人事労務の基礎知識

残業時間とは?上限規制や平均時間、企業が対応すべきことを解説

残業時間とは?上限規制や平均時間、企業が対応すべきことを解説

近年、働き方改革関連法により、残業時間の管理は企業にとって重要なものとなっています。残業時間の適正な運用は、法令遵守のみにとどまらず、従業員の健康維持や生産性向上、さらには企業価値の向上にも直結する要素です。

一方で、残業の定義や上限規制、平均残業時間の実態を正しく理解しないまま対応を進めてしまうと、罰則リスクや企業イメージの低下を招きかねません。

本記事では、残業時間に関する法的な基礎知識や上限規制の内容、企業が取るべき具体的な対応策までをわかりやすく解説します。

目次

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労働基準法上の「残業」の定義

「残業」という言葉は日常的に使われていますが、労働基準法においては法律用語ではありません。法律では主に以下の3つに分類されます。

  • 時間外労働
  • 休日労働
  • 深夜労働

これらはすべて労働時間に関する法的なルールに基づき定められており、それぞれの労働時間には割増賃金の支払いが義務付けられています。

時間外労働とは

労働基準法では、労働時間の上限を1日8時間・週40時間と定めています。この法律上の上限労働時間(法定労働時間)を超えて働くことを「時間外労働」と呼びます。

たとえば、所定労働時間が1日7時間の会社で9時間勤務した場合、法定労働時間(8時間)を超えた1時間が時間外労働となります。しかし多くの場合、1日7時間の会社では2時間分が「残業」として認識されています。

一般的にいわれる「残業」は、就業規則で定められた所定労働時間を超えた労働を指すことが多いのに対し、「時間外労働」はあくまで法定労働時間を超えた労働を意味します。

また、時間外労働をした時間分は、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。さらに、時間外労働が月に60時間を超えた場合は、60時間を超えた時間に対して25%割増賃金を上乗せする必要があります。つまり、月60時間を超えた時間外労働に対する割増賃金率は50%になるということです。

休日労働とは

休日労働とは、労働基準法で定められた法定休日に労働することを指します。労働基準法第35条では原則毎週少なくとも1回休日を与えることが義務付けられており、この休日のことを「法定休日」といいます。たとえば、日曜日を法定休日としている会社では、日曜日に出勤した場合に休日労働が発生するということです。

休日労働した時間は、その時間に対して通常の賃金に加えて35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。


出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

深夜労働とは

深夜労働とは、深夜時間帯(午後10時から翌午前5時まで)に行われる労働を指します。深夜労働は勤務の種類や所定労働時間に関係なく、深夜時間帯に実際に労働した場合に適用されるものです。企業には法律上、従業員が深夜時間に働いた時間に対して25%以上の割増賃金を支払う義務があります。

また、深夜時間の割増は時間外労働や休日労働と重なった場合にも加算されます。たとえば、1日8時間を超えて時間外労働を行い、深夜時時間帯まで労働した場合は、時間外労働分の25%の割増賃金に加えて深夜労働の25%が上乗せされるため、50%以上の割増賃金の支払いが必要になります。

同様に休日労働で深夜時間に労働した場合は、休日労働の割増率である35%に深夜労働の25%を加えて60%以上の割増率が適用されるということです。

平均的な残業時間

日本の企業における平均的な残業時間は、業種や企業規模によって大きく異なりますが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(令和7年5月分)によれば、全産業・全雇用形態の平均所定外労働時間は9.7時間という結果が出ています。

ここ数年、残業時間は働き方改革の推進や企業の労務管理意識向上により減少傾向にありますが、情報通信業や運送業など一部業種では依然として長時間労働が目立ちます。

平均時間を見る際は、単なる数値比較ではなく、繁忙期や一時的要因による増加か、恒常的に長時間労働が発生しているのかといった背景の分析が重要です。


出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年5月分結果確報」

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残業時間の上限とは

労働基準法では労働者の健康を守るため、時間外労働の上限が法律で定められています。

かつては「大臣告示」による行政指導にとどまり、違反しても罰則はありませんでした。しかし、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法によって時間外労働の上限が法律に明記され、違反した場合には罰則が科されるようになりました。

