監修 中村 桂太

2025年(令和7年)の年末調整では、基礎控除・給与所得控除の引き上げや特定親族特別控除の新設などの税制改正が適用されます。
扶養親族の所得要件も変更となり、従業員の申告内容や計算方法に影響が出るため、変更点を正しく理解したうえで、適切な対応が必要です。
本記事では、2025年の年末調整の変更点をわかりやすく解説し、実務担当者が押さえておくべきポイント、注意点、新たな申告書様式について解説します。
▶︎ 2025年の年末調整については、まずはこちらの2記事!
【2025年最新】年末調整とは?対象者や必要書類、手順までわかりやすく解説
【2025年最新】年末調整の書き方まとめ!書類別にわかりやすく解説(記入例つき)
目次
年末調整とは
年末調整とは、1年間の給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額を正しく計算し、それまでに源泉徴収した税額との過不足額を求め、その差額を徴収還付し精算する手続きです。
源泉徴収されていた所得税より実際の所得税のほうが少なかった場合は差額が還付(返金)され、多かった場合は不足額が徴収されます。
年末調整は11月から翌年1月にかけて手続きが行われ、従業員は一般的には11月頃に年末調整で必要な申告書や証明書などをそろえて勤務先へ提出します。
年末調整について詳しく知りたい方は、別記事「【2025年最新】年末調整とは?対象者や必要書類、手順までわかりやすく解説」を参考にしてください。
年末調整の対象者
年末調整の対象者は以下になります。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先へ提出していることが前提です。
年末調整の対象者
- 1年を通じて勤務している人
- 年の途中で就職(転職)し、年末まで勤務している人
- 年の途中で海外勤務などにより非居住者となった人
- 年の途中で退職し、かつ次の4つのケースにあてはまる人
・死亡により、退職した人
・著しい心身障害により退職した人で、本年中に再就職できない(給与を受け取らない)と見込まれる人
・12月中の給与等の支払いを受けたあとに退職した人
・パートタイム労働者が退職した場合で、その年の給与総額が123万円以下の人(退職後、他の勤務先から給与の支払いを受ける見込みのある人は除く)
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告はどちらも所得税に関する手続きです。年末調整は会社が毎月社員から源泉徴収した所得税と実際の所得税額との差額を調整し、還付・追徴を行うのに対し、確定申告は納税者本人が1年の収入から所得を計算し、税務署に申告して所得税を納付します。
実施する時期や申告できる控除の種類にも違いがありますので、年末調整と確定申告の違いについて詳しく知りたい方は別記事「年末調整と確定申告の違いは?会社員で両方が必要になるケースも解説」をご覧ください。
2025年(令和7年)分の年末調整の変更点
2025年分の年末調整では、以下の変更が行われています。
2025年分の年末調整の変更点
- 基礎控除・給与所得控除の引き上げ
- 特定親族特別控除の創設
- 扶養親族等の所得要件の改正
それぞれ詳しく解説します。
基礎控除・給与所得控除の引き上げ
2025年の税制改正では、所得税の計算における土台となる基礎控除と給与所得控除が変更され、2025年12月に行う年末調整に適用されます。
まず、基礎控除はこれまでの一律48万円から、合計所得金額に応じて58万円から95万円に引き上げられます。給与収入が190万円以下の従業員は、基礎控除額が増加し、減税効果が見込まれます。
ただし、合計所得金額が高くなるにつれて控除額は段階的に減少し、2,350万円を超える場合は控除額がゼロになります。所得別の控除額は下表のとおりです。
合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額) | 基礎控除額 | ||
---|---|---|---|
改正後 | 改正前 | ||
2025年・2026年分 | 2027年以後 | ||
132 万円以下 (200 万3,999円以下) | 95 万円 | 48 万円 | |
132 万円超 336 万円以下 (200 万3,999円超 475 万1,999 円以下) | 88 万円 | 58 万円 | |
336 万円超 489 万円以下 (475 万1,999円超 665 万5,556 円以下) | 68 万円 | ||
489 万円超 655 万円以下 (665 万円5,556円超 850 万円以下) | 63 万円 | ||
655 万円超 2,350 万円以下 (850万円超 2,545 万円以下) | 58 万円 |
給与所得控除は、給与収入が190万円以下の場合、最低保障額が55万円から65万円に引き上げられます。
これにより、給与収入が123万円以下であれば、基礎控除額58万円と、給与所得控除65万円を差し引いた給与所得がゼロとなり、所得税がかからなくなります。給与収入ごとの控除額は下表のとおりです。
