監修 松田 朋子 社会保険労務士あさぎ経営サポート

雇用保険に加入していれば、失業したときに失業給付を受け取れる場合があります。
失業して収入がない場合に生活資金等として活用できる失業給付は、失業中の生活の支えとなる重要な給付金です。ただし、退職後に誰でも失業給付を受給できるわけではないので、受給条件をよく確認しておく必要があります。
本記事では失業給付の概要や受け方、受給条件、必要な手続きを解説します。
目次
- 失業手当(失業給付)とは
- 失業手当は雇用保険(失業保険)に入ると給付を受けられる
- 失業手当の種類
- 失業手当(失業給付)の受給条件
- 失業手当(失業給付)はいくらもらえる?受給額の計算方法
- 失業手当(失業給付)の受給期間
- 失業手当(失業給付)の申請から受給までの手続き
- 失業手当(失業給付)の給付制限とは
- 失業手当(失業給付)の受給中にアルバイト・パートができる条件
- 失業手当(失業給付)受給に関する注意点
- 受給するにはハローワークでの手続きが必要となる
- 不正受給した場合には罰則がある
- 受給中に就職が決まったら受給停止手続きが必要となる
- まとめ
- 社会保険の手続きや保険料の計算をラクにする方法
- よくある質問
失業手当(失業給付)とは
失業手当(失業給付)とは、会社で働いていた人が離職したときに、一定の条件を満たすと受け取れる手当です。
ここでは、失業手当(失業給付)の基本的な事項から紹介します。
失業手当は雇用保険(失業保険)に入ると給付を受けられる
雇用保険は失業したときや、出産・育児・介護等で継続して働けなくなったときに備えるための公的な保険です。
働いているときに雇用保険に加入して保険料を12ヶ月以上納めると、失業時に給付を受けられます。
以下の条件を満たす人が雇用保険に加入します。
雇用保険の加入条件
- 31日以上引き続き雇用される見込みである
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
雇用保険や保険料、失業手当の受給に必要な雇用保険被保険者証については以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
【関連記事】
雇用保険とは?加入条件や計算方法、手当の種類について解説
雇用保険料とは?計算方法や対象者についてわかりやすく解説
雇用保険被保険者証とは?再発行手続きの方法や退職時にいつもらえるか、いつ使うのかなどを解説
失業手当の種類
失業したときに受け取れる失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類です。
失業手当の種類 | 概要 |
---|---|
求職者給付 | 離職して失業状態にある場合に、失業者の生活の安定を図る目的で支給される給付 |
就職促進給付 | 失業者の再就職を援助、促進を目的とする給付 |
教育訓練給付 | 働く人の主体的な能力開発の取り組みを支援し、雇用の安定と再就職の促進を目的とする給付 |
雇用継続給付 | 働く人の職業生活の円滑な継続を援助、促進を目的とする給付 |
上記のうち求職者給付では、失業中の生活資金等として使える基本手当が支給されます。失業手当は、一般用語としてこの基本手当を指すことが一般的です。
本記事では基本手当を失業手当(失業給付)として表し、受給条件や受給できる金額、期間などを解説します。
失業手当(失業給付)の受給条件
失業手当を受けられるのは以下2つの条件を満たす人です。
失業手当(失業給付)の受給条件
- ハローワークで求職の申し込みを行い失業状態にある
- 離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上ある
失業状態とは「就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるのに本人やハローワークの努力によっても職業に就けない状態」です。
そのため次のような状態に当てはまる場合は失業状態とはいえず、失業手当(失業給付)を受給できないことになります。
失業状態に当てはまらない例
- 病気やけがのため、すぐには就職できない
- 妊娠・出産・育児のため、すぐには就職できない
- 定年などで退職して、しばらく休養しようと思っている
- 結婚などにより家事に専念し、すぐに就職ができない
出典:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
また失業手当(失業給付)を受けるためには、原則雇用保険に加入して被保険者であった期間が、離職の日以前2年間に12ヶ月以上あることが条件です。
たとえば、入社後3ヶ月で退職して雇用保険の加入期間が12ヶ月に満たなければ、失業手当(失業給付)は受給できません。
ただし、以下に該当する場合は離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あれば失業手当(失業給付)を受給できます。
なお、ここでいう1ヶ月とは、11日以上出勤した月です。その月は1日から末日までの1ヶ月間を基本とし、被保険者期間として計算されます。
失業手当を受給できる条件(離職日以前1年間に雇用保険加入期間が通算6ヶ月以上ある場合)
- 倒産や解雇等で離職した場合
- 有期契約更新の希望が合意成立しなかった場合
- 正当な理由のある自己都合により離職した場合

アルバイトやパートとして働いていた方も、条件を満たしていれば失業手当を受け取れます。
受け取る際にポイントとなるのが「雇用保険に加入しているかどうか」です。雇用保険には週20時間以上の勤務があり、雇用期間に定めのない人や31日以上雇用される見込みがある人が加入します。
