人事労務の基礎知識

給与計算のやり方まとめ!正しい計算方法を分かりやすく解説

給与計算のやり方まとめ!正しい計算方法を分かりやすく解説

給与計算とは、総支給額から各種控除を差引き、従業員に実際に支払う給与額(手取り額)を計算するまでの一連の流れのことです。

本記事では、初めてでも給与計算を確実に行う方法をわかりやすく解説します。

2024年6月開始の定額減税に関して

2024年6月より実施の定額減税に関しては「2024年6月開始の定額減税とは?対象者・金額・計算方法をわかりやすく解説」の記事をご覧ください。

なお、5月21日段階では給与明細への減税額の明記の報道がありましたが、こちらは確定した情報がわかり次第、上記の記事を更新してお知らせいたします。

目次

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給与計算のやり方

給与計算とは、総支給額から各種控除を差引き、従業員に実際に支払う給与額(手取り額)を計算するまでの一連の流れのことです。

給与計算の計算式

総支給額 - 控除額 = 差引総支給額(手取り額)

総支給額・控除額の計算は、各項目ごとにルールや法律が異なります。従業員に適切に給与を支払ったり、正しく税金を納めるために正しい知識を理解しておかなければなりません。

給与計算は大きく分けて以下の3ステップで進めます。

ここからは、給与計算の各手順で何を算出するのか、どのような計算式を利用するのかについて詳しく解説していきます。

手順1. 総支給額の計算

総支給額の計算に必要な項目は以下のとおりです。

  • 勤務時間の算出
  • 割増賃金の計算
  • 各種手当の計算

勤務時間の算出は、その後の割増賃金の計算にも大きく影響するため、間違いがないよう特に慎重に確認しましょう。

勤務時間の算出

基本給などが設定されている場合は、まず、給与計算の対象となる期間の総労働時間数・所定(法定)労働時間の勤務状況・割増賃金の対象となる勤務の有無と、その総時間を求めます。有給休暇の使用時間も総労働時間に含めるので注意しましょう。

  • 所定労働時間
    企業で決められている勤務時間のこと
  • 法定労働時間
    1日8時間・週40時間までの勤務時間のこと

所定労働時間が法定労働時間より少ない場合、残業代を支払う範囲やその額は雇用契約に則って計算します。法定労働時間を超えた分は、必ず規定の割増賃金を支払わなくてはなりません。

割増賃金の計算方法や対象となる時間、条件については次の項目で解説します。

割増賃金の計算

総労働時間数などが算出できたら、次は各種割増賃金の計算です。割増賃金を計算するためにはまず、1時間あたりの賃金を算出します。

  • 1時間あたりの賃金 = 月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間
  • 月給 = 基本給 + 役職手当 + 資格手当など
    ※住居手当や通勤手当などは原則含まない
  • 1ヶ月の平均所定労働時間 =
    { (365日 - 年間所定休日数) × 1日の所定労働時間数 } ÷ 12(ヶ月)

1時間あたりの賃金が算出できたら、その賃金をもとに次のように割増賃金を計算します。

割増賃金の計算式

割増賃金 = 時間外労働時間数 × 1時間あたりの賃金 × 割増率

それぞれの割増率は、以下の表を参考にしてください。


種類割増対象となる時間割増率
法定時間外労働法定労働時間である1日8時間
週40時間を超えた労働時間
25%以上
1ヶ月60時間を超える分の時間外労働
(2023年4月1日から適用)
50%以上
法定内残業会社で定められた労働時間を超えているが、労働基準法で定められた法定労働時間は超えていない分の残業0%以上
深夜22時から5時までの間の労働時間25%以上
休日(法定)法定休日(週1日)における労働時間35%以上
休日(法定外)会社で定めた休日(所定)における労働時間0%以上
(法定時間外に及ぶときは25%以上)
出典:厚生労働省「2.法廷割増賃金率の引上げ」

各種手当の計算

ここで解説する各種手当は、残業代などの法律で定めている時間外手当ではなく、企業が任意で用意する手当を指します。

各種手当は会社によって内容や金額が異なりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

各種手当の代表例

  • 通勤手当
  • 出張手当
  • 転勤手当
  • 役職手当
  • 資格手当

通勤手当は月15万円までは非課税(出張手当や転勤手当も必要であれば非課税)ですが、役職手当や資格手当は課税対象です。

出典:国税庁「No.2508 給与所得となるもの」
出典:国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」

