最終更新日:2021/03/23
監修 榊 裕葵 社会保険労務士

従業員の結婚や子どもの誕生などにより、社会保険における扶養の手続きが必要になるケースも存在するでしょう。社会保険の被扶養者の対象や、社会保険の扶養の手続きで必要な「被扶養者異動届」に添付する書類などについて解説していきます。
2021年1月現在、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、多くの企業や飲食店が休業を余儀なくされました。解雇や退職勧奨により職を失ったり、勤務時間が減少したことで社会保険の加入資格を失った方もいらっしゃると思います。収入が先細る中、国保や国民年金に自ら加入するのは経済的負担が大きいものです。そのようなときに、検討をしたいことの1つが、配偶者や親などの扶養に入るということです。
健康保険の保険者(運営主体)には、協会けんぽと健康保険組合などがあります。ここでは協会けんぽのケースでご説明します。
なお、全国健康保険協会が運営する協会けんぽは、組合健保を設立しない企業を対象とした健康保険で、一般に中小企業が多く加入しています。一方、健康保険組合は、常時700人以上の社員がいることが条件となるため(単独の場合)大企業や自社グループ会社全体でを設立している場合が多く見られます。
目次
社会保険の扶養とは?
扶養とは、日常用語的には、未成年者や高齢者、失業状態などの理由により、ひとりでは生計をたてる事が難しい人に対し、主に家族が援助する仕組みのことを指します。
これを法的に定義すると、「所得税の扶養」「社会保険の扶養」の2種類がありますが、所得税の扶養と社会保険の扶養では、扶養家族として認められる基準が異なります。なお、本稿で以下、特段の断りなく「扶養」という言葉を使った場合、社会保険の扶養を指すこととします。
パートで働いている場合でも、一定の条件を満たせば配偶者の扶養家族となります。収入のない専業主婦(主夫)と同じく、配偶者の健康保険に加入することになるので、本人が社会保険料を支払う必要はありません。所得税の扶養と社会保険の扶養の認定条件の違いや、社会保険の扶養対象となる収入基準など、詳しくは下記の記事をご覧ください。
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扶養とは? 所得税の扶養と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の扶養の違い
社会保険の被扶養者にするときの手続きとは?
社会保険で、被保険者が配偶者や子どもなどを扶養に入れるためには、手続きが必要です。20歳以上60歳未満の配偶者は、国民年金第3号被保険者になることで、国民年金保険料の負担なく、保険料を納付したことになります。
また、被保険者が扶養している人のうち、一定の条件に該当する75歳未満※の人は、被扶養者と認定されることで、保険料の負担なく、健康保険の給付を受けることができます。
※75歳以上の人は後期高齢者医療制度の被保険者となります。
なお、第3号被保険者とは、国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人)を指します。
家族を被扶養者にするためには、被扶養者になる事実が発生した日から5日以内に、日本年金機構へ「被扶養者(異動)届」を提出し、被扶養者認定を受けることが必要です。被扶養配偶者の国民年金の第3号被保険者への切り替えの手続きは、「健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届」を提出します。手続きに必要な書類に関しては、後ほどご紹介します。
社会保険の扶養の対象者、被扶養者の条件とは?
被保険者の収入によって生計を維持され、被扶養者となる親族の範囲に含まれている75歳未満の人が被扶養者となることができます。なお、75歳以上の高齢者は、後期高齢者医療制度の被保険者になるため、社会保険の扶養の対象とはなりません。
被扶養者の収入には、年収130万円未満という制限があります。同居なら、被保険者の年収の半分未満であること、別居ならば被保険者からの仕送り額が被扶養者となる人の年収より多いことも、条件に加わります。被扶養者が60歳以上の人や障がい者の場合では、年収の条件は同居の場合も別居の場合も180万円未満に引き上げられます。
被扶養者の収入には、以下も含まれます。
給与所得や事業所得、不動産賃貸収入、利子収入のほか、公的な年金や健康保険の傷病手当金、出産手当金、雇用保険の基本手当など
また、過去の収入は問われず、被扶養者に認定される時点以降の収入が、給与所得などの場合は1ヶ月平均108,333円以下(60歳以上・障がい者は150,000円以下)、雇用保険などの受給では日額3,611円以下(60歳以上・障がい者は5,000円以下)であれば、被扶養者として認められます。
なお、被扶養者の収入が被保険者の半分以上であっても、被保険者の収入を上まわらない場合には、生計維持状況によっては被扶養者と認められることもあります。
被扶養者となる親族の範囲
<被扶養者の範囲>
・被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません。
・被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます。
① 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
② 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
引用:全国健康保険協会「被扶養者とは?」

