合は、その事実があった日から5日以内に管轄の年金事務所に新規適用届を提出しなくてはなりません。
個人事業所で常時雇用の従業員が5人未満の場合は任意適用事業所に該当するため、事業所は健康保険への加入義務はありません。
任意適用事業所が健康保険への加入を希望する場合には「任意適用申請書」を作成し、所轄の年金事務所長の認可を受ける必要があります。
出典:全国健康保険協会「適用事業所とは?」
新規適用届や任意適用申請書を提出する際に添付する書類と、条件は以下のとおりです。
提出書類 | 条件 |
---|---|
法人(商業)登記簿謄本 | 届出する事業所が法人事業所の場合 |
法人番号指定通知書のコピ― | 事業主が国、地方公共団体または法人の場合 |
事業主の世帯全員の住民票の原本 | 強制適用事業所(常時雇用従業員が5人以上)となる個人事業所の場合 |
「共済組合制度(短期組合員)の適用に伴う健保法第 200 条等の適用申出書」 | 共済組合制度に加入する事業所の場合(短期給付) |
「健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」 | 口座振替での保険料納付を希望する場合 |
社会保険の加入について詳しく知りたい方は別記事「社会保険の加入条件まとめ!手続き方法や書類を解説」をご覧ください。
協会けんぽ(全国健康保険協会)の被保険者が受けられる制度
協会けんぽの被保険者が受けられる制度はさまざまありますが、ここでは主な制度について解説します。
保険診療の利用
保険診療の利用は、保険医療機関で医療行為(診療・治療・処方等)を受けた場合、被保険者の窓口費用負担は2割〜3割となる制度です。健康保険制度の中心であり、「療養の給付」と呼ばれます。
保険診療による費用の窓口負担割合は年齢と所得額によって異なります。
年齢 | 保険診療の窓口負担割合 |
---|---|
70歳未満 | 3割 |
70歳以上 (うち現役並の所得がある人(*)) | 2割 (3割) |
(*)標準報酬月額が28万円以上の人。なお、単身世帯で年収383万円に満たない人または、夫婦世帯で520万円に満たない人は対象外
療養の給付の対象となる範囲は以下のとおりです。
健康診断費用の補助
協会けんぽの被保険者は、年度内に1回まで健康診断費用の一部補助が受けられます。
一般検診は自己負担額が最高でも5,282円で受けられ、オプションで受けられる項目についても検診費用の自己負担額を超えた分については費用が補助されます。
また、被保険者の被扶養者も健康診断を受ける際に一部補助が適用されます。
出典:全国健康保険協会「生活習慣予防検診の自己負担額」
高額療養費制度の利用
「高額療養費制度」とは、医療機関での医療行為の内容によって窓口負担が高額になる場合に、被保険者の費用負担を軽減させるための制度です。
「高額療養費制度」では、1ヶ月の中で、通院・入院・手術の支払いが高額になった場合、個人の医療費の限度額を超えた分の払い戻しを受けることができます。
ただし、医療機関の窓口での立て替え払いが必要で、払い戻しには通常3ヶ月以上の期間を要します。
一方、「マイナ保険証」または「限度額適用認定証」を提出することで、医療費が高額になりそうな場合に窓口での支払い負担が軽減されます。
「マイナ保険証」は健康保険証として利用登録を行ったマイナンバーカードのことです。
マイナ保険証に対応している医療機関であれば、窓口でマイナ保険証を提出することで後述する「限度額適用認定証」がなくても高額療養費制度を利用することができます。
マイナ保険証について詳しく知りたい方は別記事「マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)とは?メリット・デメリット、登録方法をわかりやすく解説」をご覧ください。
また、「限度額適用認定証」は保険証とあわせて医療機関に提示することで、自己負担額の上限を超える分について支払いが免除される書類です。
個人の医療費上限額は、被保険者の年齢と収入によって異なり、協会けんぽのホームページから確認できます。
出典:全国健康保険協会「マイナ保険証または限度額適用認定証をご利用ください」
柔道整復師・はり・きゅう・あん摩の保険適応
特定の要件を満たしている場合は、柔道整復師による施術や、はり・きゅう・あん摩・マッサージなども保険診療の対象となる場合があります。
保険適応となる施術とならない施術の目安は以下のとおりです。
保険適応となる場合 | 保険適応とならない場合 | |
---|---|---|
柔道整復師 (接骨院・整骨院) | 打撲・ねんざ・肉離れ・骨折・脱臼など急性の怪我や症状に対する治療 | 肩こりなど慢性の症状や後遺症のための治療、および、通勤中や勤務中の怪我のための治療 |
はり・きゅう | 神経痛・リウマチ・五十肩・頚腕症候群・腰痛・頸椎捻挫後遺症の治療目的のうち、医師の同意があるもの | ・左記の治療のうち、医師の同意がないもの ・他の医療機関とあわせて治療が行われているもの |
あん摩・マッサージ | 医師の同意がある施術 | 医師の同意がない施術 |
出典:全国健康保険協会「はり・きゅう、あん摩・マッサージのかかり方」
