
介護医療保険料控除とは、2010年度の税制改正によって新設された比較的新しい制度で、年末調整や確定申告の際に適用できる生命保険料控除のひとつです。介護や医療に備えるための保険に加入している人は、この控除を利用することで所得税や住民税の負担を軽減できます。
本記事では、介護医療保険料控除の仕組みから、年末調整での申告書の具体的な書き方、新制度・旧制度ごとの控除額の違い、さらに申告時に注意すべきポイントまでわかりやすく解説します。
目次
- 介護医療保険料の控除とは
- 介護医療保険料控除の対象
- 医療保険
- がん保険
- 介護保険
- 介護医療保険料控除の書き方
- 1.生命保険料控除証明書を受け取る
- 2.「給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除書」に必要事項を記入する
- 介護医療保険料控除で受けられる控除額
- 新制度(2012年1月1日以降の契約)の控除限度額
- 旧制度(2011年12月31日以降の契約)の控除限度額
- 新制度と旧制度の両方が対象になる場合の控除限度額
- 介護医療保険料控除で注意すべきポイント
- 保険の更新が必要
- 5年未満の保険には適用されない
- 貯蓄型の保険にも適用されない
- 傷害保険には適用されない
- まとめ
- 2025年の年末調整を簡単に行う方法
- よくある質問
介護医療保険料の控除とは
介護医療保険料控除とは、年末調整や確定申告で適用される生命保険料控除のひとつです。生命保険料控除は、その年に支払った生命保険料に応じて一定の金額が所得から差し引かれる制度で、この控除を適用すれば所得税や住民税の負担が軽減されます。
年末調整の介護医療保険料控除は2010年度の税制改正によって新設され、2012年1月1日以降に契約した介護保険や医療保険の保険料も控除の対象となりました。従来の「一般生命保険料控除」や「個人年金保険料控除」に加え、介護や医療に備えるための保険も税制上の優遇を受けられるようになった点が特徴です。
出典:国税庁「No.1140 生命保険料控除」
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介護医療保険料控除の対象
控除の種類 | 新制度 (2012年1月1日以降の契約) | 旧制度 (2011年12月31日以前の契約) |
---|---|---|
一般生命保険料控除 | ・終身保険 ・定期保険 ・収入保障保険 ・学資保険 など | ・終身保険 ・定期保険 ・収入保障保険 ・学資保険 ・医療保険 ・がん保険 ・介護保険 など |
介護医療保険料控除 | ・医療保険 ・がん保険 ・介護保険 | ー |
個人年金保険料控除 | ・個人年金保険 | ・個人年金保険 |
介護医療保険料控除は、2012年1月1日以降に契約した保険のうち、疾病や身体の障害、医療費など特定の条件を満たす保険が対象になります。年末調整や確定申告で申告すれば、支払った保険料に応じて所得から控除が受けられます。
新制度(2012年1月1日以降の契約)では「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」に加え、新たに「介護医療保険料控除」が設けられました。これにより、医療や介護に備えるための保険料も控除の対象として扱われるようになったのです。
介護医療保険料控除の対象は、以下のとおりです。
医療保険
医療保険は、病気やケガで入院や手術をした際に給付金を受け取れる保険を指します。このうち、介護医療保険料控除の対象となるのは、入院給付金や手術給付金、通院給付金など、医療行為にかかわる保障部分の保険料です。
一方で、医療行為と関係のない特約や保障部分は控除の対象外になることがあります。
がん保険
がん保険は、がんの診断や治療に特化した保険です。たとえば、がんの診断給付金や入院給付金、手術給付金、抗がん剤治療給付金など、がん治療にかかる費用を保障する部分の保険料が控除の対象となります。
介護保険
介護保険は、要介護状態になった際に給付金を受け取れる保険です。所定の要介護状態と認められた場合に支払われる一時金や年金形式の給付部分が控除の対象となります。
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介護医療保険料控除の書き方
介護医療保険料控除の書き方は、従来の生命保険料控除の書き方とほぼ同じです。
年末調整で控除申請する場合は、「保険料控除申告書」と、保険会社から送付される「保険料控除証明書」を用意しましょう。証明書に記載された内容をもとに、申告書へ正しく転記するのがポイントです。
ここでは、介護医療保険料控除の具体的な記入方法をご紹介します。
1.生命保険料控除証明書を受け取る
毎年10月頃に加入している保険会社から「生命保険料控除証明書」が送付されます。この証明書には介護医療保険料が記載されており、年末調整に必須の書類です。
また、保険会社の専用サイトなどから生命保険料控除証明書の電子データを取得できる場合もあります。
2.「給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除書」に必要事項を記入する
「保険料控除申告書」の正式名称は、上記の「給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除書」です。この申告書類1枚で、給与所得者本人はもちろん、配偶者の控除申請もできます。
申請の際は、用紙の中段あたりにある「生命保険料控除」の「介護医療保険料」の部分に必要事項を記入します。必要事項は以下のとおりです。
- 保険会社等の名称
- 保険等の種類
- 保険期間又は年金支払期限
- 保険等の契約者の氏名
- 保険金等の受取(氏名・続柄)
- あなたが本年度中に支払った保険料等の金額
- (a)の金額の合計
- Cの金額を計算式Ⅰ(新保険料に当てはめて計算した金額)
それぞれ詳しく解説していきます。
保険会社等の名称
加入している保険会社の正式名称を記入します。
保険等の種類
生命保険料控除証明書に記載されている保険の種目(医療保険、がん保険、介護保険など)を記入します。
