障害者雇用促進法とは、障がいがある人の就労機会拡大に向けて、企業へ法定雇用率の達成などを義務付ける法律です。
障害者雇用促進法は2022年に法改正が成立してから、2023年・2024年と順次、改正法が施行されています。そして、2025年にも障害者雇用促進法の改正が施行されます。
本記事では、2025年4月から施行される障害者雇用促進法の改正内容について、詳しく解説します。
2023年・2024年の改正内容について詳しく知りたい方は、別記事「障害者雇用促進法の改正内容は?2023年・2024年施行での変更点を詳しく紹介」をあわせてご確認ください。
目次
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法とは、障がい者の職業安定を図ることを目的とした法律で、正しくは「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。
従業員が一定数以上在籍している企業には、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にすることが義務付けられています。
民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられ、2026年7月には2.7%となる予定です。
ほかにも、2025年4月からは除外率制度や障がい者の算定方法も見直しされます。
2025年の障害者雇用促進法で変更となったポイント
今回の改正で優遇幅が縮小され、実際に雇用しなければならない障がい者の人数が増えることになります。
対象となる業種は医療業や運送業、教育機関など幅広く、多くの企業が影響を受けると見込まれています。
法定雇用率の引き上げ
法定雇用率とは、一定規模以上の企業や国・地方公共団体などの事業主に対し、労働者全体に占める障がい者の割合のことで、法律で義務付けられている制度です。
法定雇用率は段階的に引き上げられ、2025年の法改正では民間企業の法定雇用率は2.5%となります。
なお、法定雇用率の引き上げに伴い、雇用義務が発生する対象企業の範囲も拡大します。
| 区分 | 2024年度 | 2025年4月〜 | 2026年7月〜 |
|---|---|---|---|
| 民間企業の法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
| 対象事業主の範囲 | 43.5人以上 | 40.0人以上 | 37.5人以上 |
国や地方公共団体、教育委員会の法定雇用率も民間企業と同様に2026年度までに段階的に引き上げられる予定です。
また、一定規模以上の事業主は、雇用以外にも以下の対応が義務付けられています。
- 毎年6月1日時点での障害者雇用状況のハローワークへの報告
- 障害者の雇用促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」の選任
企業は毎年の雇用状況報告や雇用推進者の選任(努力義務)に加え、配置や定着支援、合理的配慮の整備を含む制度対応が不可欠になります。
除外率の引き下げ
除外率とは、障がい者の就業が一般に困難とされる業種に限り、雇用義務を一定割合で軽減する制度です。
2025年の法改正で、すべての除外率設定業種で「一律10ポイント引き下げ」が実施されました。つまり、除外率が設定されている企業は従来よりも実際の雇用人数を増やさなければなりません。
業種別の除外率は以下のとおりです。
| 除外率設定業種 | 除外率 |
|---|---|
| 非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) | 5% |
| 建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業(信書便事業を含む) | 10% |
| 港湾運送業、警備業 | 15% |
| 鉄道業、医療業、高等教育機関、介護老人保健施設、介護医療院 | 20% |
| 林業(狩猟業を除く) | 25% |
| 金属鉱業、児童福祉事業 | 30% |
| 特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) | 35% |
| 石炭・亜炭鉱業 | 40% |
| 道路旅客運送業、小学校 | 45% |
| 幼稚園、幼保連携型認定こども園 | 50% |
| 船員等による船舶運航等の事業 | 70% |
飲食・小売・卸し、一般的な製造業など多くの業種は、障がい者の就業が一般的に可能とみなされているため、もともと除外率が設定されていません。
障害者雇用における障害者の算定方法の見直し
これまで、「週10時間以上20時間未満で勤務する一部の障がい者(精神障害者や重度の身体障害者、重度の知的障害者)」は雇用率の計算に含まれていませんでしたが、2025年の法改正で算定対象になりました。