たとえば1日5時間、週4日勤務のパート社員でこの2つの条件を満たしていた場合は、正社員でなくても雇用保険の対象です。
一方で勤務時間が短い、雇用期間が非常に短いなどの場合は、雇用保険の加入条件を満たしていないケースがあるため注意しましょう。
失業保険を受給しながら将来的な起業準備をしたい方については以下の記事で受給条件を詳しく解説しているので、あわせてご参考ください。
【関連記事】
失業保険を受給しながら起業準備はできる?受給条件や再就職手当について解説
失業手当(失業給付)はいくらもらえる?受給額の計算方法
失業手当(失業給付)の基本手当日額は、原則として離職日直前6ヶ月に支給された賃金の総額(※1)の合計を180で割って算出した金額のおよそ50~80%(※2)です。
例:
離職日直前の6ヶ月間に支払われた賃金の合計が150万円の場合
150万円 ÷ 180=8,333円
上記で算出した8,333円の50~80%である4,166~6,666円が失業手当(失業給付)の基本手当日額です。
ただし、基本手当日額には年齢ごとに上限額が定められており、算出した金額が以下の金額を超える場合は上限額で支給されます。
(2024年8月1日現在)
年齢 | 基本手当日額上限 |
---|---|
30歳未満 | 7,0656,835円 |
30歳以上45歳未満 | 7,8457,595円 |
45歳以上60歳未満 | 8,6358,355円 |
60歳以上65歳未満 | 7,4207,177円 |
※1 賞与などは除く
※2 60~64歳は45~80%
失業手当(失業給付)の受給期間
失業手当(失業給付)の給付日数は離職した理由などによって異なり、以下の3者に分けられます。
失業手当(失業給付)受給者の分類
- 特定受給資格者・一部の特定理由離職者
特定受給資格者:倒産・解雇等で離職した方
特定理由離職者:期間の定めのある労働契約の期間が満了し、当該労働契約の更新を希望したにもかかわらず更新の合意がなく離職した方 - 就職困難者:障害がある方や社会的事情により就職が著しく阻害されている方
- 1および2以外の離職者:特定受給資格者・一部の特定理由離職者・就職困難者に該当しない方
それぞれの受給期間は以下のとおりです。
1. 特定受給資格者・一部の特定理由離職者の受給期間
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
区分 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上 35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上 45歳未満 | 150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上 60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上 65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
2.就職困難者の受給期間
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
区分 | 45歳未満 | 150日 | 300日 | |||
45歳以上 65歳未満 | 360日 |
3.1および2以外の離職者の受給期間
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
区分 | 全年齢 | ― | 90日 | 120日 | 150日 |
失業手当(失業給付)を受給できるのは、離職した日の翌日から1年間(所定給付日数330日の人は1年と30日、360日の方は1年と60日)が原則となります。
上記の期間を過ぎると、基本手当の給付日数が残っていても原則として受給できません。
失業手当(失業給付)の申請から受給までの手続き
失業して失業手当(失業給付)を受給する場合、以下の流れで手続きを進めます。
失業手当(失業給付)の受給手続き
- 離職票と個人番号確認書類などを持ってハローワークで求職の申し込みをする
- 受給資格の決定を受けたら雇用保険受給者初回説明会に出席する
- 求職活動をする
- 失業の認定を受けて失業手当(失業給付)を受け取る
離職票とは退職者に対して会社から交付される書類で、退職後に届きます。
ハローワークで求職の申し込みをして離職票等を提出し、失業手当(失業給付)を受給する資格があると確認できれば、受給者初回説明会の日時が決まります。
説明会に参加したあと、ハローワークの窓口で職業相談や職業紹介を受けるなどして求職活動を行い、失業の認定を受けると失業手当を受給可能です。
なお、引き続き受給するには原則として4週間に一度、指定された日に管轄のハローワークに行き、失業の認定を受けなければなりません。
失業手当(失業給付)の給付制限とは
受給条件を満たせば、前述の給付日数分だけ失業手当(失業給付)を受け取れますが、退職後すぐに受け取れるわけではありません。会社を自己都合で退職した場合、失業手当の受給手続き日から原則として7日経過した日の翌日から1〜3ヶ月間は受給できないのです。
離職票の提出と求職の申し込みを行った日から、通算して7日間を待期期間といいます。待期期間は離職の理由などにかかわらず一律に適用されますが、失業手当は待期期間が満了するまで支給されません。
なお、正当な理由のない自己都合退職の給付制限は、2025年4月1日以降であれば原則1ヶ月、同年3月31日以前であれば原則2ヶ月となります。ただし、離職日からさかのぼって5年以内に2回以上の自己都合退職を行い受給資格決定を受けた場合もしくは、懲戒解雇された場合の給付制限期間は3ヶ月です。
出典:厚生労働省「離職されたみなさまへ」
失業手当(失業給付)の受給中にアルバイト・パートができる条件