給与の収入金額 | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
改正後 | 改正前 | |
162 万5,000円以下 | 65 万円 | 55 万円 |
162 万5,000 円超 180万円以下 | その収入金額×40%-10万円 | |
180 万円超 190万円以下 | その収入金額×30%+8万円 |
特定親族特別控除の創設
「特定親族特別控除」は、19歳以上23歳未満の特定扶養親族を持つ納税者の税負担を軽減するために新設された制度です。これまで、この年代の扶養親族は、年間給与収入が103万円を超えると扶養控除の対象から外れ、扶養者の税負担が急増するという問題がありました。
この制度の創設により、特定扶養親族の合計所得金額が58万円(給与収入123万円)を超えた場合でも、段階的に所得控除を受けられるようになります。
具体的には、合計所得金額が123万円(給与収入188万円)以下であれば、所得金額に応じて最大63万円の控除が適用されます。これによって、たとえば子が大学生で、アルバイト収入が増えたとしても、扶養者に急な税負担の増加が発生しづらくなります。
なお、特定親族特別控除を受けるには、年末調整時に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。
特定親族の合計所得金額ごとの控除額は下表のとおりです。
特定親族の合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額) | 特定親族特別控除額 |
---|---|
58 万円超 85万円以下 (123万円超 150万円以下) | 63 万円 |
85 万円超 90万円以下 (150万円超 155万円以下) | 61 万円 |
90 万円超 95万円以下 (155万円超 160万円以下) | 51 万円 |
95 万円超 100万円以下 (160万円超 165万円以下) | 41 万円 |
100 万円超 105万円以下 (165万円超 170万円以下) | 31 万円 |
105 万円超 110万円以下 (170万円超 175万円以下) | 21 万円 |
110 万円超 115万円以下 (175万円超 180万円以下) | 11 万円 |
115 万円超 120万円以下 (180万円超 185万円以下) | 6万円 |
120 万円超 123万円以下 (185万円超 188万円以下) | 3万円 |
扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除と給与所得控除の見直しに伴い、扶養親族等の合計所得金額の要件も変更されます。
これまで、扶養控除や配偶者控除の対象となる扶養親族や同一生計配偶者の合計所得金額の要件は48万円以下(給与収入103万円以下)でしたが、改正後は58万円以下(給与収入123万円以下)に引き上げられます。また、同様の理由で配偶者特別控除の対象範囲も拡大します。
これによって、これまで扶養から外れていた人が、2025年からは扶養親族となるケースが出てくるため、年末調整の際には、各従業員の家族構成と所得状況を改めて確認する必要があります。
扶養親族等の区分ごとの所得要件の変更をまとめると、下表のとおりです。
扶養親族等の区分 | 所得要件 (収入が給与だけの場合の収入金額) | |
---|---|---|
改正後 | 改正前 | |
扶養親族 同一生計配偶者 ひとり親の生計を一にする子 | 58 万円以下 (123 万円以下) | 48 万円以下 (103 万円以下) |
配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 58 万円超 133万円以下 (123 万円超 201万5,999円以下) | 48 万円超 133万円以下 (103 万円超 201万5,999円以下) |
勤労学生 | 85 万円以下 (150 万円以下) | 75 万円以下 (130 万円以下) |
2025年(令和7年)分の年末調整業務における注意点
前述した2025年(令和7年)分の年末調整の変更点をもとに、年末調整業務では次の点に注意する必要があります。
2025年分の年末調整の注意点
- 新たに扶養控除等の適用対象となるかを確認する
- 「基・配・所」申告書は変更された様式を使用する
- 改正後の基礎控除額・給与所得控除額を用いて計算する
それぞれについて解説します。
新たに扶養控除等の適用対象となるかを確認する
2025年の税制改正により、新たに扶養控除等の対象となる親族等がいる可能性があります。扶養控除等の適用対象となる親族等がいる場合には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。
「基・配・所」申告書は変更された様式を使用する
2025年の申告書は、旧来の「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が統合された、1枚で4つの申告ができる次の様式に変更されます。