時間外労働の上限規制の内容

働き方改革関連法により、2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されており、臨時的な特別な事情がない限り原則として月45時間・年360時間が時間外労働の上限時間となります。

また、時間外労働の上限規制は「時間外労働・休日労働に関する協定届(通称36協定)」を締結していても適用され、上限時間を超えた場合は罰則対象となります。

なお、36協定を締結せずに時間外労働を行わせた場合は罰則の対象となります。

特別な事情がある場合の例外(特別条項付き36協定)

一時的な業務増加など特別な事情がある場合は、特別条項付き36協定を締結することによって上限を超える時間外労働が認められます。ただし、特別条項付き36協定を締結した場合でも以下の制限が適用され、上限を超えた場合は罰則の対象となります。

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間以内(休日労働含む)
  • 月100時間未満(休日労働含む)
  • 月45時間超は年6回まで

これらの上限は、あくまで例外的なものであり、企業はこれらを超過しないよう労働時間管理を徹底する義務があります。

とくに、複数月平均80時間以内や月100時間未満という規制は、労働者の健康障害を防ぐ観点から重要とされています。

【関連記事】
36協定とは?締結後の残業時間や違反への罰則、締結の流れなどを解説

残業時間の上限を超えることによる企業側のリスク

残業時間の上限規制は、労働基準法によって明確に定められています。上限を超える残業を行わせた場合は、企業は法的な罰則だけでなく社会的信用の低下や経営面など、さまざまなリスクを負うことになります。

ここでは、残業時間の上限を超えることによる企業側の主なリスクについて詳しく解説します。

罰則・刑事罰のリスク

労働基準法第32条(労働時間)や第36条(時間外労働及び休日労働)に違反し、法定の上限を超える残業を命じた場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

また、残業時間の上限超過の責任は、労働時間管理の責任者や担当役員など個人に対しても適用され、書類送検されるケースがあります。

罰則・刑事罰のリスクを未然に防ぐためにも、日頃から労働時間を適正に把握・管理し、従業員が無理なく働ける体制を整えておくことが重要です。

企業イメージの悪化

残業時間の上限違反が明るみに出ると、いわゆる「ブラック企業」として認知され、企業イメージが大きく損なわれます。その結果、採用活動で応募者が減少したり、既存の従業員のエンゲージメントやモチベーションが低下したりする恐れがあります。

また、取引先からの信頼を失うことで、契約解消や新規取引停止といった事業継続に直結する影響が出る可能性もあるため、時間外労働時間の管理は徹底しなければなりません。

損害賠償請求のリスク

過度な長時間労働が原因で、従業員が過労死や過労によるうつ病などの精神疾患を発症した場合、企業は安全配慮義務違反として、本人または遺族から損害賠償を請求される可能性があります。

賠償額は場合によっては数千万円に達することもあり、企業の資金繰りや経営の安定性に大きな打撃を与えるおそれがあります。

従業員の健康被害

慢性的な長時間労働は、従業員の心身の健康に大きな悪影響をもたらします。疲労が積み重なることで集中力が落ち、作業上のミスや労働災害の発生リスクが高まります。

また、健康面の不調は意欲の低下や離職率の上昇を引き起こし、最終的には有能な人材の流出につながる可能性があります。

労働基準監督署による指導・是正勧告

労働基準監督署の定期監督や従業員からの申告によって臨時検査が行われ、時間外労働の上限違反が発覚した場合は、労働基準監督署から指導や是正勧告を受けることになります。

是正勧告に従わない場合は、企業名の公表やさらなる法的措置に発展する可能性もあり、企業イメージの低下を招く恐れがあります。

残業時間の上限を超えないために企業が対応すべきこと

長時間労働を防ぎ、従業員の健康と企業の生産性を守るには法令を守るだけでなく、現場で機能する運用を継続的に改善していくことが重要です。

とくに実態の把握やルールの適正化、業務設計の見直しなどを一体で進めることで、上限超過の未然防止につながります。ここでは、残業時間の上限を超えないために企業が対応すべきことを紹介します。

