人事労務の基礎知識

有給消化とは?年5日の義務や、退職時の対応について解説

監修 北 光太郎 きた社労士事務所

有給消化とは?年5日の義務や、退職時の対応について解説

有給消化とは、付与された有給休暇を取得することです。有給休暇は一定要件を満たした場合に付与され、従業員が取得する日を指定することで消化されます。

本記事では、有給休暇の消化方法や取得義務、退職時の対応について詳しく解説します。

目次

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有給消化とは

有給消化とは、付与された有給休暇を取得することです。有給休暇は、一定要件を満たした従業員に年1回付与され、従業員が取得時季を指定して休むことで消化されます。

有給休暇とは

有給休暇は、給与が支給される法的な休暇です。原則として会社を休んだ場合は労働をしていないため、原則給与は支給されません。しかし、有給休暇は有給の休暇として労働基準法で認められているため、休んだ場合でもその日の給与が支給されます。

また、有給休暇は労働者の権利として法的に付与されている休暇であり、会社は取得を拒否できません。

ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は会社側が取得時季を変更することができます。

有給休暇の取得条件

有給休暇は以下の条件を満たすと付与されます。

  • 雇入れの日から6ヶ月経過していること
  • その期間の全労働日の8割以上出勤したこと

これらの条件を満たした場合は、原則以下の日数が付与されます。


継続勤務年数(単位:年)6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

また、パートやアルバイトなど、フルタイム以外の従業員も所定労働日数に応じて年次有給休暇が付与されます。

所定労働日数ごとの付与日数は以下のとおりです。


週所定労働日数1年間の所定労働日数雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
4日169日〜216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121日〜168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73日〜120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48日〜72日1日2日2日2日3日3日3日

なお、有給休暇は時効により付与日から2年間を経過すると消滅します。

そのため、最高でも40日が保有の限度日数です。ただし、会社の就業規則で40日を超える保有日数が認められている場合は、40日を超えて保有できます。

有給休暇の取得単位

有給休暇の取得単位は原則として1日単位です。ただし労使協定の締結により、年5日の範囲内で時間単位の取得もできます。

また、従業員が半日単位での取得を希望して会社側が同意した場合は、労使協定が締結されていなくても半日単位で取得が可能です。

有給休暇を時間単位や半日単位で取得できるか不明な場合は、就業規則を確認しましょう。

有給消化は一般的に消滅が近いものから使われる

有給休暇は、付与されてから2年で消滅するため、取得した際は時効が近いものから消化されます。

たとえば2023年10月に10日付与され、さらに2024年10月に11日付与された場合、2023年10月に付与された分から消化されるということです。

ただし、就業規則で「当年度に付与されたものから消化する」などの定めがある場合は、規則に則った方法で消化されるので注意しましょう。

有給消化の義務化とは

有給消化の義務化とは、有給休暇が年10日以上付与されている従業員に対して、会社側が年5日取得させる義務のことです。

正社員だけではなく、パートやアルバイトなどフルタイム以外で働く従業員も年10日以上付与されていれば取得義務の対象になります。

義務化されている5日は、以下のいずれかの方法により取得します。

  • 従業員自らの取得
  • 会社側の時季指定
  • 計画的付与制度による取得

計画的付与制度とは、あらかじめ取得日を定めて計画的に有給休暇を消化させる制度です。労使協定の締結により、付与日数のうち5日を除いた残りの日数をあらかじめ割り振ることができます。

会社側は年5日を取得させなければ罰則の対象となるため、いずれかの方法で年5日以上取得させる必要があります。

有給休暇の取得の義務化の背景

2019年4月に有給休暇取得義務化が施行された背景には、大企業と中小企業の格差や働き方改革の促進が挙げられます。

ここでは、有給休暇の取得義務化の背景を詳しく解説します。

有給休暇を取得しやすい大企業と取得しにくい中小企業

大企業は中小企業に比べて労働環境が整っていることが多く、有給休暇の取得がしやすい傾向にあります。

有給休暇の取得が義務化される前に公表された「平成30年(2018年)就労条件総合調査」によると、取得率は従業員1,000人以上の会社では58.4%、30~99人の会社では44.3%となっていました。

働き方改革を促進する政府にとって、企業規模によって有給休暇の取得率に影響が出ることは好ましい状況ではありません。

そのため、2019年4月に労働基準法が改正がされ、すべての会社に年5日の有給休暇取得が義務付けられました。


出典:厚生労働省「平成30年(2018年)就労条件総合調査」

働き方改革の促進

当時の日本は長時間労働や有給取得率の低さが問題視されており「働き方改革」が進められていました。

平成30年(2018年)就労条件総合調査」では、有給休暇取得率が全体で51.1%と休暇が取れていない状況が続いており、世界的に見ても有給休暇の取得率が低い状況だったのです。

