社会保険の加入条件は年齢や雇用形態により異なりますが、従業員数が51人を超える会社の場合、要件を満たすパート・アルバイトは必ず加入する必要があります。
当記事では、社会保険の加入条件や実際の手続きについて、従業員側・事業所側に分けてわかりやすく解説します。
目次
社会保険とは
そもそも社会保険とは、病気・けが・失業など、生活する上でのリスクに備える公的な保険のことです。上記、全5種類の保険を総称して「広義の社会保険」と呼ばれます。
このうち、健康保険・厚生年金保険・介護保険を「狭義の社会保険」と呼び、雇用保険・労災保険については「労働保険」と呼ばれています。
本記事では、一般的に「社会保険」と呼ばれる、狭義の社会保険の加入条件について詳しく解説します。
広義の社会保険
- 健康保険(医療保険):
民間企業に務めている人、その家族が加入する医療制度 - 厚生年金保険(年金保険):
厚生年金保険が適用される企業の会社員や公務員が加入する公的な年金制度 - 介護保険:
介護が必要な人が給付金やサービスを受けられる公的な社会保険 - 雇用保険:
失業時や就労継続困難の際に給付金やサポートを受けられる保険 - 労災保険(労働者災害補償保険):
業務や通勤中のけがや病気、死亡などに対して補償を受けられる保険
社会保険について詳しく知りたい方は、別記事「社会保険とはこんな仕組み!国民健康保険との違いや、切り替え方法を解説」をご覧ください。
社会保険の加入条件は、従業員と企業で異なる
社会保険の加入条件は、従業員側・事業所側(企業側)それぞれに対して存在します。
一般的には、「社会保険の加入条件」といえば従業員のことを指しますが、従業員数の増加に伴い事業所側も社会保険に加入する必要があります。
従業員の社会保険の加入条件と手続きは、このまま下に読み進めてください。 事業所(企業)の社会保険の加入条件については、こちらから下にスクロールしてご覧ください。
【従業員側】社会保険の加入条件
従業員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件は以下のとおりです。なお、狭義の社会保険の残り1つである介護保険は、40歳以上の方が原則加入するため省略します。
従業員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件
- A.75歳未満の正社員や会社の代表者、役員等
- B.70歳未満で週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以上である人
- C.以下のすべてに該当する短時間労働者
・従業員数51人以上の事業所(特定適用事業所)に勤務している
※2024年10月から従業員数51人以上の事業所に変更
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
・学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
・月額の賃金が8.8万円を超える
出典:政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。」
上記の条件を満たす場合は社会保険への加入が必須となるので、加入漏れがないように注意しましょう。
2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大
法改正により、2024年10月から社会保険の加入条件が引き下げられ、従業員数が「101人以上」の事業所から「51人以上」に変更されました。
なお、従業員数とは、先述した加入条件を満たした被保険者数を指します。
このとき、従業員として数えられるのは、フルタイム勤務の従業員と週および月の労働日数がフルタイムの3/4以上の従業員です。
従業員数が51人以上の事業所は、条件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させる必要があり、未加入のままだと罰則が科せられる可能性があります。 新たに加入対象となる従業員が何人いるのか、法改正前に事前に把握しておきましょう。
また、適用拡大の影響を受ける従業員と面談を行い、今後の労働時間や勤務形態の意向を話し合っておくことも重要です。
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」
【従業員側】社会保険の加入手続き
従業員を雇用し、健康保険・厚生年金保険に加入する際は、事業主が年金事務所に「被保険者資格取得届」を提出します。
なお、被保険者に被扶養者の追加や削除、氏名変更等があった場合は「第3号被保険者関係届」を提出する必要があります。
社会保険の加入に際して、共通する事項は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
提出期限 | 加入条件の発生から5日以内 |
提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
提出方法 | 郵送・持参・電子申請など |
出典:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」
①一括適用の申請をする場合
本社が支社の労務管理も行っている場合は、本社と支社を1つの適用事業所とみなす一括適用の申請ができます。
承認されると、本社と支社間の人事異動であれば社会保険の加入・喪失届の提出が不要となり、手続きの効率化を図ることができます。
出典:日本年金機構「一括適用」
②他の事業所で加入している場合
近年、働き方改革による副業・兼業の普及や社会保険の適用範囲拡大により、複数の事業所で社会保険に加入するケースが増加しています。