上記の施術で保険診療に該当する場合、療養費支給申請書の提出が必要です。
療養費支給申請書を柔道整復師や施術者が被保険者に代わって協会けんぽに請求する際は、施術費用や傷病名、施術期間に間違いがないかをよく確認したうえで委任欄へ記入しましょう。
保険診療のほか、自由診療の場合でも医療費控除の申請にも利用できる可能性があるため、領収書は必ず保管しましょう。
医療費控除について詳しく知りたい方は別記事「医療費控除とは?対象となる費用や申請方法について解説」をご覧ください。
傷病手当金の受給
傷病手当とは、病気や怪我の療養のために仕事を休まなければならない被保険者の生活を保証するための制度です。
傷病手当金を受け取れる要件は以下のとおりです。
傷病手当金を受け取れる要件
- 業務外の病気や怪我であること
- 出勤できない、または業務が遂行できないこと
- 4日以上(連続した3日間を含む)仕事を休んだこと
- 休んだ日の分の給与が支払われないこと
受け取れる傷病手当の額は以下の条件によって異なります。
- 保険加入期間
- 年齢
- 各種手当や年金の有無
- 労災保険の適用の有無
- 協会けんぽ加入以前を含めた標準報酬月額
たとえば、支給前に12ヶ月給与の支払いを受けており、標準報酬月額の平均を算出できる場合は以下のように計算します。
1日の金額 =(支給開始日以前12ヶ月分の標準報酬月額の平均)÷ 30日 × ⅔
被保険者の支給開始日以前12ヶ月分の標準報酬月額を計算する際、傷病手当金の受給前の保険期間が12ヶ月未満の場合は以下のうちどちらか金額が低い方が採用されます。
傷病手当金の計算方法
- 支給開始月以前の直近の継続した標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均である30万円
また、以下の項目に該当する場合は支給される傷病手当金が調整されます。
- 給与が支払われた場合
- 障害厚生年金や障害手当金を受給している場合
- 老齢退職年金を受給している場合
- 労災保険の休業補償給付を受給している(していた)場合
- 出産手当金を受給している場合
出産育児一時金・出産手当金の受給
出産育児一時金とは、被保険者とその扶養者が出産した際に、生まれた子ども1人につき50万円が支給される制度です。
なお、産科医療補償制度に加入していない病院・診療所・助産院で出産した場合の支給額は、48万8,000円です。双子以上の場合は、その人数分支給されます。
出産手当金とは、出産のために仕事を休んだ被保険者がその間給与の支払いを受けなかった場合に、休業期間中を対象に出産手当金が支給される制度です。対象期間は原則、出産日の42日前〜出産の翌日から56日目までです。
出産日が予定日より遅れた場合や、双子以上の多胎出産であった場合などは日数や給付額が異なるため、該当する場合は協会けんぽのホームページで確認しましょう。
出産手当金の計算方法は以下のとおりです。
出産手当金の計算方法
1日の金額 =(支給開始日以前12ヶ月分の標準報酬月額)÷ 30日 × 2/3
被保険者の保険加入期間が支給日より12ヶ月未満の場合は、以下のうちどちらか金額が低い方が採用されます。
- 支給開始月以前の直近の継続した標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均である30万円
また、出産手当金が傷病手当金より少ない場合、その差額を傷病手当金として受給できます。
出典:全国健康保険協会「子どもが生まれたとき」
出典:全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」
協会けんぽ(全国健康保険協会)の任意継続
協会けんぽの任意継続とは、協会けんぽの被保険者が、会社を退職後も引き続き協会けんぽへの加入を希望する場合、そのまま加入継続できる制度のことです。
再就職が決まっていない場合には、国民健康保険に加入するか、配偶者などの被扶養者になるか、任意継続のうちいずれかを選択します。
退職後に再就職が決まっている場合は、通常、再就職先が加入している健康保険協会などに加入します。
出典:全国健康保険協会「会社を退職するとき」
まとめ
協会けんぽは、全国健康保険協会の略称で、国内最大規模の健康保険事業者です。
協会けんぽの加入者は、保険診療が利用できるだけでなく、健康診断費用の一部補助や各種手当も受けられます。
自身が加入している健康保険が協会けんぽかどうかを確認したい場合は、健康保険証に記載されている保険者が全国健康保険協会と書かれているかを確認しましょう。
よくある質問
協会けんぽに加入するメリットは?
協会けんぽでは、登記簿謄本など加入に必要な書類があります。会社を設立し、常時雇用する従業員が5人以上になった場合は強制適用事業所となるため、「新規適用届」を提出しなければなりません。その他、詳しくは記事内「協会けんぽの加入方法」をご覧ください。
協会けんぽに加入するメリットは?
協会けんぽの被扶養者は、保険診療の利用や健康保険の補助が受けられます。また、高額医療制度の利用や傷病手当金の受給も可能です。
詳しくは記事内「協会けんぽ(全国健康保険協会)の被保険者が受けられる制度」をご覧ください。