
社会保険における扶養とは、収入がなく生計を立てられない家族や親族に代わって健康保険や厚生年金に加入することで、経済的に援助ができる制度を指します。
なお、扶養する側を「扶養者」、扶養される側の家族や親族を「被扶養者」と呼びます。
本記事では、社会保険の被扶養者になる条件や必要な手続きを中心に、2022年10月から拡大された社会保険の適用範囲についてもあわせて解説します。
目次
社会保険の扶養とは
社会保険とは、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つの保険の総称です。被保険者や被扶養者の病気や怪我にかかる医療費、高齢に伴う介護費用、失業や労働災害などのリスクに対して、生活を保証する公的な保険制度です。
扶養とは、日常用語的には未成年者や高齢者、失業もしくは収入が少ないなどの理由により、ひとりで生計を立てることが難しい家族や親族を経済的に援助する仕組みをいいます。
一方、法的には「社会保険の扶養」と「所得税の保険」の二種類があり、扶養条件が異なります。社会保険上で扶養を受ける人を「被扶養者」、所得税上では「扶養親族」と呼びます。
また、社会保険(健康保険)の運営主体は、「健康保険組合」と「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2種類があり、健康保険の運営主体は「保険者」と呼ばれます。
本記事では、被扶養者の対象と条件に関して、加入者数の多い協会けんぽを例にして社会保険の扶養とその手続きについて解説します。
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社会保険の被扶養者になる条件
社会保険の被扶養者となるには、「被扶養者の範囲」と「被扶養者となる人方の収入額」どちらの条件も満たしている必要があります。ここでは、この2つの条件について詳しく解説します。
被扶養者の範囲

社会保険上の被扶養者として認められる家族や親族は、基本的には被保険者(扶養する人)とその配偶者の第3親等まで、もしくは事実婚など同一生計の事実がある人です。
被保険者の直系の父母・祖父母・曾祖父母・兄弟姉妹・配偶者・子・孫は、被保険者の収入によって生計を維持されていれば、同居しているかどうかは問われません。
ただし、これら以外で第3親等に含まれている親族、または被保険者と内縁関係にあたる配偶者の父母および子(配偶者が亡くなった後にも継続して同居する場合も含む)が被扶養者になるには、被保険者と同居していることが要件となります。
また、75歳以上の高齢者は「後期高齢者医療制度」の被保険者となるため、社会保険の扶養対象とはなりません。
扶養にできる家族の収入条件
扶養できる家族の収入条件は「年間収入130万円未満」です。ただし60歳以上または障がい者の場合は「年間収入180万円未満」まで認められています。
この年間収入に含まれる「収入」は、継続して得られる収入を指します。収入は見込みで計算しますが、退職などによって明らかに状況が変化していないかぎりは、前年の所得及び直近3ヶ月の収入を基に計算します。
この収入条件を月間収入に換算すると、月間108,333円以下(60歳以上または障害者であれば150,000円以下)であれば被扶養者として認められます。
条件に含まれる収入 | 収入の種類 |
給与収入 |
・給与 ・ボーナス ・各種手当 |
年金 |
・厚生年金 ・国民年金 ・企業年金 ・共済年金 ・個人年金 ・障害年金 ・労災年金 ・遺族年金 など |
事業収入 |
・農業 ・営業 など |
不動産収入 | ・土地やアパート、駐車場などの賃貸収入 |
利子収入・投資収入 |
・預貯金や有価証券、国債などの利子 ・株式配当など |
仕送り | ・被保険者以外からの生活費や養育費など |
そのほか |
・分割で受け取る遺産相続や退職金 ・育児休業給付金 ・出産手当金 ・職業訓練受講給付金 ・失業保険 ・傷病手当金などの各種手当や給付金 |
条件に含まれない収入 | 収入の種類 |
上記以外の一時的な収入 |
・一括で受け取る遺産相続や退職金 ・継続しない不動産売買収入や譲渡収入 ・再就職手当などの各種雇用保険給付金(一時金) ・生命保険一時金 ・出産育児一時金 ・検証や宝くじなどの賞金 |
2022年10月から社会保険の適用範囲が拡大
法改正により、2022年10月より社会保険の適用範囲が拡大しました。具体的には以下のとおりです。
2022月9月30日まで(改正前) | 2022年10月1日から(改正後) | |
501人以上 | 従業員数 | 101人以上 |
週20時間以上 | 労働時間 | 週20時間以上 |
月額88,000円以上 | 月額賃金 | 月額88,000円以上 |
1年以上 | 勤務期間 (見込み) | 2ヶ月を超える |
学生 | 適用除外 | 学生 |
この法改正により、社会保険の適用範囲に該当する場合、年間収入が106万円を超えると社会保険の加入対象となり、扶養の範囲外となるため注意が必要です。
社会保険の扶養に入るメリットとデメリット
ここでは社会保険の扶養に入るメリットとデメリットについて解説します。
社会保険の扶養に入るメリット
社会保険の扶養に入ると、配偶者であれば年金や健康保険料の支払額が安くなり、給与から社会保険料が引かれないため、扶養に入っていないときよりも収入の手取り額が増えます。特に、健康保険料は収入に応じて負担額が増えるため、扶養に入ることで支払負担が軽減されます。
被保険者は被扶養者がいることで配偶者控除などの適用対象になり、税負担の軽減が可能となります。