被扶養者(異動)届の手続きが行われるケース
社会保険で被扶養者(異動)届を提出する手続きが多く行われるのは、被保険者の結婚や配偶者の退職で、配偶者を被扶養者にするケース。ただし、配偶者が退職した際に、雇用保険を受給する場合には、前述のように基本手当の日額が規定以下のケースに限られるので、注意が必要です。
また、子どもが生まれて扶養に入れるときも、被扶養者(異動)届の手続きが行われます。親を扶養に入れるケースでは、年金額が少なく、子が親に仕送りをしている場合が挙げられます。
申請に必要な書類:被扶養者(異動)届および添付書類
社会保険の扶養の手続きは、配偶者が20歳以上60歳未満の場合、被扶養配偶者の国民年金の第3号被保険者への切り替えの手続きは、「健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届」を提出します。

日本年金機構:「健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届」
書類に関しては、こちらのページもご参照ください。
日本年金機構:「健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届」家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき
提出先は、日本年金機構の都道府県ごとの事務センターまたは管轄の年金事務所、提出方法は電子申請、郵送、窓口持参のほか、電子媒体(CDまたはDVD)による提出が可能です。
このほか、被扶養者の収入や同居要件などの証明のために、添付書類が必要なケースについては、以下をご覧ください。
freee人事労務なら、健康保険被扶養者(異動) 届・国民年金第3号被保険者にかかる届出書も自動で作成します。

所得税の課税対象にならない収入がある場合
健康保険の傷病手当金や出産手当金、障害年金や遺族年金、雇用保険の失業給付など、課税対象にならない収入がある場合、受取額がわかる書類のコピーが必要です。
所得税法の控除対象配偶者、あるいは扶養親族に該当する場合
課税対象にならない収入がなければ、事業主が証明することで添付書類は不要です。
所得税法の控除対象配偶者にも扶養親族にも該当しない場合
課税対象にならない収入がなければ、事業主が証明することで添付書類は不要です。
- 退職した場合
「退職証明書」あるいは、「雇用保険被保険者離職票」の写し - 雇用保険の失業給付の受給終了あるいは雇用保険の基本手当の日額が規定以下
「雇用保険受給資格者証」の写し - 公的な年金を受給中
「年金額の改定通知書」の写し - 自営業を営む人や不動産収入がある人
直近の「確定申告書」の写し - そのほかの収入がある人、または無収入の人
「課税証明書」、または「非課税証明書」
同居が要件である場合
被扶養者の認定で同居が要件となっている場合は、同居の事実の確認書類として、「被保険者の世帯全員の住民票」(マイナンバーの記載なし、コピー不可)を提出します。
被保険者と被扶養者の名字が違う場合
続柄を確認するために、「被扶養者の戸籍謄本」の提出が必要ですが、同居の要件の確認のために提出する住民票で続柄も確認できる場合は不要です。
事実婚関係にある場合
事実婚関係を証明するために、双方の戸籍謄本、および「被保険者の世帯全員の住民票」(マイナンバーの記載なし、コピー不可)が必要です。
日本年金機構の事務センターまたは年金事務所の受付日より60日以上前に被扶養者となった場合
扶養の事実を確認できる書類が必要になります。
被扶養者となる人が外国人の場合
「ローマ字氏名届」を同時に提出します。
まとめ
社会保険の扶養に入れるのは3親等以内の親族ですが、同居が必要な親族に該当しないか、収入の要件を満たしているかなど、個々の条件をしっかりと確認することが大切です。
また、手続が大幅に遅れ、60日以上前に遡って被扶養者となる手続を行う場合には、追加の書類が必要となりますので、速やかに手続きを行いましょう。
2021年1月現在、新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの事業者が経営状況の悪化に頭を悩ませています。新型コロナウイルスに関連する給付金や融資制度以外にも、多くの事業者サポートが存在します。
社会保険料に関しては、延滞金が免除となるコロナ特例の納付猶予制度は2021年2月1日に納付期限が到来する社会保険料までで終了しています。しかし、納付猶予制度自体は常時存在していますので、延滞金は発生してしまいますが、社会保険料の納付が難しい場合は、所轄の年金事務所に相談をしてみてください。
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監修 榊 裕葵 社会保険労務士
こんにちは。ポライト社会保険労務士法人マネージング・パートナーの榊です。 当社はfreee人事労務をはじめ、HRテクノロジーの導入支援・運用支援に強みを持っています。 ITやクラウドを活用した業務効率化や、働き方改革法対応は当社にお任せください。

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入社時の資格取得届の作成が可能
加入義務の事実が発生してから5日以内に、該当従業員の健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。被扶養者がいるときは、健康保険被扶養者(異動) 届・国民年金第3号被保険者にかかる届出書も作成します。
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