
社会保険労務士(社労士)とは、労働法や社会保険に関する専門知識をもつ国家資格者であり、企業の人事や労務管理をサポートする役割をもつ存在です。企業は社労士に給与計算業務を依頼でき、これによって法令遵守や業務効率化などのメリットが期待できます。
本記事では、社会保険労務士(社労士)の概要、社労士に給与計算を依頼するメリット・デメリット、費用相場や社労士選定のポイントについて解説します。
目次
- 社会保険労務士(社労士)とは
- 給与計算を社労士に依頼するのは違法ではない
- 社労士と税理士の役割の違い
- 給与計算を社労士に依頼するメリット
- 法改正へ迅速・正確に対応してもらえる
- 人事労務のプロによるサポートを受けられる
- 社会保険・労働保険手続きを一貫して対応してもらえる
- コア業務に集中できる
- 給与計算を社労士に依頼するデメリット
- 委託費用がかかる
- 社内でのノウハウ蓄積が難しい
- コミュニケーションコストがかかる
- 給与計算を社労士に依頼する場合の費用相場
- 社労士に給与計算を依頼する具体的な流れ
- 1. 自社の課題と依頼範囲を明確にする
- 2. 社労士事務所の情報収集と比較検討する
- 3. 契約締結と業務開始に向けて準備する
- 給与計算を依頼する社労士を選ぶチェックポイント
- 給与計算業務の実績と専門性があるか
- 自社の要望に合った対応をしてくれるか
- コミュニケーションが取りやすいか
- 料金体系の明確であるか
- セキュリティ体制が万全か
- まとめ
- 給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
- よくある質問
社会保険労務士(社労士)とは
社会保険労務士(社労士)とは、労働法や社会保険制度について高度な知識を持つ国家資格を有する専門家です。主に企業の人事や労務に関する業務を支援し、働く環境の整備や法令遵守をサポートする役割を担っています。
社労士が担う具体的な業務としては、労働関連法令や社会保険諸法令に基づく書類作成・手続代行、労務管理の相談・指導など、人事労務に関する専門的な業務が挙げられます。
労働関連法や社会保険諸法は給与計算業務とも密接に関連するため、これらの知識を有する社労士は給与計算に関する業務でも頼りになる存在です。
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給与計算を社労士に依頼するのは違法ではない
給与計算を社労士に依頼することは違法ではありません。
企業において、給与計算は正確性や法令遵守の観点から非常に重要な業務です。また、給与計算は従業員に対する報酬を正確に支払うために不可欠なプロセスとなります。万が一、計算ミスによって従業員へ振り込まれる給与が本来より少ないといった事態が発生すると、従業員の生活に直接影響を与えたり信頼関係を損なったりするおそれがあります。
また、給与計算は労働基準法や税法に基づいて行われます。これらに違反すると、企業が罰則を受ける可能性があります。法令を遵守することは、企業のコンプライアンスを維持するためにも不可欠なのです。
このように企業において重要な給与計算ですが、労働法や社会保険に関する専門知識をもつ国家資格者である社労士や税理士であれば、業務を代替することが可能です。
専門的な業務では、特定の資格を有した者しか業務を行えないという「独占業務」の位置づけがなされていることがあります。しかし、給与計算業務はこの独占業務に該当しません。この独占業務は、社労士については社会保険労務士法第2条第1項第1号および第2号、税理士については税理士法第2条第1項で明示されています。
ただし、給与計算に付随して発生する社会保険の手続き(算定基礎届や月額変更届など)は社労士の独占業務に定められています。給与計算業務の外部への依頼を検討していて、給与計算から社会保険手続きまで一貫して行ってもらいたい場合は、社会保険関連業務など独占業務を遂行できる社労士が適任です。
社労士と税理士の役割の違い
社労士と同様に専門知識を有していることを証明する国家資格として、税理士が挙げられます。社労士と税理士は混同されることもありますが、それぞれ異なる専門領域を担当とするものであり明確に区別されています。
社労士と税理士の専門領域は以下のとおりです。
社労士 | 社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)の手続きや助成金申請などの労務管理全般 |
