監修 亀田一弘 社会保険労務士

従業員が、所属している会社から退職および異動等をした際には、「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」の提出が必要となります。
そもそも、健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届とは、どのような内容の書類なのでしょうか。本記事では、提出方法や関連する実務手順、注意点についても併せてご紹介します。
目次
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の概要
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届とは、事業主が提出すべき書類のひとつです。各会社では、従業員が死亡や退職、転勤した場合、あるいは一定の年齢に達し厚生年金保険および健康保険の資格を喪失した従業員がいる場合に提出が義務付けられています。
何らかの理由により、従業員が「障害認定」を受けることになった場合にも届出を行う必要があります。
様式に記載すべき項目
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届に記載すべき主な内容は、対象となる従業員の氏名や生年月日のほか、年金手帳の基礎年金番号や資格喪失原因、標準報酬(月額)となります。
<主な記載内容>
- 事業所整理番号、事業所番号
- 事業所情報(所在地や名称、事業主氏名、電話番号)
- 被保険者整理番号
- 被保険者氏名、生年月日、個人番号(基礎年金番号)
- 資格喪失年月日
- 資格喪失原因
- 保険証回収添付枚数(もしくは回収不能届の枚数)
資格喪失原因の選択方法
健康保険および厚生年金保険の資格喪失原因については、5つの区分から選択する方式となっています。
具体的には、従業員が退職した場合や、雇用契約の変更等により対象外となった場合、また60歳以上の方で、定年などにより退職後に継続して再雇用した場合は「退職等」、死亡による資格喪失の場合は「死亡」を選択し、備考欄にはその事実が発生した日付を記載します。
75歳となり後期高齢者医療に該当し、健康保険の被保険者でなくなる場合には「75歳到達」、65歳以上75歳未満の方で、障害認定によって資格を喪失する場合は「障害認定」をそれぞれ選択します。
なお、70歳以上の方で資格喪失理由が退職、死亡である場合は「70歳以上被用者不該当」を選択し、在職中に70歳に到達した場合は、「被保険者資格喪失届 厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」を提出します。
引用元:日本年金機構
資格喪失年月日の考え方
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届において、各従業員の資格喪失年月日の記入は必須となります。続いては、喪失原因別に資格喪失年月日の考え方について見ていきましょう。
死亡または退職の場合
被保険者が死亡した場合、資格喪失年月日は、その「翌日」となります。
退職に関しては、自己都合か会社都合かは問わず、資格喪失年月日は、いずれの場合も退職日翌日として構いません。
障害認定を受けた場合
65歳から75歳未満の被保険者が、後期高齢者医療広域連合(通称、広域連合)より一定の障害があると認定された場合、資格喪失年月日は「障害認定日の当日」となります。
70歳に到達する場合
厚生年金保険に加入する従業員が、在職中に70歳になり、その後も継続して同一事業所で雇用する場合は、「70歳以上被用者該当届」を提出することで、厚生年金保険の被保険者資格は喪失され、70歳以上被用者となります。
この場合、70歳の誕生日を迎える被保険者が、厚生年金保険の資格を喪失する年月日は、「誕生日の前日」です。なお、70歳到達届の用紙は、被保険者が70歳に到達する月の前月に、日本年金機構から該当事業所の事業主へ、事前に送付されます。
75歳に到達する場合
75歳に到達する被保険者がいる場合、その健康保険の資格喪失年月日は、「誕生日の当日」となります。なお、各事業所にまもなく75歳を迎える被保険者がいる場合には、誕生月の前月を目安として被保険者資格喪失届の用紙が各事業所に送付されます。
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失の手続きの流れ
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失の手続きには、被保険者資格喪失届のほかに、添付すべき書類があります。具体的な手続きの流れは、下記のとおりです。
1. 資格喪失届を作成する
資格喪失届の作成に必要な書類は、日本年金機構のWebサイトから「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」をダウンロードすることができます。
2. 必要な書類を準備する
退職者が、全国健康保険協会管掌健康保険(通称、協会けんぽ)の被保険者の場合、従業員本人とその被扶養者の保険証が必須です。また、高齢受給者証、健康保険特定疾病療養受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証が交付されていれば、それらも併せて添付する必要があります。
万が一、紛失等によって回収ができない場合は、「健康保険被保険者証回収不能・滅失届」の添付も必要です。
一方、対象となる従業員が、組合管掌健康保険(通称、組合健保)の被保険者の場合には、「健康保険被保険者証」は健保組合へ返却しますので、年金事務所での手続きに必要な添付書類はありません。
また、60歳以上の方が、退職後1日の間もなく再雇用された場合は、退職日の確認ができる就業規則や退職事例の写し、雇用契約書の写し、または退職日および再雇用された日に関する事業主の証明書の提出も必要となります。
3. 届出一式を提出する
事業主は、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届を作成した後、日本年金機構へ届出一式を提出します。事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口に持っていくか、郵送にて事務センターへ送付するのが一般的です。なお、CDまたはDVDといった電子媒体での提出も有効です。
なお、従来までは、70歳到達によって厚生年金保険の被保険者資格のみを喪失する対象者がいる場合には、それ以外の被保険者分とは別に、届出様式に従って作成・提出する必要がありました。しかし、2019年4月より、事業主からの70歳到達届の提出は、一部の条件に該当しなければ不要となっています。
参考:日本年金機構
届出の提出期限はいつ?