また、短時間勤務であっても「0.5人分」として雇用率にカウントできるようになり、企業がより柔軟に障がい者を雇用できる仕組みが整えられました。
| 区分 | 週所定労働時間 30時間以上 | 週所定労働時間 20時間以上30時間 未満 | 週所定労働時間 10時間以上20時間 未満 |
|---|---|---|---|
| 身体障害者 | 1 | 0.5 | ― |
| 身体障害者(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
| 知的障害者 | 1 | 0.5 | ― |
| 知的障害者(重度) | 2 | 1 | 0.5 |
| 精神障害者 | 1 | 1 | 0.5 |
この改正により、長時間労働が難しい人にも就労機会が広がり、企業側にとっても法定雇用率の達成が現実的になったといえます。
なお、この特例に関連して導入されていた「特例給付金」は2024年4月1日をもって廃止されました。
障害者実雇用率の計算方法
障害者実雇用率は、常用労働者数に対してどれだけ障がい者を雇用しているかを割合で示すものです。
計算する際には、従業員全体の人数(分母)と、障がい者の人数(分子)を法律上どのようにカウントするかを理解しておく必要があります。
具体的には以下のとおりです。
従業員・障がい者のカウント基準
従業員数のカウント(1人あたり)
- 常用従業員(週30時間以上勤務):1人
- 短時間従業員(20時間以上30時間未満勤務):0.5人
障がい者数のカウント(1人あたり)
- 重度身体・重度知的障害者:2人
- 精神障害者の短時間勤務者(20~30時間未満):1人
上記のように、障がいの種類や勤務時間によって換算方法が異なるので注意しましょう。
障害者実雇用率の計算式は次のとおりです。
実雇用率 =(換算した障がい者数 ÷(常用従業員数 + 短時間従業員数 × 0.5))× 100
たとえば、従業員100人(常用80人・短時間40人)の会社で、精神障害者の20〜30時間勤務1人を雇っている場合の実雇用率は以下のように計算します。
- 従業員数(分母):80 + 40 × 0.5 = 100(人)
- 障がい者数(分子):1(人)
- 実雇用率:1 ÷ 100 = 1%
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
出典:厚生労働省「精神障害者の算定特例の延長について」
障害者雇用における事業主支援の強化
2025年の改正では雇用率を上げるだけではなく、企業が障がい者雇用を持続できるよう事業主への支援も強化されています。
たとえば、雇入れや定着に関する課題を相談できる「障害者雇用相談援助事業」が新設され、専門家による雇用管理や合理的配慮のアドバイスを無料で受けられるようになりました。
さらに、加齢や体調変化により従来の職務を継続するのが難しくなった障がい者に対して、職務転換や職場環境の整備を行った場合の助成制度も導入されました。
ほかにも職場実習や見学の受け入れに対する助成制度も新設され、企業が障がい者の就労準備を支援しやすい環境作りがされています。
既存の助成制度についても、助成額や利用条件が改正され、実際の利用がしやすい内容に見直されました。
出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
【関連記事】
障害者雇用とは? 2023年度以降の障害者雇用促進法の変更点について解説
法定雇用率を達成できない場合のペナルティ
上述したように、障害者雇用促進法では、一定規模以上の事業主に対して障害者の雇用義務(法定雇用率)が課されています。
法定雇用率が未達成の場合は、事業主に段階的なペナルティが設けられています。
行政指導
事業主は、ハローワークまたは労働局による雇用状況の報告提出義務があり、法定雇用率が未達成の場合は行政指導が段階的に行われます。
行政指導の流れには通常、以下のようなステップがあります。
- 障害者雇用状況報告(毎年6月1日時点)提出
- 雇入れ計画作成命令または勧告の発出
- 計画の適正実施に関する勧告や確認
- 特別指導の実施(改善が進まない企業に対する集中した指導
段階を経ても改善が十分でない場合、次のステップへ移行することがあります。
企業名公表
行政指導を受けたにもかかわらず、雇用状況の改善がみられないすべての企業については、法令に基づき企業名公表というペナルティが科されます。
この制度は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」第47条などを根拠としており、企業名公表の対象となる基準や手続きが定められています。
企業名公表の実例として、令和4年度に特別指導の対象となった企業55社のうち、最終的に改善が見られずに5社が公表されました。
公表される情報には、未達成の状況・雇用障害者の人数・改善の取り組みなどが含まれることがあります。