手順2. 控除額の計算

総支給額を算出したら、それらの金額をもとに控除額を計算します。

各種保険料は会社が負担するものと従業員が負担するものに分かれますが、ここでは、従業員の給与から控除する分のみを解説します。

社会保険料の計算

社会保険には「健康保険」と「厚生年金保険」の2種類があり、保険料は会社と従業員で折半するのが一般的です。また、健康保険は会社によって保険料が異なります。ここでは協会けんぽを例にして紹介します。

健康保険と厚生年金保険はどちらも次のように計算します。

社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の計算式

保険料 = 標準月額報酬 × 保険料率 ÷ 2

標準月額報酬とは、その年の4〜6月の給与の平均額です。この計算には基本給・役職手当・残業代・通勤手当・家族手当などが含まれます。

なお、年3回以下の賞与や臨時ボーナス、祝い金などは対象外となります。

健康保険料の計算例

例:標準月額報酬が32万円で東京に事業所がある場合(保険料率9.98%)

健康保険料:320,000円 × 9.98% ÷ 2 = 15,968円

出典:全国健康保険協会「令和6年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」

協会けんぽの場合、保険料率は各都道府県によって異なるため、協会けんぽのホームページを参考に事業所のある各都道府県の保険料率を確認しましょう。

厚生年金保険料の計算例

例:標準月額報酬が32万円の場合(保険料率は18.3% )

厚生年金保険料:320,000円 × 18.3% ÷ 2 = 29,280円

出典:日本年金機構「厚生年金保険料額表」

社会保険料の計算方法について詳しく知りたい方は、別記事「社会保険料まとめ!計算方法から社会保険料控除まで徹底解説」をご覧ください。

介護保険料の計算

介護保険料は40歳から64歳に課税される社会保険で、保険料は会社と従業員で折半となります。

介護保険料の計算式

介護保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2

以下の計算例は、協会けんぽの保険料率をもとに算出しています。

介護保険料の計算例

例:標準月額報酬が32万円の場合(保険料率1.60%)

介護保険料:320,000円 × 1.60% = 5,120円

出典:全国健康保険協会「協会けんぽの介護保険料率について」

介護保険料の計算方法について詳しく知りたい方は、別記事「介護保険料の計算方法まとめ!制度の概要や計算例を解説」をご覧ください。

雇用保険料の計算

雇用保険料は事業内容によって変動しますが、一般企業の場合、労働者負担は6/1,000です。

雇用保険料の計算式

雇用保険料 = 賃金 × 雇用保険料率

なお、雇用保険料は2022年10月1日から引き上げられているため、自社の事業内容に対して雇用保険料率が正しく反映されているかを必ず確認しましょう。

雇用保険料の計算例

例:標準月額報酬が32万円で一般企業の場合(保険料率は6/1,000)

雇用保険料:320,000円 × 6/1,000 = 1,920円

所得税の計算

所得税とは、1月1日~12月31日の所得にかかる税金のことです。

会社員の場合、毎月源泉徴収をして会社側が個人に代わって納税しますが、これはあくまでおおよその金額です。そのため、1年間の所得税額が確定する12月に年末調整を行い、正確な所得税を算出します。

所得税を算出するためには、まず、所得税のかかる「課税所得」を計算する必要があります。課税所得は以下の計算式で求めます。

所得税の計算式(源泉徴収分)

給与(基本給 + 残業代など)-(社会保険料 + 雇用保険料)= 課税所得

上記の計算で求めた課税所得を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせて源泉徴収額を算出します。

所得税の計算例(源泉徴収分)

