人事労務の基礎知識

労働者名簿とは?書式や保存期間、社員名簿や従業員名簿との違いまで解説

監修 中村 桂太 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

労働者名簿(社員名簿・従業員名簿)とは?書式や記載事項、保存期間などを確認

労働者名簿は法定三帳簿のひとつで、従業員を雇用する場合に作成しなければならない書類です。

本記事では、労働者名簿の様式や書き方を含め、労務管理上知っておきたい保管や更新、労働者名簿を作成することの意義や目的について解説します。

目次

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労働者名簿とは

労働者名簿とは、氏名や雇用した日といった企業が雇用している労働者の情報を記した書類です。会社の規模などは関係なく、「使用者」が「労働者」を雇い入れている場合、使用者には労働基準法によって労働者名簿の作成および保存が義務付けられています。

労働者名簿の作成について

使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。

労働者名簿の保存について

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

なお、上記の「使用者」については、労働者を使用する者であれば法人であるか個人事業主であるかは関係ありません。使用者に該当する場合、労働者に関する所定の事項を労働者名簿に記載することが必要です。

詳しくは「労働者名簿に記載すべき事項」をご覧ください。

また、労働者が死亡した場合や退職した場合、解雇した場合は、起算日から3年後まで労働者名簿を保存する義務があります。労働者名簿を保存する起算日は「入社日」ではなく、「労働者が退職・解雇・死亡した日」です。

詳しくは「労働者名簿の保存期限と保管方法」をご覧ください。

労働者名簿は法定三帳簿のひとつ

労働者名簿は、法定三帳簿のうちのひとつです。法定三帳簿とは、労働基準法によって、会社の規模にかかわらず作成・保存が義務付けられた以下3つの帳簿を指します。


労働者名簿日々雇用される労働者を除く、労働者の名簿
賃金台帳賃金の支払いを受けたすべての従業員の賃金と勤務時間などを記載した帳簿
出勤簿勤怠、勤務時間などの記録

出典:厚生労働省「労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう」

使用者が労働者を雇用した場合、労働基準法107条・108条・109条によって法定三帳簿の作成・保存が義務付けられています。

法定三帳簿は企業の労働者の実態を知るのに重要な書類であり、労働基準監督署の調査時には最初に確認される書類です。適切な作成・保存を行わなかった場合には、労働基準監督官による行政指導を受けたり、指導に従わないなど悪質な場合は刑事罰(30万円以下の罰金)の対象となったりする可能性があります。

「労働者名簿」「社員名簿(社員台帳)」「従業員名簿」の違い

労働者名簿と同様、労働者の情報を記録する書類として「社員名簿(社員台帳)」や「従業員名簿」と呼ばれるものがあります。

労働者名簿・社員名簿(社員台帳)・従業員名簿の違いは、「労働基準法に記載されている名称かどうか」です。労働基準法における正式な名称は「労働者名簿」ですが、社員名簿(社員台帳)や従業員名簿も呼び方が違うだけで内容に違いはありません。

社員名簿(社員台帳)や従業員名簿という名称を使っていたとしても、労働基準法上必要とされる事項が記載されていれば、労働者名簿と同様に法定帳簿として扱われます。

労働者名簿を使用する場面

労働者名簿が使用されるのは、主に以下2つのケースです。


  • ・会社の人事部や労務部が労働者(従業員)の情報を管理する
  • ・行政調査などが行われる

それぞれのケースでは、使用する目的と同時に提出が求められる書類が異なります。


使用者目的同時に提出が求められる書類
人事部・労務部従業員の個人情報を確認する 異動履歴を確認する特になし
労働基準監督署労働基準法に違反していないかを確認する・出勤簿やタイムカードなど、勤怠状況がわかるもの
・賃金台帳
・労働基準法などで定められた各種協定や届け出の控え
年金事務所、ハローワークなど社会保険料を徴収・納付しているかを確認する・出勤簿
・賃金台帳
・就業規則
・雇用契約書

労働者名簿の対象になる従業員の「範囲」

労働者名簿作成の対象になる労働者(従業員)は、原則として雇用している全員です。正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、雇用している時点で作成の義務があります。

ただし、日々雇用される(日雇い)労働者の場合は別です。一時的な契約である日雇い労働者については作成義務がありません。

使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。

出向元の会社に在籍した状態で出向している社員については、出向先と出向元の両方で労働者名簿を作成する必要があります。籍を置いた状態で出向している場合、出向先・出向元の双方で雇用関係にあるためです。

出向先の会社へ移籍した出向社員については、出向先の会社に労働者名簿を作成する義務があり、出向元の会社では作成する必要がありません。在籍状態のケースとは異なり、籍を移した出向(転籍・移籍)の場合は出向先にのみ雇用関係があります。