企業の社会的信用に影響を与えるリスクがあるため、先行する行政指導段階での対応が重要です。
出典:厚生労働省「障害者の雇用の促進等に関する法律第47条の規定に基づく企業名の公表について」
不足1人あたり月5万円の納付金の徴収
常用労働者数が100人を超える企業で法定雇用率を達成していない場合は、障害者雇用納付金が徴収されます。
徴収額は、不足している障がい者数1人あたり月額50,000円です。
たとえば、最低5人の障害者雇用が義務づけられている企業で1人も雇用していない場合、不足している障がい者は5人となり、毎月25万円(5人×50,000円)の納付金をしなければなりません。
この納付金は、法定雇用率を達成している企業への調整金や報奨金、また障がい者を雇い入れる事業主のための助成金などの原資となっています。
なお、常用労働者が100人以下の中小企業であれば、法定雇用率が未達成であっても納付金の義務はありません。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度と障害者雇用納付金制度について」
障害者雇用促進法の改正で企業が取り組むべきこと
障害者雇用促進法の改正により、企業には従来以上に実効性ある取り組みが求められています。
単に採用数を増やすだけではなく、職場環境の整備や定着支援まで含めた総合的な対応が不可欠です。
ここでは、2025年の法改正で企業が注意すべきポイントについて解説します。
自社の実雇用率を正確に把握する
まず企業が取り組むべきは、自社の障害者雇用の現状を数値で「見える化」することです。
具体的には、総従業員数のうち常用雇用労働者を「1人」、短時間勤務者を「0.5人」として換算するルールに則って、障がい者の雇用者数を集計します。
短時間勤務者の定義や換算方法、また重度障害者や精神障害者・知的障害者のカウント方法など、制度で定められた細かいルールを確認しておくことが重要です。
たとえば、2024年の集計では、法定雇用率2.5%が義務化されたにもかかわらず、実雇用率は2.41%であった企業では、目標と現実のギャップがあります。
実雇用率の把握を通じて、何人雇用すればよいか・どの部署でどのタイプの障がい者を受け入れ可能かなどの計画立案が現実的になります。
業務設計の見直し
障害者雇用を成功させるには、「業務をどう設計するか」が鍵になります。
業務設計の見直しでは、まず社内でどの業務が障害者にも対応可能かを洗い出すこと、そしてその業務を切り出して明確に定義することが肝心です。
たとえば、「部材の仕分け」「部品の検品」「清掃」など、一日の業務フローでルーティン化されている単純作業を業務割り当ての候補とする企業もあるでしょう。
業務の手順をマニュアル化したり、作業場所・ツールの配置を整理したりすることで、作業をスムーズに行えるように環境を整えられます。
業務設計を見直して、ミスの減少・負荷軽減につなげましょう。
採用計画の策定と募集手段の多様化
障害者雇用における採用活動は、計画的かつ多角的なアプローチが必要です。
まず、どの時期までにどの程度の障がい者をどの部門でどのような勤務条件で採用するかという目標数を明らかにし、それに基づいた採用戦略を策定することが重要です。
求人募集では、以下の実行を検討してみましょう。
- 求人広告
- 障害者支援施設・就労移行支援事業所などのネットワークを作る
- インターンシップ・職場体験制度を導入など
応募要件や募集内容を明確にし、障がい者が応募しやすい表現にすることも大切です。
仕事内容の具体性・必要スキル・支援内容の明示・勤務時間の柔軟性などを記載することで、ミスマッチを減らせるでしょう。
受け入れる部署の環境整備と体制構築
障がい者が本採用された後に安心して働き続けられるかどうかは、受入側の環境と体制の整備が影響します。
まずは以下のような合理的配慮を整えることが必要です。
- 作業場所の物理的バリア除去
- ICTツールの導入
- 作業手順の見える化など
部署内での指導者や管理職に対する理解を深める研修を行い、障害特性を理解したうえでコミュニケーションできる体制を作ることが求められます。
離職を防ぎ、早期のフォローアップを確実にするうえでも大切といえます。
定着支援策の導入とフォローアップ
採用した障がい者が長く働き続けるようにするためには、定着支援策が欠かせません。
入社後の定期的な面談を設け、勤務状況や業務内容、職場で悩んでいることなどをヒアリングする機会を設けましょう。
また、キャリアパスや能力開発の機会を提供すると、将来への見通しを持たせ、モチベーションを保てるようにすることが必要です。
技能研修やOJTの拡充など、業務を通じて成長できる環境を整えることが、離職率の低下につながるケースもあります。
障がい者本人の意見を吸い上げ、職務内容や勤務形態の見直しを柔軟に行うことで、定着を促進しましょう。
よくある質問
障害者雇用率は2025年にどうなる?