---|---|
税理士 | 税務(法人税、所得税、消費税など)全般 |
なお、いずれも給与計算を担当することができますが、そこでも専門領域が異なります。社労士は社会保険料や雇用保険料の正確な計算、残業代計算、有給休暇管理など、労働関連法規に基づいた部分を得意とします。これに対して、税理士が得意な給与計算の領域は所得税の源泉徴収や住民税の特別徴収、年末調整などといった税務に関連する部分です。
社労士と税理士のどちらに依頼すればよいか判断に迷う場合もあるかと思います。社労士への業務依頼が適しているケースは、労務管理全般のサポートや社会保険手続きのスムーズな連携を重視する場合です。一方で税理士への業務依頼が適しているケースは、税務顧問契約の中で給与計算も依頼したい場合や、年末調整まで一貫して任せたい場合となります。
社労士事務所(または税理士事務所)などによっては、両者が連携して対応するケースもあります。
税理士については、以下の記事もあわせてご覧ください。
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税理士とは?仕事内容や相談する際の注意点、費用などをわかりやすく解説
給与計算を社労士に依頼するメリット
給与計算を社労士に依頼する主なメリットを解説します。
法改正へ迅速・正確に対応してもらえる
専門知識を有しており最新の法令にも精通している社労士であれば、関連する法改正にも対応したうえで、正確な給与計算を行ってくれることが期待できます。これにより、追徴課税や未払い残業代などのリスクも軽減できます。
人事労務のプロによるサポートを受けられる
社労士は労務管理の専門家であるため、給与計算だけでなく勤怠管理や就業規則、助成金活用などといった労務全般に関する相談も受け付けています。ただし、業務範囲は社労士との業務契約内容によるため注意しましょう。
社労士から労務に関する知識を共有してもらうことで、従業員との労務トラブル予防につながるほか、解決のアドバイスを得られる効果が期待できます。
社会保険・労働保険手続きを一貫して対応してもらえる
社会保険関連などの独占業務も担える社労士であれば、給与計算と密接に関連する社会保険や労働保険の諸手続き(入退社・算定基礎・年度更新など)も一括で依頼可能です。これにより、手続き漏れや遅延のリスクを減らし、担当者の負担軽減が期待できます。
コア業務に集中できる
給与計算業務を社労士に依頼することで、経営者や従業員が煩雑な給与計算業務から解放され、コア業務に専念できます。
給与計算業務の知識をもつ担当者を自社で雇用・育成するコストや、給与計算業務に必要な専用ソフトの導入・維持コストなども不要になるため、企業のコストが全体的に減少し、生産性が高くなるといえます。
給与計算を社労士に依頼するデメリット
社労士に給与計算業務を依頼するうえで、注意しておきたいデメリットも存在します。
委託費用がかかる
外部に業務を委託する場合、当然ながら委託費用が発生します。
自社で業務を遂行する場合の人件費や、時間コストと比較検討したうえで発生する委託費用が適切かどうか判断する必要があります。
社内でのノウハウ蓄積が難しい
業務を完全に外部委託すると、給与計算に関する知識や経験が社内に蓄積されにくくなります。
将来的に業務の内製化を考えている場合は、この点に留意して依頼しなければなりません。
コミュニケーションコストがかかる
企業外部の社労士との情報共有や、連携のためのコミュニケーションが必要です。場合によっては、企業内部で完結させるよりも業務に時間を要するケースもあります。
相性のよい社労士を選び、円滑な連携体制を築きましょう。
給与計算を社労士に依頼する場合の費用相場
社労士に給与計算を依頼する際の費用は業務範囲や従業員数、依頼する社労士事務所の方針によって異なります。一般的な費用相場は、月額数万円から数十万円程度とされています。
従業員別の見積もりの例は、以下のとおりです。
従業員数 | 費用(月額) |
---|---|
1~5名 | 20,000~30,000円程度 |
6~10名 | 30,000~40,000円程度 |
11~20名 | 40,000~50,000円程度 |
21名以上 | 別途見積もりとなることが多い |
なお、上記はあくまで一例であり、依頼先の社労士事務所によって設定金額は異なります。