保険期間又は年金支払期限
生命保険料控除証明書に記載された保険期間や年金支払期限をそのまま記入しましょう。
保険等の契約者の氏名
実際の保険契約者の氏名を記入します。給与所得者本人の名義で契約をしているのであれば、そのまま本人の氏名を記入しましょう。
保険金等の受取(氏名・続柄)
実際に保険金や給付金を受け取る方の氏名と続柄を記入します。まれに生命保険料控除証明書に記載がないケースもあるため、証明書に記載がない場合は、自分で確認して正確に書きましょう。
あなたが本年度中に支払った保険料等の金額
生命保険料控除証明書に記載されている「申告額」を転記します。これは、その年の12月末までに支払う予定を含めた金額で、年末調整に使用する数字です。
一緒に記載されている「証明額」は、証明年1月から証明日までに支払った金額のため「申告額」と混同しないよう注意してください。
(a)の金額の合計
介護医療保険料枠の(a)に申告額の合計金額を記入します。契約している保険が1種類であればその金額を、複数契約あるならその合計額を記入してください。
Cの金額を計算式Ⅰ(新保険料に当てはめて計算した金額)
控除額の計算式に基づき、C欄に算出した金額を記入します。計算式は申告書に記載されていますので、確認しながら記入しましょう。
なお、freee人事労務では年末調整の提出書類の自動作成や電子申告が可能です。控除額の計算や書類作成の手間を省き、ミスを防ぎながら効率的に年末調整を進められます。
詳しくはfreee人事労務をご覧ください。
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介護医療保険料控除で受けられる控除額
介護医療保険料で受けられる控除額は、実際に支払った保険料や契約日によって変動します。さらに、所得税と住民税では控除できる金額が異なる点にも注意が必要です。
ここでは、受けられる控除限度額を新制度と旧制度にわけて解説します。
新制度(2012年1月1日以降の契約)の控除限度額
新制度は、2012年1月1日以降に締結した保険契約が対象です。新制度の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除額は、それぞれ以下の表の計算式で求められます。
所得税 | 住民税 | ||
---|---|---|---|
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払額の全額 | 12,000円以下 | 支払額の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 10,000円 | 12,000円超 40,000円以下 | (支払保険料× 1/2) + 6,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 20,000円 | 32,000円超 56,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 14,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 | 56,000円超 | 一律28,000円 |
控除額の上限は、所得税では各区分(一般生命・介護医療・個人年金)で4万円、合計12万円です。一方、住民税では各区分の控除額上限が2万8,000円、合計7万円となります。
なお、複数の保険に加入していて申告書に書ききれなくなった場合、すでに記載した保険料が8万円を超えていれば、それ以上無理にすべて記入する必要はありません。
旧制度(2011年12月31日以降の契約)の控除限度額
2011年12月31日までに契約した保険は「旧制度」に分類されます。旧制度に該当する生命保険料と個人年金保険料の控除額は、それぞれ次の表の計算式に当てはめて計算できます。
所得税 | 住民税 | ||
---|---|---|---|
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払額の全額 | 15,000円以下 | 支払額の全額 |
25,000円超 50,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 12,500円 | 15,000円超 40,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 7,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 25,000円 | 40,000円超 70,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 17,500円 |
100,000円超 | 一律50,000円 | 70,000円超 | 一律35,000円 |
旧制度では、所得税の控除限度額が各区分(一般生命・個人年金)で5万円、合計で10万円です。住民税は各区分の上限が3万5,000円、合計で7万円が控除限度額となります。
新制度と比較して年間の支払保険料の範囲や控除限度額が異なるため、事前に保険の契約日を確認しておくことが大切です。
新制度と旧制度の両方が対象になる場合の控除限度額
新制度と旧制度の両方に該当する契約がある場合は、それぞれの計算式で算出した控除額を合計します。ただし、控除限度額は両方が適用される場合でも、所得税が最大12万円、住民税が最大7万円です。
たとえば、旧制度で一般生命保険と個人年金保険、新制度で介護医療保険を契約し、それぞれ年間の支払保険料が6万円(合計で18万円)だったケースの控除額を求めてみましょう。
所得税 | 住民税 | ||
---|---|---|---|
