人事労務の基礎知識

「有給休暇義務化」に人手不足の中小企業が対応するには【社労士監修】

「有給休暇義務化」に人手不足の中小企業が対応するには

働き方改革法の目玉となる法改正項目の1つに「有給休暇義務化」があります。本稿では、有給休暇の取得義務化の全体像の解説および、主に中小企業を念頭に置き、実務上の注意点についてアドバイスします。[執筆:榊 裕葵(社会保険労務士)]

目次

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有給休暇の取得義務化とは?

有給休暇の取得義務化とは、「10日以上有給休暇が付与された労働者に対し、5日分について会社が有給休暇を取得させる義務を負う」という法改正です。

この法改正は、企業規模に関わらず2019年4月から適用されます。より具体的に言えば、2019年4月1日以降に付与された有給休暇が上記取得義務化の対象になるということです。

有給休暇取得義務化の対象は?

有給休暇取得義務化の対象は、ミニマムでも10日の有給休暇が付与される正社員はもちろんのこと、これに加え、契約社員やパートタイマーも対象になることに留意が必要です。所定労働日数の少ないパートタイマーの方は最初は比例付与で10日未満の有給休暇が付与されるので対象外ですが、勤続年数が伸びると比例付与の場合でも付与される有給休暇は10日を超えてきますので、超えた年度から取得義務化の対象になります。具体的には、下表をご覧ください。これがパートタイマーに対する有給休暇の比例付与の日数表で、黄色でハイライトしたセルが10日以上有給休暇が付与されるケースです。

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.51.52.53.54.55.56.5以上
4日169日~216日78910121315
3日121日~168日566891011
2日73日~120日3445667
1日48日~72日1222333

労働者の希望がなくても「義務」違反した場合は罰則も

働き方改革法による法改正前は、労働者から有給休暇の申請があった場合、それを会社が拒否することは違法であったものの、労働者から有給休暇申請がなければ、有給休暇を取得するよう、会社から労働者に働きかける義務まではありませんでした。ですから、実務上は発生した有給休暇が1日も使われないまま2年経過し、時効消滅するということも珍しくありませんでした。

しかし、2019年4月1日以降は、「労働者から希望が出なかったので、当社は有給休暇の取得実績がありませんでした」ということが許されなくなります。労働者から希望が出なかった場合であっても、業務命令を出して有給休暇を強制的に取得させなければならない義務を会社は負うこととなったのです。そして、この義務に違反した場合には、「30万円以下の罰金」という罰則も適用されます。

有給休暇の取得義務化の背景

なぜ、今回のような有給休暇が取得義務化される法改正が行われたのでしょうか。

この点、筆者の実務感覚としては、従来から有給休暇取得の温度感に対し、大企業と中小企業に少なからずの格差があったと感じています。

有給休暇を取得しやすい大企業と取得しにくい中小企業

一例になりますが、筆者自身は社労士として開業するまでは、大手自動車部品メーカーに勤務していました。筆者の勤務先では、以下のようなことが取り組まれていました。

  • 有給休暇の取得の進捗状況をKPI(重要業績評価指標)の1つとして管理
  • 付与された有給休暇を労働者に完全取得させなければ、管理職が企業内の労働組合から注意される

筆者の勤務先に限らず、自動車製造業の大手企業では労働組合の力が強く、有給休暇の取得を含め、労働者の権利がしっかり守られていたという印象を受けます。また、大手私鉄で運転士をしている友人に話を聞いた時も、有給休暇に配慮した形でシフトが組まれるので全日数を取得できているとのことでした。

一方で、中小企業においては、もちろん有給休暇の取得推進に積極的な会社もありますが、そうではない場合が珍しくないようです。筆者は中小企業で働く労働者の方から、「有給休暇は病気のときに取れる程度」「社長の許可がなければ有給休暇を取得できない」といった話を何度も聞いたことがあります。経営者の方から「有給休暇を与えてしまうと業務が回らないので、申し訳ないが取得を我慢してもらっている」「有給休暇があることをなるべく労働者に知られたくない」といった、本音ベースの相談を頂くこともあります。

