2024年10月の法改正で社会保険の適用範囲が拡大したことで、従業員数が51人を超える事業所の場合、条件を満たすパート・アルバイトは必ず社会保険に加入しなければならなくなりました。
また、適用拡大の対象外の従業員50人以下の企業については引き続き現行のルールが適用されます。
本記事では、社会保険の加入条件や実際の手続き、社会保険に加入するメリットとデメリットについてわかりやすく解説します。
目次
- 社会保険の加入条件は、従業員と企業で異なる
- 【従業員側(パート側)】社会保険の加入条件
- 2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大
- 従業員が50名以下の場合の社会保険の加入条件
- 【従業員側(パート側)】社会保険の加入手続き
- ①一括適用の申請をする場合
- ②他の事業所で加入している場合
- ③加入対象者が未加入のままだった場合
- 従業員が社会保険に加入するメリット
- 従業員が社会保険に加入するデメリット
- 【事業所側(企業側)】社会保険の加入条件
- ①強制適用事業所
- ②任意適用事業所
- 【事業所側(企業側)】社会保険の加入手続き
- 加入に必要な書類
- 加入手続き期限と提出先
- 社会保険の手続きや保険料の計算をラクにする方法
- まとめ
- よくある質問
社会保険の加入条件は、従業員と企業で異なる
社会保険とは、病気・けが・失業など、生活する上でのリスクに備える公的な保険のことです。上記の図にあるように、健康保険(医療保険)、厚生年金保険(年金保険)、介護保険、雇用保険、労災保険(労働者災害補償保険)の全5種類を総称し、「広義の社会保険」といいます。
社会保険の加入条件は、従業員側(パート・アルバイト側)・事業所側(企業側)のそれぞれに対して存在します。
一般的に「社会保険の加入条件」といえば従業員を対象とした内容を指しますが、従業員数の増加に伴い事業所側も社会保険に加入する必要があります。
従業員の社会保険の加入条件と手続きは、このまま下に読み進めてください。 事業所側の社会保険の加入条件については、 記事内の「【事業所側(企業側)】社会保険の加入手続き」で解説しています。
【従業員側(パート側)】社会保険の加入条件
従業員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件は以下のとおりです。なお、狭義の社会保険の残りひとつである「介護保険」は、40歳以上の方が原則加入するものであるため省略します。
従業員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件
- 75歳未満の正社員や会社の代表者、役員など
- 70歳未満で週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以上である人
- 以下のすべてに該当する短時間労働者・従業員数51人以上の事業所(特定適用事業所)に勤務している
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
・学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
・月額の賃金が8.8万円を超える
※健康保険は75歳、厚生年金保険は70歳で被保険者資格が喪失します
出典:政府広報オンライン「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。」
上記の条件を満たす場合は社会保険への加入が必須となります。加入漏れがないように注意しましょう。
2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大
法改正により2024年10月から社会保険の加入条件が引き下げられ、従業員数が「101人以上」の事業所から「51人以上」の事業所に変更されました。
なおここでいう従業員数とは、先述した加入条件を満たした被保険者数を指します。
このとき、従業員として数えられるのは「フルタイム勤務の従業員」と「週および月の労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員」です。
従業員数が51人以上の事業所は、条件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させる必要があり、未加入のままだと罰則が課せられる可能性があります。 加入対象となる従業員が何人いるのかをしっかり把握しておきましょう。
また、適用拡大の影響を受ける従業員と面談を行い、今後の労働時間や勤務形態の意向について話し合っておくことも重要です。
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大ガイドブック」
従業員が50人以下の社会保険の加入条件
また、従業員が50人以下の企業については、引き続き現行の社会保険の加入条件のルールが適用されます。
ただし従業員50人以下の企業であっても、パート、アルバイト従業員が希望した場合は、労使合意に基づいた上で任意で社会保険に加入することができます。
【従業員側(パート側)】社会保険の加入手続き
