
所得金額調整控除とは、給与収入が850万円を超える方のうち、とくに子育て世帯や介護をしている世帯などの税負担を調整するための制度です。
本記事では、所得金額調整控除の対象者から具体的な計算方法、年末調整や確定申告での申請手続きまでを、図解や具体例を交えてわかりやすく解説します。ご自身が控除の対象かどうかが明確になり、申告漏れなく手続きを完了できるようになります。
▶︎ 2025年の年末調整については、まずはこちらの2記事!
【2025年最新】年末調整とは?対象者や必要書類、手順までわかりやすく解説
【2025年最新】年末調整の書き方まとめ!書類別にわかりやすく解説(記入例つき)
目次
所得金額調整控除とは
所得金額調整控除は、2020年から導入された制度です。2018年度の税制改正によって、給与所得控除の金額が一律10万円引き下げられたことに伴い導入されました。
会社員やパート、アルバイトなどの給与所得者は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて所得税・住民税を計算します。
たとえば、給与所得者の所得税額を算出する方法は以下のとおりです。
- 収入 - 給与所得控除 = 所得金額
- 所得金額 - 所得控除 = 課税所得
- 課税所得 × 税率 = 所得税額
給与所得控除額が引き下げられると、その分所得金額が増えるため、税負担も増える可能性があります。
このような給与所得控除額の引き下げによる影響を緩和するために、所得金額調整控除が導入されました。
ただし、全ての給与所得者が、所得金額調整控除の適用を受けられるわけではありません。子どもや特別障害者等がいる世帯、年金受給者がいる世帯など、一定の要件に該当すると所得金額調整控除の適用を受けられます。
また節税に利用できる控除は、ほかにもたくさんあります。
詳しくは「税金の控除制度とは?所得控除・税額控除の種類や違いを解説」をご覧ください。
なお、所得税については、2025年度税制改正によって「基礎控除」や「給与所得控除」などの見直しも行われています。基礎控除は最大95万円まで、給与所得控除は最低保証額が一律65万円に引き上げられます。
このほか「特定親族特別控除の創設」など新たな控除も設けられているため、該当する方は確認しておきましょう。
【関連記事】
所得税の計算方法は?税率・控除、2025年度税制改正のポイントをわかりやすく解説
所得金額調整控除の種類
所得金額調整控除には、以下の2種類があります。
所得金額調整控除の種類
- 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
- 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
それぞれの所得金額調整控除について、詳しく解説します。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除とは、本人や家族に障害がある場合や、23歳未満の扶養家族がいる場合に適用される控除制度です。
この控除を適用するためには、その年の諸手当などを含めた給与等の総支給額が850万円を超える給与所得者で、以下のいずれかに該当する必要があります。
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の要件
- 本人が特別障害者に該当する
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する
出典:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除とは、年金と給与の両方に収入がある人に適用される控除制度です。
以下の要件に該当する場合、適用されます。
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除の要件
- その年分の給与所得控除後の給与等の金額と公的年金等に係る雑所得の金額がある
- 上記の合計額が10万円を超える
出典:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
所得金額調整控除の計算方法
所得金額調整控除の控除額は、以下の計算式で算出します。
所得金額調整控除の計算方法
【子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除】
{給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円)- 850万円} × 10%(最高15万円)
【給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除】
{給与所得控除後の給与等の金額(10万円超の場合は10万円) + 公的年金等に係る雑所得の金額(10万円超の場合は10万円)} - 10万円
出典:国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
所得金額調整控除の申告方法
所得金額調整控除の申請方法は、年末調整で申告する方法と確定申告で申告する方法の2つです。
2種類ある控除制度のどちらを適用するかによって申告方法が変わるので、以下で紹介する申請方法に則って手続きを行いましょう。
年末調整
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、年末調整で申告できます。
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入方法は以下です。
- 「所得金額調整控除申告書」欄の該当する要件にチェックを入れる
- 扶養親族等の氏名や個人番号、生年月日などを記入

所得金額調整控除額は、年末調整を終えた後に発行される源泉徴収票から確認ができます。
【関連記事】
【2024年最新】年末調整の書き方まとめ!書類別にわかりやすく解説(記入例つき)
年末調整とは?概要・目的・手順から必要書類までわかりやすく解説
年末調整の作業を効率化!