有給休暇の取得率の向上は、働き方改革法が議論される以前から我が国の課題でした。しかし、既に有給取得が進んでいる大企業は更なる福利厚生の充実を進め、一方で改善の余地の大きい中小企業は政府が自主努力を促してもなかなか改善が進まず、格差がさらに広がる傾向にありました。

そこで、ついに政府はしびれを切らし、これ以上企業の自主性には任せておけないと、働き方改革法において、有給休暇を労働者に取得されることを会社の義務として定めることを決めたというわけです。

日本の有給休暇取得率・生産性の低さ

中小企業の経営者の中には、「政府はとんでもないことをしてくれたものだ」と憤慨している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、客観的に見て我が国の有給休暇の取得率は、諸外国と比べても大きく劣っています。Expedia社の調査によると、国全体で見て欧米諸国では有給休暇の取得率が100%から低くても70%以上はあるのに対し、日本では50%にとどまっています。この低い取得率でありながら、日本のGDPは世界3位を維持しているものの1人当たりのGDPに換算すると25位にまで低下し、8位のアメリカや19位のドイツに差をつけられています。

日本の有給取得率
出典:Expedia

生産性が低いにも関わらず、「休みが取れない」「長時間残業で過労死も起こる」ということでは、日本は夢も希望も無い国になってしまいます。ネガティブな現状を打破して、日本を国際競争力のある魅力的な国に再生していくためにも、足元で取り組むべきことの1つとして、「有給休暇の取得義務化」のテーマがあるのではないでしょうか。

人手不足の中小企業が有給休暇義務化に対応するための方法

このような背景がある有給休暇の取得義務化ですから、法律上の義務だから、罰則の適用があるからといった後ろ向きな温度感ではなく、従業員満足度を高めるため、ひいては日本の将来のためという広い視野を持って前向きに対応を進めていって頂きたいものです。

そうは言っても、「ただでさえ人手不足なのに業務が回らなくなってしまう」というのが多くの中小企業経営者の本音でしょう。ですから、何の施策もないまま無理矢理有給休暇を取得するというのは、法的には正解であっても、実務的には非現実的です。

中小企業においては人件費も限られていますので、単純に「人を増やす」という選択肢は取りづらいでしょう。となると、やはり「効率化」というアプローチが主力になってくると思います。

効率化には様々な手法があり、ここで全てを語ることはできません。本稿では、社労士としての視点から2つの手法を提案させて頂きます。

効率化の手法(1)現場の活性化

第1の手法は、現場の改善力の活性化です。かの有名なトヨタ生産方式でも、トップダウンの改善ではなく、現場発のボトムアップの改善を重視しています。無駄の発見や、実態に即した改善は、やはり現場で実際に日々の実務を行っている人が考えるのが一番です。ですから、経営者から労働者へ「会社として有給休暇の取得5日を実現していきたいので、皆さん自身にも効率化に協力をしてほしい」と語りかけるとともに、実際に効率化に貢献した労働者に対し業務表彰を行ったり、人事考課でもプラス項目として査定するといった人事制度の見直しも必要でしょう。

また、もう少し日常的な取り組みとして「ホメログ」や「THANKS GIFT」などの「褒める」ことに特化した社内SNSを導入し、社内の改善のモチベーションを高めていくという施策も効果的です。

効率化の手法(2)バックオフィスの効率化

第2の手法は、バックオフィス業務の効率化です。バックオフィス業務はどのような業種でも発生するものですし、小さなコストで効率化が図りやすい領域です。バックオフィス業務を効率化することで、バックオフィスの担当者自身の有給休暇が取得しやすくなることはもちろん、工数の一部を現場側に回したり、1人分の仕事を削減できたならば配置転換して現場の要員を厚くすれば、交代で有給休暇が取得できるようになるでしょう。