従業員を雇用し、健康保険・厚生年金保険に加入する際は、事業主から年金事務所へ「被保険者資格取得届」を提出します。
なお、被保険者に被扶養者の追加や削除、氏名変更などがあった場合は「第3号被保険者関係届」を提出しなければなりません。
社会保険の加入・喪失に際して、共通する事項は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
提出期限 | 事実の発生から5日以内 |
提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
提出方法 | 郵送・持参・電子申請など |
出典:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」
①一括適用の申請をする場合
本社が事業所の労務管理も行っている場合は、本社と支社をひとつの適用事業所とみなす一括適用の申請ができます。
この申請が承認されると、本社と事業所間の人事異動であれば社会保険の加入・喪失届の提出が不要となります。
出典:日本年金機構「一括適用」
②他の事業所で加入している場合
近年では、働き方改革による副業・兼業の普及や社会保険の適用範囲拡大にともない、複数の事業所で社会保険に加入するケースが増加しています。
その場合、被保険者はひとつの事業所を選択し、「二以上事業所勤務届」を申請します。この届出は、「被保険者資格取得届」を提出し、かつ選択した事業所が加入する保険の被保険者となることが前提です。
「二以上事業所勤務届」の提出ルール
- 提出期限:事案発生から10日以内
- 提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所
- 提出方法:郵送・持参・電子申請のいずれか
保険料は標準報酬額を各事業所の報酬額に応じて按分し、給与計算の際に控除します。
以上の手続きは被保険者本人が行うものであるため、企業側はあらかじめ複数の事業所に勤める従業員に対して知らせておくとよいでしょう。
出典:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
③加入対象者が未加入のままだった場合
社会保険の加入対象の従業員を未加入のままにしていると、以下のようなリスクがあります。
- 日本年金機構からの加入指導など
- 罰金および罰則
- 追徴金の徴収
- ペナルティ以外のデメリット
日本年金機構からの加入指導など
加入対象者が未加入だった場合、日本年金機構から加入状況に関する調査があります。そして、加入を勧奨しても自主的に加入しない未適用事業所を中心に、年金事務所職員による重点的な加入指導が実施されます。
もし重点的な加入指導を受けても手続きが行われない場合は、立入検査が行われ、被保険者の資格の有無を確認されることになるでしょう。必要に応じて、職員の認定による加入手続きが実施されます。事業所には立入検査に対する受忍義務があり、検査の拒否や質問に対して回答をしないことなどは認められません。
罰金および罰則
正当な理由なく社会保険加入対象者を未加入のままにしていた場合、虚偽の報告があったと判断されることがあります。虚偽の報告など悪質な違反をしたと認定されると、「6ヶ月以下の懲役」もしくは「50万円以下の罰金」を課せられる恐れがあります。
追徴金の徴収
強制加入となった場合、未加入になっていた従業員の社会保険料を、過去2年間分遡って追徴されることになります。支払い金額は、事業所側と被保険者(従業員)側で折半です。
なお、従業員がすでに退職していて連絡がつかない場合などは、事業所が全額負担しなければなりません。
ペナルティ以外のデメリット
上記のペナルティ以外に考えられるデメリットとしては、ハローワークに求人を出せない可能性が挙げられます。社会保険に未加入の場合、ハローワークは求人票を受け付けてくれないかもしれません。そして、ハローワーク担当者からもまずは社会保険に加入するよう指示されるでしょう。
他にも、「年金を請求する際に厚生年金が支給されなかった」として、退職した従業員から損害賠償を請求されたケースがあります。社会保険が未加入となっている事業所の従業員には遺族厚生年金が支給されない可能性もあるため、加入要件を満たす場合は速やかに加入しましょう。
従業員が社会保険に加入するメリット
社会保険に加入するメリットは、お勤め先で健康保険に入れば傷病手当金や出産手当金の支給対象になり、病気やケガ、出産で仕事を休むときに給料の3分の2相当額を受け取ることができる点です。
仕事を休んで給料をもらえない場合でも、傷病手当金や出産手当金を受け取れれば生活資金として使えます。
また、厚生年金保険に加入すれば国民年金に比べて将来の年金額が増えるため、老後の生活資金をより多く確保できます。
障害を負った場合や家族が遺された場合に支給される障害年金や遺族年金についても、厚生年金保険加入者の方が国民年金加入者より金額が大きくなります。
そして雇用保険に加入していれば、万が一失業した場合でも失業給付を受けられ、育児休業や介護休業で仕事を休む際に育児休業給付金や介護休業給付金を受け取れます。
従業員が社会保険に加入するデメリット
社会保険に加入するデメリットは、 社会保険料がかかり、手取り額が減少する点です。