また、派遣社員については、雇用関係にある派遣元の会社が労働者名簿を作成する義務があります。一方、派遣先の会社で作成する義務はありません。


出典:e-Gov法令検索「労働者派遣法 第四十四条第五項」

労働者名簿に記載すべき事項

労働者名簿への記載が義務付けられている事項は以下の9つです。

  1. 1.氏名
  2. 2.生年月日
  3. 3.性別
  4. 4.住所
  5. 5.従事する業務の種類
  6. 6.履歴
  7. 7.雇入れ年月日
  8. 8.退職年月日と事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
  9. 9.死亡年月日と事由

労働者名簿


出典:厚生労働省「様式第十九号(第五十三条関係)」


労働者名簿に決まった様式・書式はありません。必須の項目が記載されていれば、書類の名称が「労働者名簿」でなかったり、厚生労働省の様式と異なっていたりしても問題ありません。

はじめから作成する場合は、厚生労働省の様式第19号を参考にしてみるとよいでしょう。

氏名、生年月日、性別

労働者各々の情報を記載します。

労働者名簿に記載する氏名・生年月日・性別は、戸籍に登録されている内容と同一である必要があります。たとえば、戸籍上の氏名が旧字体で記載されている場合、普段使用している氏名が新字体であっても旧字体で記載したほうがよいでしょう。公的手続きなどの際に、正確な字体を求められることが多いためです。

なお、記載する義務はありませんが、健康保険などの手続きの際に読み仮名が必要とされることや、近年は読みづらい氏名が増加傾向にあることも含め、氏名には読み仮名を記載しておくことをおすすめします。

結婚や養子縁組で氏名が変わった場合には、労働者名簿の氏名も変更します。戸籍上の氏名変更は、従業員から申告されなければ会社が把握することは困難です。氏名を変更した場合は必ず申告するよう、従業員へ指導しておきましょう。

住所

従業員が現在住んでいる住所を記載します。住民票の住所と現在住んでいる住所が異なる場合があるため、記載する際は従業員へ確認しましょう。

住所が変更された場合には、記載した内容を変更する必要があります。

従事する業務の種類

経理事務や技能工といったように、業務内容がわかるように記載します。

詳しくは記事内の「労働者名簿の書き方のポイント」で解説しています。

履歴

異動や昇進など、社内での履歴を記載します。労働基準法では、履歴をどこまで記載するかは定められていません。

詳しくは記事内の「労働者名簿の書き方のポイント」で解説しています。

雇入れ年月日

従業員の採用を決定した日ではなく、雇用した日を記載します。

雇用開始日の後に試用期間や研修期間を設けている場合でも、記載するのは雇用した日(雇用開始日)です。正式採用した日を記載しないように注意しましょう。

退職年月日と事由

退職年月日には最終出社日ではなく、従業員が会社に在籍していた最後の日を記載します。

事由とは、「退職の理由」のことです。自己都合退職の場合、退職した理由を記載する必要はありません。ただ、後々調査などで必要になることがあるため、辞表提出日や辞表受理日などは残しておくとよいでしょう。

一方、会社都合退職の場合は、退職しなければいけなくなった理由を記載する必要があります。

死亡年月日と事由

従業員が就業中に死亡した場合、死亡が労災にあたるかどうかを判断できるようにするため、死亡原因を記載します。

労働者名簿の様式については、厚生労働省のホームページにある「主要様式ダウンロードコーナー」より確認できます。

労働者名簿の書き方のポイント

前述した労働者名簿に記載すべき事項の中で、特に「何をどこまで書くべきか」を悩むことが多いのは「業務の種類」と「履歴」です。

以下では、業務の分類方法や履歴の使い方について解説します。

「業務の種類」の記入について

「業務の種類」には、労働者がどのような業務を日常的に行っているのかをわかるように記載します。

経理や総務、人事といった所属する部門名、フィールドセールスやインサイドセールスといった職種名、部長や課長、チーフといった役職名を組み合わせて記載しても問題ありません。詳細に残しておくほうがわかりやすいため、できる限り詳しく残しておきましょう。

配属先が決まっていない新卒社員や中途社員などについては、先に「業務の種類」以外を記載しておき、配属先が決まった段階で「業務の種類」を記載します。配属先が決まった日時については、「履歴」に記載しておきましょう。

また、社内外の就業状況、通勤方法や経路・時間、就業場所の移動、車両運転の有無、危険物の取り扱いの有無なども記載しておくほうがよいでしょう。そうすることで、事故が発生した場合に労災の適用を判断する材料になります。

「履歴」の記入について

「履歴」に記載するのは、入社する前と後の履歴です。

新卒社員であれば最終学歴、中途社員の場合には最終学歴から入社までの職歴についても記載します。

学歴についてはいずれの場合についても最終学歴だけで問題なく、大卒の場合なら卒業した高校や中学校、小学校まで記載する必要はありません。なお、採用の際に履歴書を受け取っている場合はまとめて管理しましょう。履歴に保有資格も記載しておくと確認の際に便利です。