freee人事労務なら、年末調整を含めた給与計算業務全般を自動化できます。
最新の法改正にも対応しているため、担当者の負担軽減につながります。詳しくはクラウド年末調整ソフト「freee人事労務」をご覧ください。
確定申告
給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除の適用を受ける場合は、確定申告で申告します。
なお、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は年末調整でも申告できますが、確定申告で申告することも可能です。
確定申告で所得金額調整控除を申請する場合は、第一表と第二表に記入します。第一表の給与収入の区分欄には、適用する控除の種類に応じて1~3の番号を記入しましょう。

給与収入の区分欄に記入する番号
- 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除を適用する場合:「1」と記入
- 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除を適用する場合:「2」と記入
- 両方の控除を適用する場合:「3」と記入
年末調整や確定申告では申告漏れに要注意
所得金額調整控除は、2020年に始まった比較的新しい制度です。人によっては、所得金額調整控除があることを知らず、自分が要件を満たしていても気付かない場合があります。
適用対象であるにも関わらず申告をしないと、税負担が軽減されません。適用対象になる方は忘れずに申告しましょう。
年末調整や確定申告の違いについては、年末調整と確定申告の違いと関係性は? 両方必要となるケースや関係性を解説で詳しく紹介しています。
所得金額調整控除のポイント
所得金額調整控除のポイントは次のとおりです。
所得金額調整控除のポイント
- 2つの所得金額調整控除の併用可否
- 2ヶ所以上から給与の支払いを受けている場合の取り扱い
- 共働き世帯における所得金額調整控除の適用要件
以下で詳しく解説します。
2つの所得金額調整控除の併用可否
2種類ある所得金額調整控除は、いずれか一方の選択適用ではなく併用が可能です。併用する場合は確定申告で申告し、確定申告書・第一表の給与収入の区分欄に3を記入してください。
併用する場合、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除が先に適用されます。
適用する順序を間違えると計算結果が変わる場合があるので、ご自身で税額を計算する際は注意しましょう。
2ヶ所以上から給与の支払いを受けている場合の取り扱い
諸手当などを含めた総支給額が850万円を超えるかどうかは、年末調整の対象となる主たる給与等により判定します。
年末調整の対象となる給与等とは、扶養控除等申告書を提出している会社から受け取る給与等を指します。年末調整の対象とならない、従たる給与等は含めません。
ただし、確定申告で子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合は、判定方法が異なります。
2ヶ所以上から給与等の支払いを受けている場合は、すべての給与等を合計した金額により判定します。
年末調整と確定申告では、判定の方法が異なるので混同しないように注意しましょう。
共働き世帯における所得金額調整控除の適用要件
共働き世帯において、夫婦がともに適用要件を満たす場合、夫婦それぞれで所得金額調整控除の適用を受けられます。
扶養控除の場合は夫婦どちらかのみの適用ですが、所得金額調整控除では夫婦のどちらか一方にしか適用できないとする規定はありません。
そのため23歳未満の子どもがいて、夫婦いずれも年収が850万円を超えているようなケースでは、要件を満たせば夫婦それぞれで所得金額調整控除の適用を受けられます。
まとめ
所得金額調整控除は、2018年度の税制改正により、給与所得控除の金額が一律10万円引き下げられたことに伴い導入された制度です。所得金額調整控除の適用対象であれば、税負担を軽減できます。
自分や家族が特別障害者に該当する場合や、給与収入と年金収入がある場合、一定の条件に該当すると適用対象となります。
所得金額調整控除の適用を受けるためには、年末調整や確定申告で申告が必要です。適用を受けられる場合は忘れずに手続きを行い、申告漏れを起こさないように気を付けましょう。
2025年の年末調整を簡単に行う方法
年末調整の計算や従業員からの書類の回収、年調減税への対応などに追われていませんか?
年末調整や源泉徴収票の作成はもちろん、こうした手続きは年末調整ソフト「freee人事労務」 を使うことで、簡単に行えます。
年末調整の計算と従業員への用紙の配布・収集・確認をペーパーレス化
2025年の年末調整にも対応
2025年の年末調整に対応が必要な「所得税103万の壁・住民税100万の壁・学生アルバイト等の特定親族特別控除」にも年末調整ソフト「freee人事労務」 は対応予定です!
気になる方は、是非お試しください。
よくある質問
所得金額調整控除とは?
所得金額調整控除とは、一定の要件を満たす給与所得者の所得税・住民税を計算する際、一定の金額を給与所得の金額から控除する制度です。
所得金額調整控除の適用を受けられると、税負担を軽減できます。
所得金額調整控除を詳しく知りたい方は「所得金額調整控除とは」をご覧ください。
所得金額調整控除の適用対象者は?
所得金額調整控除には2つの種類があり、対象者についてはそれぞれ以下の要件が定められています。
子ども・特別障害者等を有する者等:給与収入が850万円を超える人で、以下のいずれかに該当する場合
- 23歳未満の扶養親族がいる
- 特別障害者である扶養親族や同一生計配偶者がいる
- 自身が特別障害者である
給与所得と年金所得の双方を有する者:給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方があり、合計所得金額が10万円を超える人(ただし一定の条件あり)
詳しくは、記事内の「所得金額調整控除の種類」をご覧ください。
所得金額調整控除額はどこで確認できる?
所得金額調整控除額は、源泉徴収票から確認できます。
詳しくは、記事内の「所得金額調整控除の申告方法」で解説しています。