税務申告や決算書の作成は既に税理士に依頼をしている会社が多いと思いますが、経費精算や領収証の整理・記帳などは、紙ベースで行っている場合、クラウド会計ソフトの導入でまだまだ効率化できる余地があります。また、給与計算についてもクラウド給与計算ソフトで明細のWEB化や社会保険料の自動更新化を図ったり、あるいは業務そのものを社労士や給与計算会社にアウトソーシングすることも考えられます。このように、バックオフィス領域は、業種を問わず、IT化やアウトソーシングにより業務効率の改善を行いやすいのです。

なお、有給休暇の取得義務化による有給休暇の付与日数や残日数の管理も、紙ベースの管理では担当者の負担が少なくないでしょう。有給休暇の日数管理の効率化・省力化においても、クラウド勤怠管理ソフトの導入が望ましいと考えます。

就業規則の改訂や労使協定の締結は必要だが「メインディッシュ」ではない

有給休暇の取得義務化への対応で何をすべきかという話になると、「就業規則を改定して有給休暇を5日以上取得させることを明記しましょう」とか「有給休暇の計画的付与をするならば労使協定を締結しましょう」という、書類的な話が先行しがちです。

たしかに有給休暇取得義務化にあたっては以下のような対応が一般的には必要とされます。

  • 社員集会や社内掲示版等で5日間の有給取得が義務化された旨を周知する
  • 有給休暇の取得計画表を毎年提出させることをルール化する
  • 労働者代表から就業規則改定の意見書に署名・押印をもらう
  • 計画的付与で有給5日取得に対応するならば労使協定を作成し、会社と労働者代表で署名・押印を取り交わす

しかし、どんなに立派な就業規則や労使協定を作成したとしても、実態が伴わなければ「絵に描いた餅」になってしまします。

実態が伴う就業規則改訂にするために

ですから、まずは自社の業務をどのように効率化を図りましょう。方向性が定まれば、「これならば労働者の自主的な申請に任せても5日は取得できそうだ」とか「会社が主導権を持って各労働者の5日分の付与日を決めたほうが良さそうだな」とか「定休日を増やして、その日を全社員の有給取得日にしよう」といった、有給休暇の取得のさせ方の方針もおのずから決まるはずです。その内容を就業規則に織り込めば、実態を伴った「生きた」就業規則ということになります。表面的に字面だけ就業規則の改訂だけ行って「あとは野となれ山となれ」では、非常に無責任な対応となってしまいます。

所定休日を有給休暇に充てる場合は注意

なお、中小企業では、すぐに休みを増やすことがどうしても難しく、やむを得ず、それまで会社の休日であった祝日や年末年始休暇、夏季休暇などを有給休暇の取得日に充てるという対応を取ることもあると思います。このような対応自体は法的に不可能ではないですが、労働条件の不利益変更になりますので、全社員の個別同意が必要となることに留意をして下さい。

また、休日削減はモチベーションの低下にもつながりますから、可能な限り効率化の方向で対応し、休日削減は安易に行わず、最後の手段として検討することが望ましいでしょう。仮に休日削減を行うにしても「効率化を進めて可能な限り早く元の休日数に戻す」ということを約束すれば労働者の反対やモチベーションの低下は最小限に抑えられますので、このような配慮も大切にしたいものです。

まとめ

有給休暇の取得の義務化は、ポジティブに考えれば、中小企業にとっても業務効率化を真剣に考えるきっかけとしての1つのチャンスです。現在は人手不足が叫ばれる世の中ですから、他社に先んじていち早く対応することができれば、従業員満足度が向上して離職率の低下させ、求人の際には有給休暇の取得義務をきちんと果たしていることをPRして求職者を惹きつけ、優秀な人材の確保につながることも期待されるのではないでしょうか。

執筆: 榊 裕葵(社会保険労務士)

こんにちは。ポライト社会保険労務士法人マネージング・パートナーの榊です。当社は人事労務freeeをはじめ、HRテクノロジーの導入支援・運用支援に強みを持っています。ITやクラウドを活用した業務効率化や、働き方改革法対応は当社にお任せください。

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