入社後の履歴については、人事異動が発生するたびに、いつ移動したのか、どの部署へ異動したのかを時系列で記載します。従業員の家族情報については、法による記載義務はありません。家族情報は個人情報にあたるため、会社側から家族情報の提出を強制するようなことは避ける必要があります。

なお、扶養手当や祝金、見舞金などを支給する際に家族情報が必要になることがあります。その場合は上記の事情を説明し、「提出しても問題ない」と確認できたら家族の情報を記載するようにしましょう。家族情報の使用は必要最小限に留め、適切に管理することが重要です。

労働者名簿の保存期限と保管方法

労働者名簿の保存期限と保管方法について解説します。

保存期限

労働者名簿は、従業員が死亡した日、もしくは退職・解雇した日から5年間にわたり保存しなければなりません。

労働者名簿の保存期間

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

保存する義務が発生する起算日は、入社日や事業場へ異動してきた日ではない点に注意しておきましょう。

労働者名簿の計算の起算日について

法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。

一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日

労働者名簿を作成した日から保存する義務が発生する起算日までの期間中の保存義務についても、労働基準法第107条に「各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し」と記載されているため、作成するだけでなく保存する義務があると解釈できます。

なお、行政機関が退職者について問い合わせる可能性があるため、退職者の労働者名簿は他の従業員とは別に事業所内で管理しておきましょう。管理のしやすさという観点から、名簿へ管理番号などを振ることもおすすめです。

保管方法

労働者名簿をどのような形式で作成・保存するかについては、法律で規定されていません。データ(パソコン)上での作成・保存も可能ですが、以下の要件を満たしている必要があります。

労働者名簿のパソコンの保管方法

  • 法令で定められた要件を完全に備え、かつそれを画面上に表示し印字できること
  • 労働基準監督官の臨検時などに即座に必要事項を明示・提出できること
  • 誤って消去されないこと
  • 長期にわたって保存できること

労働者名簿は、本社や支社、店舗、工場などそれぞれの事業場ごとに作成・保存します。転勤などの理由で異動した場合は、異動前の会社で作成した労働者名簿を異動先にデータ共有します。2社間で保存する必要はありません。

なお、労働者名簿に記載されている内容は個人情報に該当するため、「誰でも閲覧できる場所に保存しない」「施錠可能な書庫に格納する」など慎重に管理する必要があります。

また、労働者名簿に記載されている情報については、他の従業員や第三者に開示してはいけません。

従業員の情報を開示する際には、本人の同意を得る必要があります。


出典:厚生労働省「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン 」

まとめ

従業員を雇用したら、本社や支社、店舗、工場といった事業場ごとに労働者名簿を作成・保存する義務が発生します。労働者名簿を作成する対象となるのは、雇用された労働者です。

雇用形態に関係なく正社員からパート・アルバイトまで作成しなければなりませんが、日々雇用される(日雇い)労働者については作成の必要がありません。

労働者名簿を保存する期間は、従業員が死亡した日、もしくは退職・解雇した日から5年間です。「入社日から5年間」ではない点に注意しましょう。

よくある質問

労働者名簿と従業員名簿の違いは?

労働者名簿と従業員名簿の違いは、名称だけです。労働基準法上で定められている必要事項が記載されていれば、名称が従業員名簿であっても労働者名簿と同様に認められます。

詳しくは記事内の「「労働者名簿」「社員名簿(社員台帳)」「従業員名簿」の違い」をご覧ください。

労働者名簿の対象者は?

労働者名簿に記載する対象の従業員は、基本的に会社などの使用者と雇用関係にある従業員です。

正社員や契約社員、パート・アルバイト、出向元に在籍している出向社員など、使用者から雇われている労働者であればその雇用形態を問わず、日々雇い入れられる(日雇い)労働者を除いて労働者名簿を作成する必要があります。

詳しくは記事内の「労働者名簿の対象になる従業員の「範囲」」をご覧ください。

労働者名簿に必要とされる項目は?

労働者名簿に記載する必要がある項目は以下のとおりです。


  • 氏名
  • 生年月日
  • 性別
  • 住所
  • 従事する業務の種類
  • 履歴
  • 雇入れ年月日
  • 退職年月日と事由
  • 死亡年月日と事由

詳しくは記事内の「労働者名簿に記載すべき事項」をご覧ください。

監修 中村 桂太

建設会社に長期在籍し法務、人事、労務を総括。特定社会保険労務士の資格を所持し、労務関連のコンサルタントを得意分野とする。 ISO9001及び内部統制等の企業内体制の構築に携わり、 仲介、任意売却、大規模開発等の不動産関連業務にも従事。1級土木施工管理技士として、土木建築全般のコンサルタント業務も行う。

中村 桂太

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