人事労務の基礎知識

介護保険制度とは?第1号・第2号被保険者の違いや保険料の計算方法を解説

最終更新日:2023/10/19

監修 北 光太郎 きた社労士事務所

介護保険制度とは?第1号・第2号被保険者の違いや保険料の計算方法を解説

介護保険とは、介護が必要になった高齢者を社会全体で支えることを目的とした公的な社会保険制度です。40歳以上の国民全員に加入が義務付けられており、保険料は一生涯払い続ける必要があります。

本記事では、介護保険の第1号・第2号被保険者の違いや介護保険料の計算方法、支給限度額などについて、詳しく解説します。

目次

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介護保険制度とは

介護保険とは、介護が必要になった高齢者を社会全体で支えることを目的に、2000年4月1日から施行された公的な社会保険制度です。介護保険への加入と保険料の支払いは、40歳以上のすべての国民に義務付けられています。

介護保険の被保険者は、年齢によって「第1号被保険者」と「第2号被保険者」に区分されます。

介護保険の被保険者区分

  • 第1号被保険者:65歳以上の者
  • 第2号被保険者:40歳から64歳までの医療保険加入者


出典:厚生労働省「介護保険制度について」

被保険者が介護が必要な状態になったときには、以下の一定の負担割合で介護サービスを利用できます。


給付と負担について

出典:厚生労働省「給付と負担について(参考資料)」

上図で示す合計所得金額とは、以下の所得の合計です。
  • 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
  • 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額
  • 退職所得金額
  • 山林所得金額


出典:国税庁「◆合計所得金額」

介護サービスの利用費は、上記の自己負担分を除き約半分が公費(税金)となり、残りの約半分が40歳以上の被保険者の保険料でまかなわれます。


出典:厚生労働省「介護保険制度について」


出典:厚生労働省「介護保険制度の概要」

介護保険をはじめとする社会保険については、以下の記事で詳しく解説しています。

【関連記事】
社会保険料まとめ!計算方法から社会保険料控除まで徹底解説

介護保険の支給限度額

介護保険は医療保険(健康保険)と違い、支給限度額(介護サービス利用限度額)が設定されています。介護保険の支給限度額は、居宅サービスの利用時のみに設けられています。居宅サービスとは、老人ホームなどではなく自宅で日常生活を送る人が対象となる介護保険の介護サービス全般です。

一方で、施設サービスを利用する場合には支給限度額はありません。自己負担額は1〜3割で、施設サービスの利用料のほかに居住費や食費、日常生活費の負担が発生します。

支給限度額は認定される介護度が重いほど大きくなっており、限度額を超えた場合は全額自己負担となります。介護認定については、「介護サービスを受けられる条件」で解説しています。

介護度に応じた1ヶ月あたりの居宅サービス利用に関する支給限度額は以下のとおりです。


要介護状態区分居宅サービス利用限度額(支給限度額)
要支援15万320円
要支援210万5,310円
要介護116万7,650円
要介護219万7,050円
要介護327万0,480円
要介護430万9,380円
要介護536万2,170円

出典:出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料」

また、上記の支給限度額内で居宅サービスを利用した場合の利用者の負担額は、1~3割負担でそれぞれ以下のとおりです。


要介護状態区分1割負担2割負担3割負担
要支援15,032円1万64円1万5,096円
要支援21万531円2万1,062円3万1,593円
要介護11万6,765円3万3,530円5万295円
要介護21万9,705円3万9,410円5万9,115円
要介護32万7,048円5万4,096円8万1,144円
要介護43万938円6万1,876円9万2,814円
要介護53万6,217円7万2,434円10万8,651円