記載項目が変更になったことで、特定親族特別控除に該当する従業員が書類作成時に記載漏れなどがないように、従業員にきちんと説明する必要があります。
改正後の基礎控除額・給与所得控除額を用いて計算する
2025年の年末調整では、基礎控除額、給与所得控除額が引き上げられていることなどを考慮した計算方法を用いる必要があります。
「給与所得者の基礎控除申告書」「給与所得者の配偶者控除等申告書」において、控除額が正しく算出・記載されているかを確認するようにしましょう。
2026年(令和8年)以後の給与の源泉徴収事務における注意点
ここまで、税制変更による2025年(令和7年)の年末調整の変更点を説明してきましたが、2026年(令和8年)以後は、また手続きが異なる部分があります。
2026年(令和8年)以後の給与の源泉徴収事務における注意点について解説します。
扶養控除等申告書の記載事項の変更
2026年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」では、従来の「控除対象扶養親族」という記載項目が「源泉控除対象親族」に変更されます。

この「源泉控除対象親族」は、合計所得金額が58万円以下の扶養親族だけでなく、合計所得金額が58万円超100万円以下の特定の親族も含まれます。そのため、定義を正確に理解しておく必要があります。
また、「特定親族」に該当する場合には、チェック欄に記入する項目が追加されるなど、書式全体が刷新されるため、従業員への周知と新しい様式の準備が求められます。
扶養親族等の数の算定方法の変更
2026年から、毎月の源泉徴収税額を決定するために用いる「源泉徴収税額表」の「扶養親族等の数」の算定方法が変更されます。
2025年までは源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族の合計人数で算定していましたが、2026年からは特定親族特別控除の対象となる特定親族のうち、合計所得金額が100万円以下の人も人数にカウントするようになります。
ただし、合計所得金額が100万円を超え123万円以下の特定親族は、毎月の源泉徴収では扶養親族等の数にカウントせず、年末調整で最終的な税額を精算することになるため、給与計算時には特に注意が必要です。
源泉徴収税額表の改正
基礎控除や給与所得控除、特定親族特別控除の変更に伴い、2026年1月1日以降に支払う給与に適用される「源泉徴収税額表」が改正されます。国税庁のホームページから「令和8年分 源泉徴収税額表」を確認しましょう。
新しい源泉徴収税額表は、改正後の各控除額を反映した金額になるため、同じ給与額でも源泉徴収される税額が少なくなることが予想されます。給与計算業務では、最新の源泉徴収税額表をもとに計算を行う必要があります。
これらの改正は、従業員の税負担を軽減する一方で、給与計算や年末調整業務を複雑化させる可能性があります。改正内容を正確に把握し、スムーズな業務遂行を目指しましょう。
2025年の年末調整を簡単に行う方法
年末調整の計算や従業員からの書類の回収、年調減税への対応などに追われていませんか?
年末調整や源泉徴収票の作成はもちろん、こうした手続きは年末調整ソフト「freee人事労務」 を使うことで、簡単に行えます。
年末調整の計算と従業員への用紙の配布・収集・確認をペーパーレス化
2025年の年末調整にも対応
2025年の年末調整に対応が必要な「所得税103万の壁・住民税100万の壁・学生アルバイト等の特定親族特別控除」にも年末調整ソフト「freee人事労務」 は対応予定です!
気になる方は、是非お試しください。
まとめ
本記事では、基礎控除・給与所得控除の改正や特定親族特別控除の新設、扶養親族の所得要件や控除額の変更など、2025年(令和7年)の年末調整の変更点について解説しました。
これらに対応するためには、従業員への周知、業務運用方法の変更など、事前の準備が必要不可欠です。
2026年以降も年末調整に関係する変更点などがあるため、都度確認し対応できる体制を整えましょう。
よくある質問
2025年の年末調整における変更点は?
2025年の年末調整では以下が変更になります。
- 基礎控除・給与所得控除の引き上げ
- 特定親族特別控除の創設
- 扶養親族等の所得要件の改正
詳しくは記事内「2025年(令和7年)分の年末調整の変更点」をご覧ください。
2025年の年末調整では基礎控除はどれくらい引き上げられますか?
2025年の年末調整では、基礎控除が、これまでの一律48万円から、合計所得金額に応じて58万円から95万円に引き上げられます。
詳しくは記事内「基礎控除・給与所得控除の引き上げ」をご覧ください。
監修 中村 桂太
建設会社に長期在籍し法務、人事、労務を総括。特定社会保険労務士の資格を所持し、労務関連のコンサルタントを得意分野とする。 ISO9001及び内部統制等の企業内体制の構築に携わり、 仲介、任意売却、大規模開発等の不動産関連業務にも従事。1級土木施工管理技士として、土木建築全般のコンサルタント業務も行う。