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社会保険の扶養に入るデメリット
社会保険の扶養に入ると、年金の受給額が厚生年金加入者に比べて少なくなるというデメリットがあります。これは「第3号被保険者」が受け取れる年金が国民年金のみであることが理由です。
第3号被保険者とは、厚生年金または共済年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満かつ年収130万円(または106万円)未満の配偶者を指します。
扶養に入らず、自身の就業先で社会保険に加入し、国民年金の第2号被保険者になることで、将来受け取る年金額を増やすことができます。
また、扶養に入るには収入要件があるため、月々の収入や年間の収入額を管理する手間があることもデメリットのひとつです。
社会保険の扶養に入るメリットとデメリット
ここでは社会保険の扶養に入るメリットとデメリットについて解説します。
社会保険の扶養に入るために必要な手続き
配偶者や親族を社会保険の扶養に入れる際は、被扶養者の要件に該当するかどうかを事前に確認し、被扶養者になる事実が発生した日から5日以内に「被扶養者(異動)届」と必要な添付書類を所轄の年金事務所または事務センターに提出します。
配偶者を扶養に入れる場合は「被扶養者(異動)届 第3号被保険者関係届」に記入することで厚生年金の第3号被保険者への切り替え手続きもあわせて進められます。厚生年金のみを切り替える場合は「第3号被保険者関係届」を提出します。
提出方法は、窓口持参や郵送、電子申請のほか、CDまたはDVDなどの電子媒体でも可能です。
社会保険の扶養に入るために必要な書類
ここでは、社会保険の扶養に入る際に提出する必要書類とケース別の添付書類について解説します。
被扶養者(異動)届

「被扶養者(異動)届」の正式名称は「健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届」です。
配偶者を扶養する際の「被扶養者(異動)届」への書き方のポイントは以下のとおりです。
被扶養者(異動)届の書き方
- 事業所整理記号:
法人に付与された記号(事業者が記入) - 事業主確認欄:
被扶養者の収入の証明を省略する際に、事業主が収入要件を確認した上で「1.確認」を〇で囲む - 被保険者整理番号:
各事業所で異なるため、事業主に確認または事業主が直接記入 - 収入:
被保険者(扶養する人)の扶養届の提出時以降の年収見込額を記入 - 提出日:
事業主に提出した日を記入 - 被扶養者(第3号被保険者)になった日:
被扶養者の資格を取得した日を記入(婚姻や離職など) - 収入:
被扶養者(扶養される人)の扶養届の提出時以降の年収見込額を記入 - 備考:
被保険者と被扶養者の続柄を確認した後に事業主がチェック
そのほかの添付書類
「被扶養者(異動)届」とあわせて提出する書類は以下のとおりです。
(1)続柄が確認できる書類
- ・具体例:被扶養者の戸籍抄本、戸籍謄本または住民票の写しなど(マイナンバーの記載がないもの)
- ・提出する人:全員
被保険者と被扶養者両方のマイナンバーが届出書に記載されており、且つその続柄を事業主が確認したうえでその旨を記載している場合は不要です。
(2)収入が確認できる書類
- ・具体例:雇用保険受給資格証、離職票、直近の確定申告書などのコピーや課税証明書など
- ・提出する人:全員
16歳未満、または事業主の証明がある所得税上の扶養親族の場合は不要です。
(3)入籍したことが確認できる書類
- ・具体例:婚姻届受理証明書
- ・提出する人:入籍した人
入籍の際に子どもを養子縁組する際は「養子縁組受理証明書」を合わせて提出が必要です。
(4)仕送り額が確認できる書類
- ・具体例:現金書留の写し、預金通帳の写し、振込証明書など
- ・提出する人:被保険者と別居している人
16歳未満、または学生の場合は不要です。
(5)内縁関係を確認できる書類
- ・具体例:内縁関係双方の戸籍謄本、世帯全員の住民票など(マイナンバーの記載がないもの)
- ・提出する人:内縁関係の人
まとめ
社会保険の扶養の条件は、親族の範囲によって同居である必要かどうか、収入要件を満たしているかなど、個々のケースにより条件が変化するため、扶養に入れるかどうかはそれぞれに確認しなければなりません。
2022年10月以降は社会保険の適用範囲も変化しているため、特に注意が必要です。
国民の義務でもある社会保険に加入し、社会保険料を正しく収めるためにも、正確な情報をもとに適切に手続きを進めましょう。
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加入義務の事実が発生してから5日以内に、該当従業員の健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。被扶養者がいるときは、健康保険被扶養者(異動) 届・国民年金第3号被保険者にかかる届出書も作成します。
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よくある質問
社会保険における扶養とは?
社会保険における扶養とは、収入がなく生計を立てられない家族や親族に代わって健康保険や厚生年金に加入することで、経済的に援助ができる制度を指します。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険の被扶養者になる条件とは?
社会保険の被扶養者となるには、「被扶養者の範囲」と「被扶養者となる人方の収入額」どちらの条件も満たしている必要があります。それぞれの詳しい内容についてはこちらをご覧ください。