例:
・給与が32万円
・社会保険料は45,248円
・雇用保険料は1,920円

課税所得:320,000円 -(45,248円 + 1,920円)= 272,832円

所得税(源泉徴収)= 7,390円

住民税の計算

住民税は前年の所得をもとに計算されます。

住民税の計算式

通知された住民税額 ÷ 12 = 1ヶ月の住民税額

毎年5月に各自治体から通知される「納付書」に記載された1年分の住民税額を12ヶ月で割って毎月の給与から差し引きます。

住民税の計算例

例:住民税額が6万円の場合

1ヶ月の住民税額:60,000円 ÷ 12 = 5,000円

従業員の住民税の計算方法について詳しく知りたい方は、別記事「従業員の住民税の計算方法は?社員の入退社で会社が行う対応まとめ」をご覧ください。

手順3. 差引総支給額の計算

上述の1. 総支給額から2. 控除額を差し引いた額が「差引総支給額」となり、従業員に実際に支払う給与(手取り額)です。

差引総支給額の計算式

総支給額 - 控除額 = 差引総支給額

ここでは、前述した総支給額と控除計算方法を含めて、実際の計算例をご紹介します。

<給与計算の例>
・ 35歳、独身、20日勤務、1日8時間勤務(所定勤務時間160時間)
・ 基本給:23万円、標準月額報酬:28万円、会社の所在地:東京


1. 総支給額
基本給230,000円
残業:16時間28,740円
(1,437円 × 25% ×16時間)
深夜残業:2時間4,311円
(1,437円 × 50% × 2時間)
役職手当10,000円
通勤手当(非課税)13,000円
合計286,051円

2. 控除額
健康保険料13,972円
(28万円 × 9.98% ÷ 2)
厚生年金保険料25,620円
(28万円 × 18.3% ÷ 2)
介護保険料0円
雇用保険料1,716円
(286,051円 × 6/1,000)
所得税5,890円
(課税所得(*1)が231,743円のため)
住民税(仮)5,000円
合計52,198円

3. 差引総支給額
総支給額 - 控除額233,853円
(286,051円 - 52,198円)

(*1)所得税は総支給額から非課税手当や社会保険料等を差し引いた額に課税します。

所得税の計算式

286,051円(総支給額)-13,000円(非課税手当)- 41,308円(社会保険料など)= 231,743円(課税所得額)

算出した課税所得額を「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」と照らし合わせると、扶養親族等の数が0人であることから、課税所得額は5,890円となります。

給与計算を始める前におさえておくべきポイント

給与計算を初めて行う人がおさえておきたいポイントは以下の4つです。


  • ・賃金支払いの五原則の遵守
  • ・社会保険などの要件の確認
  • ・従業員情報、勤怠情報の管理
  • ・事業所所在地のルールの確認

毎月の給与計算を適切に行うため、定期的にルールや法律の改正を確認するなど、情報をアップデートしましょう。

賃金支払いの五原則の遵守

給与の支払い方は労働基準法第24条で定められており、通称「賃金支払いの五原則」と呼ばれています。具体的には、「通貨で」「労働者に直接」「全額を」「毎月1回以上」「一定の期日」に支払わなければならないというものです。

出典:厚生労働省「労働基準法第24条(賃金の支払)について」

【関連記事】賃金の制度やルールについて詳しく知りたい方は、別記事「賃金とは?最低賃金制度や支払いのルールなどを解説」をご覧ください。

社会保険などの要件の確認

社会保険料の加入要件は、2022年10月から段階的に拡大されており、確定している要件からさらに改正が行われる可能性があります。定期的に厚生労働省のホームページで情報更新の確認をしましょう。

2022年10月からの社会保険の加入要件は以下のとおりです。

2022年10月からの社会保険の加入要件

  • ・従業員数 101人以上の会社
  • ・週の所定労働時間が20時間以上
  • ・月額賃金 8.8万円以上
  • ・2ヶ月を超えて雇用される見込みがある
  • ・学生ではない

  • 出典:厚生労働省「従業員数500人以下の事業主のみなさま」

    なお、従業員数については、2024年10月より「51人以上の会社」となります。

    健康保険料・介護保険料率は、事業所で加入している各健康保険組合や協会けんぽのホームページ、厚生年金保険料率は日本年金機構のホームページで確認できます。

    従業員情報、勤怠情報の管理

    正しい給与計算を行い、適切に給与を支払うために重要なのは、従業員の情報や勤怠情報を正しく管理することです。

    給与計算において重要なポイントは以下の4つです。

    • 従業員の勤怠管理の徹底
    • 役職や人事評価などの基本給に関わる情報の管理とアップデート
    • 扶養の有無や通勤手当に関する手続きの促進と情報管理
    • 扶養内で働く従業員の所得管理