正確な労働時間を把握する

従業員一人ひとりの労働時間を正確に把握することは、長時間外労働を防ぐうえで必須事項です。勤怠管理システムの打刻時間やタイムカード、PCのログなど客観的な記録を組み合わせて勤務実態を可視化しましょう。

従業員の自己申告のみに頼るのではなく、定期的に客観的な記録と実態の乖離を点検することも重要です。乖離が見つかった場合は、その原因を突き止め、場合によっては勤怠管理の運用を見直すことも検討しましょう。

36協定および特別条項付き36協定を見直す

現在締結している36協定や特別条項付き36協定については、実態に照らし合わせて適合しているか確認し、必要に応じて見直しましょう。

また、従業員に対しては36協定の内容や定められた残業時間の上限を周知徹底することで、時間外労働に対しての意識を高めてもらうことができます。

管理職の意識改革を促す

残業時間の改善は、管理職が率先して残業削減に取り組むことが欠かせません。日頃から部下の残業状況や業務負荷を把握し、タスクの優先順位付けや適切な業務配分を行うことが重要です。

また、管理職自身が労務管理の知識や指導スキルを高めるために、定期的な研修を実施することも効果的です。管理職の研修を通じて、残業ありきではなく、定時での退社を推奨するような意識改革を進めることができれば、企業全体の働き方改善につながります。

業務の効率化・生産性向上を図る

時間外労働を根本から減らすには、業務自体の見直しが不可欠です。一つひとつ業務の棚卸をし、「やめる・減らす・まとめる・代替する」といった観点で業務の効率化・生産性向上を図る施策を検討しましょう。

たとえば、定型的な作業はRPAなどを活用して自動化し、情報共有はクラウドツールで一元管理することも有効です。その他、会議時間の短縮やAIの活用など、さまざまな角度から業務改善を進めることで時間外労働の短縮につながります。

勤怠管理システムを導入する

手作業での勤怠集計は、ミスや抜け漏れのリスクが高く、現場の負担にもなります。

勤怠管理システムを導入すれば、労働時間の自動集計、残業時間や36協定枠の見える化、申請・承認のワークフロー化などが実現し、管理の正確性とスピードが向上します。

また、時差勤務やテレワークなど多様な働き方にも対応しやすく、法改正時のアップデートもシステム側で対応できるため、運用の負荷を抑えられます。

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勤怠のリアルタイム把握と運用の標準化を同時に進めたい企業にとって、上限超過の未然防止と管理負荷の軽減に寄与する有力な選択肢といえるでしょう。

まとめ

残業時間の上限管理は、法令遵守の観点だけでなく、従業員の健康維持、企業の信頼性、採用競争力にも直結します。正確な勤怠記録と効率的な業務運営を両立するには、管理体制の見直しとシステム活用が欠かせません。

とくにクラウド型勤怠管理システムは、日々の管理の精度向上と負担軽減を同時に実現できる有効な手段です。システムを取り入れ、企業は法令違反のリスクを低減し、従業員が安心して働ける環境づくりを構築しましょう。

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よくある質問

残業時間の上限は?

原則、月45時間・年360時間です。また特別条項付き36協定の場合も以下の上限が定められています。

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間以内(休日労働含む)
  • 月100時間未満(休日労働含む)
  • 月45時間超は年6回まで

詳しくは、記事内「残業時間の上限とは」をご覧ください。

残業時間の上限を超えたらどうなる?

残業時間の上限を超えることによる企業側の主なリスクは、以下のとおりです。

  • 罰則のリスク
  • 企業イメージの悪化
  • 従業員の健康被害
  • 損害賠償請求のリスク
  • 労働基準監督署による指導・是正勧告

詳しくは、記事内「残業時間の上限を超えることによる企業側のリスク」で解説しています。

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