月額賃金が8.8万円以上になって社会保険に加入すると、社会保険料が給料から天引きされるため、社会保険に加入する前より手取りが減る場合があります。
手取りの減少で生じる生活への影響を避けたい場合は、週の労働時間を短くしたり月に稼ぐ金額を減らしたりするなど、社会保険の加入条件を満たさないように調整すれば加入せずに済みます。
【事業所側(企業側)】社会保険の加入条件
すべての法人には国が定めた保険に加入する義務があり、保険適用は事業所単位で行われます。
社会保険の適用対象となる事業所を「適用事業所」といい、適用事業所は「強制適用事業所」と「任意適用事業所」の2種類があります。
①強制適用事業所
強制適用事業所とは、事業主や従業員の意思・従業員数・事業の規模・業種などに関係なく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務となっている事業所のことです。
以下のどちらかに該当する場合は、強制適用事業所となります。
強制適用事業所に該当する条件
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
※サービス業、農林漁業などの場合を除く - 株式会社などの法人の事業所(事業主1人の場合も含む)
出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
会社の社会保険加入条件や保険料負担額について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
社会保険とはこんな仕組み!国民健康保険との違いや、切替方法をわかりやすく解説
②任意適用事業所
任意適用事業所とは、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることによって社会保険に加入できる、強制適用事業所に該当しない事業所を指します。
従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、事業主が事務センターまたは管轄の年金事務所で申請を行うことが条件です。
申請が受理され厚生労働大臣の認可を受けると適用事業所になることができ、健康保険・厚生年金保険への加入が可能になる仕組みです。
なお、任意適用事業所の場合は、健康保険と厚生年金保険のどちらか一方だけに加入することも可能です。保険給付や保険料は、強制適用事業所と同じ扱いになります。
被保険者の4分の3以上が適用事業所の脱退に同意した場合は、事業主が申請し、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることで適用事業所から脱退できます。
出典:日本年金機構「任意適用申請の手続き」
出典:日本年金機構「適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き」
【事業所側(企業側)】社会保険の加入手続き
事業所の社会保険への加入手続きは、日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)でまとめて実施できます。加入手続きの提出期日と提出書類は以下をご覧ください。
事業所 | 提出期日 | 提出書類 | 提出先 |
---|---|---|---|
強制適用事業所 | 会社設立から5日以内 |
・健康保険、厚生年金保険、新規適用届 ・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・健康保険、被扶養者(異動)届 ・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・各種添付書類 | 日本年金機構 (事務センターまたは年金事務所) |
任意適用事業所 | 従業員の半数以上の同意を得た後 |
・健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書 ・健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・健康保険、被扶養者(異動)届 ・健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・各種添付書類 | 日本年金機構 (事務センターまたは年金事務所) |
社会保険の手続きは事務センターまたは管轄の年金事務所に提出する形が一般的ですが、オンラインによる電子申請での加入手続きも可能です。
なお2020年4月より、資本金等の額が1億円を超える特定の法人・相互会社・投資法人・特定目的会社は、電子申請での手続きが義務化されています。詳しい電子申請の方法は、「e-Govポータル」で確認できます。
加入に必要な書類
社会保険の加入には、以下の書類が必要です。なお、添付書類は強制適用事業所なのか任意適用事業所なのかによって異なるので、該当する物にあわせて書類の用意をしましょう。
強制適用事業所の場合に必要な書類
- 健康保険、厚生年金保険、新規適用届
- 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険、被扶養者(異動)届
- 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- 各種添付書類(下記の表を参照)