そのため、働き方改革を促進させる施策として、2019年4月に有給休暇取得の義務化が施行されました。

施行されてから2年後の2021年には、58.3%と1984年以降で過去最高の取得率を達成しており、成果が出ています。


出典:厚生労働省「平成30年(2018年)就労条件総合調査」

退職時に有給消化を行う際の注意点

退職前に有給休暇の残日数がある場合は、すべて消化してから退職するのが一般的です。

しかし、退職時は残りの有給休暇を消化できずに退職する場合もあるでしょう。

ここでは、有給休暇をすべて消化するケースと日数を残して退職するケースで、それぞれの注意点を解説します。

有給残日数を把握し、早めに申告する

有給休暇をすべて消化してから退職する場合は、退職前に残日数を把握して最終出社日を申告しましょう。

事前に申告しておかなければ引き継ぎが間に合わない場合があるため、早めに申告することが大切です。

また、退職日まで一括で取得しない場合でも、事前に有給休暇の取得日を申告することで引き継ぎがスムーズに進みます。

有給休暇の買取が可能であるのかを確認する

有給休暇は従業員が心身の疲れを回復させる目的で付与されているため、原則として買取は認められていません。

ただし、会社が法定の付与日数を上回って付与しており、就業規則に規定している場合は、買取が認められています

退職日までに有給休暇をすべて消化できなかった場合、買取できるか会社の担当者に確認しておきましょう。

有給消化を進めるために会社側がすべきこと

有給休暇の消化を促進させるためには、会社側が取得しやすい環境を整えることが大切です。

年5日取得義務に違反すると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があるため、会社は対策をしなければなりません。

ここでは、有給消化を進めるために会社側がすべきことを解説します。

計画的付与制度の導入

計画付与制度とは、労使協定の締結により、有給休暇の5日を超える部分の取得日をあらかじめ定められる制度です。

連休を設けやすい、お盆や年末年始などに有給休暇を計画的に付与することで、消化を促進させることができます。

また、計画付与は全従業員だけではなく、班・グループ別や個人別に付与も可能です。

あらかじめ有給休暇の取得日が定められていれば、取得しにくい職場でも周りを気にせず休むことができるメリットがあります。

有給休暇の取得に課題がある会社は、計画的付与制度の導入を検討しましょう。

属人化の解消

有給消化が促進されない理由として、業務が属人化されていることが挙げられます。

なぜなら個人ごとに担当業務が固定されているため、日々の業務で代わりに対応できる従業員がおらず、有給休暇が取得しづらい環境になっている可能性があるためです。

属人化を解消するには業務の見える化を行い、チームで共有することが大切です。チームで業務を共有できれば代役が立てやすくなり、有給休暇を取得しやすくなります。

また、他の人が業務を行うことで改善点が発見され、業務効率化が図れる可能性もあります。有給消化が取得しやすい環境構築は、こうした小さな改善を積み重ねていくことが大切です。

バックオフィスの効率化

総務や人事、経理などのバックオフィスは業種問わず存在する職種です。業務を効率化することで、担当者が有給休暇を取得しやすくなります。

効率化するためには、システム導入が有効です。クラウド会計ソフトや給与計算ソフトの導入によって、業務のペーパーレス化と自動化を実現することで作業時間を削減できます。

また、社会保険労務士や給与計算代行会社にアウトソーシングするのも有効な手段です。専門的な業務をアウトソーシングすれば、自社の担当者が変わっても教育に時間をかけずに業務を遂行することができます。

バックオフィスの効率化による作業時間の短縮や労働時間の削減で、従業員の有給消化を促進させることができるでしょう。

まとめ

有給休暇は従業員の権利として認められているものです。日ごろの疲労の回復やプライベートの充実を図るためにも計画的に有給休暇を消化しましょう。

一方、会社側は年10日以上付与されている従業員に対し、年5日を消化させる義務があります。有給休暇の消化を促進させるには、社内制度や労働環境の改善が必要です。

社内の業務改善を行うとともに、計画的付与制度の導入など有給休暇が取得しやすい環境を整えましょう。

よくある質問

有給消化とは何ですか?

有給消化とは、付与された有給休暇を取得することです。有給休暇は、一定要件を満たした従業員に年1回付与され、従業員が取得時季を指定して休むことで消化されます。

詳しくは記事内「有給消化とは」をご覧ください。

有給消化の義務化とは何ですか?

有給消化の義務化とは、有給休暇が年10日以上付与されている従業員に対して、会社側が年5日取得させる義務のことです。

正社員だけではなく、パートやアルバイトなどフルタイム以外で働く従業員も年10日以上付与されていれば取得義務の対象になります。

詳しくは記事内「有給消化の義務化とは」をご覧ください。

監修 北 光太郎

きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

北 光太郎

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