健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届の提出期限は、資格喪失の事実が発生した日から5日以内です。提出期限にあたる日が土日祝日である場合には、その翌日が期限です。
日程に余裕がないことが事前にわかっている場合には、早めに届出の記入や必要添付書類の入手準備を行っておくことをおすすめします。
引用元:日本年金機構
資格喪失届の提出が60日以上遅れた場合
従来は、資格喪失日から60日以上経てから届出をした場合、資格喪失となった日付の証拠として届け出の事実関係を確認するための書類を提出する必要がありました。被保険者が従業員の場合は、賃金台帳の写しおよび出勤簿の写し、被保険者が法人の役員である場合は取締役会の議事録等の確認書類の添付が必要だったのです。
しかし、2017年6月に厚生労働省が策定した「行政手続コスト削減のための基本計画」にもとづき、これらの書類添付が不要となりました。
資格喪失届の提出が遅れたら、どうなる?
届出が遅れてしまうと、納付する必要のない保険料が計算されてしまったり、被保険者証が使用できないにもかかわらず、誤って保険給付を受けたりする原因にもなります。その場合、事後に精算や調整をしなければならないため、注意しましょう。
参考:日本年金機構「Q3 従業員が退職したとき等は、どのような手続きが必要でしょうか。」
届出書類提出後の社会保険料の控除
被保険者資格喪失届を提出した後の社会保険料の控除について、確認しておきましょう。例えば、退職によって被保険者資格を喪失した従業員にかかる社会保険料は、前月分の保険料の負担が必要になり、資格喪失日(すなわち、退職日翌日)が属する月の分は徴収されません。
月末に退職をする従業員がいる場合には注意が必要です。なぜなら、退職した日が月末の場合、資格喪失日はその翌月の1日となることから、退職月の社会保険料も徴収されるからです。その際、翌月に退職者への支払い給与が発生しない場合は、退職月の社会保険料は退職した日が属する月分の給与から控除しなければなりません。
実務において、社会保険料の徴収が適切になされるよう、退職日が月末となる場合には慎重に対処する必要があります。
よくある質問
Q1:健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届は、どのようなときに必要?
健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届は、従業員が死亡したときや、退職あるいは転勤した場合、また、一定の年齢に達して健康保険と厚生年金保険の資格を喪失したときに提出する必要があります。
また、従業員が障害認定を受けることになったときにも、事業主が届出なければなりません。
Q2:健康保険・厚生年金の資格喪失日はいつ?
健康保険・厚生年金の資格喪失日は、被保険者が死亡した場合は死亡した翌日、退職した場合は退職した翌日になります。転勤した場合は転勤した当日です。
また、65~74歳で後期高齢者医療広域連合から一定の障害があると認定された場合、資格喪失日は認定日となります。
一方、70歳に到達して厚生年金保険の資格を喪失する場合は70歳の誕生日の前日、75歳に到達して健康保険の資格を喪失する場合は誕生日の当日です。
Q3:健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届はどこに提出すればいい?
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出は、郵送する場合の宛先は、各都道府県にある日本年金機構の事務センターまたは事業所の所在地を管轄する年金事務所です。持ち込む場合は、事業所の所在地を管轄する年金事務所の窓口となります。
また、届出用紙のほかに、CDやDVDといった電子媒体での提出も可能です。
まとめ
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届に関して、概要および一連の手続きを理解したら、さっそく提出様式の準備を始めましょう。
社員情報の管理を行う際、普段から社会保険関連項目を見やすく整理しておくことで、対象者を迅速に見極めることが可能となります。
監修 亀田一弘 社会保険労務士
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