なお支給限度額は、居宅療養管理指導や特定施設入居者生活介護の一部など、介護保険サービスの適用外の部分を補うサービスでは適用されない場合があります。


出典:厚生労働省「区分支給限度基準額について」

第1号被保険者と第2号被保険者の違い

「第1号被保険者」と「第2号被保険者」には、介護保険サービスを利用できる条件のほか、保険料の算出方法や納付方法などに違いがあります。


第1号被保険者第2号被保険者
対象者65歳以上の者40歳から64歳までの医療保険加入者
受給要件要介護状態(寝たきり、認知症などで介護が必要な状態)
要支援状態(日常生活に支援が必要な状態)
要介護、要支援状態が末期がんや関節リウマチなどの加齢に起因する疾病(特定疾病)による場合に限定
保険料の徴収方法市町村が徴収(原則、年金から天引き)医療保険者が医療保険の保険料と一括徴収


出典:厚生労働省「被保険者の範囲のあり方」

介護保険サービスを受けられる条件

第1号被保険者は原因を問わず、要介護あるいは要支援状態と認定されると、介護保険サービスを受けられます。

一方、第2号被保険者の介護サービスの利用は、末期ガンや関節リウマチといった、加齢に起因する疾病(特定疾病)により要介護(要支援)認定を受けたときに限られます。



出典:厚生労働省「介護保険制度について」

介護保険料の納付方法

介護保険料の納付は、第1号被保険者(65歳以上の者)であれば、原則として年金から直接徴収する「特別徴収」という方法がとられています。

第1号被保険者が給与所得者の場合は、特別徴収のほか、被保険者が納付書または口座振替などによって直接市区町村に納めることも可能です。65歳になる誕生日の前日の月から給与からの天引きはなくなりますが、被保険者が市区町村への届け出等を行う必要はありません。

第2号被保険者(40歳以上64歳以下の医療保険加入者)は、国民健康保険の被保険者であれば、世帯ごとに加入する医療保険料とともに徴収されます。給与所得者であれば、給与から保険料が天引きされます。

また、被保険者が第2号被保険者に該当しない場合であっても、被扶養者が第2号被保険者に該当すれば、介護保険で被保険者の扱いになり介護保険料が発生する場合があります。これは「特定被保険者制度」というもので、被保険者の加入する健康保険組合によって導入の有無は異なります。

自身の加入している健康保険組合が特定被保険者制度を導入しているかどうかについては、健康保険組合に直接問い合わせてください。


出典:TSIホールディングス健康保険組合「介護保険の特定被保険者とは何ですか?」

介護保険料の計算方法

介護保険の保険料の計算方法は、第1号被保険者と第2号被保険者では異なり、さらに、第2号被保険者は国民健康保険とそれ以外の医療保険への加入者では違いがあります。

それぞれの計算方法を解説します。

第1号被保険者の介護保険料の計算方法

第1号被保険者の介護保険料は、介護サービスにかかる費用などに応じて市町村ごとに定められた基準額を用いて算出します。第1号被保険者の収入等の状況に応じて、標準として以下の9段階に設定されています。


段階対象条件保険料の計算方法
1以下のいずれかに当てはまる場合
・生活保護を受けている
・世帯全員が市町村民税非課税の老齢福祉年金を受給している
・世帯全員が住民税非課税で本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計がが80万円以下
基準額×0.3
2世帯全員が住民税非課税本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円超120万円以下基準額×0.5
3本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が120万円超基準額×0.7
4本人が住民税非課税かつ、世帯内に住民税課税者がいる本人が住民税課税者本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円以下基準額×0.9
5本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円超基準額×1.0
6合計所得金額が120万円未満基準額×1.2
7合計所得金額が120万円以上190万円未満基準額×1.3
8合計所得金額が190万円以上290万円未満基準額×1.5
9合計所得金額が290万円以上基準額×1.7

出典:公益財団法人生命保険文化センター「公的介護保険への加入はいつから? 保険料はどのように負担する?」

市区町村や特別区によって、収入に応じて段階別に基準額や保険料率が独自に決められている場合があります。たとえば、東京都北区の場合は第1段階から第16段階まで設けられており、第6段階で前年の合計所得金額が125万円以下の場合、介護保険料は年額8万8,000円です。