2025年4月1日からは、除外率が一律で10ポイント引き下げられます。今回の改正で除外率の控除幅が縮小されるため、より多くの実雇用が必要となります。
2025年は「雇用率の数字自体」ではなく「実際に雇うべき人数」が増える年といえるでしょう。
障害者雇用は2026年7月にどうなる?
2026年7月1日からは、法定雇用率そのものが引き上げられ、民間企業は2.5%から2.7%になります。
国や地方公共団体は3.0%、都道府県などの教育委員会は2.9%に設定され、官民問わず受け入れの強化が求められます。
さらに、雇用義務が発生する事業主の範囲も広がり、従来40人以上だった基準が37.5人以上へと引き下げられました。
小規模事業主も新たに義務対象となる可能性があるため、採用や職務設計の準備が欠かせません。
障がい者の解雇は可能?
障がいがあること自体を理由に解雇することは法律で禁止されています。
合理的配慮を提供せずに「働けないから解雇」とするのは明確な差別に当たり、解雇は無効です。
一方で、労働契約法に基づく一般ルールは障害者にも適用され、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められる場合、解雇が有効とされるケースもあります。
配置転換や業務内容の調整といった解雇回避努力を十分に行い、それでも職務の継続が困難であることが明らかでなければなりません。
配慮の提供や配置転換の検討過程を記録に残し、手続きを適切に踏んだうえで判断することが不可欠です。
障害者雇用納付金制度はどうなる?
法定雇用率を満たさない常用労働者100人超の企業には「障害者雇用納付金」が課されます。具体的には、不足している障がい者1人あたり月5万円を納めなければなりません。
たとえば、5人の雇用が義務付けられている企業で1人も障がい者を雇用していなかった場合には、月25万円(5人×50,000円)の納付が科されます。
この納付金は、雇用率を達成している企業に支払われる調整金や報奨金、また職場環境の整備や介助者配置に関する助成金の財源として活用されています。
障害者を雇用する場合に活用できる支援制度は?
障害者を雇用する際には、企業が活用できる公的支援制度が複数あります。
- 障害者トライアル雇用制度 ※助成金あり
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)
- 障害者雇用相談援助事業
- JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)各種助成金
制度を上手に組み合わせることで、採用から定着までを継続的に支援する仕組みを作ることが可能です。
まとめ
障害者雇用促進法は社会状況に応じて段階的に改正が進められており、2024年以降は雇用率の引き上げや除外率の縮小など企業への負担が拡大しています。
こうした制度に適切に対応するためには、企業側が自社の雇用状況を正確に把握し、環境を制度に合わせて調整していくことが不可欠です。
freee人事労務では、給与計算・勤怠管理・雇用契約・各種労務手続きをクラウド上で一元化でき、障害者雇用率の算定や必要書類の作成もスムーズに対応可能です。
法改正や制度変更があっても、最新のルールに沿った労務管理を実現できます。
制度対応と日々の労務管理を同時に効率化したい企業は、まずはfreee人事労務のサービスページをチェックしてみてください。
▶︎ はじめてでも迷わない「法対応」の頼れる案内役 | freee法対応ガイド