また、上記では「従業数21名以上」までの見積もり例を挙げていますが、中堅・大企業になると従業員が増えるだけでなく依頼する業務も複雑化します。そのため、標準的な費用相場がわかりにくくなるのが特徴です。
月額料金のほか初期費用や年末調整、賞与計算、勤怠システム連携などを行う際のオプション料金が発生することもあります。顧問契約型、アウトソーシング型など、契約形態によっても金額が異なることに留意しましょう。
社労士に給与計算を依頼する具体的な流れ
社労士に給与計算を依頼する具体的な流れを3つのステップで解説します。
1. 自社の課題と依頼範囲を明確にする
まずは自社が抱える給与計算の課題を整理し、依頼範囲を明確にします。
たとえば、「給与計算における負担が大きい」「給与計算のミスが多い」「法改正への対応が不安」などといった自社の具体的な課題を洗い出します。
自社の課題を把握できたら、次は依頼範囲の明確化です。たとえば、給与計算のみを依頼するのか、勤怠集計や社会保険手続きまで含めるのかなどを整理していきます。
2. 社労士事務所の情報収集と比較検討する
社労士へ依頼する業務を決めたら、複数の社労士事務所を比較検討しましょう。具体的には、インターネット検索、紹介、社労士会への問い合わせなどで候補を探し、複数の事務所から見積もりを取ってサービス内容や費用を比較していきます。
候補になる社労士と実際に面談し、自社の状況や要望を伝えます。ここでは、社労士の専門性や実績、コミュニケーションの取りやすさなどを確認してください。
3. 契約締結と業務開始に向けて準備する
依頼する社労士事務所が決まったら、契約締結と業務開始に向けた準備を進めます。業務範囲や責任範囲、費用、秘密保持などは契約書で明確にしましょう。
また、業務の依頼にあたっては従業員情報や賃金規程、勤怠データなどの必要な情報を社労士に提供する必要があります。必要な情報を共有し、業務フローや連絡体制も確認したうえで、業務依頼を開始します。
給与計算を依頼する社労士を選ぶチェックポイント
複数の社労士を比較検討する際、何を重視して選定すべきか迷うこともあります。給与計算を依頼する社労士を選ぶポイントを解説します。
給与計算業務の実績と専門性があるか
給与計算の代行実績が豊富であるか、そして自社の業種や規模に近い企業の対応経験があるかを確認しましょう。
最新の法改正情報に精通しているかどうかも、優秀な社労士を見極めるポイントです。
自社の要望に合った対応をしてくれるか
自社のニーズに応じたサービスを提供してくれるかどうかも確認しましょう。
判断ポイントとしては、勤怠管理システムや会計ソフトウェアとの連携が可能かどうか、柔軟な対応が可能かどうかなどです。
コミュニケーションが取りやすいか
スムーズに連絡が取れるか、長期的なパートナーとして信頼関係を築けそうかどうかも、選定に重要なポイントです。
具体的には面談時の説明が丁寧でわかりやすいか、質問しやすい雰囲気かどうかなどを確認します。
料金体系の明確であるか
料金体系が明確で、追加料金の発生条件などがきちんと説明されるかどうかも事前に確認します。
セキュリティ体制が万全か
給与計算業務を依頼する場合、従業員の給与などの個人情報を共有します。そのため、セキュリティ対策がしっかり整っているかについても確認しましょう。
まとめ
社労士に給与計算業務を依頼することで多くのメリットを享受できますが、発生するコストや社内ノウハウの蓄積についての懸念などを視野に入れる必要があります。
自社に合った社労士を選定し、給与計算業務や労務管理を最適化させましょう。
給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
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よくある質問
給与計算は社労士の独占業務?
給与計算は社労士の独占業務ではありません。
社労士の独占業務について、詳しくは記事内の「給与計算を社労士に依頼するのは違法ではない」で解説しています。
給与計算を社労士に依頼するのは違法?
給与計算を社労士に依頼するのは違法ではありません。
詳しくは、記事内の「給与計算を社労士に依頼するのは違法ではない」をご覧ください。
給与計算を社労士に依頼する場合の相場は?
社労士に給与計算を依頼する際の費用は業務範囲や従業員数、依頼する社労士事務所の方針によって異なります。一般的な相場としては、月額数万円から数十万円程度です。
費用相場については、記事内の「給与計算を社労士に依頼する場合の費用相場」で詳しく解説しています。