その場合、被保険者は1つの事業所を選択し、「二以上事業所勤務届」を申請します。ただし、この届出は「被保険者資格取得届」の提出をし、選択した事業所が加入する保険の被保険者となることが前提です。
「二以上事業所勤務届」の提出ルール
- 提出期限:事案発生から10日以内
- 提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所
- 提出方法:郵送・持参・電子申請
保険料は、標準報酬額を各事業所の報酬額に応じ按分し、給与計算の際に控除します。
以上の手続きは被保険者本人が行うものであるため、事業所側はあらかじめ複数の事業所に勤める従業員に対して知らせておくとよいでしょう。
出典:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
③加入対象者が未加入のままだった場合
社会保険に加入させるべき従業員を未加入のままにしていると、年金事務所からの加入指導や立入検査が行われる場合があります。
未加入が発覚し強制加入となった場合、過去2年分を遡って保険料を納付しなければなりません。
また、保険料の滞納に対し虚偽の報告をするなど悪質な違反をした事業所には、事業主に対し6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
出典:日本年金機構「厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取組」
適用条件の拡大により、新たに加入対象となる従業員がいないか、細かくチェックするようにしましょう。
【事業所側(企業側)】社会保険の加入条件
すべての法人の事業所(企業)は、国が定めた保険に加入する義務があり、保険適用は事業所単位で行われます。
社会保険の適用対象となる事業所を「適用事業所」といい、適用事業所は「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類に分けられます。
①強制適用事業所
強制適用事業所とは、事業主や従業員の意思・従業員数・事業の規模・業種などに関係なく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられている事業所のことを指します。
以下のどちらかに該当する場合は、強制適用事業所となります。
強制適用事業所に該当する条件
- 常時5人以上の従業員を使用する事業所
※飲食店や理美容業、農林漁業などの場合を除く - 常時従業員を1人以上使用する国、地方公共団体または法人の事業所
出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
会社の社会保険加入条件や保険料負担額について詳しく知りたい方は、別記事「社会保険とはこんな仕組み!国民健康保険との違いや、切替方法を解説」をご覧ください。
②任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事業所に該当しない事業所が厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることで社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入できる事業所を指します。
従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、事業主が事務センターまたは管轄の年金事務所で申請を行う必要があります。
申請が受理され厚生労働大臣の認可を受けると適用事業所になることができ、健康保険・厚生年金保険への加入が可能になる仕組みです。
なお、任意適用事業所の場合は、健康保険と厚生年金保険のどちらか一方だけに加入することも可能です。保険給付や保険料は、強制適用事業所と同じ扱いになります。
また、被保険者の4分の3以上が適用事業所の脱退に同意した場合は、事業主が申請し厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることで、適用事業所からの脱退も可能です。
出典:日本年金機構「任意適用申請の手続き」
【事業所側(企業側)】社会保険の加入手続き
事業所の社会保険への加入手続きは、日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)でまとめて実施できます。加入手続きの提出期日と提出書類は以下のとおりです。
事業所 | 提出期日 | 提出書類 | 提出先 |
---|---|---|---|
強制適用事業所 | 会社設立から5日以内 | ・健康保険、厚生年金保険、新規適用届 ・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・健康保険、被扶養者(異動)届 ・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・各種添付書類 | 事務センター または 管轄の年金事務所 |
任意適用事業所 | 従業員の半数以上の同意を得たあと | ・健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書 ・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・健康保険、被扶養者(異動)届 ・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・各種添付書類 |
社会保険の手続きは事務センターまたは管轄の年金事務所に提出する形が一般的ですが、オンラインによる電子申請での加入手続きも可能です。