出典:東京都北区「介護保険料の決め方」

第2号被保険者で国民健康保険に加入している場合

国民健康保険に加入している第2号被保険者の場合は、所得割と均等割、平等割、資産割の4つのうちいずれかを市区町村ごとに独自に組み合わせて計算され、介護保険料率も異なります。

それぞれの違いは下記のとおりです。

国民健康保険加入者の介護保険料の算出方法

  • 所得割:世帯ごとに被保険者の前年の所得に応じて算出
  • 均等割:被保険者一人について算出
  • 平等割:一世帯ごとに算出
  • 資産割:所有する土地や家屋の固定資産税に応じて算出


出典:厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」

たとえば、東京都渋谷区の国民健康保険の介護保険料(40歳から64歳の加入者のみ)であれば、2023年4月から2024年3月までの介護保険料率は以下のとおり定められています。

  • 均等割額=1万6,200円
  • 所得割額=所得割算定基礎額×1.99%
  • 世帯限度額=17万円


出典:東京都渋谷区「令和5年度の保険料率などが決まりました」

所得割算定基礎額とは、前年の年間収入から必要経費(給与所得控除、公的年金控除を含む)を引いた所得金額から基礎控除(43万円)を差し引いた金額を指します。

計算方法は各市区町村で異なります。具体的な計算方法については、居住する市区町村に確認してください。


出典:東京都渋谷区「保険料の計算」

第2号被保険者で国民健康保険以外の医療保険に加入している場合

国民健康保険を除く協会けんぽや組合管掌健康保険、共済組合などの医療保険に加入している第2号被保険者は、給与や賞与に介護保険料率を掛けて、介護保険料が算出されます。

保険料の支払いは、事業所と被保険者で折半します。

国民健康保険以外の医療保険加入者の介護保険料の計算式

  • 給料の介護保険料=(標準報酬月額)×(介護保険料率)
  • 賞与の介護保険料=(標準賞与額)×(介護保険料率)


出典:全国保険健康協会「協会けんぽの介護保険料率について」

標準報酬月額は、給与などの報酬を区切りのよい幅で区分したものです、この報酬の中には通勤代や残業代も含まれ、5万8,000円から139万円まで50等級に区分されています。

基本的には年1回の定時決定で決まった標準報酬月額が、その後1年間の保険料の計算に使用されます。賃金が大きく増減した場合など、随時改定が行われた場合は、次の定時決定まで改定後の標準報酬月額を保険料の計算に使用します。

標準賞与額は、税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた額が該当します。


出典:全国保険健康協会「介護保険制度と介護保険料について」


出典:全国保険健康協会「標準報酬月額の決め方」「標準報酬月額・標準賞与額とは?」

標準報酬月額について知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】
社会保険料の標準報酬月額とは? 決め方や改定のタイミング