任意適用事務所の場合に必要な書類
- 健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書
- 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届
- 健康保険、被扶養者(異動)届
- 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書
- 各種添付書類(下記の表を参照)
健康保険・厚生年金保険新規適用届には以下の添付書類も必要です。
事業所 | 添付書類 |
---|---|
法人事業所の場合 |
・法人(商業)登記簿謄本 法務局のホームページからオンラインによる交付請求が可能 |
事業主が「国」「地方公共団体」「法人」の場合 |
・法人番号指定通知書のコピー 国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報のコピーでも可 |
強制適用事業所となる個人事業所の場合 | ・事業主の世帯全員の住民票(原本) |
加入手続き期限と提出先
社会保険への加入手続きの期限は、会社設立の事実が発生してから5日以内に行わなくてはなりません。
手続きは電子申請・郵送・窓口の3つの方法から選択でき、先述した必要書類を年金事務所に提出することで完了します。
社会保険加入手続きの書類提出先
- 【電子申請】提出先欄で事業所の所在地を管轄する年金事務所を選択
- 【郵送】事業所の所在地を管轄する年金事務所・事務センター
- 【窓口】事業所の所在地を管轄する年金事務所
出典:日本年金機構「事業主の方 社会保険事務担当の方」
なお、前述のとおり、資本金等の額が1億円を超える特定の法人・相互会社・投資法人・特定目的会社は、オンラインによる電子申請での手続きが義務化されています。
社会保険の手続きや保険料の計算をラクにする方法
社会保険料の計算含む、給与計算事務全体を効率化
freee人事労務では、従業員情報や最新の料率にもとづいて、社会保険の計算をミスなく効率的に行えます。
また、勤怠管理をクラウド上で行うことで、勤怠データをリアルタイムに集計でき、ワンクリックで給与計算・給与明細の発行が完了します。
気になった方は是非freee人事労務をお試しください。
まとめ
社会保険はすべての法人に加入する義務があり、また一定の条件を満たした事業所も加入が必須です。2024年10月以降、従業員が51人以上在籍する事業所は社会保険の加入が義務化されています。
加入手続きは、法人や事業所によって用意する必要書類が異なり、提出・申請方法にも条件があります。法人は会社設立から5日以内の加入が必須であるため、加入手続きに関する漏れがないよう十分に注意しましょう。
よくある質問
社会保険に入らなければならない人の条件は?
社会保険への加入が義務付けられている人の条件は、以下のとおりです。
健康保険・厚生年金保険の加入条件
- 75歳未満の正社員や会社の代表者、役員など
- 70歳未満で週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以上である人
- 以下のすべてに該当する短時間労働者
・従業員数51人以上の事業所(特定適用事業所)に勤務している
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
・学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
・月額の賃金が8.8万円を超える
※健康保険は75歳、厚生年金保険は70歳で被保険者資格が喪失します
詳しくは記事内の「【従業員側(パート側)】社会保険の加入条件」で解説しています。
事業所が社会保険に加入しなければならない条件は?
社会保険の加入が義務付けられている事業所は、すべての法人と以下に該当する場合です。
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
※サービス業、農林漁業などの場合を除く - 株式会社などの法人の事業所(事業主1人の場合も含む)
上記に該当する事業所を、強制適用事業所といいます。また、任意適用事業所は従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、厚生労働大臣の認可が得られれば社会保険への加入が可能になります。
詳しくは記事内の「【事業所側(企業側)】社会保険の加入条件」で解説しています。
アルバイト・パートで何日以上出勤したら社会保険の対象となる?
アルバイト・パートは、月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上である場合に社会保険の対象となります。また、上記を満たしていなくても、以下に該当する場合は社会保険の加入が必要です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
- 学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
- 月額の賃金が8.8万円を超える
詳しくは記事内の「【従業員側】社会保険の加入条件」で解説しています。