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払額の全額 | 12,000円以下 | 支払額の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 10,000円 | 12,000円超 40,000円以下 | (支払保険料× 1/2) + 6,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 20,000円 | 32,000円超 56,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 14,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 | 56,000円超 | 一律28,000円 |
新制度で加入している介護医療保険の所得税は、上表の年間の支払保険料等「40,000円超80,000円以下」の対象となり「(支払保険料 × 1/4) + 20,000円」が適用されます。計算式に当てはめると、控除額は以下のとおりです。
新制度における所得税控除額の計算
(60,000円 × 1/4) + 20,000円 = 35,000円
なお、このケースにおける住民税は、年間の支払保険料等の「56,000円超」の対象となり「一律28,000円」が適用されます。
所得税 | 住民税 | ||
---|---|---|---|
年間の支払保険料等 | 控除額 | 年間の支払保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払額の全額 | 15,000円以下 | 支払額の全額 |
25,000円超 50,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 12,500円 | 15,000円超 40,000円以下 | (支払保険料 × 1/2) + 7,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 25,000円 | 40,000円超 70,000円以下 | (支払保険料 × 1/4) + 17,500円 |
一方、旧制度で加入している一般生命保険と個人年金保険の所得税は、年間の支払保険料等の「50,000円超100,000円以下」が対象となり、それぞれ以下のように控除額を求めます。
旧制度における所得税控除額の計算
(60,000円 × 1/4) + 25,000円 = 40,000円
住民税は、年間の支払保険料等の「40,000円超70,000円以下」の対象となるため、それぞれ以下のように計算します。
旧制度における住民税控除額の計算
(60,000円 × 1/4) + 17,500円 = 32,500円
新制度と旧制度の所得税・住民税の控除額が計算できたら、それぞれの控除額を合計し、上限に達していないか確認します。
新制度と旧制度の控除額の合計
所得税:35,000円 + (40,000円 × 2)= 115,000円
住民税:28,000円 + (32,500円 × 2)= 93,000円
このケースの場合は、所得税は控除限度額の12万円に達していないため115,000円が控除されます。しかし、住民税は上限の7万円を超えているため控除額は70,000円となり、新制度・旧制度の合計で185,000円の控除が受けられることになります。
介護医療保険料控除で注意すべきポイント
介護医療保険料控除は、制度の対象となる条件や適用範囲に細かなルールがあるため、知らずに申告してしまうと控除を受けられないケースがあります。ここでは申告前に押さえておきたい注意点を解説します。
保険の更新が必要
介護医療保険料の控除を受けられるのは、2012年1月1日以降に契約された保険に限られます。古い契約のまま更新していない保険は対象外となるため、控除証明書を確認し、契約日や更新日を必ずチェックしましょう。
5年未満の保険には適用されない
保険期間が5年未満の短期契約は介護医療保険料控除の対象になりません。短期的な医療保険に加入している場合は控除を受けられないため注意が必要です。
貯蓄型の保険にも適用されない
貯蓄を目的とした保険も介護医療保険料控除の対象外です。加入している保険が「医療リスクへの備え」なのか「資産形成目的」なのかを確認し、対象保険かどうかを見極めましょう。
傷害保険には適用されない
控除が受けられる保険は生命保険や損害保険であり、病気に対する医療費に対してのみ控除される制度です。事故やケガを補償する傷害保険は控除対象に含まれないため、誤って申告しないようにしましょう。
まとめ
介護医療保険料控除とは、2010年度の改正で新設された比較的新しい保険料控除制度です。5年以上の保険を契約している場合、年末調整によって控除を受けられます。申告の仕方は非常にシンプルですが、記入の際には必ず保険会社から送られてくるハガキ等の生命保燃料控除証明書を参考にしましょう。契約日や保険の種類によって適用範囲が異なるため、控除を受けられるかどうかを早めに確認しておくと安心です。
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よくある質問
年末調整の介護医療保険料控除とは何ですか?
介護医療保険料控除とは、年末調整や確定申告で適用される生命保険料控除のひとつです。
詳しくは記事内「介護医療保険料の控除とは」をご覧ください。
介護医療保険料控除の対象は何ですか?
以下のような保険が介護医療保険料控除の対象になります。
- 終身保険
- 定期保険
- 収入保障保険
- 学資保険
- 医療保険
- がん保険
- 介護保険
- 個人年金保険
詳しくは記事内「介護医療保険料控除の対象」をご覧ください。
年末調整の介護医療保険料控除の書き方とは?
年末調整で介護医療保険料控除を申請する場合は、保険会社から送付される「保険料控除証明書」を基に、「給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除書」(保険料控除申告書)の以下の項目に記入します。
- 保険会社等の名称
- 保険等の種類
- 保険期間又は年金支払期限
- 保険等の契約者の氏名
- 保険金等の受取(氏名・続柄)
- あなたが本年度中に支払った保険料等の金額
- (a)の金額の合計
- Cの金額を計算式Ⅰ(新保険料に当てはめて計算した金額)
詳しくは記事内「介護医療保険料控除の書き方」をご覧ください。