なお、2020年4月より、資本金等の額が1億円を超える特定の法人・相互会社・投資法人・特定目的会社は、電子申請での手続きが義務化されています。詳しい電子申請の方法は、e-Govポータルをご確認ください。
加入に必要な書類
社会保険の加入には、以下の書類が必要です。なお、添付書類は強制適用事業所なのか任意適用事業所なのかによって異なるので、該当する物にあわせて書類の用意をしましょう。
強制適用事業所の場合に必要な書類
- 健康保険、厚生年金保険、新規適用届
- 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険、被扶養者(異動)届
- 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- 各種添付書類(表を参照)
任意適用事務所の場合に必要な書類
- 健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書
- 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険、被扶養者(異動)届
- 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- 各種添付書類(表を参照)
健康保険・厚生年金保険新規適用届には以下の添付書類も必要です。
事業所 | 添付書類 |
---|---|
法人事業所 | ・法人(商業)登記簿謄本 法務局のホームページからオンラインによる交付請求が可能 |
事業主が以下である場合 ・国 ・地方公共団体 ・法人 | ・法人番号指定通知書のコピー 国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報のコピーでも可 |
強制適用事業所となる個人事業所 | ・事業主の世帯全員の住民票(原本) |
加入手続き期限と提出先
社会保険への加入手続きの期限は、会社設立の事実が発生してから5日以内と、この期限までに行わなくてはなりません。
手続きは、先述した必要書類を年金事務所に提出することで完了し、電子申請・郵送・窓口の3つの方法で行えます。
社会保険加入手続きの書類提出先
- 【電子申請】提出先欄で事業所の所在地を管轄する年金事務所を選択
- 【郵送】事業所の所在地を管轄する年金事務所・事務センター
- 【窓口】事業所の所在地を管轄する年金事務所
出典:日本年金機構「事業主の方 社会保険事務担当の方」
なお、前述のとおり、資本金等の額が1億円を超える特定の法人・相互会社・投資法人・特定目的会社は、オンラインによる電子申請での手続きが義務化されています。
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まとめ
社会保険は、すべての法人が加入義務があり、また一定の条件を満たした事業所も加入が必須です。2024年10月から従業員が51人以上在籍する事業所は、すべて社会保険の加入が義務化されています。
加入手続きは、法人や事業所によって用意する必要書類が異なり、提出・申請方法にも条件があります。法人は会社設立してから5日以内の加入が必須であるため、加入手続き漏れがないよう十分に注意してください。
よくある質問
社会保険に入らなければならない人の条件は?
社会保険への加入が義務付けられている人の条件は、以下のとおりです。
健康保険・厚生年金保険の加入条件
- A:75歳未満の正社員や会社の代表者、役員等
- B:70歳未満の以下に該当する人
・週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が同様の業務に従事している
・所定労働時間・所定労働日数が正社員の4分の3以上である - C:以下に該当する短時間労働者
・従業員51人以上の企業(特定適用事業所)に勤務している※2024年10月から51人以上の企業に変更
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
・学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
・月額の賃金が8.8万円を超える
詳しくは記事内「従業員の社会保険加入条件」で解説しています。
事業所が社会保険に加入しなければならない条件は?
社会保険の加入が義務付けられている事業所は、すべての法人と以下に該当する場合です。
- 常時5人以上の従業員を使用する事業所
※飲食店や理美容業、農林漁業などの場合を除く - 常時従業員を1人以上使用する国、地方公共団体または法人の事業所
上記に該当する事業所のことを、強制適用事業所と言います。また、任意適用事業所も従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、厚生労働大臣の認可が得られれば社会保険への加入が可能になります。
詳しくは記事内「事業所の社会保険への加入条件」で解説しています。
アルバイト・パートで何日以上出勤したら社会保険の対象となる?
アルバイト・パートは、月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上である場合に社会保険の対象となります。また、上記を満たしていなくても、以下に該当する場合は社会保険の加入が必要です。
- ・1週間の所定労働時間が20時間以上
- ・2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
- ・月額の賃金が8.8万円を超える
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」
詳しくは記事内「従業員の社会保険加入条件」で解説しています。