    従業員の勤怠情報は、割増賃金を含めて正しい金額で給与を計算するための基本的な項目です。

    また、人事評価などによって昇給及び降給などが発生した際に、適切なタイミングで給与計算に反映できるようにしておく必要があります。

    社会保険料の計算漏れを防ぐだけでなく、従業員が平等に会社の福利厚生を受けられるよう、各種手当の周知や扶養家族の申請といった手続きの促進も積極的に行いましょう。

    事業所所在地のルールの確認

    会社やその事業所の所在地が全国に点在する場合、各都道府県で給与に関するルールが変わるため、情報のアップデートは必須です。

    とりわけ、最低賃金に関しては、地域によって差異があるため、事業所に所属する従業員の賃金が最低賃金を割らないようにご注意ください。万が一、賃金が最低賃金を下回った場合、50万円以下の罰金が課せられます。

    出典:厚生労働省「最低賃金制度とは」

    給与計算を担当する際の注意点

    給与計算業務には、労務や情報漏えい、税務に関するリスクが伴います。なんらかの間違いがあった場合、内容によっては訴訟や刑事罰、追徴課税などにつながるおそれがあります。

    労務のリスク

    勤怠管理や給与計算をアナログで管理、または手動でデータを転記する必要がある場合、データの入力ミスや情報の移行ミスによって、賃金の支払い不備もあり得ます。

    ほかにも、従業員によるタイムカードの打刻漏れや、テレワークなど勤務形態の煩雑化によるデータ処理のミスにも注意が必要です。

    残業代未払いなどが労働基準法の違反とみなされると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

    勤怠管理のミスや見落としを防ぐため、複数人でのチェックをルーティンにする、システムの導入でヒューマンエラーを回避するといった対策を講じましょう。

    出典:「労働基準法(第三十七条・第百十九条)」

    情報漏えいのリスク

    給与計算業務の際、何らかの理由で従業員の個人情報を漏えいしてしまった場合、個人情報保護法違反となるおそれがあります。

    この場合、情報を漏えいした従業員は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、またはその両方が科せられ、情報を漏えいした会社は1億円以下の罰金が科せられます。

    刑事罰以外にも、情報漏えいされた従業員からの訴訟や、会社の信用の失墜、それに伴う企業価値の低下などさまざまなリスクが考えられます。情報管理には細心の注意を払いましょう。

    出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」

    税務のリスク

    万が一、給与計算を間違えてしまうと、社会保険料や所得税の計算にも影響が及びます。

    会計処理を間違えて実際の納税額よりも少なく申告、納税してしまうと、後から追徴課税などを含めた金額を請求される可能性があるだけでなく、税務署からの税務調査を受ける場合もあります。

    追徴課税は、金額の負担が大きいだけでなく、書類の作り直しが必要となります。給与計算のみならず、保険料率の計算ミスなどにも十分気を付けましょう。

    出典:国税庁「源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
    出典:国税庁「源泉所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」

    まとめ

    給与計算は、従業員への正しい給与支払だけでなく、社内の労務管理や税務管理などのためにも重要な業務です。

    特に手当は、企業によって内容が異なるため、会社で支払っている手当のうちどれが課税対象で、どれが非課税対象なのかなどにも注意が必要です。

    給与計算の業務を担当することになったら、必要な知識を習得するとともに、定期的な情報のアップデートで正しい給与計算を行いましょう。

    よくある質問

    給与計算のやり方は?

    給与計算のやり方は、以下のステップに沿って算出します。

    1. 総支給額の計算(勤怠を基に計算)
    2. 控除額の計算
    3. 差引総支給額の計算(いわゆる手取り)

    それぞれの計算方法についての詳細は、記事内「給与計算のやり方」をご覧ください。

    給与の手取り額の計算方法は?

    給与の手取り額は、給与計算の計算式「総支給額 - 控除額 = 差引総支給額(手取り額)」によって計算できます。

    詳しい計算の方法は、記事内「手順3. 差引総支給額の計算」をご覧ください。

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