介護保険料率は健康保険組合によって異なります。

たとえば協会けんぽの場合、2022年3月からの1年分は1.64%、2023年3月からの1年分は1.82%となっています。

ここでは、協会けんぽに加入(保険料率は2023年3月分以降)していて、通勤代などを含めた月額の報酬が23万5,000円、賞与が43万円の人を例に解説します。

この場合、標準報酬月額は24万円で、標準賞与額は43万円です。介護保険料の計算式に当てはめると介護保険の保険料は次のとおりです。

(240,000円+430,000円)×1.82%=12,194円

介護保険料は1万2,194円であり、この保険料を会社と従業員とで折半するため、被保険者の負担額は6,097円となります。


出典:全国健康保険協会「協会けんぽの介護保険料率について」

介護保険料を滞納した場合のペナルティ

介護保険料を滞納した場合は、以下のペナルティが発生します。

介護保険を滞納した場合のペナルティ

  • 延滞金が発生する
  • 給付制限がかかる
  • 財産が差し押さえられる

それぞれのペナルティを詳しく解説します。

延滞金が発生する

納付書に記載された納付期限までに介護保険料を納付しない場合は、納付期限を過ぎてから督促状や催告書などが発行され、督促手数料や延滞金を徴収されることがあります。

督促手数料や延滞金の算出方法は、市区町村によって異なります。

たとえば、東京都世田谷区では、納期限の翌日から3ヶ月を経過する日までに納付された場合の延滞金を以下の計算式で算出すると定めています。

延滞金額=滞納保険料額×延滞金の割合×日数÷365

出典:東京都世田谷区「介護保険料の延滞金及び還付加算金について

督促状や催告書が届いた場合は、早急に保険料を納付しましょう。


出典:e-Gov法令検索「地方自治法 第二百三十一条」

給付制限がかかる

介護保険料を滞納した場合、介護保険サービス利用の際、未納期間に応じて保険給付が制限されます。未納期間に応じた給付制限の詳細は以下のとおりです。

滞納期間1年以上

サービスを利用したときに、いったん利用料の全額を自己負担しなければならなくなります。その後、申請によって利用料の9割(一定以上の所得がある方は8割または7割)が返還されます。

滞納期間1年6ヶ月以上

サービスの利用時に費用を全額支払い、滞納している介護保険料が納付されるまで保険給付が差し止められます。また、滞納が継続している場合には、差し止められた保険給付から介護保険料の支払いに充てられる可能性もあります。

滞納期間2年以上

納期から2年を過ぎると時効になるため、保険料を納付することができません。2年以上の未納期間に応じて、一定の期間、自己負担が3割に引き上げられます(自己負担割合が1割または2割の場合)。第1号被保険者のうち、自己負担3割の人が滞納した場合には、自己負担が4割に引き上げられます。

また、高額介護サービス費などの給付も受けられなくなるというペナルティが科されます。

高額介護サービス費とは、介護保険サービスの利用限度額を超えた場合、市区町村から超えた分を払い戻す費用のことです。


出典:厚生労働省「保険料滞納者に対する保険給付の制限等に係るQ&Aについて」


出典:神奈川県横浜市「保険料を滞納していると」


出典:東京都渋谷区「高額介護サービス費の支給など」

財産が差し押さえられる

介護保険料の督促を受けても、理由もなく滞納し続けている場合は、法律に基づく滞納処分として財産を差し押さえられる場合があります。

なお、収入が少ない人や失業により所得が大幅に減少した場合など、事情により介護保険料が納められない場合には減免制度がありますので、居住する市区町村にご相談ください。


出典:神奈川県横浜市「保険料を滞納していると」

まとめ

介護保険は介護が必要になった高齢者を社会全体で支えるために設けられた社会保険制度です。40歳から加入と保険料の負担が義務付けられており、65歳以上は原則年金から保険料が天引きされます。

40歳以上の被保険者が介護認定された場合は、介護保険を利用して介護サービスを受けられます。介護保険の制度を正しく理解し、介護が必要になった際には要介護認定を受けたうえで、必要なサービスを利用しましょう。

よくある質問

介護保険料は何歳から何歳まで払う必要がある?

介護保険料は40歳から保険料の支払いが開始し、生涯支払い続けます。40歳以上のすべての国民が介護保険の被保険者となり、介護保険料を支払います。

詳しくは記事内「介護保険とは」をご覧ください。

介護保険ではいくら支給される?

介護保険サービスのうち、居宅サービスの利用については1ヶ月あたりの保険から賄える費用として支給限度額が定められています。この支給限度額内であれば、利用料のうち自己負担が1〜3割で介護保険サービスが利用できます。

支給限度額を超えて介護保険サービスを利用した場合は、超過分がすべて自己負担となります。

詳しくは記事内「介護保険の支給限度額」をご覧ください。

介護保険が適用される条件は?

65歳以上の方は要介護・要支援認定により、介護や支援が必要になったら適用されます。

40~64歳の方は、末期ガンや関節リウマチなど、加齢に起因する疾病(特定疾病)により要介護・要支援認定を受けたときに限られます。

詳しくは記事内「介護サービスを受けられる条件」をご覧ください。

監修 北 光太郎

きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

北 光太郎

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