失業手当を受給している期間中でも、条件を満たしていればアルバイトやパートとして働くことができます。ただし、就職活動を継続しており、「就労の意思」と「就労の可能性」がある状態が前提です。
なお、週20時間以上働いた場合や、1ヶ月を超える雇用契約を結んだ場合は「就職」と見なされ、失業状態ではないと判断される可能性があります。
また、収入額によっては失業手当が減額または、不支給になることもあります。
たとえ短時間の勤務であっても申告漏れがあると不正受給と判断され、罰則が課せられる可能性があるため注意が必要です。
アルバイトやパートとして働く際には、勤務時間や雇用形態、目安の収入を失業認定日に忘れず申告しましょう。
失業手当(失業給付)受給に関する注意点
失業手当を受給する際の注意点を紹介します。
受給するにはハローワークでの手続きが必要となる
失業手当を受給するには、ハローワークでの求職申し込みと失業認定が必要です。
求職申し込みとは、ハローワークで「求職申込書」を提出し、仕事を探していることを正式に登録する手続きです。これにより、求職者としてハローワークの支援(職業紹介や各種相談など)を受けながら、職探しを進めることができます。
手続きには退職後に会社から受け取る「離職票」や、「マイナンバーカード(または通知カード+身分証)」などが必要です。これらを持参し、ハローワークに出向いて求職の申し込みを行います。
失業認定とは、失業手当を受給するために、「就職していない」「就職の意思と能力がある」「積極的に求職活動をしている」状態であることをハローワークが確認・認定する手続きです。
原則として4週間に1回、ハローワークにて求職活動の実績などを報告し、失業の状態にあることが認められると、その期間に対応する失業手当が支給されます。
出典:ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」
不正受給した場合には罰則がある
失業手当は失業者が再就職するまでの生活を支える制度ですが、虚偽申告などの不正受給については罰則があります。
不正受給に該当する行為として挙げられるのは、以下のとおりです。
- 実際は就職しているのに「無職」として申告する
- アルバイトをしているのに報告していない
- 内職や手伝いで収入を得ていることを申告していない
- 会社役員などとして就任しているのを隠して手当を受け取る
このような不正行為が発覚した場合、失業手当は支給停止となります。そして不正受給した金額の返還だけでなく、受給額の2倍の金額の納付が求められます。
出典:大阪労働局「不正受給について(事例等)」
受給中に就職が決まったら受給停止手続きが必要となる
受給期間中に再就職が決まった場合は速やかにハローワークへ報告し、受給停止の手続きをしなければなりません。この受給停止手続きを怠ると、不正受給と判断される可能性があります。
受給停止手続きを行うには、最初にハローワークからもらう「受給資格者のしおり」の中に入っている「採用証明書」が必要です。ハローワークのホームページでもダウンロードできます。
採用証明書は就職先に記入してもらう必要があるため、記入済みのものを用意したらハローワークに持参して申告してください。
また、一定条件を満たせば再就職手当がもらえる場合もあります。申請期限が決まっているため忘れないようにしましょう。
出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
まとめ
失業手当(失業給付)は、失業したときに雇用保険から受け取れる給付です。働いているときに一定期間雇用保険料を納めていれば、失業して収入が途絶えても基本手当を受け取ることができ、生活資金などとして活用できます。
失業手当を受給できる条件は、「失業状態にあること」と「雇用保険に一定期間以上入っていたこと」の2つです。ただし、待期期間中や給付制限期間中は支給されません。
給付日数は離職理由などによって変わるので、自分がどれだけ失業手当を受け取れるのか、事前の確認が大切です。
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よくある質問
失業手当(失業給付)をもらえる人の条件は?
失業状態にあり、原則として離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが条件です。
失業手当(失業給付)の受給条件を詳しく知りたい方は「失業手当(失業給付)の受給条件」をご覧ください。
失業手当(失業給付)はいくらもらえる?
1日あたりの受給額は、原則として離職日直前6ヶ月の賃金(賞与等は除く)の合計を180で割って算出した金額のおよそ50~80%(60歳~64歳は45~80%)です。
失業手当(失業給付)の受給額を詳しく知りたい方は「失業手当(失業給付)はいくらもらえる?受給額の計算方法」をご覧ください。
失業手当(失業給付)は自己都合による退職でももらえる?
自己都合で退職した場合でも、一定の条件を満たしていれば失業手当を受けられます。一般的には、離職日以前の2年間に12ヶ月以上被保険者期間があることが必要です。
ただし、自己都合で退職した場合における失業手当の支給開始日は、求職の申し込みから7日に加えて1~3ヶ月の給付制限期間後となるため、少し時間がかかる点に注意しましょう。
自己都合退職による失業手当の給付について詳しく知りたい方は、記事内の「失業手当(失業給付)の給付制限とは」をご覧ください。
監修 松田 朋子
2005年に山梨県社会保険労務士会登録。「社労士労働紛争センター山梨」あっせん委員、「山梨働き方改革推進センター」専門メンバーなど、活動は多岐に渡る。製薬メーカーの労務管理事務にも従事。資格取得後、社会保険労務士事務所で経験を積み独立開業。現在に至る。